目が覚めて、隣で寝ているスタンリーを見てホッとする。
そして、彼をしっかり見つめてみると、いかに彼が私を見てくれていたのか分かる。
本当に私を好きで結婚を申し込んで来た事も理解できた。 クリフトに殺される運命を回避する為には彼と協力した方が良い。しかしながら、この世界が小説『アクアマリンの瞳』の中で16歳のクリフトが私たちを惨殺するという話は絶対にできない。
私の頭がおかしくなったと思われるからだ。
ミランダ夫人は自殺する前、異常なまでの被害妄想やおかしな言動が増えていた。
それを目の当たりにしてきたスタンリーは、私がおかしな言動をすれば必ず彼女を思い出すだろう。 (病気扱いされて、避けられるだけね⋯⋯)彼はとても冷たい人だ。
政略的で愛のない結婚だったとしても、ストレスでおかしくなった妻を救おうともしなかった。浮気をした上にとんでもない言い訳をしてきた彼は最低だが、そのような彼に歩み寄ろうとしている自分の行動が自分でも理解できない。
期待してはいけないと思いながら、スタンリーなら何とかしてくれるのではと考えてしまう。
私は彼を起こさないようにメイドも呼ばず着替えて部屋を出た。
「母上、おはようございます。今日からアカデミーですよね」
部屋の前にいたクリフトに動揺する。 (普通に話しかけてきた⋯⋯どういうこと?)突如、不安が押し寄せてきて今の状況を誰かに相談したくなる。
(そうだ、レイフォード王子殿下に相談を⋯⋯)「母上、朝食はまだ食べていませんよね」
「ええ、クリフトは?」 「僕はもう食べました」 「そう、ならば少し早いけれどアカデミーに向かいましょうか」 今、クリフトが何を考えているかを考えるだけで冷や汗が出てくる。食事なんて到底喉を通りそうもない。
アカデミーでは寮生活になる。 荷物はすでに送ってあるので、身軽に登校できる。長期休暇まではしばらく会えなくなるから、スタンリーを起こして挨拶した方が良いのか迷った。
(ダメだ⋯⋯余計な事をして、死亡フラグが立つかもしれない)外はまだ薄暗かった。
(かなり早く到着するけれど、クリフトはすぐに出発したそう⋯⋯)私は馬車にクリフトと乗り込んだ。
クリフトは私をしっかりエスコートしてくれて、公爵家に隠されていた問題児とは思えない。 (彼が本当は問題児じゃないって、私が1番よく知っているじゃない) 窓の外を眺めるクリフトの横顔は13歳とは思えないくらい大人びている。 この間、私の部屋で一方的だが話しかけていた時にはない底知れない恐怖心が私を襲っている。(急に話をしだす⋯⋯どういう心境の変化?)
「クリフト⋯⋯お話してくれて嬉しいわ」
「ふっ」 私が微笑みながら伝えた言葉は鼻で笑われた。 「そろそろ話し出した方が、面白くになりそうだったので」 「ふふっ、わざと何も話してくれなかったのね」私は、彼に無償の愛を彼に注ごうと思っていた。
それに彼が意図的に言葉を発していない事なんて気がついていた。 (なんなの、この込み上げてくる怒りは⋯⋯)今、私はどうしようもない怒りを感じている。
話したくても言葉が出なかった健太は、いつも仕草や視線で私に気持ちを伝えてくれた。
話せるのにわざと話さなかったクリフトの意図に気づいてしまうと、怒りが抑えられない。 彼はミランダ夫人が自分のことで悩んで病んでいく様を見ていたはずだ。 「人を揶揄って楽しいのかしら?」 恐怖で頭がおかしくなりそうだが、言わずにはいられなかった。「楽しいに決まってますよね。僕が言葉を発さないだけで、周りは混乱していくのですよ。人の醜さ、弱さ、滅び、良い見せ物が見られました」
私に微笑みながら醜悪な事実を伝えてくる危険な男の子を、このまま野に放って良いのか心配になった。
アカデミーに行けば、彼はまた新しい意地の悪い遊びを考えるだろう。 同年代の子と接すれば情緒が育まれるなんて考えは甘かった。 彼はサイコパスだ。 「その中で1番人の醜さを見せてくれたのは、あなたですよ。ルミエラ」小馬鹿にしたような弾むような声で伝えられた言葉に頭がカッとなる。
急に母親である私を呼び捨てにしてきた彼を注意する事もできない。「私のどこが醜いって?」
「メイドが急に公爵夫人になったら、馬鹿みたいに調子に乗っていて滑稽でした。父上を軽蔑するように避けたのは自分の罪悪感から目を逸らす為ですよね。本当は母上が死んで自分が求婚されてラッキーだと思ってたんでしょ」 クスクス笑いながら告げてくるクリフトが悪魔のように見える。「そんなこと、思ってない!」
自分が思っている以上に大きな声が出て自分でも驚いた。 今、私は動揺しているし、下手な事を言ってクリフトの機嫌を損ねたら殺されるかも知れない。「ルミエラは僕の人間性に疑問を持っているようですね。でも、メイドの時は僕に尽くしていたのに、継母の立場になったら虐待する。ルミエラ、あなたこそ相当問題のある方だと思いますよ」
私を責めているクリフトはとても楽しそうにしている。
自分でも自分の行動を振り返ると彼の言う通りな気がしてきた。スタンリーも私をよく見ていて驚いたが、クリフトは私自身が自分を守る為に隠している奥底に眠る感情まで掘り起こしてくるようで怖い。
「はぁはぁ」
「この程度で過呼吸になるんですか? ストレス耐性が無さすぎませんか? もっと頑張ってくださいよ」私が息が上手にできないのを喜んでいる彼が怖い。
深い海の中に落とされて這い上がれないような感覚に陥る。 「そういえば、離婚はしないのですか?」 「はぁはぁ⋯⋯しないわよ。私はスタンリーと協力してあなたを育てていくの」 息が苦しくなりながらも、出てきたこの言葉も私の本音だ。「本当かな? 今は、レイフォード王子殿下を狙っているのかと思いましたよ。物欲しそうに彼を眺めていたではありませんか。ちょうど殿下も婚約を破棄したようですし、やはり歳の近い若い男の方があなたも満足できるのではありませんか?」
目が霞んでいくのが分かる。 目の前の男の子の言っていることが、本当の事のように感じてくる。 (違う、彼は私の反応を楽しんでいるだけだ! しっかり、しないと)部屋にこもっているはずだったクリフトが、先日マリソン侯爵邸で破棄されたレイフォード王子とタチアナ嬢の婚約の事を知っているのも変だ。
クリフトには不可解な点が多すぎる。「はぁはぁ、クリフト、あなたは時を何度も繰り返してない?」
咄嗟に出た言葉に、クリフトは手を叩いて爆笑した。私の疑問はそんなにおかしいだろうか。
彼の話す言葉の数々は13歳の男の子のものだとは思えない。「ルミエラ、もう頭がおかしくなりましたか。母上はもう少し粘りましたよ。もう少し頑張って、僕を楽しませてください」
咄嗟に頭に血が上り手を振り上げると、手首を掴まれた。
「頭が悪い人間ってすぐに暴力を振りますよね。もう、到着しました。見送りはここで結構ですよ。そのような状態では外に出られないでしょう」
私は息苦しくなりながら、馬車の中のソファーに倒れ込んだ。
どうやらアカデミーに到着したようで、クリフトは颯爽と馬車を降りていく。
「はぁはぁ、頭が悪い人間って、私のことを馬鹿にして⋯⋯気に入らない事があると人殺しをするあんたに言われたくないわよ」私は息苦しくなりながらも、王宮に向かうよう御者に告げた。
王宮に到着するなり謁見申請をしたが、名前を告げるなり待機する貴族たちを飛ばしてレイフォード王子は私に会ってくれた。 馬車にいた間に呼吸を整えることには成功した。 深呼吸をし、レイフォード王子の執務室をノックする。 窓際に立っていた、彼が部屋に入ってきた私を見るなり笑顔で迎えてくれた。 窓から差し込む陽の光に照らされたプラチナブロンドの髪が美しい。 「レイフォード王子殿下に、ルミエラ・モリレードがお目にかかります」「ルミエラ、よく来てくれたね」 呼び捨てにしてきたのは、今この部屋に私と彼の2人しかいないからだ。 そして、名前を呼ばれて違和感を感じつつも私の心臓が跳ねたのは彼に恋心を抱いているからだろう。(クリフトの言う通り、私はスタンリーから彼に乗り換えようとしてるの?) 言いようのない罪悪感に襲われる。 話をしてくれたら、きっとクリフトとも分かり合えると思っていた。 でも、その会話自体が私を今混乱させている。 「ルミエラ、顔色が悪いぞ。まあ、座ってくれ」「ありがとうございます」 私はレイフォード王子に促されるがままに、応接室の青いベロアのソファーに座った。 体が沈み込み、このまま横になりたくなる。 クリフトとの少しの会話で私の精神はすり減っていた。「ルミエラ、実はそなたに話があって、こちらから伺おうかと思ったのだ」「お話とは何でしょうか?」「その⋯⋯婚約破棄の話なのだが⋯⋯」「殿下、なぜ、昨日マリソン侯爵邸にいらっしゃったのですか?」 私は咄嗟に殿下の会話を遮っていた。 非常に無礼な行動だとわかっていたが衝動的にしてしまった。(既婚者なのに、自分が求婚されるとでも思ったの?) 「タチアナに言いがかりをつけて婚約破棄する為だ。気が強い女だから、挑発して焚き付ければ乗ってくると思っていた」「殿下⋯⋯まさか、わざとバルコニーで私に口づけをしましたか?」 私の
馬車に乗せられ、家路を急ぐ。「スタンリー、帰ってきてしまって良かったの?」 彼は貴族たちに囲まれていたから、仕事の話になって執務室に何かをとりに来たような気がする。 それなのに会場にも戻らず、勝手に帰ってしまって良かったとは思えない。 スタンリーは私の方を見ようともせず、ずっと真っ暗な窓の外を見ている。「⋯⋯別に、問題はない。ルミエラはまだ帰りたくなかったのか? その⋯⋯体調が悪いと聞いたが⋯⋯」「懐妊の話ね。それは、誤報だから⋯⋯私は、子供は欲しくないの」「君が、そう思うのは当然だ。あのような過ちを犯した俺との子供なんて穢らわしくて欲しくないのだろう⋯⋯」 彼は一体何を言っているのだろう。 3ヶ月以上、仲睦まじく毎晩のように抱き合ってきた。 (穢らわしいなんて思ってる訳ないじゃない、むしろ⋯⋯) 私が子供が欲しくないのは、子供を持つことの大きな責任を知っているからだ。 健太が生まれた時、私は輝かしい未来しか想像していなかった。 結婚して、子供が産まれて、子供が反抗期になったら喧嘩するかもしれないけれど、大人になったら一緒にお酒を飲んだりして、孫が産まれて⋯⋯。 そのような思い描いた将来は、健太が1歳になる前に消滅した。 そして、私は今でも自分が死んだ後、彼が無事に生活しているか考えるだけで気が狂いそうになる。 子を持つ事による発生する責任を私は恐れている。 「私は子供を持つのが怖いだけ⋯⋯スタンリーは関係ないわ」「君はクラフトの事を怖がっていたからな。確かに子供は思うようにはならん。別に逃げて良いのだぞ。君はクリフトの親ではないのだから」 私はスタンリーの言葉に流石に頭がきた。「クリフトは私の子よ! それに、私がスタンリーを好きだから一緒にいたいって分からない? あなたのその目は節穴なの?」「えっ? 君が俺のことが好き?」「そうよ、ムカつくから、絶対言いたくなかったけどね!」 私は振り向いたスタンリーの髪を引
目が覚めて、隣で寝ているスタンリーを見てホッとする。 そして、彼をしっかり見つめてみると、いかに彼が私を見てくれていたのか分かる。 本当に私を好きで結婚を申し込んで来た事も理解できた。 クリフトに殺される運命を回避する為には彼と協力した方が良い。 しかしながら、この世界が小説『アクアマリンの瞳』の中で16歳のクリフトが私たちを惨殺するという話は絶対にできない。 私の頭がおかしくなったと思われるからだ。 ミランダ夫人は自殺する前、異常なまでの被害妄想やおかしな言動が増えていた。 それを目の当たりにしてきたスタンリーは、私がおかしな言動をすれば必ず彼女を思い出すだろう。 (病気扱いされて、避けられるだけね⋯⋯) 彼はとても冷たい人だ。 政略的で愛のない結婚だったとしても、ストレスでおかしくなった妻を救おうともしなかった。 浮気をした上にとんでもない言い訳をしてきた彼は最低だが、そのような彼に歩み寄ろうとしている自分の行動が自分でも理解できない。 期待してはいけないと思いながら、スタンリーなら何とかしてくれるのではと考えてしまう。 私は彼を起こさないようにメイドも呼ばず着替えて部屋を出た。「母上、おはようございます。今日からアカデミーですよね」 部屋の前にいたクリフトに動揺する。(普通に話しかけてきた⋯⋯どういうこと?) 突如、不安が押し寄せてきて今の状況を誰かに相談したくなる。(そうだ、レイフォード王子殿下に相談を⋯⋯)「母上、朝食はまだ食べていませんよね」「ええ、クリフトは?」「僕はもう食べました」「そう、ならば少し早いけれどアカデミーに向かいましょうか」 今、クリフトが何を考えているかを考えるだけで冷や汗が出てくる。 食事なんて到底喉を通りそうもない。 アカデミーでは寮生活になる。 荷物はすでに送ってあるので、身軽に登校できる。 長期休暇まではしばらく会えなくな
モリレード公爵邸に帰るなり、私はスタンリーにお礼を言った。「今日はありがとう。それから、邸宅の管理⋯⋯本当は私の仕事よね。これから学ばせて」 先日、離婚したいと申し出たのに、自分でも何を言っているのか分からない。 ただ、4年間私がいかに何もしなくて、スタンリーがそれを何も咎めずにいた事がむず痒いだけだ。 私は今でも彼の事を浮気をした最低男だと軽蔑している。「君が公爵邸の財産管理をしたいと言ってくれたという事は、離婚する気は無くなったのかな?」「いえ、ただ私は今ここにいるのなら、自分のするべき事をしなければならないと思い直しただけよ」「知ってるよ。君は自分の仕事に懸命な人だから⋯⋯」 私の頭を撫でながら言ってくるスタンリーの言葉は皮肉として発しているものではない。 しかし、4年間するべきことをせず、自分の権利だけを行使してきた私をナイフのように突き刺す言葉だ。「レイフォード王子殿下の事が本当に好きなのだな⋯⋯」「また、何を言っているの? 好きになっても意味のない方だし、ときめいても一瞬。私はあなたの妻なのよ」「そうだな、君は確かに俺の妻だ⋯⋯」 以前レイフォード王子に恋しているかという質問に、イエスと答えた事を後悔した。 スタンリーが明らかに気にしている。 彼は本当によく私を見ている。 私が今まで彼を全く見ていなかった罪悪感をひしひしと感じる程だ。 確かに私はレイフォード王子を見る度にときめいてしまっている。 それを恋と言われればその通りだ。 でも、彼とした恋人のような芝居のせいによるものが大きい。 あのような可笑しな演技をしなければ、持つべきではない感情を抱かずに済んだ。 私は彼を自分と同じように間違った道を1度は歩み、なんとかしようとしている同志だと感じている。 きっと、次に会う時は同志としてクリフトに殺される運命を避ける作戦を知恵をだしあって立てるだろう。 もう、間違っても彼とキスなどしない。
「本日はお招き頂きありがとうございます」 私は自分が場違いな淡いクリーム色のワンピースを着てきた羞恥に震えていた。「あら、モリレード公爵家は意外と質素倹約を重んじるのですね」 タチアナ嬢は攻撃的な目で見つめきた。 気の置けない仲間内の会だから、着飾らないようなフランクな格好で来て欲しいと言った彼女の便りは罠だった。 彼女が私を嫌っていそうな事は分かっていた。 近頃考えることが多すぎて、彼女の悪意に気づけなかった。 でも、それは言い訳だと私自身が気がついている。 ただ与えられた仕事をこなしていれば良いだけのメイドであった時とは違う世界がそこにはあった。 色とりどりの花に囲まれたガーデンテーブルには8人程の令嬢たちが座っている。 きっとタチアナ令嬢の取り巻きたちだろう。 そして彼女たちの名前が誰1人分からないのは私の怠慢だ。 私は公爵夫人になってからの4年間、お茶会の招待に応じた事はなかった。貴族の付き合いとか理解できなかったし、最低限のことをこなしていれば良いと思っていた。 皆、煌びやかなドレスを着込んでいる。しつこいくらいに高価なジュエリーを身につけている事で実家の富を競っているようだ。 彼女たちはジュエリー1つ身につけていない私を、扇子で口元で隠すように意地悪に笑っている。「モリレード公爵家は夫人の散財で実は財政難で苦しんでいるという噂は本当でしょうか? 悩み事があったら、いつでも相談してくださいね。ルミエラ様では解決できない事柄もあるでしょうし⋯⋯」 緑色の髪をした見知らぬ貴族令嬢が、私の事を心から思っているように手を握りしめて訴えてくる。 一撃で私の生まれを非難するような言葉に心臓が止まるような気持ちになった。 どんなに着飾っても私はメイド出身の平民だ。 彼女たちの仲間になれるような日は来ないだろう。 いつも私を引き立てるように努める貴族令嬢たちが周りに存在したのは、全てモリレード公爵家の力だった。 ここはタチアナ嬢の陣地と
バルコニーに出ると、満天の星空が広がっている。 夜風が涼しく肌をくすぐって気持ちが良い。「そなた、僕の唇ばかり見ていたようだが、もしかして繰り返す過去の記憶が残っているのではないか?」 隣で私を覗き込むように見つめて来たレイフォード王子の言葉を一瞬理解できなかった。「あ、あの殿下も、繰り返している時を過ごしているのでしょうか?」「過ごしているよ。クリフトに殺されない未来を求めるように何度も! これはきっと神が僕に与えてくれたチャンスなんだ。やはり、そなたも僕と同じなのだなルミエラ」 美しい彼を前にすると、多くの女の子と同じようにときめいた。 それでも、彼に突然呼び捨てにされると嫌悪感を感じる。 彼がどうしてクリフトの元を訪れていたかは納得がいった。 私が初めに思いついたように、クリフトと仲良くすれば殺されずに済むと考えたのだろう。 最も、そのような浅はかな考えはクリフトには見抜かれている気がする。 「私は貴方様の叔父であるスタンリー・モリレードの妻です。そのように呼び捨てにするのはお止めください」「意外としっかりしてるのだな。確認させてくれ、そなたも何度もクリフトに殺されているのか?」 私は彼の質問に静かに頷いた。 しかしながら、彼と私の回帰している回数は異なるだろう。 私は記憶にある限り2度時を戻った。 たった、2度を何度もとは言わない。 意外としっかりしていると言われてしまったのは、私を歳の離れた男に財産目当てで嫁ぐ軽い女だと思っているからだろう。「やはり、神は僕にこの世界を正しい方向に導くように助けを求めているのだ」 楽しそうに月夜を眺めるレイフォード王子は幼く見えた。 その姿がなんだか可愛く見える。 何度も殺されるような時を過ごしているのに、彼は明るい。 私は2度の殺された記憶があるだけで、クリフトを見るだけで体が震えだす。 彼は小説『アクアマリンの瞳』を読んでなさそうだ。 この世界を繰り返した