Semua Bab 異人青年譚: Bab 31 - Bab 40

42 Bab

不死身青年と旅人童女の追憶XIII

 その日の夜、寝床に着いてからしばらくして見た夢は、悲痛なモノだった。 身体中が、まるで鉛で出来ている様に重く、炎で焼かれている様に熱く、それでいて、そんな自分を見届ける者は、きっと家族なのだろう。 多くは居るけれど、その中に一番傍に居て欲しかった人間が居ない現実が、堪らなく悔しくて、悲しい。 けれどそんな心境を知る由もない、傍に居てくれる誰かが、自分の手を取って、何か話す。 けれど音は、少しづつ擦れて、まるで水の中に居る様な、そんな感覚で......薄れていく感覚は、だんだんと、その体温を奪う様に冷たくなって...... 夢の中にしては、あまりにもその生な感覚と心境が、僕をどうしょうもない程に、理解させた。 あぁ......そうか...... ほんとうに死ぬ間際というのは、こういうモノなのか...... 不死身の異人である僕は、幾度となく殺されはしたけれど、死ぬことは出来ない僕が、恐らく今のままでは一生、こんな一生が続く限りは永遠に、縁がない様な、そんな感覚。 重苦しさと、熱さと、悔しさと、怖さと、冷たさと...... そんなモノ達がまるで、渦を巻いて一つの化け物に姿を変えて、自分のことを食い荒らしている様な...... そんな感覚だった。 朝、目が覚めると、見知らぬ天井に視線を向ける。 布団から身体を起こして、正面に視線を向けると、もう身支度を整え終えた若桐の姿が、そこにはあった。 布団から身体を起こした僕に気が付き、彼女は言う。「あぁ、おはようございます。荒木さん」「......」「荒木......さん......?」 そう言いながら、俯く僕の顔を覗き込む彼女を、僕は何も言わずに、静かに抱き寄せた。「えっ、どうしたんですか......」「......」「......荒木さん、震えてますよ......?」「あぁ......大丈夫......大丈夫だよ......」「えぇ......あ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-21
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不死身青年と旅人童女の追憶XIV

「若桐」 通話を切った後、海辺を歩く若桐に近づいて、僕は彼女を呼び止める。 そして呼び止められた若桐は、小さく進めていた歩みを止めて、静かにコチラを振り返る。「......」「......若桐、お前......」 けれど振り返る彼女の瞳には、戸惑いや不安や焦りという類のモノはなくて、代わりに、何かを決めた様な......そういう類のモノがあった。 そしてその瞳のまま、彼女は言う。「荒木さん、もう......やめましょう......こんなこと......」「えっ......」 こちらを見つめる彼女の瞳には、薄っすらと涙膜が張られていて、けれどそれを、決して僕の前では溢していけない様にしている彼女は、僕から視線を逸らして、言葉を紡ぐ。「ごめんなさい。こんなに付き合わせてしまって......勝手なことを言っている自覚はあります。でもこれ以上......こんなことをしても、もう意味がないんだって......わかってしまって......」 そう言いながら、今まで見たことがない様な、強く自らの拳を強く握りしめている彼女のその姿は、その小さな姿には似つかわしくないほどの、静かな苛立ちを孕ませていた。 そしてそうなると、やはりここに来ても、此処まで来ても、彼女は何も思い出すことが出来なかったのだろう。 そう思いながら、僕は言葉を選びながら、彼女に言う。「そんな......また違う場所に行けば、今度こそは何か思い出せるかもしれないだろ?まだ行けていない所があるなら、そこを訪れてから結論を出してもいいんじゃないのか?」「......」「......それに今更、そんな気を遣わないでくれ。僕だって乗りかかった船だ。ちゃんと最後まで若桐に付き合うつもりで......」「違うんです!!」「えっ......?」 言い掛けた僕の言葉に対して、彼女は顔を横に振って、僕の言葉をハッキリと、食い気味に否定した。 そしてそんな彼女の言葉に、彼女の様子に、少しばかり驚いてい
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-22
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不死身青年と旅人童女の追憶XV

 顔色があまりにも悪過ぎていたらしく、目を覚ますや否や、先に起きて身支度を済ましていた若桐に心配された。 まぁ......あんな夢を見た後なら、そうもなるだろう。 覚えている限りではあるけれど......いや、ずっとすごい剣幕で睨まれ続けていたことだけは、夢の中だろうが、すごく覚えている。 妹のことを想うが故なのだろうけれど...... それでもずっと......ずぅっとだ......「はぁ......」 溜め息を吐く僕の方を見て、心配そうに見つめながら若桐が、言葉を紡ぐ。「あの、荒木さん......大丈夫ですか......?」 「あぁ......うん。大丈夫だよ......心配かけてごめんね......」 そう言いながら、彼女の小さな頭を優しく撫でる。 そしてゆっくりと、眠気眼のまま布団から身体を起こして、洗面台まで行き、顔を洗う。 冷たい水しぶきで、次第に正気に戻る頭をゆっくりと、ゆったりと巡らせながら、僕は若桐の方に向けて、言う。「朝ごはんでも、食べに行こうか......」 そんな僕の提案に、少しだけ驚いた彼女の表情は、次の瞬間にはパッと晴れて、しかしその後に、僕の体調を心配している。 ほんとうに、せわしなく表情をコロコロと変える彼女は、今こうしている僕なんかよりも、ちゃんと生きている様な、そんな気さえしてしまう。 でも、だからだろう...... だからこの 若桐 薫 という少女は、死してなお、この世に残された想いの強さに引っ張られて、それ故に、自身の重さを残してしまったのだ。 表情豊かで、感情豊かの、浴衣姿の女の子。 あんな兄に愛されたのはまぁ、家族であるのだから良しとして...... 最早結末を、今回のこの一件のネタバレを、そんな兄から夢の中で聞かされたモノだから、今はこんな風に思うのだ。 ほんとうに、どうしようもない程に、傍迷惑な三文芝居でもしている様な、そんな気分である......と...... まったく..
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-23
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅰ

『嘘をつく子供』というイソップ寓話を、皆はご存知だろうか いや......もしかしたら『羊飼いと狼』や『オオカミ少年』というタイトルの方が、聞き馴染みがあるのかもしれない。 もしくはタイトルを覚えてはいないが、そんな感じの御話を、どこか遠い昔に聞いたことがあるという人も、それなりにいるだろう。 物語の内容は、羊飼いの少年が、退屈しのぎに『狼が来たぞ!!』と嘘をついて騒ぎを起こし、その嘘に騙された村人は武器を持って外に出るが徒労に終わり、その大人たちの姿を見た少年は面白がって、繰り返しにそんな嘘を吐き続け、いつしか村の誰からも信用されなくなり、最後は本当に狼が来た時には誰からも助けてもらえず、村の羊は全て狼に食べられてしまった。 そんな御話しである。 なんだろう...... なんだかこういう風に語ってしまうと、物凄く簡単で明瞭で、まるで当たり前のような結末で、随分と単純な物語のように思えてしまう。 まぁ実際、「嘘を吐けば信用を無くす」なんてことは、簡単で明瞭で当たり前のことなのだから、それはそれで間違いではないのだろう。 そう、なにも深い意味など考えなくても、この御話が伝えたいことは「嘘吐きは信用を無くす」というモノで、概ね間違いではない。    さらに付け加えるならば、「嘘吐きは信用を無くすから、人は常日頃から正直に生きるべきである」という、人として生きるなら、誰しもが心掛けるべき、当たり前のそれらなのだ。 けれど僕は、この歳になってからこの寓話を聞くと、どうしても考えてしまう。 どうして誰も、狼が村の羊を襲う時の外の異変には、見向きもしなかったのだろうか。 どうして誰も、その少年の言葉を嘘だと信じて、疑わなかったのだろうか。 たしかに嘘を吐き続ければ、それで信用がなくなることも理解できるし、それでたまに言う本当のことも、それがどんなに重要なこであろうと、誰からも信じてもらえないということも、理解できる。 しかしながら...... しかしながらそれでも、村の羊が全て食い尽くされる時に、外に何も異変が起きないなんてことは、果たしてあるのだろうか...... いや、常識的に考えれば、そんなことは、ある筈がないのだ。 だからそのときに、もし誰かが一人でも外の様子を確認して、「おい、本当に狼だぞ!!」という風に言ってしまえば、村の羊が全て
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-24
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅰ_02

 10月、時刻は夕方を越して夜に差し掛かかろうとしている頃… 今僕は、珍しくも友人と二人で、大学近くに位置するファミレスで夕食を共にしているところである。 いや、「珍しく」なんて言ってしまうと、まるで僕には普段、夕食を共に食べる友人が一人も居ないように聞こえてしまうが、決してそんなことはない。 大学の授業も後半に差し掛かり、前半とは違い『実験』のカリキュラムが導入されることでよりハードな学習内容となっている今日この頃… 「友人なくして単位の取得は難しい」と言われている、我が私立神野崎大学 工学部 生物化学工学科 では、何を置いてもまず、友人とのコネクションがマスト事項なのである。 なぜならそうすることで、協力して大学の課題やテスト勉強に取り組むことが出来るからだ。 僕もそれのおかげで、大学前期の単位はなんとか落とすことはなく、全て得ることが出来たのだが… そのときに、実は今回同席している、友人であるところの彼女から、色々と試験対策の御指導を受けていたことは否めない。 そうなると、これから先も僕は、情けなくも彼女を頼ることになるのだろう。 友人としてこの少女に、頭を垂れながら頼るのだ。 しかしながら今日は、なんだかそれが、その関係性が、まるで逆になるような状況だ。 いや、逆にはならないか… なぜならこれは、彼女にとってそれは、『頼る』というよりも『お願い』という皮を被った、所謂『命令』に近いモノなのだから。 その内容は、簡潔に彼女の口から、何も飾ることがなく言われたのだ。 「荒木君、文化祭の実行委員をやってみる気はないかしら?」 「文化祭の…実行委員…?」 その言葉は、エビピラフを食べようとしていた僕の口から零れ落ちたモノだった。 ついでにエビも落ちた… 「えぇ、もし時間に余裕があるのなら、是非とも貴方に、お願いしたいのよ」 「お前…そんな実行委員なんてやってたのか…しかも文化祭なんて…」 「私だって、別に好きでやっているわけではないわよ、頼まれたのよ、高校の時の後輩に…『人手が足りていないからお願いします』って…それで断ろうにも断れなくって…」 そう言いながら、彼女は自分の手元にあるパスタを、くるくると器用に取っていた。 そしてそれを見て僕もまた自分の手元にあるエビピラフを掬って口に運び、租借する。 そしてしばらく考え
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-28
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅰ_03

 大学という教育機関は、中学までのような義務教育ではなく、また高校のような場所とも違い、全国の様々な場所から、様々な年齢層の奴等が集まる場所だ。 だから別に、同期の中で多少の歳の差が生まれることも、しばしばあることなのだ。 だから僕は、そんな彼女に対して、小言の様に言うつもりはないけれど… やはり友人なら、思ったことは隠さずに言うべきなので、言おうと思う。 「あのな…そういうことは出来れば最初に言うべきじゃないのか…残念ながらもう僕は柊のことを歳上として扱うことが出来る気がしないんだけど…」 結局、小言になってしまった。 しかし当の彼女は、それを聞いても何も思うところが無いような声で、無いような表情で、応答する。 「あら、別にいいわよそんなこと。荒木君とだって学年は同じなんだし、それに今さら歳上扱いされる方が、なんか変な感じがして気が休まらないわ」 「…そういうモノなのか…?」 「そういうモノよ。それに私たち、そもそも出会いがあんなんだったんだから、そんなことにまで気が回らなかったのも無理はないでしょう?」 「あっ…」 柊のその言葉で、僕は思い出す。 彼女との出会いを、思い出す。 夏休み前の前半最終… あれはどう考えても、散々な日々だった… なぜなら僕は、今日この場に同席している僕の友人  自分のことを押し殺すことで他人をも惨殺するようになってしまった… 僕とは違い、殺人鬼の性質を持ってしまった少女… それでいて今はもう、都合よくも普通の女子大生である、謂わば元異人 あの血の匂いが絶えない、青春の日々を共に過ごしたこの少女  柊 小夜  (ひいらぎ さや) に、殺されていたからだ。 ころされて、コロサレテ、殺されて… それでいて僕もまた、死ねない身体の、不死身の体質を持った異人であるばっかりに、彼女との関係を持ち続けてしまっている。 あのときに、あんなことをされたのに… あんな風に、殺されたのに… 未だに僕は、この柊という少女との関係を、裁ち切れずに大切に持ち続けてしまっているのだ。 出会い頭に殺されて、その後は付きまとわれて、それで最後も殺されて… そんな咽返るような、血の匂いが絶えなかった、あの日々を思い出す。 女の子と共に、同じ部屋で寝た、謂わば青春の日々を… 僕はその柊の言葉で、思い出したのだ。 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-29
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅰ_04

 その柊の言葉で、また僕も、あのときのそれを思い出してしまう。 だからきっと、こんな普通なら関わらない、そんな場所に駆り出されるとしても、それは仕方がないことなのだ。 だからせめて、抗うように、僕はあのときとは違う言葉で返す。 「そうかい…そりゃよかったよ…」 時刻はお昼を差し掛かった頃だから、十二時かそのぐらいの時間だろうか。 僕は柊と大学内にある喫茶店に来ていた。 しかしながら大学内の喫茶店と言っても、別段特別にメニューが面白いわけでも、大学生向けに安価な値段で商品を提供しているわけではない。 とこにでもあるような、変わり映えのないメニューが、変わり映えのない値段で売られているだけだ。 しかしもしそんな中でも面白さを挙げろと言うのなら、我大学の名前、神野崎大学の名前が付いたソフトクリーム、『神大ソフト』が、二百円という比較的安価な値段で売られているくらいだろうか。 ただのソフトクリームに、チョコレートやらイチゴやらのソースが掛かってているだけなのだが、何故だかこの大学の名物になっているらしい。  そんなソフトクリームを注文して、黙々とそれを食べている柊と、その隣で紙コップに入ったコーヒーを啜る僕は、今一人の少女、柊の高校時代の後輩で、今は同輩であるこの少女... 花影 沙織 (はなかげ さおり) を、前にして居るのだ。  『便利な奴』と、そういう風に言われたあの日以来、そう日数を置かないうちに、僕は例の、柊の元後輩である花影を、紹介されることになった。 薄いフレームの赤渕メガネに、綺麗に切り整った肩口までの髪型で、それでいて服装は奇を衒わず、今の季節や流行を押さえた、大学内でよく見る女の子的な服装。 そして話し方は、初対面の僕や高校時代からの先輩である柊にも、なるべく適切丁寧な言葉遣いを心掛けているような、そんな印象が見受けられる、物静かな少女だった。 「小夜先輩、荒木さん、今回の話を引き受けて下さって、本当にありがとうございます。」 最初の挨拶もそこそこに、本題に入ろうとするその彼女の言葉は、なんだか少しだけ、たどたどしさを感じた気がした。 しかし彼女は、そう言いながら小さく僕たちに頭を下げるのだ。 それに柊のことを下の名前で呼んでいることから、この2人の間柄はかなり深いモノのような、そんな気もしてしまう。 これは.
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-30
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅰ_05

 そんな風に、そもそも最初からそんな気がなかった癖に、そんなことを考えながら、僕はその花影の言葉に返答した。 「あぁ...まぁ僕なんかでよかったら力になるけど...でもさ、こういう行事の実行委員って、前期の時から粗方人が揃っているモノだろ。そんなところに、こんな本番直前の時期から、まるで素人の僕が加わることに、一体何の意味があるんだい?」 そう、大学の文化祭ともなると、高校や中学までのそれとは違い、桁外れに人員数や仕事量が多くなるということは、まるでそのことを知らない僕でさえも、容易に予想が出来ることだった。 有名人を呼んでの座談会や、ステージ設営の手配、新しい企画の立案に、各サークルの露店販売の申請などなど… そもそも規模が違うのだ。 そんなところに、まるでそれらの経験がない僕なんかが参加したところで、何か出来るモノなのだろうか… しかしそんな僕の問に対しての返答は、思っていたよりも気楽だった。 前に座る花影は、ニッコリと笑いながら、応えてくれる。 「荒木さん、そんな風に考えくれていたんですね。ありがとうございます。そうですね、たしかにその通りです。実を言えば人員も仕事も、今の段階で粗方問題なく、ちゃんと目処が立っているんです」 「えっ…じゃあどうして、僕を…?」 そう僕が言いかけたところで、横に座る柊がいきなり横槍を入れて来る。 「荒木君、沙織の話をちゃんと聞いていなかったの?沙織もダメじゃない。この男はちゃんと言わないとわからないわよ?」「…」 「…」 その言葉で、一体何のことだかわかっていない僕と、苦笑いをしながら反応する花影。 そしてこのときは、どちらもまるで違う心境で、同じように言葉を失ったのだろう。 そしてそんな僕たちを見て、少しため息をつきながら、どうやらソフトクリームの方は食べ終えたらしい柊が、話し出す。 「文化祭が行われるのは十月の末を最終日に据えた2日間。つまり初日は十月三十日なのよ」 「あぁ、まぁそうだな」 「それで荒木君、今日は何日かしら?」 「今日は…えっと…」 唐突に言われたので、携帯で日付けを確認するのが遅れてしまう。 しかしそんな僕よりも、前に座っている花影がすぐに答えてくれた。 「十月十日です…」 「そう、つまりもう本番までに、二週間と少ししかないの。それなのにこの今の段階で、仕事が
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-31
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅰ_06

「…」 「…」 その言葉で、一体何のことだかわかっていない僕と、苦笑いをしながら反応する花影。 そしてこのときは、どちらもまるで違う心境で、同じように言葉を失ったのだろう。 そしてそんな僕たちを見て、少しため息をつきながら、どうやらソフトクリームの方は食べ終えたらしい柊が、話し出す。 「文化祭が行われるのは十月の末を最終日に据えた2日間。つまり初日は十月三十日なのよ」 「あぁ、まぁそうだな」 「それで荒木君、今日は何日かしら?」 「今日は…えっと…」 唐突に言われたので、携帯で日付けを確認するのが遅れてしまう。 しかしそんな僕よりも、前に座っている花影がすぐに答えてくれた。 「十月十日です…」 「そう、つまりもう本番までに、二週間と少ししかないの。それなのにこの今の段階で、仕事がほとんど終わっていなくてはいけない筈の今の段階で、仕事どころか人員も、粗方目処が立っているという状況なのよ」 「あっ…」 そうか…そういうことか… そんな風に気が付いた僕の反応を見て、前に座る花影は、何か取り繕うのを諦めたかのように、話し始めた。 「小夜さんのおっしゃる通りです。例年であればこの時期は、設営以外の仕事は完璧に終わってなくてはいけない筈なんです。ところが数ヶ月前から少しずつ、仕事の遅れが出て来てしまっていて…気が付いた頃には、もう今居る人達ではカバー出来なくなってしまっていて…」 「具体的には何の仕事が、どのくらい遅れているの?」 「パンフレットの印刷と、露店販売に参加するサークル名簿の整理と、あと…」 「あと…?」 「開催二週間前から、参加サークルへの事前訪問をしなくていけないんですけど、そちらに回せる人員がなくて…」 「なるほどね。つまり私達は、その遅れている仕事と、二週間前から始まる事前訪問を手伝えば良いってことよね?」 「はい…その通りです…」 そう言いながら、花影はまた苦笑いを浮かべていた。 そしてそれとは対象的に、余裕そうな顔で彼女を見つめて、柊は答えた。 「…わかったわ、その仕事、私と荒木君が引き受けてあげる」 そう答える柊の表情は、なんだか少しだけ大人美て見える気がした。 けれどもその表情は、きっとこの前僕に話した、柊の悪い癖なのだろう。 そう、彼女はただ、後輩の前では格好良く在ろうとしているだけ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-04
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅰ_07

日曜日、あまりにも急な話かもしれないが、僕は今、横浜駅前に位置するとある商業施設に来ている。 いや、まぁそうは言っても、先日花影と話した時に、結局僕と柊は、彼女に協力することになったわけで... それでもって今日は、その文化祭の実行委員で使うであろう様々な道具を買い揃える為に、この場所に来ている。 だからそう考えると、別段僕にとっては急な話というわけではなくて、むしろ明日からは本格的に仕事が始まるため、その前日にあたる今日に買い物を済ませておくことは、僕にとっては普通のことで、当たり前のことなのだ。 しかしながら... しかしながら、別に『様々』と言っても、そこまで多数のモノを買うわけではない。 強いて言うなら、ノートパソコンとその周辺機器くらいだろうか。 実は先日、文化祭実行委員の業務内容の一つであるデスクワークの大半は、皆自前のノートパソコンを使用するということを、花影に言われたのだ。 データ流出等の危険性を未然に防ぐ為の試みだそうだ。 まぁしかし、これに関してはもうそろそろ大学で貸し出されている物を使うのではなくて、自分専用のモノを買うべきだとも、思っていたところだった。 後期からはカリキュラムに『実験』が含まれたことで、その実験に関するレポートを、毎週作成して提出しなければいけないのだ。 そうなると流石にその都度大学にパソコンを借りるのは、非効率だし面倒くさい。 そう考えると、どちらかというと、実行委員の仕事のためというよりも、自分のこれからの生活の為に買うといった方がしっくりくる。 どうせ長いこと、使うであろう機械なのだから。  「ん...あれ...?」 そんなことを考えながら店に入ろうとすると、丁度目の前に、周りの人達とは一風変わった姿をしている女の子を見つけた。 まぁ『変わった姿をしている』と言っても、その姿がまるで人間離れしたモノであるとか、そういうことは一切ない。 姿というのは、いわゆる見た目というか、服装という意味で、その女の子の服装は、他の人達とは違い、着物姿だったのだ。 そう、昔ながらの、まるで日本の昔話に出てくるような、童話に出てくような、色あせた着物。 そしてそれでいて、周りからはそれを不審に思われていない様な、そんな風貌の、中学生くらいの年齢の女の子。 もしもその子が、見知らぬ女の子であるならば
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-07
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