――Yロッジに向かう事になったのは、その数日後の事である。 そこは有名な心霊スポットなので、分かる人は分かると思う。F県I町にある。 地下一階から四階までがあるペンションだ。 三階に子供の霊が出るだとか、ボイラー室の霊圧が凄いだとか、そんな噂に事欠かない肝試しの名所でもある。「なんか良いネタあった?」 高階さんに呼び出されたのは、四年生の春の事だった。 良いネタ……実際に――この時になってみると、俺のもとには沢山のホラー話が集まっていた。ただ、自分が時島達と経験した事を書くのは、何となく躊躇われる。俺は俯いてから、『本当にあった怖い話。』として書き溜めているファイルの事を、意識して忘れる決意をした。それから俺は顔を上げて、苦笑を返す。するとパシンと高階さんが扇子を閉じた。「無いんやったらさ、ちょっと頼まれてくれへん?」「何をですか?」「心霊スポット行きたいんや」「ああ、良いですよ」 もう大学の出席しなければならない講義はゼミしか残っていないから、週に一度しか大学には行く必要が無い。要するに俺は暇だった。同時に、ネタが出せないという負い目もあった。「俺も行くからさ」 それを聞いて考える。高階さんと二人だけで行くのは、非常に不安である。 高階さんには、霊感みたいなものは、いかにも無さそうだ。信じてさえいないだろう。 しかし俺は、本当に幽霊がいた場合には、それでは対処出来ないと、この頃には考えるようになっていたのだ。黒い人影の事件で、身近に恐怖を感じ取ったというのも大きい。「あの……大学の友人も、二人連れて行っても良いですか?」「ああ、ええよ」 そんなこんなで、俺は時島と紫野に頼み込む事にした。実は俺は、あまり人に物を頼むのが得意ではない。なので、酔いの勢いで言ってしまおうと、二人を居酒屋に呼び出した。 席に着くと何故なのか、紫野と時島は、長い間ずっと視線を合わせていた。見つめ合っているように、見えなくもない。もしや両思い状態となっていて、俺は邪魔なのだろうか? そう一瞬だけ考えた。だがすぐに、何となく二人は、険悪というか……お互いに気まずそうというか、よそよそしいというか――ネガティブな意味合いで視線を交わしているらしいと気づいた。二人の間には、見えない溝がある気がした。もしかして紫野はフラれてしまったのだろうか? そうであるな
Last Updated : 2025-07-22 Read more