All Chapters of 始まりは婚約破棄~王弟殿下の溺愛~: Chapter 41 - Chapter 50

58 Chapters

襲撃~引き裂かれた二人

俺がそう言うとジルは微笑んで言う。「はい、だってこれから王都に戻ったらルーシーのお部屋の準備をして、護衛騎士の制服も整えなくてはいけないわ。テオのように何を着ても格好良いなら、その心配は要らないけれど」俺は笑って聞く。「何を着ても格好良い?」ジルはパッと顔を赤くして言う。「えぇ、テオは何を着ていても、着ていなくても、目眩がする程、素敵だわ」ジルの手を引く。「おいで」ジルを膝の上に乗せる。「俺と一緒に居る時に別の誰かの事を考えて欲しくは無いな」ジルは頬を染めて頷く。「分かりました」ジルは俺の首に手を回すと俺に寄りかかり、言う。「貴方が愛しくて、苦しい」そう言われて微笑む。「俺もだよ」ジルは俺の頬に口付けて聞く。「ルーシーをテントに寄越したのは貴方の仕業ね?」俺は笑う。「そうだよ、ジルなら気に入ると思ったんだ」ジルを見る。ジルはうっとりと俺を見て言う。「最初からルーシーを護衛に付けるおつもりだったのね……」ジルの頬を撫でる。「そうだよ」ジルが甘い吐息と共に言う。「貴方はいつも……」「黙って」そう言って口付ける。◇◇◇ガタガタと揺れていた馬車が急に停まる。咄嗟に膝の上のジルを抱き留める。「何事だ!」慌てて外を見る。外は煙幕が張られていて、何も見えない。敵襲か。騎士たちがゴホゴホと咳き込んでいる。匂いを嗅いだ瞬時に分かる。マズイ、これは…そう思った時、馬車の中に何かが投げ込まれる。馬車の中にも煙が立ち込める。「ジル、俺から離れるな!」煙を吸わないように腕で鼻を抑える。「煙を吸うな……」そう言った時には遅かった。ジルがゴホゴホと咳き込む。「テオ……」そう言った時にはジルは気を失った。「ジル!ジ、ル……」頭がクラクラして倒れかかる。ダメだ、倒れては……ダ、メ、だ……。◇◇◇「首尾よくいったか」聞くと侍従が言う。「はい、陛下」連れて来られた二人を見る。「女の方は城へ、男は地下牢へ」指示すると侍従が聞く。「騎士たちはどうしますか?」俺は鼻で笑って言う。「放っておけ、どうせどこへ行ったかも分からんのだからな」◇◇◇目が覚める。見た事の無い天井。ここはどこ……?体を起こす。「お目覚めですか、姫君」言われて声の方を見ると黒く長い髪の男性が居る。「ここは、どこです?」クラクラと目
last updateLast Updated : 2025-08-24
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地下牢のテオ

「ジルは!ジルはどこだ!」俺は地下牢に居た。目覚めると体が動かなかった。見れば俺は太い鎖に両腕を繋がれ、天井から吊るされていた。目が覚めてすぐにジルの事を思った。「ジルは!ジルはどこだ!」怒鳴っても答えは無い。ハラハラと髪が落ちて来る。長く伸ばしてあった髪が切られている。足音がする。誰かが来たようだ。衛兵が頭を下げる。どうやら親玉が来たようだ。「大きな声を出すな、うるさくて適わん」顔を見た瞬間にそれが誰だか分かった。「シオス陛下……」目の前のこの男は東の弱小国、パラベン王国の国王だ。「覚えていてくれているとは、嬉しいね」シオスはそう言うと牢の外からニタニタ笑っている。「これは、どういう事だ?シオス陛下」聞くとシオスはニタニタと笑ったまま言う。「まだ理解出来んかね。テオドール・フォンターネ」シオスは腕を組んで言う。「私はあの麗しの姫君を手に入れたのだよ。貴様からな」そう言われて理解する。あぁ、そういう事か。「ジルは、無事なんだろうな?」聞くとシオスはニタニタと笑って言う。「姫君は上で眠っているよ」怒りがフツフツと湧き上がって来る。「ジルに指一本でも触れてみろ、お前を殺してやるからな!」言うとシオスが笑う。「その状態でどうやって私を殺すんだ?」シオスは俺を見て言う。「偉大なるファンターネ国の無敗を誇る騎士団長がこのザマだ」そして嫌悪する顔で言う。「こんな図体がデカくて粗野で野蛮な男のどこが良いのか、理解に苦しむね」そして衛兵に言う。「やれ」衛兵は持っていた鞭を俺に振るう。両側から鞭を振るわれて、両肩や背中の肌が裂けるのを感じる。「お前はここで死ぬんだ。そして私はあの麗しの姫君を手に入れるんだ」シオスは言いながら笑ったが、俺はそれを笑う。「ジルを手に入れるだと?」顔を上げてシオスを見る。「俺が死んだらジルも死ぬぞ」シオスが驚いた顔をする。「そんな事あるか!」シオスが言う。俺は笑って言う。「試してみれば良いさ、お前みたいなナヨナヨの男にジルは手に入れられないさ」シオスが叫ぶ。「やれ!」鞭が振るわれる。「俺を痛ぶっても何も変わらないぞ?俺をこんなふうに扱ったお前がジルに嫌われるだけだ」シオスが顔を真っ赤にする。「もっとだ!もっと痛めつけろ!」鞭が振るわれる。「シオス陛下、今ならまだ引
last updateLast Updated : 2025-08-25
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絶望のジルと一筋の光

俺は少し考える。「目が覚めてから1、2時間で、シオスの謀略だと分かる筈だ」マーカスが驚いて俺を見る。「そんなに早く?」俺は思う。これだから戦った事の無い国は。「お前たちが使った麻酔弾、あれにはホリアツスの花が使われているな?」マーカスがまた驚く。「昔の戦闘で麻酔弾を使われた事があってな。ホリアツスはその時に経験済だ。匂いで分かる。そして俺の参謀もその時一緒に居たからな。すぐに気付くさ」マーカスは何やら考え込んで、そして言う。「テオドール殿下、しばしお待ち頂けますか?必ずや姫君様をここへお連れし、お二人を逃がす手筈を整えて参ります」俺は聞く。「そんな事をしてお前は大丈夫なのか?」マーカスは笑う。「国王陛下はご乱心遊ばされたのです。姫君様の美しさに魅了され、姫君様がテオドール殿下を見上げるように自分を見てくれると、勘違いしておられます。姫君様がテオドール殿下をあのような麗しい瞳で見上げるのは、お二人の間に深い愛と信頼があるからこそだという事を国王陛下は知らないのです。お恥ずかしながら、我が国王は愛を知らない寂しいお人。私の事は心配には及びません。宰相として止めなければいけなかった事を止められなかった、その責任は取ります」◇◇◇お部屋に入る。姫君様がお目覚めになったら、テオドール殿下のことを伝えなければ。姫君様の目が動く。目覚める。そう思って見つめる。姫君様が目を開ける。驚いて言葉を失う。何と形容しようか、姫君様は目を開けただけだった。その瞳には何も映していない。まるで人形のように。「姫君が起きただと?」私は急いで姫君の居る部屋に行く。「やぁ姫君、お目覚めはいかが……」そこまで言って絶句する。体を起こしてはいるが、その表情は全くの無だった。その麗しい瞳には何も映していない。手にはあの男の銀髪。ツカツカと歩いて近付く。「姫君!私を見ろ!」言っても姫君は何も聞こえていないかのように虚ろな瞳でただ座っている。これではただの人形だ。私は姫君に手を伸ばす。途端、マーカスが止めに入る。「お止め下さい、陛下!」私はマーカスを振り払おうとした。けれどそれは叶わなかった。「これはどういう事だ!マーカス!」言うとマーカスは私を止めながら言う。「姫君様のお心が壊れてしまったのでしょう。陛下がテオドール殿下が死んだと仰ったからです」怒りに身
last updateLast Updated : 2025-08-26
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解放……そして

お部屋のベッドへ行く。テオドール殿下は地下牢にて手当を受けている。早く伝えなければ。ベッドに座っている姫君様に近付いて言う。「姫君様、テオドール殿下は生きておられます」その一言で姫君様が真にお目覚めになる事を願いながら言う。姫君様の目が動く。そして私を捉える。「テオドール殿下は生きておられるのです」もう一度言うと姫君様はお顔を動かして私を見る。「……テオが、生きて、る……?」姫君様の瞳に力が宿り、その瞳に一気に涙を溢れさせる。「はい、姫君様、テオドール殿下は生きておられます」ポロポロと涙を零し、体が動く。「テオに、テオに会わせて……」姫君様がベッドを出る。「こちらへ。」姫君様を誘導して地下牢へ行く。地下牢にはシオス陛下もいらっしゃった。姫君様はシオス陛下など視界に入っておらず、牢屋の中で手当を受けているテオドール殿下を見つけると駆け出す。「テオ!」牢屋の入口は開け放たれている。その入口から飛び込むように中に入り、テオドール殿下に飛び付く姫君様をシオス陛下は呆然と見ていた。◇◇◇ジルが俺に抱き着く。俺もジルを抱き留めて抱き締める。「ジル……すまなかった、怖い思いをさせたね」ジルは俺の顔を両手で触れながら泣いている。「テオ、テオ……」ジルは自分から俺に口付けて来る。ジルを抱き締め口付ける。◇◇◇俺とジルは地下牢から出され、荷台に乗せられ、運ばれる。「このまま国境までお送りします。国境を超える事は出来ません、お許しを」太陽が高い。時間は昼くらいか。荷車から下ろされる。ジルは俺に寄り添い、俺は振り返る。マーカスが頭を下げている。国境を超えファンターネの領土内に入る。部下たちはどの辺まで来ているだろうか。頭の中で地図を描く。どこを見ても同じような森の中。森の中という事は馬車道を歩けば、いずれは部下たちと合流出来るだろうと考える。だが、痛め付けられている俺は体力が削がれている。どこまでもつだろうか。両腕を釣り上げられていた時間が長く、腕がまだ痺れている。背中や両肩の傷が痛む。ジルは俺に寄り添い歩く。ジルの肩を抱きながら歩く。途中、休みながら歩いていても景色は全く変わらない。こんなに長くジルを歩かせてしまった。「ジル、すまないな、こんなに長く歩く事なんて無かっただろう?」言うとジルは俺を見上げて言う。「そんな事はどうでも良
last updateLast Updated : 2025-08-27
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昏倒と救助

「そうか?」私に覆い被さっているテオは微笑んで聞く。そう聞きながらもテオは私の体を撫で回している。「ダメよ、テオ。熱があるなら、こんな事……」テオは軽く息を切らして私の腕をベッドに抑える。「抱かせてくれ、頼む……」そう言って私の耳元に顔を埋めて私を抱き締める。「頼むから、抱かせてくれ、ジルを抱きたい……」熱い吐息が耳をくすぐる。テオが私の耳に舌を入れる。「んっ……」そうされるだけで体中に鳥肌が立つ。パラベン城を出る時には簡素な服しか着せて貰えなかった。その簡素な服がテオの手で剥がされていく。テオの体が熱い。でも止められなかった。私もテオに抱かれたかった。テオを感じたかった。テオの手が足の間に差し込まれ、中を掻き混ぜる。体が仰け反る。「あぁ、ジル……もうこんなに濡れて……」私の乳房を口に含んだままテオが言う。「テオ……」体が熱くなる。「もう、限界だ……」テオはそう言って、自分の服を脱ぎ捨て、私のそこに自分のそれを埋める。息を飲む。「テオの、熱いの……硬くて、大きい……」言うとテオが息を切らして言う。「ジルの中も、熱くて、絡み付いて来て、締め付けてるよ……」テオが動き出す。押し込まれる度に強い快感に飲まれる。「ジル、愛してる、愛してる……」テオが囁く。テオの首に手を回して言う。「愛してる、テオ、愛してるの……」切られてしまったテオの髪が私の頬をくすぐる。テオの髪を梳くように髪の中に手を埋める。絶えず送り込まれて来る快感に手足の感覚を失う。「あぁ、テオ、もう……」テオの動きが激しくなる。「あぁっ、ジル……!」体中が熱くて、腰の感覚が無くなる。「あぁ、ダメ……」頭の芯が痺れていく。「あぁっ、イクッ……!」テオが私の一番奥にそれを押し付ける。あぁ、来る、テオの熱い飛沫が…私の中に…。テオの腰がグンと動く。中でテオのそれがドクンドクンと鼓動している。「あぁ、テオ……」ガクンと体が跳ねてビクビクと痙攣する。中がヒクヒクと甘く痙攣する。息を切らして倒れかかるテオを受け止める。「テオ、テオ……?」テオは気を失っているようだった。体中が熱い。熱が上がったのだと分かる。私はテオの腕の中から抜け出し、脱いだ服を着て、濡らしたシャツをもう一度水に浸して絞る。シャツでは大きい。私は辺りを見回して使えそうな物を探す。火かき
last updateLast Updated : 2025-08-28
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事の顛末

王都に戻ってからというもの、ジルは以前にも増して俺から離れなくなった。強制的に離され、俺が死んだと聞かされ一度は絶望の淵に居たのだ、それも仕方ない。ジルが安定するまでは俺の静養も込みでジルを甘やかしてやろうと思った。◇◇◇失礼しますと言ってマクリーとルーシーが部屋に入る。ソファーに座ってジルの肩を抱く。今日はマクリーとルーシーをあの日についての事情聴取の為に呼んだのだ。「話せ」俺がそう言うとマクリーは片膝をついて、頭を下げながら報告する。あの日、私は殿下の乗る馬車のすぐ近くに居た。不意に投げ込まれた麻酔弾で馬車まで辿り着けず、意識を失った。目を覚ました時にはもう夕方で周りは皆まだ倒れていた。皆を起こし、馬車を確認した。殿下と奥様が消えていた。拐かされたのだとすぐに分かった。皆が右往左往している。私は考える。こういう時、殿下ならどうなさるか。とにかく手がかりになりそうな物を探そうと思った。投げ込まれた麻酔弾の殻を手に取り、調べる。匂いを嗅いで分かった。ホリアツスの花の香りだ。この周辺でホリアツスが自生しているのはパラベンしか無い。さて、どうするべきか。今は体勢を整えてしっかりと統率をとらねば。その場で全員を集め、今の状況を把握させる。今の部隊編成では弱小国パラベンと言えど、戦うには厳しい。早馬を走らせて王都に伝令を送る事、今この場所で夜営を張る事、少しずつ捜索範囲を広げて行く事を告げる。早馬にはルーシーが志願した。早馬を送り出し、夜営を張り、体調不良の者が居ないか気を配る。翌日は朝から捜索範囲を広げパラベンにほど近い小屋から煙が上がっているのを見て、小屋へ向かった。小屋の入口に殿下のマントが掛けられていて、中に入ると殿下が奥様を守るように抱いていらっしゃった。◇◇◇ルーシーを見る。ルーシーは両手に酷い怪我をしていた。「ルーシー、それは何だ」聞くとルーシーは俯いたまま言う。「早馬で一刻も早く王都に辿り着かねばならず、なので手綱を離さないように縛りました」ルーシーが突然、ひれ伏して言う。「奥様!殿下!申し訳ありませんでした!」その声は涙に濡れている。「ルーシー、止せ、お前のせいでは無い」俺はジルを抱き寄せながら言う。「確かに俺はお前をジルの護衛騎士に任命した。だがな、お前はまだ見習いだ。ふた月と言ったろう?」ジルを見下ろして微笑み、
last updateLast Updated : 2025-08-29
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本当はずっと……

「私、何も出来なかったの……ただ、水にシャツの切れ端を浸して絞ってテオに乗せるだけ……それを繰り返す事しか出来なかった……」ジルの声が涙に濡れる。「怖かった……目の前のテオがこのまま本当に目を覚まさなかったら?何もかもをテオがしてくれるから、私はそれを見てるだけしかしてなくて、私は無力なんだって、実感したの……」ジルを見る。ジルはポロポロと涙を零している。「テオがこのまま死んでしまったらどうしようって、泣く事しか出来なくて、情けなくて……」ジルの頭を撫でてやる。「だから朦朧としながらも私の名前を呼んで、抱き寄せてくれた貴方にまた抱き着いてしまった……テオの腕の中で思ったの、もしこのままテオが死んだら、私もこのままテオを抱いたまま死のうって……」胸が苦しくなる。ジルを抱き締める。「そんな思いをさせてすまない。怖かったよな、ごめん……」ジルが泣く。あぁ、そうか。俺はパラベンでの一件以降、こうやってジルを腕に抱いて、ゆっくり泣かせてやる事もしていなかったなと思う。きっと我慢していただろうに。救い出された後はバタバタと俺の手当や移動があって、俺たちには常に誰かが付いていた。王都に戻る頃には王城に駆り出され、シオスの処刑やパラベンへの制裁措置やその後の国の再建などを話し合ったりしていた。その後は俺の静養とジルの心の安定をと思って過ごしていたのに。俺はまだジルを分かっていなかった。気丈に振舞っていても、本当はこうして甘えて泣きたかったに違いない。「ごめん……」そう言う事しか出来ない。「本当はね、いつもずっと不安なの……」そう言われて少し驚く。「不安?」ジルが俺を見上げる。「離れている時はいつも考えてる、テオに何か起こっていないか、怪我してないか、誰かがテオに言い寄ってないか……」ジルの涙を掬う。「いつも心配なの……」あぁ、何て可愛いんだ、こんなにも俺の事を愛してくれているなんて。ジルが体勢を変える。俺に跨り俺を見下ろし、俺の頬を両手で包む。「愛してるの、テオ……」顔が近付く。口を半開きにしてジルの口付けを待つ。あともう少しのところでジルが止まる。「しないのかい?」聞くとジルが聞く。「したい?」俺はジルのうなじに手を回して言う。「したい……」ジルは俺を見つめたまま動かない。息が上がる。「あまり俺を煽るな」言うとジルが聞く
last updateLast Updated : 2025-08-30
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散策へ

仕事に復帰する。なまった体を鍛え直し、王城に行き国政を兄上と執り行う日々に戻る。家の執務はジルが取り仕切り、俺が持ち帰った書類にも目を通してメモを書き残してくれる。ジルの指摘は的確で、アドバイスも役に立った。俺はそれを決して自分の手柄にはせず、ジルが提言してくれているとハッキリ表明した。「やはり、お前の妻は有能だな」休憩中のお茶を飲みながら兄上が言う。「長く王妃教育を受けていたからな」ふと兄上を見る。顔色が悪い気がした。「何だ、兄上、具合でも悪いのか?」聞くと兄上が笑う。「次の世継ぎを作るのに忙しくてな」そう言われては何も言えない。「そうか」俺はふと疑問に思って聞く。「まさか、妾じゃないだろうな?」兄上は笑って言う。「私の相手はセリーヌしか居ないよ。もう懲りた」言われて笑う。そうか、励んでいるのだな、と思うと兄弟でも何だか恥ずかしくなる。「お前も励んでいるか?」聞かれて俺は吹き出す。「まぁな。心配するな」兄上は微笑んでまたお茶を飲む。◇◇◇それからしばらくして、ジルの護衛騎士に任命したルーシーが正式に護衛騎士となった。ジルが決めたデザインの服は凛々しく、ルーシーに良く似合っている。騎士団での小さな任命式を終えて、俺はルーシーに言う。「頼んだぞ、ルーシー」言うとルーシーは頭を下げて言う。「はい。この命に代えてもお守りします」ジルはその様子を見守ると、すぐに言う。「ねぇ、テオ、ルーシーを連れて、街へ行っても?」俺は笑って頷く。「あぁ、良いよ」ジルはルーシーの手を取ると引っ張って言う。「行きましょう!」ルーシーはジルに引きずられながらも俺に頭を下げ、ジルについて行く。その様子は本当に微笑ましい。周りに居た騎士たちもニコニコしている。「本当に愛らしいお方だ」またマクリーが言う。「あぁ、ジルはいつも愛らしいよ」二人の後ろ姿を見ながら目を細める。「殿下も変わられましたな」マクリーが言う。「そうか?」笑うとマクリーは微笑んで言う。「はい、それはもう。力がみなぎっていて、こう…お近くに居るだけで、あぁ敵わないなと思わせる、そこは変わりませんが、今は殿下の根底にはしっかりとした愛という地盤がある。我々にもそれが良く分かります。以前の殿下は少し危うさがあったので」それを聞いて苦笑いする。「戦場でいつ死ん
last updateLast Updated : 2025-08-31
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贈り物

お店に入ると革製の物が所狭しと並べられていた。手袋、靴、ベルト……。「いらっしゃいませ、マダム」お店の店主らしき人物が声を掛けてくる。「何かお探しで?」とても礼儀正しい。「あのショーウィンドウに飾ってある青い手袋を見たいのだけど」言うと店主らしき人物は微笑んで頷く。「かしこまりました」今度は女性の方が近付いて来て言う。「宜しかったらこちらへ」促されるまま、店の奥にあるソファーへ座る。青い手袋を手に店主らしき人物が戻って来る。「申し遅れました、私、ここの店主をしております、クエロトーロと申します、こちらは妻のアルディージャ」礼儀正しく挨拶してくれる。「今日はお忍びで?」クエロトーロが小声で聞く。少し驚くとクエロトーロが微笑む。「お見かけしてすぐに分かりました、王弟妃殿下」私は何だか気恥ずかしくて俯く。「ローブをお召になっていても、その麗しさは隠しきれておりませんよ」そして青い手袋をトレーに載せて見せてくれる。手に取るとその青はとても美しかった。「さすがはマダム、お目が高いですね」クエロトーロはそう言うと目を細める。「革を青く染めるのは実は一苦労なのです。染料のラーゴラの花は希少なので」手袋の触り心地はとても良かった。「革製品はお使いになる方によってどんどん変わります。その方の生活に馴染み、色が変わり、その方独特の味が出るのです」私は決める。これにしよう。「これを頂くわ」クエロトーロは深くお辞儀をして言う。「私共の品を選んで頂き、大変光栄に存じます。プレゼント用にお包み致します故、お待ちください」テオがあの青い手袋をするところを想像して、ワクワクする。きっと似合う。立ち上がって店内を見る。ブラウンの手袋が目につく。手に取ると柔らかく、でもしっかりとした作り。女性用で小さく作ってある。「ルーシー」呼ぶと入口に居たルーシーが来る。「はい、奥様」私はブラウンの手袋をルーシーに渡す。「付けてみて」ルーシーは少し困惑しながらも手袋を付ける。「どう?」聞くとルーシーは照れ笑いしながら言う。「えぇ、とても柔らかくて心地良いです」私はそれを聞いて嬉しくなる。振り返るとアルディージャが控えている。「これも頂ける?」アルディージャが笑顔で頷く。「かしこまりました」ルーシーが手袋を外そうとするのを止める。
last updateLast Updated : 2025-09-01
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それぞれの贈り物

屋敷に戻る。たくさん見て回った筈だけど、まだお昼だった。昼食にテオが戻って来る。「街は楽しかったかい?」聞かれて頷く。◇◇◇「えぇ、とても。それでね、あなた」あなたと呼ばれてドキッとする。「ん?何だい?」聞くとジルは微笑んで俺に何かを差し出す。それはプレゼントの包みだった。「これは……?」聞くとジルが言う。「あなたに。開けてみて」俺は包みを開ける。中には青い革の手袋が入っていた。「ほぅ、青か、珍しいな」ジルがワクワクした様子で言う。「付けてみて」言われて手袋を付ける。柔らかく、それでいてしっかりとした作りだ。職人の腕が良いんだろう。「どうだい?似合うかい?」聞くとジルはうっとりしている。「似合うわ、とても……」そんなジルに微笑んで、俺は手袋を付けたまま、ジルの顎に手を添えて顔を上げさせる。「こういうふうに使うんだろ?」顔を近付けて言うとジルが言う。「そうよ」そのまま口付ける。口付けたままジルのうなじに手を回す。革の音がする。◇◇◇ジルは街での買い物について話してくれた。まだ渡していないから内緒にしてくれと。そんなふうに言うジルが可愛くて仕方ない。「で、君自身のものは買ってないのかい?」聞くとジルは微笑む。「私のは良いの」そして俺を見上げて言う。「あなたがくれる物以外、欲しい物なんて無いもの」そう言われて微笑む。「そうか。なら街ごと買ってやる。国でも良いぞ?」言うとジルが俺をホンの少し押す。「もう!そんな事言って!」笑ってジルを抱き寄せる。◇◇◇仕事に戻って行くテオに付いて行く。途中でテオの侍従であるダイナスとノリスが合流する。私は二人に錫製のマントの留め具をプレゼントする。二人とも飛び上がりそうな勢いで喜び、その場で付けてくれた。詰所に行くと参謀のマクリー卿と団長補佐のマドラス卿が居た。その二人にもプレゼントを渡す。「頂いても宜しいのですか!」マクリー卿が聞く。「あぁ、構わない。ジルが選んで来たんだ、貰ってくれ」テオがそう言うと二人とも震える手でプレゼントを開ける。中にはルビーをあしらったマントの留め具がある。「これは!」「何と!」二人とも言葉を失い、感動しているようだった。「す、すぐにでも……いや、家宝にするべきか」マクリー卿が言う。私は笑う。「すぐに使って頂けるかしら
last updateLast Updated : 2025-09-02
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