なおこのハットウ様、同一のものかどうかは知らないが、俺は、実家に引っ越した後、蛇口から温泉が出てくるH村と全く関係が無い場所で、再びこの名を耳にする事となった。同じ県ではあるが。 その日俺は、地元の同級生と酒を飲んでいた。 寺の住職で、緋堂泰雅と言う友人だ。俺の実家は僻地なので、一軒しか寺はないから、皆、泰雅の寺の檀家だ。ちなみに俺の父は結婚が遅く、祖父もまた六十で父を儲けた。なので、俺の祖父は昔の時代の人なのだが――この土地で最後の土葬となったのは、俺の祖父だったりする。その時は神道式でやったらしく、父が袴を着ている写真が残っている。それ以降は皆、葬儀の際は、泰雅の寺にお世話になっている。 俺は小学生の頃、泰雅の父の住職さんに『幽霊っているんですか?』と聞いて『いないよ』と言う答えをもらった。泰雅も別に霊感がある等という話は聞いた事が無い。寺の息子だし、あるのかもしれないと感じた事はあるが。「最近変わった事でも、何かあったか?」 地元に戻ってすぐ、挨拶に出かけて、雑談交じりに俺は聞いた。近況を尋ねたつもりだった。すると寺を継ぐために、少し前にこの土地へと戻ってきたいう泰雅が、俺にお茶を出してから頬杖をついた。「ハットウ様が、『こっち』にまで出かかって焦った」「え?」「いや、なんでもない。ほら、俺、郷土料理苦手だから」「嘘だろ。聞いた事がある。ちょっと待って。ハットウ様って、大きな丸くて赤いやつだろ?」「何で知ってんの? あー、話すのも御法度らしいから――……悪いちょっと、それで忙しくて頭ん中いっぱいだったんだ。知ってるんならこれ以上触れるなよ」 結局。 それが何なのかは、今でも俺には分からない。だが、ハットウ様はいるのだろう。
Last Updated : 2025-07-22 Read more