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All Chapters of メモリアルホロウ: Chapter 61 - Chapter 70

74 Chapters

第五十九話 沈んでいくラウジャ

 五十九話 沈んでいくラウジャ  ロロンは暗号通り自分の役割を遂行しようとしていた。これを押せば、俺を、俺達を助ける事が出来ると信じて。 レイングを含めこの状況を把握している人はいない。ロロンは彼らの態度を見て、そう確信していた。自分だけが知り得るものなら、後はどうにかなるかもしれない。 そう考えて、リセットを押そうとする。「ロロン、何をしようとしているの?」 今まで黙って様子を見ていたラウジャが問いかける。ぎくりと確信を突かれたような気分になったロロンは、動揺心を隠して、いつもの調子で話をし始める。「何が言いたいのかな〜? ラウジャ」 どこまで誤魔化せるかはロロンの腕次第といった所だろう。隠している情報をキャラクター達に告げるのはよろしくない。 考えても、答えに辿り着けない。今までならプレイヤーにもキャラクターにも、そこまで興味を抱かなかった。しかし、今回は違う。旅をして、関わり、会話を重ねて信用を作ってしまった。その記録が記憶として残り、彼の決断を揺さぶっているようだ。「さっきから様子が変だよ。何かをしようとしてるんじゃないの? この状況だからこそ隠し事はなしだよね?」 いつもの彼なら、ここまで饒舌になる事はない。ラウジャを作り出した時に、彼には弱さを埋めつけている。 例え自分の考えがあったとしても、ここまで首を突っ込んでくるような事はないはずだ。 この異変に気づいたロロンは、自分の知らない所で異質な存在との接触があったのではないかと、考えを切り替えていく。「どうしたの? ロロン」 攻略対象キャラクターとしての位置付けされているラウジャが、内情を隠している。メモリアルホロウに存在しているキャラクターの全てを把握出来るはずのロロンは、彼の隠しているものを読み取ろうとスキャンした。【権限がありません】 ビビビと警告音が頭の中で響くと、その反動で痛みが現れる。ロロンの後ろで糸を引いているギルバートがいる限り、弾かれる事はないはず。それなのに、強い力
last updateLast Updated : 2025-09-12
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第六十話 初心にかえる

 六十話 初心にかえる  全てが自分には関係のないものに思えて仕方なかった。自分の目的を忘れてしまった俺はラウジャとロロンの口論を見ている事しか出来ない。 何か言えば、今の自分を否定してしまうような気がしてたまらない。これは恐怖なのだろうか。 俺は現状と感情が違いすぎて、呼吸を忘れそうになる。どうやって息をしていたのかさえも理解出来ない。それぐらいに、滅入っている。「そこまでだ」 最悪の環境に水をさしたのはレイングだった。最初から最後まで、口を挟まずに見ていた彼は、自分の事しか見えていない二人に失望していく。「俺はいい。だけどなハウエルがいる所で喧嘩するな」 俺が記憶を失っても、彼からしたら今までの俺と何も変わらないと考えているようだった。 ロロンが不安定になってしまった事が原因で、俺の不安や恐怖がレイングに筒抜けになっていた。それはロロンの立場が変わりかけている一つの暗示だったのかもしれない。「一番不安なのはハウエルなんだぞ。支えが必要な時に、不安にさせるなんて何をしているんだ」 彼がここまで感情を荒げる事はない。俺の事を考えてくれているのは勿論、今まで一緒にいた時間があるのに、一瞬のすれ違いで簡単に崩壊してしまう。 この状況を無視する事は出来ない。「そうだよ、ロロン」 今まで喧嘩を楽しんでいたはずの彼は、急に態度を変える。レイングの意見に同意する事で、ロロンの行動に釘を打てると考えている。 今までなら管理者やシステムの方が立場が上だった。この世界を作った神に、その家来と言った所だろう。 完璧な存在であるはずのそれらが、支配力を失いそうになっている。これも全てカリアがメモリアルホロウの世界を歪ませた事が原因だった。 俺の記憶の消失も、その歪みによるものだ。きっかけは彼の祝福を受ける事。自分の意思で動けない状況に陥らす事で、闇の祝福を受け入れやすくなる環境を作った。 本来なら彼にキスをされた事で全てのキャラクターにその効果が発
last updateLast Updated : 2025-09-13
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第六十一話 湖の声

 六十一話 湖の声  数日間様子を見る事になった。もしかしたら記憶が戻るかもしれない。そう考えたからだった。 この提案をしたのはレイングだった。あの日以来、ロロンとラウジャは意見を言わなくなってしまった。 そこを補う為に、彼が中心になって全てを決断していく。「ハウエル、今日はどうだ?」 レイングは愛しむように微笑んでくれる。その柔らかさに依存している自分がいた。何をしたらいいのか、どう言葉にすればいいのか、その答えはまだ出ていない。 俺が言葉の暴走を起こして、空間を壊しかけたが、安定し始めている俺とリンクしているように、空間は元の姿に戻っている。 口を開こうとするが、どうしても抵抗がある。自分の言葉がこの世界にどんな影響を与えてしまうのかが、怖いから余計に——  フルフルと首を振ると、その意味を理解したように頷いた。四人で一緒にいたはずなのに、俺の事を考えて無理矢理別室を用意してくれた。 宿の店主は嫌な顔をしてたけど、ラウジャとロロンの言葉に圧倒され、納得したように折れた。その流れにしたのはレイング本人だ。二人を利用し、俺が安心出来るように、環境の改善に手をつけたんだ。「焦らなくていい。ハウエルは一人じゃない。俺がいる」 その言葉には力が込められている。まるでそれは以前の自分の言葉のように思えた。レイングを通して過去を見ている気分になる。失ったものを取り戻すヒントがそこに隠れている気がして仕方ない。  脳を使いすぎて疲れてしまった俺は、レイングに抱き抱えられながらベッドへと向かった。ふわっと優しく置くと、安心出来るように添い寝をしてくれる。こんな日がずっと続けばいいのに、冒険をしなくてはいけない事を知って、より強く思うようになっていた。「ハウエルにとっても、あの二人にとっても考える時間が必要だ。今は先の事は置いといて、体と心を休まそう。また明日考えればいい」「う……ん」 間を開けながらレイングの言葉を受け入れると、驚いたように見つめてくる。この二日間、ろくに声も出し
last updateLast Updated : 2025-09-14
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第六十二話 煙と泡

 六十二話 煙と泡  意識とは反対に沈んでいく。まるで深海のように広がっている空間は、今まで見た事のない煌めきで広がっている。 小さな泡から始まり、色んな大きさの泡が底から運ばれていく。右手で泡を掴み取ると、そこには自分の知らない記憶が記されている。 四方八方に浮かんでいる泡を確認していくと、全て別の記憶に埋め尽くされていた。それはまるで、一つに纏まっていたはずの記憶の欠片のようなもの。 俺の中で何かが異変を感じ取り、自分を守る為に、記憶をバラバラにしていたのだ。触ると、すっと泡が消え、俺の内部へと取り込まれていく。何も残っていないはずなのに、触れれば触れる程、最初からあったように俺自身の記憶として馴染んでいく。「ここは記憶の保管所。君の記憶を消滅を防いだのは僕達なんだ」 周囲に人はいないはずなのに、声だけが響いて聞こえてくる。その声は昔、聞いた事のあるものだった。 自分の耳から聞こえる音と録音した音は違って聞こえる。今聞こえてくる声は、俺自身の声だった。他者から聞こえる声質を動かしているから、すぐには気づけない。 所々の発音や息づかい、間の取り方。それらを聞いていると、自分の癖と一致している事に気づいていく。「お前達は俺なのか?」「僕達は君であり、違う存在なのかもしれない。それは君が一番分かっているんじゃないかな?」 メモリアルホロウの中で見る夢は、全て自分の心の回復場になっている。困難がある時はその対処を記してくれる夢の内容へと変わっていく。 自分の状態にあった夢を描いてくれるようだ。その事に気づく人は殆どいない。俺もその中の一人だった。「身を預けて欲しいな。君はただ流れに任せればいい」「……ああ」 俺は観念したように瞼を閉じ、全身の力を抜いていく。ザブンと海の中で波が出現し、俺の心に余波を与えるように、打ちつけ始めた。 これは彼らの儀式の一つだ。魔に侵食された存在を守る為に、人間の暗闇を象徴する感情を浄化していく。 俺の唇が青く光と、そこか
last updateLast Updated : 2025-09-15
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第六十三話 何事もなかったように

 六十三話 何事もなかったように  眠り続けている俺を揺さぶっている。レイングは反省した二人を迎えに行く為に、俺を起こそうとしていた。 本音を言えば寝かしてあげたい。それでも毎日のルーティンを崩してしまうと、それこそ考えも後ろ向きになってしまうと考えにたどり着いた。「もう朝だぞ。そろそろ起きよう」「ん……」 まるで保護者のようだ。彼はゆっくりとしている俺を見つめながら、困ったように微笑みを残していく。 チュッと唇が俺の額に触れる。その感覚が何よりも心地よく、安心させていく。まるで眠り姫を起こそうとする王子のようだ。「何……」 あれから言葉を発する事が出来なかったはずの俺が普通に話していく。その事がどれだけ嬉しく、希望に繋がって行くのか理解出来ずに、瞼を開けた。「おはよう、ハウエル」「……おはよう」「話せるようになったんだな、どうだ落ち着いたか?」 寝ている間に起こった事を言うべきかを悩んでいる。そんな現実味が欠けている話をしても、怪訝な顔をされるだけなのかもしれない。それでもレイングなら、信用したいとも思った。 一旦自分から逃げてしまった記憶を、再び自分の内部へ押し込めると、バラバラになった記憶の断片が新しい記録として、俺の中で進化していく。 邪魔者が入らないように、強固に組み整えられた記憶達は、俺の背中を押しながら、勇気を精製する言葉を向けていく。「俺は大丈夫だ、レイング。いつも側にいてくれてありがとう」 素直に自分の気持ちを彼へ伝えると、記憶を手放した人間だとは考えられずに、一つの答えを導き出した。 俺が自分の中に眠る言霊の精霊達に助けられたのではないかと——  これ以上の詮索は俺自身を追い詰めてしまう気がした彼は、ただ納得したように頷くと、感情の代わりに抱きしめる事で、全てを伝えていく。  俺達は何事もなかったように、二人が休んでいる部屋へと足を踏み入れる。何回もノックをしたが、熟睡しているようで2時間程経過していた。
last updateLast Updated : 2025-09-16
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第六十四話 冷たい眼

 六十四話 冷たい眼  旅を中断していた俺達は、ある人物を探している。全ては力を獲得する為に必要な事だ。メリエットが国王になった事で、今までの城の中での権力図が変わろうとしている。 今まで国王を支えていた者達は、メリエットが選ばれた事が気に入らない様子。 新しい国王の立場に確立性を握る為に、その人物を取り込む必要がある。 俺の記憶が弾け飛んだ事もあり、休息をとっていたが、どうにか一つの問題をクリア出来た。 レイングはロロンにだけ俺が記憶を取り戻しつつある事を伝える。しかしラウジャには隠したままの状態にあえて据え置いた。 どうも彼の態度や口調に異変を感じているようだった。最近は以前のラウジャに戻っているようにも見えるが、念には念を。「探し人はラミエルにいるはずだが……なかなか見つからないな」 意識が俺に向かないように、今回の目的を言葉にする。数日前の情報ではその人物はラミエルにて潜伏していたらしい。 それが俺達が着いた時から、消息が掴めなくなっている。まるでそう仕向けているかのように。「その情報は確実なものなの〜?」「ああ。半年も前から密偵として雇っていたからな。それが国王が亡くなって、急にラミエルに戻ると言い出したからな」 何度も説得していたが、その人物が受け入れる事はなかった。メリエットが指名されてから、様子がおかしかったらしい。「名前はラウス。人間と獣人族のハーフだ。見た目は俺達と大差ないが、身体能力は獣人族から引き継がれているな」 レイングの話を聞きながら、想像していた。見た目は俺達と変わらないと言っているが、どこかに獣人族の名残が残っている事に期待してしまう自分がいたんだ。 可愛い尻尾とか生えていると、キュンとしてしまう。俺は猫耳は勿論、尻尾フェチでもあった。レイトとして生きていた時も、猫や犬を見る度に、興奮していた程だった。「……何想像してるの? ハウくん」「え」「なんかやましい気配を感じたよ。もしかして獣人族に興味があるの〜
last updateLast Updated : 2025-09-17
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第六十五話 メザイト

 六十五話 メザイト   中途半端な存在は人間からも獣人からも嫌われていた。逃げる事も出来ない、受け入れ手しまえば、自分自身の存在を否定してしまう事になる。 二つの種族の間に子供は生まれない。その当たり前に語り継げられている現実は、彼の存在が全ての文献を破壊していく。「……これでいい」 彼はレイングの事を思い出していた。行き場のない自分に唯一、居場所を与えてくれた人間の事を。彼の近くにいるだけで、狭かった視界が広がっていく。 暗かった世界に光を与えてくれる存在だと思いながら、彼の手として、国の脅威を排除してきた。 それがたった一人の人物により、なかった事にさえた、そう思ってしまう。レイングの側にいる事が唯一の彼の幸せだったのに、そんな気持ちは、簡単に壊れていった。「俺は、彼を認めない」 従者としての立場を捨てると、彼に残されたのは暗殺家業だけだった。それも全てレイングの立場をより良いものにしていく為に、手に入れた力だ。 真っ直ぐ見つめて、微笑んでくれた彼の視線はハウエルと呼ばれている半端な王子に奪われてしまった。「望みすぎた結果だな。お前が私の元に戻ってきたのはいい選択だ。私にはお前が必要なのだよ、ラウス」 狼の毛に覆われた男は、ラウスの父ハニンだ。彼はラミエルを拠点とし、スパイを複数の国々に派遣している。暗殺者集団ハンニバルの中心人物だ。この都市に戻ると言う事は、ハニンの下に就くのも同然。「過去は忘れろ、今はお前自身の力を蓄える時だ。時がくればその時は邪魔者を始末すればいい。その為に私がいるのだから」 何十年、何百年経っても、親子の関係は途切れない。再開すればこうやって、昔を思い出しながら関係性を深めていく。心の居場所を失ってしまったラウスにとって、ハニンの存在は助けに見えたのかもしれない。「そうだね、父さん」 楽しかった思い出も、切ない気持ちも全ては過去の記憶だ。今更、恋焦がれても返ってくる訳じゃない。 ハニンは自分の体毛に包まれた
last updateLast Updated : 2025-09-18
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第六十六話 全ては繋がっている

 六十六話 全ては繋がっている  レイングの提案に乗っかった俺達は、闇ギルドを調べる事にした。闇ギルドは基本、表で行動する事はない。二、三人で運営を回しているようだった。闇ギルドは複数の暗殺者集団を抱き抱えている。そこに依頼を出し、クエストをクリアしたら彼らに報酬を与えるシステムになっている。 闇ギルドを探すよりも、抱えられている方を見つける方が早いかもしれない。しかし、それをしてしまうと、勘づいた闇ギルドにクエストとして報告が上がってしまう恐れがある。暗殺者集団はターゲットの金額を釣り上げる為に、最初は失敗する設定を設けている。そうやって自分達に脅威がある存在を示しながら、賞金首として仕立てていく。 レイングが何故、そんな事を知っているのかは分からない。タイミングを見て、聞こうとしたのだが、はぐらかされてばかり。「賞金首になるのも一つの手だ。賞金首といっても暗殺者集団に広まるだけだからな。俺達がそう簡単にやられる事はないだろう」 どちらをとってもリスクを回避する事は出来ない。そこまでして、取り戻したい人材なのだろうかと疑ってしまう程だ。 国の機密を知っているからこそ、自由にする訳にはいかないと断言するが、レイングの様子からすると、それだけが理由ではないと感じた。 いつもの彼なら、なんでも話してくれるのに、今日の彼は今までとは違う。距離感を感じながらも、国からの要請を断る事は出来ない。 それを含めて、俺達がここにいるのだから当然だろう。  揺れていく感情の波を気づかれないように、ロロンへアイコンタクトをする。把握したとウィンクで答えながら、俺の心情がレイングへ流れないように、強固な結界を敷いてくれた。 俺とロロンの秘密の会話を見ていたラウジャは隠していた顔を一瞬出す。 彼は機嫌良さそうに微笑む。今日は思った以上の収穫があったと胸を撫で下ろすと、路地へと姿を消していく。 目の前の事に翻弄されている俺達は、ラウジャが消えた事に気づかないまま、闇ギルドと繋がりのある情報屋への元へと足を早めていく。【ラ
last updateLast Updated : 2025-09-19
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第六十七話 黒ずくめ

 六十七話 黒ずくめ  黒ずくめの姿で正体を隠しながら、俺達が接触してくるのを待っている。ハニンに繋がる道を妨害すると共に、上手くいくと、俺達を違った道筋へと誘導出来るのではないかと考えていた。 ラウスは短剣を忍び持ち、いつでも、どんな動きでも対処出来るようにしている。呼吸音を鳴らさないように、スッと闇と同化していく彼は、その道のスペシャリストのようだった。 目的の為なら、危険な賭けにも出れる。ハニンからレイングが来ている情報を聞いていた。 その情報はカリアがハニンに流したものだ。俺達を監視出来る立場にあるカリアは、そうやって自分の思い通りに動かす事が出来る駒を複数置いている。  闇ギルドは認められていないギルドだ。不認可としても、資金や情報を手に入れる為に、冒険者達が闇ギルドに流れる事があるらしい。そうやって表裏を使い分けて、この都市で荒稼ぎしているのが現状だ。 立場を隠したい、何かから逃げている存在からしたら、この場所は隠れ蓑として最適だろう。 どうして俺達が闇ギルドを探しているのか、その理由を知らないラウスは、自分が原因なのを知る事はない。 国の機密を持っているが、それを口外する事も、売った事もない。周囲はいい資金繰りになるのに勿体無いと言ってくるが、レイングとの綺麗な思い出を汚してしまうような気がして、そこに手を出す訳にはいかなかった。「……遅いな。まだ来ないのか」 本当の自分の姿を隠して、別人として彼の前に出る事は、どんな事よりも緊張感が走る。それでも自分の為にも、ハニンの為にも、ここは食い下がる訳にはいかなかった。 目線の向こう側から、こちらに向かい足を早めている三人組が視界に映る。その中にレイングの姿があった。彼は俺を抱き抱えながら走っている。「どうして」 あんなに真っ直ぐなレイングを見るのは初めての事だった。彼が誰かに優しくするなんて考えられない。自分が特別だったはずだと言い聞かせようとするが、あの二人を見ていると、その言葉さえも無意味に感じてしまう。 ドロド
last updateLast Updated : 2025-09-20
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第六十八話 決意を言葉へ言葉を力に

 六十八話 決意を言葉へ言葉を力に  戯れてくるロロンは今の状況が分かっているのだろうか。俺達の代わりに戦っているレイングに対して何も感じないのか。 色々言いたい事はあるが、今は口喧嘩をしている場合じゃない。俺はロロンを離すと、逃げるように距離を取る。「どうして拒絶するの〜」「いやいや。この状況分かるだろう?」 レイング達を指差すと、チエッと舌打ちをする。ロロンはレイングに任せておけば大丈夫だと考えているようだった。 その時初めて、ラウジャがいない事に気づく。さっきまで一緒にいたはずなのに、辺りを見回しても、どこにもいない。「ラウジャがいない……」「大丈夫だよ。最近しっかりしてるし。放置でいいんじゃない? いても変わらないし」 冷たい目線でそう言い切る。「それよりもレイングでしょ。一人で戦ってるのに」 自分の行動に違和感を感じない性格はある意味凄い。空気を読めているようで、全然読めていなかったのに、自分にとって都合の悪い内容に変わると、急に現実味を演出しようとする。 この変わりように、振り回されてしまう俺がいる。  俺達の会話はレイングには届かない。ここまで集中していると言う事は、今回の相手はかなり強いと考えているのだろう。いつもは緩やかに、まるで野菜を切るようにちょちょいと終わらすのに、こんなに時間がかかっている事は初めての事。 ガキィィン刃と刃がぶつかる音が鳴り響きながら、柔らかな身のこなしで互いの攻撃を交わしていく。 その姿を見ていると、見知った剣術を相手にしているような感覚に陥ってしまう。どこかで感じた威圧感、そして自分の剣技を理解しているような動き。 少しの情報で弾き出していくと一人の人物の顔が脳裏に浮かび上がってくる。しかし、目の前にいる敵は彼とは違う。背丈も体型もまるで別人だ。「……そんな訳ないよな」「戦いの最中だ」 ラウスは強い口調で告げると、後ろに飛び跳ねた。これでは埒があかない。彼は両手を広げると
last updateLast Updated : 2025-09-21
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