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All Chapters of メモリアルホロウ: Chapter 51 - Chapter 60

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第四十九話 SMへの入り口?

 四十九話 SMへの入り口? ビリビリビリと電流が強くなっていけば行くほど、いい声で鳴くロロンがいる。視界は定まっていなく、口からは涎を垂れ流していた。だらしない表情にゾクリとする俺は、新しい階段を登り始めていく。 楽しむはずのゲームに翻弄されている自分を解放するかのように、隠された性癖を漏らしていくと、鳴き声をあげながら答えてくれる。 妖精の姿だったロロンは、気が抜けたのか擬人化していくと、小さくなった服が張り裂け、生まれたばかりの状態で俺に見せつけてくる。「へぇ〜。こういうのが好きなんだ。ロロンって変態だね」「うう、やぁ」 嫌と言えば言うたび、それは肯定へと受け取られていく。その事に気づけないロロンは、されるがままの状態に陥っていった。 二人のやりとりを見ているラウジャは、初めて見る俺の表情に震えながらも、唾を飲み込みながら羨ましそうに見ている。 その視線に気づいた俺は、ラウジャへ見せつけるように、ロロンの体をなぞり始めた。電流と手の感触で感度が最高潮に達しているロロンは涙を浮かべながら、ラウジャへと手を伸ばそうとしている。「逃げれる訳ねぇよな? 言っても分からない悪い子には躾をしないと」 俺はポケットからあるものを出した。それはウィンウィンと虫みたいに動きながら、くねくねしている。丁度男性の秘宝そのものの大きさだ。そこに涎をべったりつけると、ロロンの小さく可愛い入り口にぐにょと無理矢理入れていく。「うぐぐっ」 メリメリと肉が擦れていく音が聞こえてくる。余程痛いのか、声を我慢していても漏れてしまっている。苦しそうな表情で快楽と痛みに耐える姿は、まるで芸術品そのものだ。 奥まで入れると、痛みが快楽へと上書きされ、今までに感じたことのない感覚に支配されていく。自分の内部をかき混ぜられ、壊そうとしてくる侵入者の思うがままにされていた。「ハウ……も、だめ」 まだ喋る気力はあるようだ。そんなものは必要ない。ただいつまでのその快楽に流れて、精神さえ崩壊して欲しいと思ってしまう自分がいた。
last updateLast Updated : 2025-09-02
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第五十話 華毒

 五十話 華毒  突破する事が出来ないレイングは、自分の力に限界を感じていた。何かが自分を邪魔しているように、空間全てが彼を拒絶している。その現実に飲み込まれそうになっていく。「苦戦してるね〜。オイラが助けてあげようか?」  シュタッと天井から降りてくる一人の少年が現れた。見る感じ、18くらいだろうか。頭には見た事のない猫耳を生やしている。真っ黒の装束はまるで、忍びのように見える。気配を完璧に消していた少年は、楽しそうに微笑むと、キランと光るクナイを取り出した。「お前は何者だ?」「オイラの事知りたいの? それはいいけど。その前にこの結界を壊さないといけないんでない?」「……」 正体が分からないままで、力を貸してもらうのは危ないだろう。名前も名乗らず、ただ単に協力してくれている子の状況に疑問しか浮かんでこない。「そこまで警戒せんといてよ。鈍いオイラでも傷ついちゃう」 くるんとターンをすると、恥ずかしい格好を見せつけてくる。エロい瞳を見せつけながら、くねくね動く体を見て、引いてしまうレイングがいた。「今引いたよね、酷いなぁ」「……変態にしか見えないからな」「冷たすぎじゃない? だからハウエルにも愛想尽かされるんだよ〜」 俺の名前が出てくると、レイングの彼に対する目つきが変化していく。自分達の情報は何一つ漏らしていないのに、どうして名前を知っているのか、警戒し始めていた。「オイラは君達の旅が円滑に進むように依頼をされた忍者だよ。メリエット様から助けるように言われたんだ。これ書状」 胸元に隠していた書状を取り出し、見せてくる。レイングは確認の為に、内容を確認するが、この書状に綴られている筆跡はメリエットのものだ。そして国に証明されているハンコが押されている。メリエットの筆跡を真似る事は出来るかもしれないが、国が関わっているのなら、このハンコは偽造出来ない。押されたハンコには魔力が付与されているからだ。偽物ならこのようなテクニックは施されてはいないだろう。「……本物だな」「当たり前〜。
last updateLast Updated : 2025-09-03
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第五十一話 洗浄と言う名のキス

 五十一話 洗浄と言う名のキス 「これは金平糖。オイラの術を混ぜて作った毒消しなんだ。これを二人の口にも入れてあげて。その後の対処はオイラに任せてくれれば、大丈夫だからさ」「……分かった」 俺の側に居たい気持ちを抑えて、二人の元へと足を向けていく。それを確認すると、カリアは金平糖が体に馴染んでいくのを観察している。即効性のあるものではない。時間をかけて徐々に回復していく。そして最大値を示してたストレス度を消していった。「二人にも与えたぞ。後は……」 指示を待っているレイングは言葉を飲み込んだ。信用している訳ではないが、この状況をなんとか出来るのはカリアだけと、判断したようだ。 二人を床に寝かせると、薄黒かった顔色の血色が元に戻っていく。ゆっくりと確実に。 チラリとカリアを見ると、俺の顎を抑えると、自分の口に金平糖を放り込み、唇を重ねていく。 その姿を見て、あっと小さな声を漏らし、止めようと宙に舞っているレイングの右手が行き場を失っていく。 チュクチュクと唾液の音を響かせながら、口内の味を確認していく。華毒が残っている場合は少し苦味があるらしい。 そうと分かっていても、止める事が出来ない状況に感情がついていかない。その唇を味わえるのは自分なのに、とレイングは思っていた。「ぷは……これで洗浄出来たね」 ペロリと自分の唇を舐めると、光悦な表情を見せてくる。その姿を見ていると、カリアの存在が脅威に感じてしまうレイングがいた。「ハウエルを見ていてくれない? オイラは二人の洗浄を始めるから」「……ああ」 なんて受け答えをしたらいいのか分からないレイングは、ただただ受け止める事しか出来ない。眠っている俺の側に来ると、カリアの涎が唇にへばりついているのが見える。 それだけで嫉妬の炎を燃やしてしまう。決して表に出さない黒い感情を押し込んでいくと、ため息を吐いた。 キスの事を洗浄と言っていた事に、我に返ると、パッとラウジャとロロンの方へ視線を注いでいく。
last updateLast Updated : 2025-09-04
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第五十二話 烙印

 五十二話 烙印  全てを破壊してやる—— どこからか声が聞こえてくる。それは毒のように激しく、甘い誘惑の味。俺の視界が言葉を取り込むと、微かに砂嵐が正体を見せてきた。メモリアルホロウ、略してメモホロの世界の全てを書き換えようとしている、闇属性の人物。それは、今までのキャラクターとは全く異なる、存在だ。 彼はこの世界を操っているギルバートを阻止する力を持っている。プレイヤーの俺なんて眼中にない。メモホロの全ての権限を、ルールを、仕組みを、全てを業火の中へと叩きつけようと企んでいる。 この世界に受け入れられなかった存在。彼はキャラクターであり、そうではない。その正体を知っているのは、彼自身だけだ。 彼との出会いが、俺の運命を揺るがしていくなんて、想像もしない。そんな余韻を感じさせる雰囲気を一切出していないから、安心していたのかもしれない。「ハウエル、君は全てのキャラに認められすぎたんや。知ってるか? メモホロの一番の重要キャラクターの事を。どうせ何も知らずに、ここに来た。そうやろ?」 彼は全てを理解していると言わんばかりに、突き詰めようとしてくる。「君は何者なんだ……カリア」 どんなシナリオがあったとしても、その影響を受ける事がない。カリアは自分の存在がこの世界にとって、どんなに異質なのかを示してくる。 プレイヤーとして、メモホロを攻略する事を軸に動いている俺と、その反対を考えているカリアでは、意見が合致する訳がない。 両極端な存在が、同じ空間に存在している事が変だった。「オイラの話を聞いて考えを変えるかと考えたんやけど、無理みたいやな。ハウエルとは仲良くしたかったんやけど、残念や」 対立の道しか残されていない俺達を周囲は、無言で佇んでいる。攻略対象キャラクター達は、この会話自体をなかった事にしようと、記憶を書き換えていった。  冒険の先にカリアと俺の審判が待っているとは、今の俺は知るよしもなかった。   ブィィィンと機械音が鼓膜を撫でる
last updateLast Updated : 2025-09-05
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第五十三話 闇シナリオ

 五十三話 闇シナリオ  カリアは身動きをしない俺を見ながら、期限良さそうに笑っていた。その声に反応するのは攻略対象のキャラクター達だ。ここにはいないメリエットとグレイにも、彼の影響は届いている。メモホロの世界があるのは、彼らの存在が肯定されているからだ。 それを聞いた事のない言語で、書き換えていくと、狐のように目を細めた。「これこそ、神の未技やな。ギルバートの奴を出し抜けたようで、良かったわ〜」 いつもプレイヤーのサポートしている運営の事を鬱陶しく思っていたカリアは、シナリオマスターの美緒がこの世界に繋がるのを待っていた。 彼女は自分の体を手放し、ギルバートと名乗る権限持ちの存在へと成り下がったのだ。外の世界から送ってくる信号は、いつでもこの世界を立て直していく。「美緒はん、可哀想やけどしゃーない。オイラは何も悪くないで。堪忍してや」 この会話をギルバートが聞いているかは不明だ。メモホロの世界軸を自分に置くように、全てのシナリオを闇のシナリオへと変えていく。 ずっと考えていた事だった。プレイヤーが楽しめる世界を、メモホロに飲み込まれる意識を認める事が出来ないでいた。 彼は美緒に裏切られた過去を持つ、元人間だ。カリアにも本来は実態のある肉体が存在していた。しかし、カリアの脳をこのゲームの一部として、人工知能の一つとして、システムを管理する自動システムを作り出した。彼はメモホロが形になる何年も前から、この世界に閉じ込められていた。「君がオイラを閉じ込めた。体も自由も奪ってな。だから考えたんや、異質なオイラがこの世界に干渉する方法があるんやないかて」 自分の過去の行いを、消された真実を一人で語り続けるカリアは、自分に酔いつぶれている。 そんな彼の元へラウジャが引き寄せられるかのように、地べたに座る。忠誠を誓うように、彼の手にキスを落とすと、真っ黒な瞳でぎこちなく笑う。 瞳の奥はぐるぐると渦巻いている。カリアは自分の過去の姿とよく似たラウジャに、好意を示すと、自分の膝に項垂れるように、倒して
last updateLast Updated : 2025-09-06
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第五十四話 改竄

 五十四話 改竄  自分の役割を思い出せない。この世界がメモリアルホロウと言われている事と、曖昧な記憶が全てを支配していく。記憶の底に沈められている本当の自分の姿は、瞳からこぼれ落ちながら、全ての悪に染まっていく。「……俺は」 俺達がいるのは、どこかの宿屋のようだった。王子としての立場を戻したはずなのに、どうして急にこんな所に飛んでいるのだろうか。今の俺にはレイトとしての記憶が全くない状態。この世界がゲームである事を忘れると、メモリアルホロウの一員として生きていこうとしている。 そのはずなのに、敵的に瞳に映る説明のようなものが見えてくる。まるで自分の視界が一つの大きなスクリーンのように。「ハウエル。顔色が悪いぞ?」「……レイング」 彼は俺の兄であり、恋人でもある。兄と言っても血は繋がっていない。元々はある騎士と王子の子供だったのだが、立場の差により、捨てられた子供だったんだ。 全ての真実を隠す為に、国王が王子を第三候補者として全てを受け入れる提案をし、それを受け入れ、彼は二人の息子として育てられる事になった。「ハウエルと俺は血の繋がりはない。だから俺達の関係を隠す必要はないんだ」 誰にも話す事のなかった内容を教えてくれたレイングは、真っ直ぐな情熱を向ける。あの時の彼の瞳は強く、美しかった。  偽りの記憶に染められていく。その事に気付く事が出来ない俺は、頭の中に存在している自分の生い立ちと、周囲の人達の過去を照らし合わせながら、確実性を導き出そうとしているのかもしれない。 しっくりする事はない。確かに記憶は存在しているのに、まるで他者の生き様を見ているような気分になっていく。 この違和感を、引っかかりをなかった事にするのは、どうしても抵抗心が邪魔をしてくる。ラウジャに対しての関係性も、うっすらと記録しているが、殆どが透明だ。近くにいるのに、すやすやと俺の胸の中で寝ている彼を見ていると、どう言う事か、特別な存在であるような気がして堪らない。 俺は複数の愛情を抱えながら、彼らを見て
last updateLast Updated : 2025-09-07
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第五十五話 隠された言葉の真意

 五十五話 隠された言葉の真意   プレイヤーがメモリアルホロウを始める時に、何があってもいいように、記憶をバックアップしている。その事実は一部の人間しか知らない。 完璧なものを作る為には、試作品としてだれかにプレイしてもらうのが一番早い。本来ならば同意書を書き、一つの実験として内容を申請するのが鉄則だ。 最低限の記憶は保管しているが、それをリセットしてしまえば、人体に精神にどんな負荷がかかるのかさえも分からない。 こんな事が起こったのは、初めてだった。ギルバートはロロンの視界をリンクさせながら、この世界の構造を元に戻す事を決断していく。 もう一つの作られた人生が全ての人を病から自由にさせてくれる。そのシステムが脅威になりながら、俺に噛みつこうとしている。「俺の視界では確認出来なかったのに、何故ロロンの視界を使うと確認する事が出来る?」 彼はロロンを形取っているシステムのログを確認していく。異常が見つからない限り、こうやって覗き見る事はしない。しかし今回は別だ。システムのバグとは思えない。どちらかと言うと第三者に傍受されているように思えたようだった。 一つの綻びが全てを侵食し、崩壊へと導いていく。その余波が表面化しながら、対象っキャラクターへと浸透していく。 用意されたシナリオを軸とし、まるで生きている人間のように、人生を歩んでいく。そのリアリティが売りなのだが、それも過度に表現していくと、何がリアルで偽りなのかさえも、把握する事が出来なくなってしまう。「まさか侵入者が現れるとは考えもしなかった」 彼は何も分かっていない。カリアは来たくてきた訳じゃない。全てはギルバートがメモリアルホロウを作った事が原因だった。 本人は忘れているようだが、カリアは忘れる事は出来ない。あの時の記憶は姿、形を変えながらも、ずっと人間だった時の記憶に支配されていたんだ。 全てはここから始まったのかもしれない。   自分の理想を現実の一部へ落とし込む事が出来るのならば、どんな事でも
last updateLast Updated : 2025-09-08
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第五十六話 カリアの過去

 五十六話 カリアの過去  感情的になると耳が震えてしまう。魔王の城を住処にしているカリアは、昔の事を思い出していた。「……あの女」 今でもあの時の事を思い出すと、はらわたが煮えくり返りそうになってしまう。美緒を名乗っていた女は、自分の事を研究者と騙っていた。本当はある企業に依頼された技術者の一人であり、メモリアルホロウを作った人物だった。研究者としての視点を語る事で、カリアを信頼させる事に成功したから、この事態になっている。 彼女はシナリオマスターのギルバートへ姿を変え、表面的な記憶を保有しながら、その為に行動をしている。 そこには彼女の本当の計画に関する記憶は残されていない。彼女の体が存在している限りは、美緒の脳内に保管されているマイクロチップに、暗号化された計画書の発端が記されている。 プレイヤーに気づかれないように、この世界のマスターとしての役割を果たす為に、余計な情報は知らない方がいいと、美緒は考えていた様子。 ある意味、自分自身にも縛りを与えている状態と言える。「しかし、あの女がこの世界に潜ってきたとは考えなかったな。データーを手に入れる為なら人を簡単に切り捨てる奴がね」 あの時の彼女は、自分の精神を意思を心をこの世界と同化させる事はナンセンスと考えていた。全てのシナリオがシステムが完成するまでは、自分の存在は欠けてはいけない。 ふるいにかけられたカリアとは違う。美緒は自分の存在を重要視していた。「仕方のない事よね。私は彼と接触する役目があるのだから——」 メモリアルホロウへ入る為の準備を終えていたカリアは、一人隠れるようにシステム調整をしていた美緒のつぶやきを聞いていた。カリアは美緒が示す彼の存在が誰であるかを知らない。ここに隠れている真実が世界を開く鍵だとも知らずに、流されていく。  見逃してしまったタイミングを掴む事が出来ていたなら、自分はこの世界に囚われる事はなかったのだろう。正常に動くかも未知数だった牢屋へ彼を送ったのだから。 肉体から意識を取
last updateLast Updated : 2025-09-09
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第五十七話 君の力が必要なんだ

 五十七話 君の力が必要なんだ  全ての主導権を握っているのはカリアだ。その事に気づいた時には、手遅れの状態になるだろう。ロロンを使い、全てをリセットしようとしているギルバートは、隠されたコードに鍵をかけると、自らの記憶の最深部へと放り投げた。 自分以外が踏み込めないように、暗号化すると、管理者権限を使い、スタートの文字にカーソルを当てた。 ここをクリックすれば、全てが最初からになる。メモリアルホロウでの出来事は勿論、プレイヤーの記憶そのものも削除されてしまう。 無理矢理にでも俺の意識から消去するので、負担はかなり重たいだろう。眠った状態にいる肉体にもその影響はいくはずだ。 俺の事を考えれば、この賭けに出るのは避けた方がいい。脳に装置をつけている以上、その電流が圧迫され、頭ごと吹っ飛ぶ可能性もあるから余計だろう。「……仕方ないな」 家族として暮らしていた以上、俺にこれ以上危険を与えるのは避けたいのが本心だ。ずっと手に入れたい存在を手元に置く事が出来たのだから、自らその夢の一つを消し去ってしまう可能性がある。 現実世界で植物人間になっている美緒の体を使い、本来なら俺にかかるであろう重圧を、美緒の体に擬似体験として書き換え、全ての痛みの経験を本来のプレイヤーから書き写す事を考えた。「現実の僕が何を考えていたのかは見えない。それでもレイくんを失う事の方が僕にとっても彼女にとっても苦痛である事には間違えはない」 シナリオマスターとして新しい自分を作り出した彼は、もう美緒とは言えないだろう。この世界で生きると決めたあの時から、決断は決まっていたのかもしれない。 現プレイヤーの俺と機械の接続を自分の体へと繋ぎ直していく。装置を外された事を鳴らす警告音が鳴っている。本来ならギルバート自身の手でするべきなのだが、彼はメモリアルホロウが生み出した作られた人格でもある。美緒としての体験と記憶を引き継いでいたとしても、彼は現実世界に介入する事が出来ない。 ギリギリと歯を食いしばると、数分前の事を思い出していた。自分から接触を避けたかった人物の助力がないと、
last updateLast Updated : 2025-09-10
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第五十八話 譲渡

 五十八話 譲渡  「お前からその言葉をようやく聞けた気がするよ。あの時は嫌がった癖に……」「それは言わないでくれ」 ギルバートは自分の過去に関して、これ以上突っ込まないように忠告すると、話を切り替え本題に入った。 俊介とギルバートには切ろうとしても切れない縁があるようだった。それは二人にしか分からない。現実世界の内容をこれ以上、言葉で示すと、管理者としてもシナリオマスターとしてもまずい事になってしまう。 言葉を最小限に留めると、自分の代わりに美緒へと繋がるアクセス権を譲渡した。彼女の脳の中に入っているマイクロチップの中には、複数の権限が隠されている。それを使用する為には、メモリアルホロウの中で確立された立場を手に入れるしか方法はない。 今回の場合はギルバートの権限を俊介が代わりに使い、彼女の脳に隠されている意識を切り替えるスイッチに干渉させる。その為に、俊介をメモリアルホロウへと招待をしなくてはいけない。 現実世界で生きる存在とメモリアルホロウの中で生き続ける存在が手を組む事で、全ての作業を開始する事が出来るのだ。「美緒の体は奴らが監視している。念の為に偽りの姿で彼らに接触していたのが転機かもしれない」 念には念を。何が起こっても対策出来るように、自分の身分を偽って、裏切り者達の仲間として潜り込んでいる。今では信用を勝ち取り、美緒の体調管理を調整する為の役割もある程だった。「お前が死んでいないのは、俺のお陰でもあるんだぞ」「分かってる」  美緒として生きていた瞬間を知っている俊介は、懐かしむようにギルバートに優しい視線を注いでいく。二人は各自の目的の為に近づき、あの幸せな環境を共有する事が出来た。年齢も名前も、全てを偽り続ける俊介にとってはいい経験であり、家族の温もりを体感した瞬間だったのかもしれない。「レイトを助ける為なら協力しよう。俺達にとってあの子は守る対象なんだから」「そうだな。カガミの思い通りにさせてたまるか」 ギルバートからしたら、カガミは自分の写し鏡のような存在だ。どん
last updateLast Updated : 2025-09-11
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