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All Chapters of メモリアルホロウ: Chapter 41 - Chapter 50

55 Chapters

第四十話 彼女は彼?

 四十話 彼女は彼? 「スキル発動レイドリアン——」 自分が何をすればいいのか分かる。初めて使うスキルだが、手に入れた時点で組み込まれているようだった。浮かんできたスキルの本来の名前を呼ぶと、全ての空気を使い光を集めていく。高密度な光の欠片を作り出すと、実体化が始まった。 大きく小さく、細く長く、複数の形に移り変わりながら、一つの姿が完成されていく。そこに出現したのは、綺麗な金髪の長い髪を揺らす妖精族の少女だった 閉じられている瞼がゆっくり開いていくと、緑色の瞳が顔を覗かせた。彼女は俺を目視すると、嬉しそうに飛び跳ね始めた。「ハウくん〜」 ビトッと引っき虫のように、頬に抱きついてくる。俺の名前は最初から彼女にインプットされているようだ。 妖精族と言えば、どうしてもロロンを思い出してしまう。面倒な奴だったが、こうして振り返ると少し寂しさが滲んだ。「初めまして、俺はハウエル。君の名前は?」「……酷い」 自己紹介をしただけなのに、何故だかショックを受けている。何か気に触る事をしたのだろうか。彼女は俺と距離を開け、何か言いたそうな瞳で訴えかけてくる。「僕の事、忘れたの?」「いや、忘れたも何も……君とは初対面じゃないか」 記憶を揺さぶっても、彼女のような少女と関わりなんてない。身に覚えのない事を言われても、困ってしまう。 しろどもどろになりながら、彼女の話に耳を傾けていく。はっきりとは言わないが、彼女は僕を知っているようだ。話した事もあるらしい。 全く、さっぱり分からない……「こんな可愛い子と知り合いだったなんて、浮気者」 水を溜めていたはずのラウジャは、俺が彼女と話している所を見て、急いで帰ってきたようだった。 彼のセンサーは侮れない。 しかし妖精族と言っても、この世界で初めて女の子に出会った。今までは男性ばかりで、つい女性の存在を忘れていた。 今までの俺なら妖精族だとしても、こんな美少女を目の前にして、
last updateLast Updated : 2025-08-24
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第四十一話 変幻自在

 四十一話 変幻自在  休憩所はロロンが呪文を唱えると、一つの大きな部屋のように展開されていく。前は一部の空間を使用していたが、今では豪華な部屋を出してきた。 ベッドは勿論、ソファーもある。俺の対面には調理スペースも出来ていた。「この休憩所は対象者にしか見えない異空間のようなものだよ。今回は皆でおやすみする事が出来るようにアップデートされてるの〜」「おいおい、マジか」「マジマジなの〜」 褒められたいのか、アピールが凄い。そんなロロンを睨んでいるラウジャの視線も感じる。どうしたらいいんだ、この状況。魔物を狩りに行っているレイングが戻る事を祈りながらも、避ける事が出来ないでいる。 こういう所、お人よしって言われるよな。 ロロンには言いたい事が山ほどある。それでもこの状況を作ってくれたのはロロン本人だ。そこは感謝しなくてはいけない。「ありがとうな、ロロン」 簡潔に伝えると、満面の笑みで幸せオーラーを全開にしていく。褒められた事が悔しいのか、ラウジャは拗ねている。「ラウジャも、おかえり」 ロロンの機嫌を損なわないように、配慮をしていると、全てを狩り尽くしたレイングが空間へ入り込んでくる。「ここは結界の中か? 普通、対象者しか入れないはずだ」「あ。レイングおひさ〜。そだよ〜レイングも対象者としてインプットしているから、入れたのだ」 どうやらロロンが受け付けないのはラウジャに対してだけの様子。俺とレイングに対して友好的な態度を示している。蚊帳の外に投げられたラウジャは余計に落ち込んだ。「あそこにウジウジしてる奴がいるの〜」「……それ以上、煽るな」「ん?」 煽っている自覚が全くないロロンは、首を傾げながら、頭の上に沢山のハテナを出してくる。とりあえず、皆揃った事だし、休憩する事にした。 皆が好きなようにくつろいでいると、ロロンはニヤリと笑いながら、何かを企んでいるようだった。 ロロンは自分の力を小さく纏めると、体内に膨大
last updateLast Updated : 2025-08-25
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第四十二話 悪結晶

 四十二話 悪結晶  ギルバートに言われた事を思い出しながら、シナリオ発生の条件を整えていった。条件はロロンの部屋に入り、擬人化したロロンと過ごす事で、条件を達成出来る。 これは彼が仕組んだ、三人の関係性をより深くする為の刺激として、作られたシナリオだ。その事を知らない俺は、その背景が分からなかった。 【友好度を確認します】  ギルバートが直接、語りかけてくる。どうやらレイングとラウジャが対立しないように新たなシステムを作り出したらしい。ラウジャがロロンに対抗心を抱くように仕向けて、レイングに対しての共存度数を上げていくらしい。 その為、俺との過度な接触が増えていくようだ。ロロンは俺がシステムを把握した事を確認すると、あざとくウィンクをする。 この為に、ロロンを新しく作り出したのだろう。違う形で、皆に見えるように変化させた。「ハウくん、僕疲れちゃった、少し甘えてもいい?」「え……ああ」 こういうふうに言われると、受け止めた方がいいだろう。ロロンは俺に抱きつくと、二人に見せつけるように、演技を始めた。こんな単純なやり方が、通用するのかは未知数だ。「見られてるよ、ハウくん。特にラウジャに」 耳元で囁いてくる。こういう時に、俺の思考に語り掛ければいいのに。そう考えるが、レイングは把握出来てしまう事を思い出し、思考をストップする。「大丈夫だよ……ギルちゃんのお陰でレイングに伝わらないようにしてるから」「そうなのか」「うん。安心して」 このシナリオはどちらかと言うと、ミッションに近いものなのだろうか。それなのにシナリオ扱いになっていると言う事は、このシナリオが俺達の未来に間接的に関わってくるのかもしれない。 製作者は何を考えているのだろう。シナリオマスターとも呼ばれているが、どんな思考をしているのかは、本人しか見えない事実だった。 コソコソ話をしている俺達は、二人から見て、親密そうに見える。レイングはあまり気にしていない様子だが、ラウジャは違った。ふるふる震えていて
last updateLast Updated : 2025-08-26
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第七十三話 最後の足掻き

 七十三話 最後の足掻き  ホロウの世界で起こる事は現実へと繋がっていく。縛りが強くなればなる程、快楽として改竄されながら、肉体へと連動していく。 肉体から精神を切り離した体は、ただの抜け殻。身体的に呼吸をしていても、この殻にはレイトとしての人格は勿論、人間としての喜怒哀楽、全てを消滅させている。 プレイヤーとして冒険を楽しんでいたレイトは、自分の肉体の状態を知らずに、目の前の事に夢中になってしまった。 どのような状態で管理されているかも、放置されている肉体がどうやって生きているのかも。「この傷は永遠と残るかもしれない。でもね、君は本当の意味で完璧な存在へと作られていくんだ」 耳たぶの後ろに記された傷跡は、この体を管理していく重要な役割を設けている。「過去の研究が、現代の中で生きていく。君が初めての成功例だよ」 人間としての感情は必要ない。そこにあるものは形ないものだ。純粋な思いだけで存在する事が出来ない。 それもまた人の形なのだろう。  意思を感性を感情を人としての生きる手段を取り上げていったカガミは、自分の言葉だけに反応するようにプログラミングしていく。「……もう少しで」 理想が形になり、偽りが真実へと格上げされる。傷跡の中に埋め込まれた体を動かす精神体のチップを起動していく。 その瞬間レイトは、レイトではなくなるだろう。本当の意味で。「こんな事をしていいと思っているのか?」 身を隠していた俊介を確保出来たようだ。人間らしさを消していく過去の医療技術を、こんな形で使うなんてありえない。「人間は完璧じゃないといけない。半端な存在は消滅した方が幸せだよ」 彼は初めて対面したあの時を思い出しながら、隠していた本音を露わにしていく。「お前の兄だろう。どうしてレイトの精神と肉体を切り離したんだ。一度切り離してしまうと元に戻す事は不可能なんだぞ」「知ってるよ」 メモリアルホロウを彼に与
last updateLast Updated : 2025-08-26
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第四十三話 驚きの主食

 四十三話 驚きの主食  「あれ、何してるの?」 口調が元に戻ったラウジャは、付き物が取れたようにスッキリした表情をしている。本人は引き出された事に気づいていないようだ。 相変わらずロロンは黒い異物を口いっぱい頬張りながら、食事を楽しんでいる。妖精族ってこんなものを食べるのかと、引いてしまう自分がいた。 顔色が悪い俺に気づいたラウジャは首を傾げながら、見つめてくる。ロロンの事をどう誤魔化そうか考えていると、咄嗟の思いつきで言葉にしていく。「虫でも食べているんだろう、小さいハエとか……」 すまない、言い訳が思いつかない俺に出来る事はこれぐらいしかなかった。納得しないだろうなと思いながら、ラウジャを確認すると、妙に落ち着いている。「そうなんだ。もしかしてハウエルに抱きついていたのも、虫がいたから?」「え」「だってそうでしょ。今のロロンはハウエルに興味なしじゃん。それなら納得出来るし」 納得するな、納得。俺の体に虫が集っているように聞こえる。そう言われると、急に鳥肌が立ち、拒絶反応を示していく。 考えたくない事も妄想してしまうと、気分が悪くなってきた。体調を崩しかけている俺は、さっきの行動を否定しながら、ソファーへと逃げていった。 その話の続きは聞きたくないのに、ラウジャは興味深そうに俺の後を追ってくる。そして、根掘り葉掘り聞いてくるんだ。「妖精族って、虫食べるんだね。知らなかった」「……その話は」「僕の知らない事が沢山あるんだね。凄く勉強になったよ」 俺の言葉を遮りながら、自分の考えを語り尽くしてくる。知らなかった事を知識の一つとして吸収出来た事がよっぽど嬉しかったのだろう。話は夜中まで続いていった。 作られたご飯が目の前にあっても、喉を通ってはくれない。確実にさっきの話が原因だろう。虫が大の苦手の俺からしたら、吐きそうな話の内容だった。 元々、研究者の資質があるらしく、ラウジャは虫の生態まで話を広げていった。メモリアルホロウに生
last updateLast Updated : 2025-08-27
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第四十四話 隠れた異変

 四十四話 隠れた異変  画面が一瞬バグると、キーンと音が鳴り響いた。頭の奥底にまで到達すると、少しの気だるさを引き出していく。 この異変に気づいているのは俺とロロンだけ。俺達は顔を見合わせながら、何が起こったのかを確認しようとしていた。 視界に映る画面が砂嵐になったような……【シナリオ ロロンの杞憂クリアしました】  本当にクリアしたのか不思議に感じた。そりゃそうだろう。友好度を上げる為のイベントとロロンは言っていたが、タイトルは「ロロンの杞憂」だ。そこには何も杞憂要素がない。何かしらシナリオの裏に隠されているんじゃないかと、周囲を確認してみるが何の変化も見られない。 違和感と言えばさっきの砂嵐と頭が砕けるくらいの音だ。あれはアナウンスが出る直前に起こった。そこに何かヒントがあるんじゃないかと考えてみる。 ロロンの様子を確認してみると、憂鬱な表情をしている。何かを心配しているようだった。「ロロン、どうした?」「ん〜、ん? 何が〜?」 一瞬戸惑っているような素ぶりを見せると、我に返ったロロンは、何事もなかったようにいつもの口調に戻っていた。深刻そうに何かを考えているような気がしたのだが、それ以上踏み込むのは出来なかった。「何もないならいいんだ。もし何かあったらすぐに教えてくれ」 念には念を入れると、何度も確認するように頷いた。 この違和感は何なのだろう。ロロンは何かを隠している。そう感じてしまう自分がいたんだ。 俺がずっとロロンを見ている事に気づいているレイングは、静かに様子を見ている。彼の心情を察するように、ラウジャが肩を叩くと、同じ事を考えていたようで、二人は互いに頷き返した。 思考を巡らせていく俺の背中には二人の気配が紛れ込んでいる。その事に気づける余裕もない。 ガバッと二人に後ろから抱きしめられると、全ての思考がストップしていく。急な事で驚いたのもあるが、いつもなら冷静なレイングまで抱きついているのだ。後ろから驚かすように左右に分かれた二
last updateLast Updated : 2025-08-28
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第四十五話 頼れる男レイング

 四十五話 頼れる男レイング  辺りは暗くなると、夜が全てを包み込んでくる。部屋も夜の訪れを察知したのか、少し暗さを漂わせながら、沈んでいく。 心の中で引っかかりを覚えた俺は、三人と寝ながらぼんやりと天井を見ている。人は少しの変化に敏感に作られている。俺達の中で得体の知れないものが潜んでいるように、不穏さを抱えていた。「まだ起きてるんだね〜」 ロロンはソファーの方で休んでいるようだ。離れた所から思念で話かけてくる。「ああ。ロロンも起きてるのか」 俺は二人の寝顔を見つめながら、ロロンと会話を続けていく。彼から声をかけてくる事は珍しくないが、この時はいつもと違った。「レイングの事なんだけど、何かあった?」「いいや。何もないよ」 ロロンも違和感を感じているようだが、明確ではない。レイングしか知らない事なのだから、断言するのは早いと感じた。「どうした急に……」「なんか違和感を感じてね。それならいいんだけどね〜。ほら僕がいる時はレイングに心を覗かれないでしょ。だから聞いてみただけ」 ロロンがレイングの事を気にかけている。それは仲間としてなのだろうか。彼はあくまでメモリアルホロウの案内人のような立場だ。その彼が一人のキャラクターに気にかけるなんて、何かがあるに決まっている。 切り分けられているからこそ、余計にそう感じてしまう俺がいる。その言葉を口に出す事はないけど、ロロンには筒抜けだ。「ハウくん、何かあったら僕に報告してくれないかな? どんな些細な事でもいい」「いいけど。思念で語りかけていいのか?」「勿論〜」 何かを探っているようにも感じた。画面の砂嵐を思い出すとそれも伝えた方がいいのかもしれない。「そう言えば、画面が砂嵐になったな。まるでバグっているみたいに」「……砂嵐」 黙りこくってしまったロロンは、その後の発言を考えている。何をどう説明したらいいのかを厳選しているのだろう。重要な内容はなるべくプレイヤーに気づかれ
last updateLast Updated : 2025-08-29
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第四十六話 大陸都市ラミエル

 四十六話 大陸都市ラミエル  もう少しで砂漠を抜ける。長いようで早かった。レイングの力があったからここまで進んで来る事が出来た。感謝を示しながらレイングの頭を撫でると、少し頬を赤らめている。以前のようなあからさまな態度はしてこないが、昔の名残を残しているのは事実。 変わったように見えても、変化しない事もある。今はその些細な事が、嬉しくて、つい笑顔になってしまった。「……なんでそんなに嬉しそうなんだ」 仄かに赤い頬を隠すように、冷静に努めようとしている彼がいる。そこには何かを断ち切ろうとしている決意が見えた。「レイングはいつまでもレイングなんだね」「……どういう事だ?」 何を言いたいのか自分でも分からない。それでもこの気持ちを抑え込める訳がなかったんだ。 自分の心の声が届かない今、こうやって言葉に想いを乗せていく事しか出来ない俺がいる。 ロロンはそんな俺達を見つめている。このまま自分がいれば、レイングは心の声を思考を可視化する事が出来なくなってしまう。 それは果たして彼にとって本当にいい事なのだろうかと疑問を浮かばせながら、ふゆふゆ浮いている。「あっ! 次の都市が見えてきたよ」 空気をぶち壊していくのはラウジャだった。目の前に目的地があるのに、気づく事も出来ずにいた俺達は、彼の言葉に導かれるように、視線を奥側に揺らしていく。 湖に囲まれた大陸都市ラミエル。この都市は湖が都市を守るように建設されている。昔の名残を残して、この形になったらしい。元々海だった場所が湖に変形し、都市の一部となり存在している。 大陸都市ラミエルには、湖のに住む龍神の逸話が残されている。全てが海に制された街は龍神の加護を貰い受けると、地盤が上がってきて、街の姿へと変化させたと言われている。それが何億年も続き、今では大陸都市とまで言われるようになった。「龍神伝説か」「そう。僕はよく分からないけど……メリエット様が言ってたよ」 別れたのが何年も前の事のように思えた。メリ
last updateLast Updated : 2025-08-30
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第四十七話 トラブル

 四十七話 トラブル  迷路のように入り組んでいる道を歩いていると、まるで迷い子のように思えてしまう。この都市を知らない人達は、一発で迷うだろう。それでも俺達が道を進めるのは、全ての地図を把握しているからこそ、出来る技だ。「……と言っても、地図が内蔵されているからなんだけどな」 つい心の声を言葉として発してしまう。気づかれたかと二人の顔を見たが、何事にもない様子で街並みを楽しんでいる姿があった。 どうやらここは市場のようだ。見た事のない果物や野菜、そして装飾品や武器、色々な店が並んでいる。「何この果物、美味しそう」 食べ物の事になると、目を輝かせてまるで子供のような姿に、笑いが込み上がってくる。 ラウジャにロロンを付人として就かせて、俺達は武器を見る事にした。露店なのだが、品質は申し分ない。ここまで栄えているのも珍しいかもしれない。「この短剣、使いやすそう」「どれ、見せてみろ」 派手さはないが、しっくりと手に馴染んでいく短剣をヒョイと奪うと、レイングは刃先などを確認するように、観察していく。武器に詳しいレイングに任せておけばいい。俺の好みも組み込んで欲しい。「使いやすそうだな。戦闘に慣れていないハウエルでも使えると思うぞ」「そ、そうかな?」 直感で手にした短剣をここまで褒められるなんて正直、思っていなかった。見る目がないとか色々、言われるんじゃないかと身を構えていた自分が恥ずかしい。「じゃあ、これにしようかな」 店主に購入すると伝えると、緑色の大きな石を持ち出してきた。この都市は支払いが少し特殊だ。自分の声を石に向けて出す事で、魔力を取り込む事が出来る。金銭的な支払いがない代わりに、言葉で対価を払っていくようだ。「短剣イレウスに命ずる。私の声を聞き、対価とする魔力を注ぎたまえ」 なんとなくだが、自分で考えてみると、まるで厨二病だ。普段なら、こんな事絶対に言わないだろう。「25000エリス丁度ね。まいど」
last updateLast Updated : 2025-08-31
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第四十八話 反論は拒否します

 四十八話 反論は拒否します  二人は自分の起こした事を後悔するように震えている。見るからにキレている俺に対して恐怖を抱いているようだった。レイングに任せれば血祭りになる可能性があった。だからこそ、ここは俺が悪役に徹する必要がある。 部屋は一部屋しか取れていない。レイングには席を外してもらう事にした。何の疑問も持たずに、彼は一人食事に出掛けていく。 レイングの気配が消えた事を確認すると、手筈通りに計画を進めていく。ラウジャにロロンを拘束するように命令すると、簡単に言う事を聞いてくれた。 今までロロンに対しての鬱憤が溜まっている俺は魔法で縛られたロロンに市場で買ったタランチュラーの糸を体に巻き付けていく。魔法で拘束でもしないと簡単には捉えるが出来ないと分かっているから、念の為にラウジャを使う事にした。 メモリアルホロウのシステムに通じているロロンがいつ自由になるかは不透明だ。言葉でこの世界を彩る事が出来ると言うのなら、言葉の力を糸に込めることで、強化出来るはずだと考えたのだ。「ハウくん、こわ〜い」「少し……黙ろうか?」 こんな状況になっても、なお煽ってくるロロンの神経を疑ってしまう。あんな周囲に対して迷惑をかけておいて、何事もなかったように振る舞うなんてあり得ない。 ロロンがメモリアルホロウにとって重要な人物だとしてもやりすぎだ。「……はい」 やっと自分が置かれている状況を理解し始めたようだ。あのまま素直に謝ればいいものを、彼らの口から出るのは言い訳ばかり。元からそういうのが大嫌いな俺は、いつも以上にピリつき始めた。 市場で購入した赤い魔石「ガリア」をロロンをくくりつけている糸の先端と繋ぐと、微量だが、電流が流れ始める。自分の魔力で調整が出来るようになっている。 どうやら俺の場合は通常のプレイヤーよりも魔力量が多いらしい。掘り出し物があると押し付けられた商品だが、お仕置きに使うにはもってこいだ。 思考で魔力を調整しながら、ロロンの顔色を確認した。いつもなら生意気な事を言ってばかりの彼が、何故だがモ
last updateLast Updated : 2025-09-01
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