All Chapters of 何度殺されても愛してる。: Chapter 1 - Chapter 10

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2.レイフォード! 好きなの!

 意気揚々とスタンリーの寝室の扉を開ける。 そこには私の夫のスタンリーと、私とどこか似ている銀髪の女メアリア子爵令嬢がいた。 残念ながらメアリア嬢は服を着ていた。 不倫の証拠としては少しばかり甘いかもしれない。(前回は全裸だったのに来るのが遅かったか⋯⋯) まあ、13歳のスタンリーを連れてきてしまったので彼女が服を着ていて良かったと考える方が正解。 私は前回は不倫現場に動揺してスタンリーを罵倒し、メアリア嬢に飛びかかった。 でも、今は驚く程心が静かだ。「君が全て悪いのだ。老いゆく君を見ていられなかった。昔の君に似ている彼女は美しいだろう?」 前回と同じセリフを吐く夫スタンリーは、本当は動揺していたのかもしれない。 落ち着いて観察してみると、唇と手が小刻みに震えている。 彼の瞳には私しか映ってなくて、隣にいるメアリア嬢は必死に両手で顔を隠していた。 前世の記憶を取り戻した今。 私にはスタンリーが病的な男にしか映らない。 20歳になった妻を老いたと辱め、10代の女を寝台に引き入れる。「メアリア嬢ですよね、お噂通りお美しい方ですね。お2人はとても気が合うようで羨ましいわ。このような仲睦まじい姿を見せられては、私は退場させて頂いた方が良さそうね。スタンリー、離婚しましょ⋯⋯」 私はとにかく死の運命にあるモリレード公爵邸を立ち去りたかった。 メラリア嬢は実家の借金の肩代わりに、2回り歳上の商人の家に近々嫁ぐと聞いていた。 前回は、結婚が決まっているのに夫に手を出した彼女に掴み掛かって暴れてしまった。 あの時の感情は嫉妬ではなく、スタンリーの妻である自分がバカにされたと感じた事による怒りだった。 「老いゆく? この美しくも魅惑的なルミエラの価値が分からないとは、公爵⋯⋯いや、叔父上、僕は彼女に夢中なのです」 さっきまで息子の友達の顔をしていたレイフォード王子はどこに行ったのだろう。  魅惑的な表情で私を見つめてくる。 私はアイコンタクトをとってくる彼が明らかに芝居をしているのがわかった。 3年後、クリフトにあっさり殺される彼はあまり賢い男ではないと思っていた。 彼は恐ろしく整った顔をしているからか、間近で見ると見惚れそうになる。  彼の意図など分からないが、咄嗟に自分の生存本能に従った。「レイフォード、好きなの。早くス
last updateLast Updated : 2025-07-18
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3.私たちの夫婦関係は既に破綻しています。

 うっすらと、目を開ける。  カーテンから差し込む陽の光が眩しい。「奥様、今日は奥様の20歳の誕生日です。早速、準備に取り掛かりましょう」 メイドのエリカの言葉に私は泣きそうになった。  私はまた時を戻ったようだ。 必死に泣くのを耐えながら、ない頭で考える。  小説の内容から察するに、クリフトはレイダード王国を狙っている。  彼が王国を手に入れる為は王位継承権のあるモリレード公爵の地位が必要だ。    クリフトは本当は大衆を洗脳状態にできる程、弁が立つ男だ。 彼の様子を見るにスタンリーには復讐心がある気がする。  そしてレイフォードとは仲が良いように見えて、クリフトは心の奥底では彼を嫌っているように見えた。 私は自分が前世で言葉を発することのなかった健太を育てた時の経験を思い出してた。  言葉を発さなくても、その表情や仕草から何を考えているかを察する事ができる。   「奥様? 大丈夫ですか?」 「ありがとう⋯⋯大丈夫よ」 私は不安で泣いていたようで、彼女は白いハンカチを渡してくれた。  散々偉そうに振る舞ってきた私に親切にできるのは、彼女が本当に優しい子だからだ。    また仲良くしたいけれど、先に縁を切るような態度をとったのは私だ。 立場上、私が謝罪すれば受け入れなければならない彼女に擦り寄るのは止めようと思った。 今、私が孤独なのは全て自分自身のせいだ。 私は立ち上がり、エリカの手伝いで身だしなみを整えた。  1階ホールのところまで行くと、レイフォード王子とクリフトに出会した。  瞬間、レイフォード王子との熱い口づけが蘇り顔が熱くなる。 「レイフォード・レイダード王子殿下に、ルミエラ・モリレードがお目にかかります」 挨拶をすると、彼と私の間に線引きができて心が落ち着いた。「ルミエラ夫人、お誕生日おめでとう」  私はレイフォード王子の祝いの言葉に軽く会釈をすると、クリフトに近づいた。「クリフト、貴方の母親になって4年も経つのね。至らないところばかりで申し訳なかったわ。貴方さえ良ければ、今からでもアカデミーに通わない?」 アカデミーとは通常12歳から15歳の貴族が義務として通うところだ。 クリフトは発語がない事が周囲に露見しないように、家庭学習をするという事で入学を免除して貰った。 私は自分が逃げる
last updateLast Updated : 2025-07-19
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4.若い女が良かった⋯⋯。(スタンリー視点)

 全てが決められたレールを走る自分のつまらない人生にルミエラは突然現れた。 愛のない政略結婚をして、クリフトが生まれ淡々と仕事をこなす毎日でささやかな楽しみがあった。 銀髪に澄んだエメラルドの瞳を持った少女は今日も聖母のように美しい。「ルミエラ、そのような事はしなくても良いのだぞ」「おはようございます、公爵様! でも、見た目も鮮やかな方がクリフト坊っちゃまも食欲が湧くと思いますし⋯⋯」 クリフトを部屋に閉じ込めている間、彼の食事は部屋の前に置くことになっていた。 ほとんど食事をしない彼に対して、シェフの料理は適当になっていた。 公爵令息に対してスープ一杯⋯⋯それでもクリフトは一口も付けずに突き返してくる。 正直、クリフトに怒って良いのか、息子にそのような雑な食事を出すシェフに怒って良いのか分からなかった。 ある日、シェフから受け取ったスープ一杯の食事をコース料理のように綺麗に並べて出すルミエラを見かけた。 ルミエラは床に座り込み受け取ったスープから野菜や肉を取り出し、持ってきた皿にまるでコースとして用意されたように真剣に並べている。 クリフトは喋らないから、彼女の行いに感謝を伝える事はないだろう。 そして、クリフトはどう生きているのか分からないくらい料理に手も付けない。 それでも毎日のように無駄な努力を重ねるルミエラを可愛いと思った。 結婚もしていて、30歳を手前にした自分が14歳の女の子を愛おしいと思うとは自分でも気持ち悪いと感じた。 俺と彼女は15歳も歳が離れていた。 彼女は両親を戦争で失っていて身寄りがなく、公爵家に13歳の時にメイドとして住み込みで働きにきた。 非常に働き者で誰も見ていなくても、常に汗を流しているのが印象的だった。 そして、その姿は誰よりも美しかった。「気持ち悪い。今日もジロジロと若いメイドを見つめていたでしょ」 食事の手を止めて、突然、妻のミランダは俺を責めてきた。 政略結婚で結婚して俺に興味がないと思っていたミランダが
last updateLast Updated : 2025-07-20
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5.スタンリー、あなた最低よ。

「クリフト、まずは今までの私のあなたへの暴言の数々を謝らせて⋯⋯」 私はクリフトを部屋に招くなり、謝罪をした。 メイドで彼に仕える身だった時にあったはずの思いやりは、公爵夫人になるなり消滅した。 彼を邪険に扱うメイドたちの行動に目を瞑り、自分の鬱憤を晴らすように彼女たちの行動を扇動するようになった。 思い返しても自分の行動は最低過ぎて、許されるものではない。「⋯⋯」 クリフトはまた何も言ってくれなくなった。「今晩、私の20歳の誕生日祝いの舞踏会があるのよ。出席してくれるわよね」「⋯⋯」 クリフトは無表情で私を見つめていた。「気が向いたらで良いから⋯⋯」 先程、言葉を発してくれたからと言って、急に距離を詰めようとし過ぎたかもしれない。 クリフトには家庭教師をつけているからダンスは踊れるはずだ。 でも、私は舞踏会に出席した事のない彼に対して無理な要求をした。 そももそ彼が舞踏会に出席した事がないのは全て彼を隠そうとした私やスタンリーのせいだ。 それから、昼過ぎまで私は全く言葉を発さないクリフトに話しかけ続けた。 側から見ればひとりごとを言い続けているような不気味な光景だろう。  それでも私と彼の間には会話が成り立っていた。 彼の微妙な表情の変化を読み取り、私は対話を続けた。 ノックと共に、エリカが入ってくる。「奥様、舞踏会の準備をそろそろ始めませんと」「ああ、そうだったわね。クリフト、ではまたね」 私の言葉にクリフトが自分の部屋に戻っていく。 名残惜しいような気持ちになった。 なぜこのような対話の時間を今まで取らなかったのかを後悔した。♢♢♢ 事前に準備してあったグリーンのドレスを見て、心が落ち込んだ。 オーダーメイドでこだわりまくり、これでもかというくらいエメラルドやサファイアを塗したドレス。 同年代の子がアカデミーに行く中、息子のク
last updateLast Updated : 2025-07-21
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6.寒いです。貴方が私を抱いてくれないから⋯⋯。

 バルコニーに出ると、満天の星空が広がっている。 夜風が涼しく肌をくすぐって気持ちが良い。「そなた、僕の唇ばかり見ていたようだが、もしかして繰り返す過去の記憶が残っているのではないか?」 隣で私を覗き込むように見つめて来たレイフォード王子の言葉を一瞬理解できなかった。「あ、あの殿下も、繰り返している時を過ごしているのでしょうか?」「過ごしているよ。クリフトに殺されない未来を求めるように何度も! これはきっと神が僕に与えてくれたチャンスなんだ。やはり、そなたも僕と同じなのだなルミエラ」 美しい彼を前にすると、多くの女の子と同じようにときめいた。 それでも、彼に突然呼び捨てにされると嫌悪感を感じる。 彼がどうしてクリフトの元を訪れていたかは納得がいった。 私が初めに思いついたように、クリフトと仲良くすれば殺されずに済むと考えたのだろう。 最も、そのような浅はかな考えはクリフトには見抜かれている気がする。 「私は貴方様の叔父であるスタンリー・モリレードの妻です。そのように呼び捨てにするのはお止めください」「意外としっかりしてるのだな。確認させてくれ、そなたも何度もクリフトに殺されているのか?」 私は彼の質問に静かに頷いた。 しかしながら、彼と私の回帰している回数は異なるだろう。 私は記憶にある限り2度時を戻った。 たった、2度を何度もとは言わない。 意外としっかりしていると言われてしまったのは、私を歳の離れた男に財産目当てで嫁ぐ軽い女だと思っているからだろう。「やはり、神は僕にこの世界を正しい方向に導くように助けを求めているのだ」 楽しそうに月夜を眺めるレイフォード王子は幼く見えた。  その姿がなんだか可愛く見える。 何度も殺されるような時を過ごしているのに、彼は明るい。 私は2度の殺された記憶があるだけで、クリフトを見るだけで体が震えだす。 彼は小説『アクアマリンの瞳』を読んでなさそうだ。 この世界を繰り返した
last updateLast Updated : 2025-07-22
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7.本日はお招き頂きありがとうございます

「本日はお招き頂きありがとうございます」 私は自分が場違いな淡いクリーム色のワンピースを着てきた羞恥に震えていた。「あら、モリレード公爵家は意外と質素倹約を重んじるのですね」 タチアナ嬢は攻撃的な目で見つめきた。 気の置けない仲間内の会だから、着飾らないようなフランクな格好で来て欲しいと言った彼女の便りは罠だった。 彼女が私を嫌っていそうな事は分かっていた。 近頃考えることが多すぎて、彼女の悪意に気づけなかった。 でも、それは言い訳だと私自身が気がついている。 ただ与えられた仕事をこなしていれば良いだけのメイドであった時とは違う世界がそこにはあった。 色とりどりの花に囲まれたガーデンテーブルには8人程の令嬢たちが座っている。 きっとタチアナ令嬢の取り巻きたちだろう。 そして彼女たちの名前が誰1人分からないのは私の怠慢だ。 私は公爵夫人になってからの4年間、お茶会の招待に応じた事はなかった。貴族の付き合いとか理解できなかったし、最低限のことをこなしていれば良いと思っていた。 皆、煌びやかなドレスを着込んでいる。しつこいくらいに高価なジュエリーを身につけている事で実家の富を競っているようだ。 彼女たちはジュエリー1つ身につけていない私を、扇子で口元で隠すように意地悪に笑っている。「モリレード公爵家は夫人の散財で実は財政難で苦しんでいるという噂は本当でしょうか? 悩み事があったら、いつでも相談してくださいね。ルミエラ様では解決できない事柄もあるでしょうし⋯⋯」 緑色の髪をした見知らぬ貴族令嬢が、私の事を心から思っているように手を握りしめて訴えてくる。 一撃で私の生まれを非難するような言葉に心臓が止まるような気持ちになった。 どんなに着飾っても私はメイド出身の平民だ。 彼女たちの仲間になれるような日は来ないだろう。 いつも私を引き立てるように努める貴族令嬢たちが周りに存在したのは、全てモリレード公爵家の力だった。 ここはタチアナ嬢の陣地と
last updateLast Updated : 2025-07-23
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8.他の女で発散させられるよりマシよ。

 モリレード公爵邸に帰るなり、私はスタンリーにお礼を言った。「今日はありがとう。それから、邸宅の管理⋯⋯本当は私の仕事よね。これから学ばせて」 先日、離婚したいと申し出たのに、自分でも何を言っているのか分からない。 ただ、4年間私がいかに何もしなくて、スタンリーがそれを何も咎めずにいた事がむず痒いだけだ。 私は今でも彼の事を浮気をした最低男だと軽蔑している。「君が公爵邸の財産管理をしたいと言ってくれたという事は、離婚する気は無くなったのかな?」「いえ、ただ私は今ここにいるのなら、自分のするべき事をしなければならないと思い直しただけよ」「知ってるよ。君は自分の仕事に懸命な人だから⋯⋯」 私の頭を撫でながら言ってくるスタンリーの言葉は皮肉として発しているものではない。 しかし、4年間するべきことをせず、自分の権利だけを行使してきた私をナイフのように突き刺す言葉だ。「レイフォード王子殿下の事が本当に好きなのだな⋯⋯」「また、何を言っているの? 好きになっても意味のない方だし、ときめいても一瞬。私はあなたの妻なのよ」「そうだな、君は確かに俺の妻だ⋯⋯」 以前レイフォード王子に恋しているかという質問に、イエスと答えた事を後悔した。 スタンリーが明らかに気にしている。 彼は本当によく私を見ている。 私が今まで彼を全く見ていなかった罪悪感をひしひしと感じる程だ。  確かに私はレイフォード王子を見る度にときめいてしまっている。 それを恋と言われればその通りだ。 でも、彼とした恋人のような芝居のせいによるものが大きい。 あのような可笑しな演技をしなければ、持つべきではない感情を抱かずに済んだ。 私は彼を自分と同じように間違った道を1度は歩み、なんとかしようとしている同志だと感じている。 きっと、次に会う時は同志としてクリフトに殺される運命を避ける作戦を知恵をだしあって立てるだろう。 もう、間違っても彼とキスなどしない。
last updateLast Updated : 2025-07-24
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9.クリフト⋯⋯お話してくれて嬉しいわ。

 目が覚めて、隣で寝ているスタンリーを見てホッとする。 そして、彼をしっかり見つめてみると、いかに彼が私を見てくれていたのか分かる。 本当に私を好きで結婚を申し込んで来た事も理解できた。  クリフトに殺される運命を回避する為には彼と協力した方が良い。 しかしながら、この世界が小説『アクアマリンの瞳』の中で16歳のクリフトが私たちを惨殺するという話は絶対にできない。 私の頭がおかしくなったと思われるからだ。 ミランダ夫人は自殺する前、異常なまでの被害妄想やおかしな言動が増えていた。 それを目の当たりにしてきたスタンリーは、私がおかしな言動をすれば必ず彼女を思い出すだろう。 (病気扱いされて、避けられるだけね⋯⋯) 彼はとても冷たい人だ。 政略的で愛のない結婚だったとしても、ストレスでおかしくなった妻を救おうともしなかった。 浮気をした上にとんでもない言い訳をしてきた彼は最低だが、そのような彼に歩み寄ろうとしている自分の行動が自分でも理解できない。 期待してはいけないと思いながら、スタンリーなら何とかしてくれるのではと考えてしまう。 私は彼を起こさないようにメイドも呼ばず着替えて部屋を出た。「母上、おはようございます。今日からアカデミーですよね」 部屋の前にいたクリフトに動揺する。(普通に話しかけてきた⋯⋯どういうこと?) 突如、不安が押し寄せてきて今の状況を誰かに相談したくなる。(そうだ、レイフォード王子殿下に相談を⋯⋯)「母上、朝食はまだ食べていませんよね」「ええ、クリフトは?」「僕はもう食べました」「そう、ならば少し早いけれどアカデミーに向かいましょうか」  今、クリフトが何を考えているかを考えるだけで冷や汗が出てくる。 食事なんて到底喉を通りそうもない。 アカデミーでは寮生活になる。 荷物はすでに送ってあるので、身軽に登校できる。 長期休暇まではしばらく会えなくな
last updateLast Updated : 2025-07-25
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10.私が手放してはいけないのは彼だ。

 王宮に到着するなり謁見申請をしたが、名前を告げるなり待機する貴族たちを飛ばしてレイフォード王子は私に会ってくれた。 馬車にいた間に呼吸を整えることには成功した。 深呼吸をし、レイフォード王子の執務室をノックする。  窓際に立っていた、彼が部屋に入ってきた私を見るなり笑顔で迎えてくれた。 窓から差し込む陽の光に照らされたプラチナブロンドの髪が美しい。 「レイフォード王子殿下に、ルミエラ・モリレードがお目にかかります」「ルミエラ、よく来てくれたね」 呼び捨てにしてきたのは、今この部屋に私と彼の2人しかいないからだ。 そして、名前を呼ばれて違和感を感じつつも私の心臓が跳ねたのは彼に恋心を抱いているからだろう。(クリフトの言う通り、私はスタンリーから彼に乗り換えようとしてるの?) 言いようのない罪悪感に襲われる。 話をしてくれたら、きっとクリフトとも分かり合えると思っていた。 でも、その会話自体が私を今混乱させている。 「ルミエラ、顔色が悪いぞ。まあ、座ってくれ」「ありがとうございます」 私はレイフォード王子に促されるがままに、応接室の青いベロアのソファーに座った。 体が沈み込み、このまま横になりたくなる。 クリフトとの少しの会話で私の精神はすり減っていた。「ルミエラ、実はそなたに話があって、こちらから伺おうかと思ったのだ」「お話とは何でしょうか?」「その⋯⋯婚約破棄の話なのだが⋯⋯」「殿下、なぜ、昨日マリソン侯爵邸にいらっしゃったのですか?」 私は咄嗟に殿下の会話を遮っていた。 非常に無礼な行動だとわかっていたが衝動的にしてしまった。(既婚者なのに、自分が求婚されるとでも思ったの?) 「タチアナに言いがかりをつけて婚約破棄する為だ。気が強い女だから、挑発して焚き付ければ乗ってくると思っていた」「殿下⋯⋯まさか、わざとバルコニーで私に口づけをしましたか?」 私の
last updateLast Updated : 2025-07-26
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