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不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅰ_03

Author: kumotake
last update Last Updated: 2025-08-29 22:17:32
 大学という教育機関は、中学までのような義務教育ではなく、また高校のような場所とも違い、全国の様々な場所から、様々な年齢層の奴等が集まる場所だ。

 だから別に、同期の中で多少の歳の差が生まれることも、しばしばあることなのだ。

 だから僕は、そんな彼女に対して、小言の様に言うつもりはないけれど…

 やはり友人なら、思ったことは隠さずに言うべきなので、言おうと思う。

 「あのな…そういうことは出来れば最初に言うべきじゃないのか…残念ながらもう僕は柊のことを歳上として扱うことが出来る気がしないんだけど…」

 結局、小言になってしまった。

 しかし当の彼女は、それを聞いても何も思うところが無いような声で、無いような表情で、応答する。

 「あら、別にいいわよそんなこと。荒木君とだって学年は同じなんだし、それに今さら歳上扱いされる方が、なんか変な感じがして気が休まらないわ」

 「…そういうモノなのか…?」

 「そういうモノよ。それに私たち、そもそも出会いがあんなんだったんだから、そんなことにまで気が回らなかったのも無理はないでしょう?」

 「あっ…」

 柊のその言葉で、僕は思い出す。

 彼女との出会いを、思い出す。

 夏休み前の前半最終…

 あれはどう考えても、散々な日々だった…

 なぜなら僕は、今日この場に同席している僕の友人

 自分のことを押し殺すことで他人をも惨殺するようになってしまった…

 僕とは違い、殺人鬼の性質を持ってしまった少女…

 それでいて今はもう、都合よくも普通の女子大生である、謂わば元異人

 あの血の匂いが絶えない、青春の日々を共に過ごしたこの少女

 柊 小夜  (ひいらぎ さや) に、殺されていたからだ。

 ころされて、コロサレテ、殺されて…

 それでいて僕もまた、死ねない身体の、不死身の体質を持った異人であるばっかりに、彼女との関係を持ち続けてしまっている。

 あのときに、あんなことをされたのに…

 あんな風に、殺されたのに…

 未だに僕は、この柊という少女との関係を、裁ち切れずに大切に持ち続けてしまっているのだ。

 出会い頭に殺されて、その後は付きまとわれて、それで最後も殺されて…

 そんな咽返るような、血の匂いが絶えなかった、あの日々を思い出す。

 女の子と共に、同じ部屋で寝た、謂わば青春の日々を…

 僕はその柊の言葉で、思い出したのだ。

 
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