ノリスから連絡が入る。殿下の部屋に侵入した者を捕らえたと。急いで奥様に報告し、その場に駆け付ける。ノリスが捕らえていたのは、奥様付きの侍女、サリーだった。「サリー、あなただったのね」奥様が言う。サリーは青い顔をして俯いている。「事情があるなら話してちょうだい」奥様が毅然と言う。サリーが言う。「確かにロザリー様からタイとカフスボタンを持って来るように言われました」そう言うサリーの手元には殿下の着古しのシャツが握られていた。「ではそれは?」私が聞くとサリーが俯いて震えながら言う。「昔から殿下の事をお慕いしておりました……だから殿下のお部屋に入れる事が嬉しくて……殿下が身に付けていた物に触れる事が出来て嬉しくて……少しでも殿下を近くに感じたくて……」サリーが床に伏す。「申し訳ございませんでした……」由々しき事態だ。「残念だけど、あなたの部屋も調べさせます」奥様が毅然と言い、ノリスに頷いて見せる。ノリスがすぐに部屋を出て行く。サリーは顔を上げて言う。「あの、それは……」その反応を見るに恐らくは他にも殿下の物を自分の部屋に持ち込んでいるのだろうと察する事が出来た。「奥様、どうなさいますか?」聞くと奥様は少し考えて言う。「このままサリーをここに置いておく訳にはいかないでしょうね。テオの私物を部屋に持ち込む事も許されない事なのに、それを屋敷の外の人間に渡したとなると、それはもう窃盗になるから」サリーが顔を青くする。「この事はテオに報告をして、指示を扇ぎましょう。私が無闇に侍女を罰する訳にはいかないでしょうから」サリーが奥様に縋り付く。「殿下には!……殿下には言わないでください……」奥様はしゃがみ込んでサリーを見る。「あのねサリー、そういう訳にはいかないのよ。想いを寄せる事は別に良いの。テオがそれだけ魅力的だという事だもの。問題なのはあなたが外部の人間にテオの私物を渡した、という事なの。もっと言ってしまえば、あなたがテオの私物を自分の部屋に持ち込んだとしても、私はあなたを罰するつもりは無いわ。テオは魅力的な人だからそれは仕方ない事だもの。私にも分かるわ、想いを寄せる人の使ったもの、触れたもの、身に付けたものに触れたい気持ち。だからこの屋敷の侍女の誰かがテオの私物を部屋に持ち込んでいたとしても、咎めたりはしない。でもそれはテオが一番
Last Updated : 2025-08-14 Read more