ジルがその箱を開ける。中には俺が厳選したドレスが入っている。シルバーとサファイアブルーのドレス。「他にも靴と宝飾品、寒いといけないからローブに髪飾りも」ジルが唐突に俺に抱き着く。驚きながらもジルを受け止める。「気に入ったかい?」聞いてもジルは答えない。ジルの顔を覗き込むと瞳には涙が溜まっている。「何も泣かなくても」言うとジルは俺を見上げて言う。「とても素敵で着るのが勿体ないです……」俺は笑って言う。「ジルに着せる為のドレスだ。着て貰わないと困る」そしてジルの耳元で言う。「俺の着る正装もジルのとお揃いだよ」ジルがフワッと笑う。「そうなのですか?」嬉しそうなジルを見ているとこっちも嬉しくなる。「お支度をお願いしても?」メアリーが言う。ジルは俺の頬に軽く口付けて俺の腕の中からスルリと抜ける。「では、後で。お迎えに伺うよ」そう言って部屋に戻る。◇◇◇服を着て騎士団の方に一旦戻る。滞りなく物事が進んでいる。そうなるように今までずっと指揮を取って来たのだから当然だろう。「今宵は王城へ?」マドラスに聞かれる。「あぁ、兄上に来いと言われているからな。婚礼の儀についての相談だ」マドラスは目を細めて聞く。「婚礼の儀はいつ頃に?」俺は笑って言う。「一週間後」マドラスも笑う。「これは大忙しになりそうですね」◇◇◇ドレスを着る。シルバーとサファイアブルーの上品なドレス。シルバーもサファイアブルーもテオ殿下のイメージカラーだ。ドレス一式とローブに靴や宝飾品まで。全てをテオ殿下が選んでくださったと思うと嬉しくて泣きそうだった。愛する人からのプレゼントはこんなにも嬉しいものなのかと思う。髪を結い上げ髪飾りをつける。薄く化粧をして宝飾品を身につける。◇◇◇部屋に戻り、着替える。俺自身は支度にそれほど時間を要しない。専属の侍従に髪を結わせるくらいだ。ジャケットを羽織り、タイを直す。「完璧です」ギリアムが言う。「そうか」そう返事をして、聞く。「ジルの方は?」ギリアムが微笑んで時計を見る。「そろそろ……お支度が整う頃合でしょう」手袋をして廊下に出る。「ギリアム」言うとギリアムが一輪の薔薇を渡してくれる。それを持ってドアの前で短く息を吐く。ノックする。「どうぞ」ジルの声。ドアを開ける。目の前にはこの世の者とは思えない
Last Updated : 2025-08-04 Read more