――これは、俺がライターのバイトで、本格的にオカルトネタを収集しようと決意した頃の話だ。意識して時島に声をかけた時の事である。「時島」 俺は、学食の券売機前にいる時島を見つけ、それとなく声をかけた。 時島昴は、俺の大学では、ちょっと有名な『視える奴』だった。 すると、かけそばと、トッピングの唐揚げの食券を持っていた時島が、俺に対して顔を向けた。それから正面に立つと、ポンと俺の肩を叩いた。「左鳥、相変わらず、『つかれてるな』」 この時の俺はまだ――それが、疲労を指すのではなく、『取り憑かれている』という意味合いだとは、知る由もなかった。 ――ああ、懐かしい記憶である。 俺は、パソコンに残していた日記を見て、何気ないこの日の時島を、ふと思い出した。 怖い話は、日常に満ち溢れている。 その当時――俺は、大学院進学を決意し、その為の予備校に通っていた。一人で暮らしていた家は、六畳一間で、窓には雨戸が付いていた記憶がある。しかしそれを閉める事は滅多に無く、黄色い陽光が、英語を勉強する俺を、強く照らしていたのだったか。既に記憶の中の風景は、曖昧だ。 勉強する机は灰色で、昔からずっと、この机を用いて勉強してきた。幸い、良い結果をもたらしてくれた代物だ。使い続けているのは、一種の願掛けなのかもしれない。現在もこの机は、俺と共に、実家にある。 英語が苦手だった俺は、長文読解を重点的に勉強していた。だから今でも、英語だけは……大嫌いである。 結論から言うと俺は、大学院には進学しなかった。 予備校にまで行きながら、最終的には残りの数少ない大学生活を、就職活動にあてる事にしたのである。そうと決めてしまえば、後は気が楽だった。就職を決意した途端、運悪く教科書にも載るほどの不況が到来したが、まだ俺の年度は募集があった。採用予定が狂ったのは、その翌年からが多かったと現在では知っている。 それまでの俺は、小説家になりたかった。 年に一作から四作程度、出版社の小説賞に投稿しては、落選を繰り返していた。運が良いのか悪いのか、大学三年の春に、マイナーな小説賞を貰い、その時に、『これで一区切りにしよう』と決意したものである。俺は、諦める事に決めたのだ。 その小さな賞から作家への道が続く訳でも無く、結局俺の中では、『英語』と同じように、『小説を
Huling Na-update : 2025-07-21 Magbasa pa