ノックがしてメアリーが現れる。「お呼びですか、奥様」入口に立っているメアリーに言う。「そうなの、ちょっとこっちへ来てくれる?」私の座っているソファーにメアリーが近付く。「ここへ座って」すぐ横をトントンと叩く。メアリーが遠慮がちに座る。「何でしょう」メアリーが聞く。入口にはギリアムが立っていて、含み笑いをしている。「あのね、メアリー。あなたに渡したい物があるの」そう言って包みを出す。メアリーは包みと私を交互に見て聞く。「これは……?」聞かれて私は微笑む。「あなたによ、メアリー」途端、メアリーは息を飲む。「私に?」メアリーの手にそれを載せる。「開けてちょうだい」言うとメアリーが包みを開ける。中には眼鏡用のチェーンが入っている。「奥様……」メアリーの目にはもう涙が溜まっている。「あなたにはいつも助けて貰っているもの、テオも私もね。この御屋敷の侍女たちを纏め上げてくれているあなたに、感謝を込めてね」メアリーの肩を撫でる。メアリーが俯いて肩を震わせる。「泣かないで、貰い泣きしそうだわ」「アンを呼んでくれる?」言うと二人が微笑む。「はい、奥様」二人とも新しい眼鏡チェーンがよく似合っている。ギリアムには黒い鎖のものを、メアリーには金細工のものを贈った。パタパタと足音がしてアンが現れる。「奥様、お呼びでしょうか」アンはまだ若い。私とそんなに歳も変わらない。子爵家の令嬢だけれど、ここへ奉公しに来ている。「アン、ちょっとこっちへ来て」アンは私の傍まで来る。私は立ち上がってアンの前に立つ。ここの侍女の服はちょっと特殊だ。普通一般的には黒の侍女服なのだが、ここは濃紺。色だけで王弟に仕えていると一目で分かる。普通、装飾品などは付けないのが一般的だけれど、出自の家柄が高い者は首元などにブローチを付けたりする。この屋敷にも何人か、そういう侍女が居るけれど、アンは違った。私はアンの首元にアメジストをあしらったブローチを付ける。「奥様、これは……?」アンが聞く。私は微笑んで言う。「あなたがここで私に仕えているという証よ。これを付けていれば、どこへだって行けるわ。私の侍女なのだから」アンはポロポロと涙を零して泣く。「奥様……」アンを抱き締める。「泣かないで。あなたにはこれからもっと頑張って貰うんだから」◇◇◇ジルのプレゼ
Last Updated : 2025-09-03 Read more