承平がようやく帰ると、美鈴が勢いよく駆け寄ってきた。「郁梨、なんでそんなにしっかり着込んでるの?もしかして、折原社長にいろいろ成果を残されたんじゃない?ねえ、見せて、早く見せて!」冗談好きの美鈴はそう言いながら郁梨の襟元に手を伸ばそうとした。郁梨は慌てて首もとを押さえたが、その仕草がかえって怪しさを際立たせてしまった。周囲の人たちはどっと笑い、からかう声が絶えなかった。郁梨はどんなに気まずくても、恥ずかしそうに微笑むしかなかった。ひとしきり騒いだあと、美鈴は郁梨を自分の後ろにかばうようにして言った。「もういいでしょ、みんな。郁梨、顔が真っ赤じゃないの」そう言って皆を追い払うと、美鈴は郁梨の手を取って続けた。「無事で本当によかった。あの折原社長にいじめられてないか、すごく心配だったんだから」「大丈夫だよ」「そりゃそうでしょ。私の心配なんて全然いらなかったのね。折原社長があんなにあなたを大事にしてるんだもの。きっとちょっと甘えたら、すぐに機嫌も直してくれたんでしょ。まったく、心配させておいて、LINEの返事もくれないなんて」郁梨は少し気まずそうに言った。「その……あの時、まだ寝ぼけてたの」すると美鈴はすぐに興味津々な顔になり、いたずらっぽく郁梨を上から下まで眺めた。「折原社長って本当にすごい人ね。若くてお金持ちで、それにあんなにイケメンなんて。郁梨、運が良すぎるわ」そう言いながら、美鈴は郁梨の手を取り、子どものように揺らして甘えた。そのたびに、郁梨の手首に残る赤い痕がちらりと覗いた。美鈴の位置からは見えなかったが、ずっと郁梨の様子を見ていた文太郎だけは、その跡をはっきりと見ていた。文太郎はすぐに立ち上がり、大股で郁梨のもとへ歩み寄った。その突然の行動に、休憩室の人たちは皆目を見張り、ぽかんと彼を見つめた。「郁梨さん、ちょっと来てくれ。話がある」郁梨はきょとんとしながら周囲を見回した。文太郎、どうしたの……?こんな急な呼び出し、みんな見てるのに、変に誤解されちゃうかも……文太郎は焦ったように声を荒らげた。「早く来て」そう言うなり、そのまま外へ出ていった。美鈴が思わずつぶやく。「吉沢さん、怒ってるのかな?」郁梨は美鈴の手をそっと離した。「ちょっと見てくるね」美鈴は「ふーん」と声を漏らし、首を傾げた。
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