本当にあった怖い話。

本当にあった怖い話。

last updateHuling Na-update : 2025-07-22
By:  猫宮乾In-update ngayon lang
Language: Japanese
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「左鳥、今日もつかれてるな」大学時代、そんな風に言われ、肩を叩かれていた日常があった。平成(2000年代初頭)の何気ない大学時代の日常を振り返る主人公の左鳥の物語。ごく普通の何気ない大学生活を送っていた左鳥は、視える人として有名な、大学の同級生である時島とルームシェアをする事になる。ライターのバイトをしていた為、怖い話のネタを集める事になり、友人の紫野から怖い話を聞いたり、時島と共に、実際に怪異に巻き込まれたりしていく。――現在では、それらも良い思い出だと考えながら、地元の友人である寺の泰雅と酒を飲む。過去の大学生活の、ほのぼのホラーと、現在の軸が時に交錯するお話です。

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Kabanata 1

【0】懐かしい契機

 ――これは、俺がライターのバイトで、本格的にオカルトネタを収集しようと決意した頃の話だ。意識して時島に声をかけた時の事である。

「時島」

 俺は、学食の券売機前にいる時島を見つけ、それとなく声をかけた。

 時島昴は、俺の大学では、ちょっと有名な『視える奴』だった。

 すると、かけそばと、トッピングの唐揚げの食券を持っていた時島が、俺に対して顔を向けた。それから正面に立つと、ポンと俺の肩を叩いた。

「左鳥、相変わらず、『つかれてるな』」

 この時の俺はまだ――それが、疲労を指すのではなく、『取り憑かれている』という意味合いだとは、知る由もなかった。

 ――ああ、懐かしい記憶である。

 俺は、パソコンに残していた日記を見て、何気ないこの日の時島を、ふと思い出した。

 怖い話は、日常に満ち溢れている。

 

 その当時――俺は、大学院進学を決意し、その為の予備校に通っていた。一人で暮らしていた家は、六畳一間で、窓には雨戸が付いていた記憶がある。しかしそれを閉める事は滅多に無く、黄色い陽光が、英語を勉強する俺を、強く照らしていたのだったか。既に記憶の中の風景は、曖昧だ。

 

 勉強する机は灰色で、昔からずっと、この机を用いて勉強してきた。幸い、良い結果をもたらしてくれた代物だ。使い続けているのは、一種の願掛けなのかもしれない。現在もこの机は、俺と共に、実家にある。

 

 英語が苦手だった俺は、長文読解を重点的に勉強していた。だから今でも、英語だけは……大嫌いである。

 

 結論から言うと俺は、大学院には進学しなかった。

 予備校にまで行きながら、最終的には残りの数少ない大学生活を、就職活動にあてる事にしたのである。そうと決めてしまえば、後は気が楽だった。就職を決意した途端、運悪く教科書にも載るほどの不況が到来したが、まだ俺の年度は募集があった。採用予定が狂ったのは、その翌年からが多かったと現在では知っている。

 

 それまでの俺は、小説家になりたかった。

 

 年に一作から四作程度、出版社の小説賞に投稿しては、落選を繰り返していた。運が良いのか悪いのか、大学三年の春に、マイナーな小説賞を貰い、その時に、『これで一区切りにしよう』と決意したものである。俺は、諦める事に決めたのだ。

 

 その小さな賞から作家への道が続く訳でも無く、結局俺の中では、『英語』と同じように、『小説を書く事』も、この時に止めた。思えば中学二年生から投稿していたのだから、よく続いた方だとは思う。当時は、Kindleで出版をするといった手法は、俺の頭の中にはまるで無かった。時代は、いつの間にか、様変わりした。

 

 俺は元々、それなりにパソコン作業が好きだった。中学卒業後から大学入学直後までは、趣味でプログラムの勉強をしていた事もある。その為、SEを志望しようと決意し、IT関連に絞って就職活動をした。

 

 とある事情で、俺は高校を中退している。高等学校卒業程度認定試験を経て大学に入学した。就職活動中は、必ずその部分を指摘され、何度も嫌気が差したものである。酔っぱらって帰路につけば、男ながらに強姦被害に遭ったりもした。嫌な思い出だ。その内に、採用してくれる企業が無事に見つかり、お祈りの手紙と向き合う日々が幕を下ろした。

 

 さて、そんな『過去』において――卒業までの残り少ない大学生活を、俺はライターのバイトをしながら過ごす事に決めた。僅かな報酬を手に入れつつ、残りのモラトリアムを、ダラダラしながら暮らそうと考えたのだ。

 

 するとある時、この日はゲームのシナリオを書いていた俺に、専業のライターであるバトの先輩が、飲みに行こうと声をかけてきた。高階さんと言う名の、三十歳手前の青年で、色は浅黒く、手には何故なのかいつも薄緑色の扇子を持っていた。

 

 なお、後に俺が入社してすぐに辞めた、一次受けのIT企業の直属の上司は、青い扇子を持っていた。あの頃は、俺が知らないだけで、扇子が流行っていたのかもしれない。少なくとも、俺の大学では見かけなかったから、社会人特有の現象だった可能性もある。

 

「なぁ、霧生君さぁ、俺、夏コミの原稿で忙しゅうなるから、代わりにやってくれん?」

「何をですか?」

「相生出版の書籍の仕事」

 

 霧生左鳥――これが、俺の名前だ。

 

 それまで俺は、書籍の仕事をした事が無かった。勿論紙に印刷して推敲したり、企画を紙に起こしたものから話し合ったりした事はあったが、書籍に掲載される記事を書いた経験は無かったのだ。主にWebコンテンツやゲーム、配布用のタウン誌のライターをしていたのである。なので高階さんの話を聞き、純粋に浮かれた。

 

 何せ書籍だ。

 

 文筆業に就きたかった過去を持つ身としては、非常に胸が高鳴ったし、大学を卒業するまでの間ならば、もう少しだけ夢を見たって良いのでは無いかと思っていた。もしかしたら、本が出せるかもしれないのだから。そう考えた俺は、内容を聞く前に、二つ返事で引き受けた。

 

「助かるわ。これ、概要。端的に言うとホラーや」

「ホラーですか」

「そ。ここんとこ、毎年来とる案件やし、先に繋がる作業やから、やっといて損は無い。なぁんて、押しつける言い訳に聞こえるか」

「いえ」

「あと、たまってまとまったら多分、後々、夏にうっすい紙で本にするっちゅう話やったから、コンビニに並ぶ。今回の記事の方は、もうプロットを貰っとるけど、今後はこっちからも企画を出してくれって言われとるから、なんか怖い話があったら――ま、ネタを集めといてや」

 

 今でも、この日の会話だけは、鮮明に覚えている。

 

 なお俺がこの時に代理で原稿を書いたのは、『H市の小学校のトイレに出る明太子』と『八月の星占い』だった。書籍に収録される可能性が高いのは、前者のホラー記事で、後者は高階さんに頼み込まれて代筆した記事だ。

 

 俺は都内の出身では無い。なのでH市の小学校のトイレ事情など知らないし、占い師でもない。

 

 ただトイレの方は、元ネタが想像出来たので、打つ際には羞恥が募った。

 

 占いの方は、わざわざ当たると評判の、占いが出来る大学の知人――遠藤梓のもとまで足を運んだ。提携先の占い師から届いた文章の意味が分からず、ある種の翻訳を頼んだのだ。ルーラーとは支配星の事だと教えてもらったが、支配星の意味合いも、俺にはあまり良く分からなかった記憶がある。

 

 その後俺は、原文を、可愛らしい女性口調で書き直し記事にして提出した。

 何よりも俺の心に残っていたのは、『本になる』という高階さんの言葉だった。

 

 別に企画倒れでも良かったし、実際にそうなる時、俺個人への誘いは無いかもしれない。だがそう理性で考えつつも、俺はこの頃には、怖い話を収集しようと決意していた。

 

 以後俺は、怖い話と――……時島昴や紫野眞臣と、大学二年時まで以上に深く関わるようになり、結果としてそれまでとは異なる大学生活が、幕を開ける事となったのである。日常も、いつの間にか、様変わりする。それは、日常の積み重ねが、時代となるからなのかもしれない。

 

 ――懐かしい記憶だ。

 

 思わず両頬を持ち上げながら、現在俺は実家で、灰色の机の上に置いたパソコンに、この文章を打ち込んでいる。

 

 

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【0】懐かしい契機
 ――これは、俺がライターのバイトで、本格的にオカルトネタを収集しようと決意した頃の話だ。意識して時島に声をかけた時の事である。「時島」 俺は、学食の券売機前にいる時島を見つけ、それとなく声をかけた。  時島昴は、俺の大学では、ちょっと有名な『視える奴』だった。 すると、かけそばと、トッピングの唐揚げの食券を持っていた時島が、俺に対して顔を向けた。それから正面に立つと、ポンと俺の肩を叩いた。「左鳥、相変わらず、『つかれてるな』」 この時の俺はまだ――それが、疲労を指すのではなく、『取り憑かれている』という意味合いだとは、知る由もなかった。 ――ああ、懐かしい記憶である。 俺は、パソコンに残していた日記を見て、何気ないこの日の時島を、ふと思い出した。  怖い話は、日常に満ち溢れている。  その当時――俺は、大学院進学を決意し、その為の予備校に通っていた。一人で暮らしていた家は、六畳一間で、窓には雨戸が付いていた記憶がある。しかしそれを閉める事は滅多に無く、黄色い陽光が、英語を勉強する俺を、強く照らしていたのだったか。既に記憶の中の風景は、曖昧だ。  勉強する机は灰色で、昔からずっと、この机を用いて勉強してきた。幸い、良い結果をもたらしてくれた代物だ。使い続けているのは、一種の願掛けなのかもしれない。現在もこの机は、俺と共に、実家にある。  英語が苦手だった俺は、長文読解を重点的に勉強していた。だから今でも、英語だけは……大嫌いである。  結論から言うと俺は、大学院には進学しなかった。  予備校にまで行きながら、最終的には残りの数少ない大学生活を、就職活動にあてる事にしたのである。そうと決めてしまえば、後は気が楽だった。就職を決意した途端、運悪く教科書にも載るほどの不況が到来したが、まだ俺の年度は募集があった。採用予定が狂ったのは、その翌年からが多かったと現在では知っている。  それまでの俺は、小説家になりたかった。  年に一作から四作程度、出版社の小説賞に投稿しては、落選を繰り返していた。運が良いのか悪いのか、大学三年の春に、マイナーな小説賞を貰い、その時に、『これで一区切りにしよう』と決意したものである。俺は、諦める事に決めたのだ。  その小さな賞から作家への道が続く訳でも無く、結局俺の中では、『英語』と同じように、『小説を
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【1】くねくね
 ゴールデンウィークが終わったのは、昨日の事である。連休をわざと外して、印刷会社に勤めている弟が、帰省するのは本日だ。俺は顔を合わせる前に、ひと仕事を終える事にした。 現在の俺は、在宅でライターをしている。結局、書く事からは、離れられなかったのだ。ただ少し休みたい。この仕事を終えたら、暫くの間は、日課となっている『記録』を書く事に専念したい。 ちなみに弟と俺は、五歳ほど年齢が離れている。年の差のせいか、あるいは――お互い小さい頃に、別々の場所に預けられて暮らし、寂しい思いをしていたせいなのか、昔から非常に仲が良い。少なくとも、俺はそう感じている。 俺達は顔を合わせると、酒を飲みながら、必ずと言って良いほど思い出話と――オカルト話に花を咲かせている。俺が学生時代に引き受けた、怖い話のネタ探しが契機だった。「怖い話を知らないか?」 俺が弟に、最初にそう尋ねたのは、一体いつの事だったのか。 話してみると案外、俺と弟の周囲には、怖い話が溢れていた。二人で思い出を掘り返してみると、不可思議な出来事が思いの外、多かったのだ。 例えば俺と弟は、二度ほど『くねくね』らしき存在と遭遇している。 ――一度目は、俺が小学三年生の年だった。 この頃は、毎年夏には、母方の実家がある東北地方の小さな村に、弟と共に遊びに出かけていたものである。 この村は、O群の――仮に、椚原村としよう。 山の中にある集落だ。他の集落とは独立した場所にある。別段椚原村が特殊という訳では無くて、町内に独立した集落がいくつもあるという作りは、この界隈では多い。市町村合併の名残だ。その為、公的な町の括りとは別に、『村』と付けられて呼ばれていた。 どんな村かと言えば、それこそ田舎とでも言うしかない……代々の区長様やら庄屋やらその他数人の名家が存在し、古い因習もあり、今でもなお呪術師の末裔が存在している、そのような土地だ。ムシオクリも近年まで存在していた。 ホラー小説を読んでいて、古い村と聞くと、どうしても俺は、あの椚原を連想してしまう。 母方の実家には蔵がある。また居間には、天井の半分を占拠する神棚が存在する。神道の家系だ。寺の住職になっている人間も、家系図を見ると多い。年末年始には、土着した神道の行事をひっそりと行っている。まぁ――ありがちな、嘗ての地主の成れの果てである。長女である母が家
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【2】本当にあった人間の恐怖。~ビジネスホテルの怪~
 例えば、ありがちなネタとしては、小学生時代の修学旅行で、M市に行った際の怖い思い出がある。宿泊していた大部屋で俺達は、迷うことなく、発見した、天井裏へ続く板を外した。板には、ごく当たり前のように、お札が二枚貼ってあった。 同級生の大半が悲鳴を上げる中、板を外した一人が屋根裏に上がっていく。 俺はと言えば……彼が登って行った四角い穴の周囲に、びっしりと髪の毛が張り付いている事の方に気を取られていた。 穴を囲むように、日本人形の髪を毟り取ったみたいな毛が、無数にセロハンテープで貼り付けられていたのである。 当時の俺は、完全に、『これも魔除けの品』なのだと思っていた。 しかし大学生になってから出かけた同窓会でこの話になった時、誰もが、『髪の毛なんて見なかった』と言ったのだ。じゃあ俺が見た髪の毛は何だったのだろうか。 他にも、その旅行では、不可思議な出来事が頻繁に起こった。博物館の展示の前で写真を撮ったのだが、撮影後に見ると、ベタベタとケースのガラスに手形がついていた。また船に乗った時の写真には、人数よりも明らかに多い腕が、入り込んでいたのだ。 それらもまた、懐かしい思い出である。 ――他には何があるだろうか。 そうだこれは、大学一年の時だ。 俺は高等学校卒業程度認定試験のための予備校で一緒だった、友人の大輝君と久方ぶりに遊ぶ約束をしていた。 F県K市の駅前のビジネスホテルに予約を取り、大輝君と食事をした後、カラオケに行ったりして、思い出話に花を咲かせていた。 大輝君は家族が迎えに来たので、深夜に解散した。俺は夜中の三時頃に、ホテルへと戻った。朝になったら新幹線で、大学がある東京へと帰る予定だった。 それからシャワーを浴びて横になったのだが、やけに隣の部屋が煩い。朝までずーっと四・五人の大学生が大騒ぎをしていたのだ。どの酒が「美味い」だの、「このポテチの新商品ってありえねぇよ」だの、安いビジネスホテルだけあって、薄い壁越しに、話し声がひっきりなしに聞こえてくる。一時間睡眠になったのは、確実に隣室の騒音が原因だ。話し声は、朝には止んだ。 支度を調えて俺が部屋お外へ出ると、丁度隣の部屋の前に掃除のおばさんがいた。「こちらは、本当は、一人部屋なんですから……他の人を呼ばないでくれませんか? あんまり騒がれると困るんだよねぇ」「いえ、俺は一人です
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【3】本当にあった人間の恐怖。~狐~
 さて――当時の俺の家は、フットサルサークルの溜まり場と化していたので、帰省する際には必ず友人に合い鍵を貸していた。俺は今回のホテルでの謎体験を、サークルの友人である碧依君に早速ネタとして話そうと思い、少し得意げな気持ちで新幹線に乗っていたものである。合い鍵を預けていた相手も碧依君だ。 この頃の俺は、H市の某私鉄駅のそばのウィークリーマンションに住んでいた。俺の部屋は三階で、一つ下の階にも、同じサークルの同級生が偶然にも住んでいた。それもあって、俺とそいつの家が溜まり場になっていたのだ。二階の住人は、七原と言う名で、自称『視える』奴だった。 こうして一人暮らしをしている家に戻った時――俺の目の前で、俺の部屋の玄関の扉が閉まった。丁度、誰かが中に入っていった所に見えた。 僅かに開いていた扉が、俺の目の前で閉まったのだ。 きっとコンビニにでも行ってきた碧依君が、中に入った所なのだろう。そう思い、俺はインターフォンを押した。しかし誰も出てこない。出迎えくらいして欲しかったと思いながら、ノブを押してみたが――開かない。嫌がらせかと思いながら、俺は鞄に触れた。自分の所持している方の鍵を出すためだ。後ろから声がかかったのは、丁度鍵を取り出した時の事である。「あれ、お帰り。早かったね」「あー……え、あれ? 今、中にいるの誰?」 下の階の溜まり場から上ってきたらしい碧依君に言うと、不意に首を傾げられた。「中って? 俺が寝る時しか借りてないから、今は誰もいないと思うけど」 からかうなよ、と、俺は心の中で笑いながら、取り出した鍵を用いて中へと入った。 碧依君には玄関で荷物を見ていてもらう事にした。俺はといえば、単身で中に入り、誰が何処にいるのか確認するべく、入り口から開始して、トイレと風呂、居間、ロフトの上、と、隠れられないように見て回った……が、誰もいない。「……碧依君、本当に誰もいない?」「え? うん」 変な事もあるものだなと思いながらも、俺は目の錯覚だったと考え直した。 さてこの碧依君というのが、また『憑かれやすい』上に、時折『視える』のだと言う。 俺が大学一・二年と日参していたフットサルサークル――『デザイア』は、非常に微妙な名前であるが、小規模ながらも活気のあるサークルだった。 右京の代には、サークル文化は廃れていたらしいが、俺の時代は、サー
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【4】本当にあった人間の恐怖。~肝試し~
 さて、順番が回ってきたので、七原と碧依君が先に神社に行った。 ――帰ってきた時、碧依君は号泣しており、七原は真顔になっていた。「視えた、いた、うあ。七原が壺に貼ってあったお札を破ったんだよ!」 俺に抱きつき、碧依君が頽れて、泣き出した。七原は神妙な顔で、腕を組んでいる。 二人は俺を担ぐ気だと判断した。俺はこの時、先日、俺の部屋の扉が勝手に閉まった事件も、この二人の仕業だと確信していた。窓を乗り越えたら、下の階に降りられると気づいたからだ。見間違えで無かった場合、他に説明がつかない。非常に危険な行為だし、理性的にはありえないとも考えるのだが、俺は確かに見たのだ……。 けれどひとまず、「大丈夫だから」と告げた。 取り敢えず……次が俺とセージの番だったので、俺は、「様子を見てくる」と伝えてから、境内へと向かった。セージは終始、俺の手を握って震えていた。本当に恐がりだ。 行ってみると、戸が半開きで、確かに壺が見え……床には、ポツンとお札が落ちていた。この光景を目にして、あの二人は話を盛ったんだろうな。そう考えつつ、一応手を合わせてから、セージと二人で俺は帰った。 すると碧依君は、まだ泣いていた。先輩達が碧依君を連れて、車に戻ろうとしている。 七原はそれを見守りながら、石段の上でニヤニヤしつつ俺達を待っていた。「何も無かったぞ。冗談止めろって、七原。そろそろ痛い」「だって碧依がさぁ」 なんてやりとりをしてから、七原が石段を下り始めた。 俺とセージは、七原の背を、何とはなしに見ていた。 それほど長い石段では無かったが、手を伸ばしたからと言って、一番下まで届くような距離ではない。 すると下から三段目で、七原が体勢を崩し、飛び降りるようにして地面に着地した。「なんだよ、押すなって!」 そう言って笑いながら振り返った七原。唖然としたセージ。意味の分からない俺。「……え?」 七原の笑顔が引きつった。「押せるはずが無いだろう……?」 セージが呆然としたように言った。その瞬間、七原が全力疾走を始めた。セージも俺を残して走り出した。何が起きているのか分からなかった俺は、ゆっくりと下へと降りた。 結局その日の話をまとめると、こうなる。 七原は、やっぱり何も視えなかったらしい。それは別として、石段の所で誰かに背中を押されたと言うのだ。下から三段目
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【5】本当にあった人間の恐怖。~ストーカー~
 さて……まずは一つ目から書こう。碧依君から教えてもらった話だ。 当時碧依君は、T市S駅から暫く行った場所に住んでいた。川のそばから引っ越した直後だ。映画の舞台と言えば何処なのか分かってもらえると思う。実際に俺も、二度ほどホームに猫がいる所を見た事がある。見た時は一人だったから証明は出来ないが。 その時、地下にカラオケがある某雑居ビルの創作居酒屋で、碧依君はバイトをしていた。一度来てくれと誘われて出かけた時に、この話を聞いた。 このバイト先には、蟻山さんという、隣の大学の二つ上の先輩がいるらしかった。俺と碧依君の大学は、大学がいくつか集まっている場所にあるのだ。モノレールの駅があると言ってしまえば特定は容易いだろう。俺達の大学は、明京大学という。 さてその蟻山さん。 偶然にも、引っ越した後の碧依君と、同じアパートだった。その為、一緒に帰りながら聞いた話らしい。何でも蟻山さんは、大学二年の時からカノジョと同棲しているそうで、碧依君が一年でバイトに入った時には、三年生だった。事件があったのは、蟻山さんが大学一年の冬だという。カノジョの三波さんも、蟻山さんと同じ大学の学生で、バイト先も同じだったらしい。付き合い始めた当初の、同棲前の事件だという。その頃は――早くバイトからあがった三波さんが、蟻山さんの部屋に合い鍵で入り、彼の帰宅を待っている事が多かったそうだ。 ――その日三波さんは、バイトの他にレポート疲れもあって、蟻山さんの部屋に入ってからすぐ、眠ってしまった。すると、インターホンが鳴った。十二時過ぎの事だったそうである。瞬きをしながらデジタル時計を一瞥し、そのまま三波さんは再び寝入ってしまったそうだ。「今日は、帰ってくるのが早いんだなぁ」と、思ったそうだ。 一方の蟻山さんはと言えば、午前一時過ぎに帰宅して、鍵が開いている事に眉を顰めた。「おい、起きろよ」「え、あ、うん……今、何時?」「一時過ぎ。鍵もかけないで何やってんだよ、危ねぇだろ」「ごめん、バイトからすぐ帰ってくると思ったから……鍵かけなかったんだよ。だけど、一回帰ってきたよね?」「は?」 そんなやり取りをしていた時、不意にインターホンが鳴った。二人で顔を見合わせていたが、たった一度鳴ったっきり、特にその後、何も起きない。「誰だ?」 鍵を開けっ放しで寝ていた三波さんが心配だった事も
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【6】本当にあった人間の恐怖。~タクシー~
 さて、次はその、電話の話を挟もう。 これは、俺と碧依君が大学二年生の時の話だ。俺と碧依君は、二年時からの実験の必修クラスが別だった。翌週に碧依君のクラスでやる実験を、一週間前に俺のクラスがやる形になっていた。だから実験時期が異なるものの同じ必修のレポートを、一緒にファミレスで書いていたのだが、碧依君が呻きだした。「無理、何これ、分かんない!」「どれ?」「だからこれ。どうやってグラフ作るの?」「それはエクセルのデータ分析のマークを……」「何なのこの相関関係って……!」 仕方が無いので俺は、グラフ作成を手伝った。そして鞄に入れっぱなしだった、先週分の資料のコピーも貸した。参考にと思って、自分が書いた前回のレポートも見せた。 ――碧依君はそれをパクった。何という事だろうか。 俺は知らなかったが、後で告白された。告白されたのは、碧依君が心理学科準備室に呼び出された日だ。碧依君は俺に、「これからすぐ左鳥に、日々川教授から電話が行くかもしれない」と泣きながら連絡をしてきた。 そう言えば入学時のパンフレットに、『レポートの盗作が行われた場合、盗作した方もされた方も、単位取り消し』と書いてあったな……うああああ、と、俺は内心で悶えた。俺は決して綺麗に生きてきた人間ではないので(レポートの代筆経験は多数だ)、いかようにして逃れるかしか考えてはいなかった。 電話はすぐにあった。『もしもし、日々川と言いますが』「――はい、霧生です」『霧生君。単刀直入に聞くけど、誰かに錯視の実験のレポートを見せなかったかい?』「錯視の実験のレポートですか? よくサークルの同じ学科のみんなで、文献を貸し合ったりしながら、切磋琢磨しつつ、ファミレスでレポートを書いているので、特定の誰かというのは心当たりがありませんが……」『……例えば、一緒に私の講義を取っている誰かに、心当たりは無い?』「先生の講義でしたら、先生のファンは俺も含めていっぱいいるので、みんなで一緒に取っていますけど……何かあったんですか?」『……その――ザザ――死ねぇえええ! 死ね! 死ねぇ!』「……はい?」 急に砂嵐のような音と共に、『死ね』と声が挟まった。先生は、一体どうしたんだ?『死ねぇ……死ね! 死ね!! 死ねぇえ! ザザ――ご、ごめん電波が悪いみたいだね』「はぁ……?」『死ねぇ、死、死
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【7】時島昴
 これは、俺が本格的にオカルトネタを収集しようと決意した頃の話で、意識して時島に声をかけた頃の事だ。まずはこれから頻出する(かもしれない)時島について記しておこう。 まず俺は、Fラン大学と巷で言われる――ある私立大学に通っていた。正直入学出来るのであれば何処でも良い、と言うのも、高校を中退した身であるから思っていない事も無かったが――これでも大学の悪い評判は知らなかったので、師事したい教授がいたから、明京大学を選んだという理由がある。俺は精神分析学に傾倒していたから、その方面で高名な教授に習いたかったのだ。論文を読んで、どうしても直接習いたくなったのだ。 時島と俺は、初年時から英語のクラスが一緒で、この精神分析学の先生――楢ヶ崎教授のゼミでも一緒になったのだが、それはただの偶然である。 意識してみると、俺と時島には意外と接点があった。 なので順を追って書いてみる。 俺と時島の最初の出会いは、入学時のオリエンテーションだった。 偶然時島は俺の隣の席に座っていて、不意に俺を見ると肩を叩いたのだ。「――何?」「ああ、ちょっと消しゴムを借りたくて」 そういう事ならばと、これでも俺は友達作りに必死だったので――何せ上京したてで知人など誰もいなかったし……己の消しゴムを定規で半分に切り、時島に一つ渡した。「有難う」 やり取りはそれっきりで、その後特に何かを話すでも無かった。 そして俺は時島の顔は覚えたが、名前も何も聞かずに、そのまま始まったオリエンテーションに臨んだ。焦っていて、聞くのを忘れたのだ。 次に意識して思い出したのが、砂文兄さんに名前を聞いた、肝試し後の事である。 とはいえ――その時、大学は夏休みだった。 俺は時島の家を知っていそうな、同じ英語のクラスの紫野に連絡を取った。 この頃はまだスマホがあまり普及しておらず、アプリも無く、電話やメールが主体だった事を覚えている。「もしもし」『あー、左鳥? 何だよ、急に?』「悪い、起こした?」『良いけど。すぐバイト行く。なになに?』「――お前、時島の連絡先知ってる?」『あー、知ってる知ってる。あいつに用って、なんかオカルトな事でもあったわけだ?』 俺はそれまで時島が、『オカルトの人』だと言う事は、ちらっと砂文兄さんに聞いた話でしか知らなかったので、そんなに有名なのだろうかと驚いた。
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【8】俺の家
「でも、俺の家なんか、来ても何も無いよ?」 扉の鍵を開けて中へと促すと、その瞬間に時島が目を眇めた。何だろう、それほど我が家は汚くないと思うのだが……。「お前、よくここに住んでいて平気だな」「え?」 最近はサークルの溜まり場は他の一年生の部屋に移っているし、中々に快適な一人暮らしをしているから、そんな事を言われても心外だった。取り敢えず時島をリビングまで通して、俺は座布団がわりのクッションを視線で示した。1kのロフト付きの部屋だ。 麦茶を二つ用意して、向かい合わせに座りながら、俺は時島を見る。 だが時島は、高い天井間際にある、横長の窓ガラスをじっと睨んでいた。 つられて視線を向け――俺は息を呑んだ。「え……何だあれ……」「手形だな。子供の手形。ベタベタと付いているな」 時島の言う通りだった。梯子でも無ければ絶対に手が届かない位置にある為、それまで意識してこなかった窓には、至る所に子供の手形が付いていたのだ。だがどうしてまた、俺の家に、手形などあるのだ。それも子供の手形? このウィークリーマンションは新築だったんだぞ? 過去に因縁があったとも思えないぞ? そもそもコレって幽霊の仕業なのか?「それとな、左鳥。お前って、カノジョがいるのか?」「は? いないけど、何それ、どういう意味?」「――これは?」 テーブルの下から時島が、長い黒髪を一束と、見覚えの無い口紅を一本取り出した。 ……口紅の方は、サークルの誰かが忘れていったと思う事にしよう。 だが、この黒い髪の毛は何だ……?「お前最近、風呂の排水溝が流れにくいとかは無いか?」「何で時島に、そんな事が分かるんだよ? よく、つまる!」「……ちょっと見に行くか」 立ち上がった時島が、俺の家の浴室へと向かった。呆気に取られたままだったが、俺もついていく。そして、排水溝の蓋を時島が開けた。「っ」 そこには、就活も終わり髪を染め直した俺のものとは、色も長さも明らかに違う、黒く長い髪の毛がごっそりと溜まっていた。「――ストーカーか……?」「それならば、まだ良いな。警察署に行ったらどうだ?」「行ったらってそんな……何なんだよ、コレ……」「さっきまでお前の肩に子供が群がってたから、それとその母親の仕業じゃないか」「え?」「叩いたら、どこかに行ったけどな」 淡々と時島は言った。全ては
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【9】紫野眞臣の昔話
 紫野から聞いた話を簡単にまとめると、次のようになる。 これは、紫野が中学三年生の夏休み、父方の祖父の所へ遊びに行った際の話だ。 彼の祖父の家は、サカイと呼ばれている場所の近くにあった。住民は皆、大体が紫野の父の旧姓と同じだったらしい。紫野の父は入り婿だったとも聞いた。「で、じいちゃん家の所から暫く先に抜けた裏手にサカイがあって、村とサカイの向こうには、名前の無い場所があるんだ。小屋が沢山立ってるんだよ。全部無人。小さい頃から、『絶対にサカイの向こうには行くなよ』って言われてたし、まぁ行かなかった」 紫野が言うには、祖父の家のある集落にあるサカイとその先の窪地は、特別視されている場所だったらしい。近代家屋が一つも無く、農作業用の小屋や朽ちた民家が建ち並んでいたようで、ある種の廃村の趣を呈していたようだ。大体が木で出来た小さな家々だったそうだ。「ただあの日は、バドミントンをしてたらハネがサカイまで飛んで行っちゃってさ……妹が泣くから、取りに行く事にしたんだよ。ほら俺、妹思いだからさぁ」「俺も弟思いだから、気持ちは分からなくもないけど、それで?」「ああ、それで――ハネはボロボロの小屋の、開けっ放しの入り口の中に落ちた。ほこりっぽいなぁと思いながら、中に入って拾ったんだけど、その時、『ギシ』って音がしたんだよ」 その音は、小屋が軋む音でも、紫野が立てた音でも無かったのだという。 紫野が語る。これは、俺がその場で書き留めた、彼の言葉だ。 ――腕を下に伸ばしたまま俺は動きを止めたんだけど、視界の隅に、突き当たりの窓の向こうを何かが横切ったのが見えたんだ。とにかくハネを手に取って、それから顔を上げたんだけど、そうしたら窓の向こうには、特に何も無くて……と言うか曇りガラスだったから日の光しか見えないんだよな。そもそも、どうして最初に横切ったと分かったのかの方が不思議だな。 ――ああ、気のせいだなと思って振り返ったんだよ。 ――そうしたらさ、扉の左側から、赤と黒を重ねて透過させてみたいな色の、巨大な円の弧の部分が見えてきたんだ。なんだこれはって思ったけど、見知らぬ農機具で、何か作業でも始まったんだろうと考え直して、俺は小屋を出たんだ。もう一つの扉があったから、そちらから出た。 ――帰りは、サカイの外に出るまで、振り返らないで走った。ちょっと怖かったのかも
last updateHuling Na-update : 2025-07-22
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