星乃はまだ退院できず、午後になってから、遥生に電話をかけ、仕事用のノートパソコンを持ってきてもらうよう頼んだ。けれど、実際に会ってみると、遥生の頬骨のあたりが少し赤く腫れているのに気づいた。擦り傷のようだ。星乃の頭に浮かんだのは、悠真の顔にあったあの傷だった。胸の奥でひとつの予感が芽生える。「……悠真と、殴り合いでもしたの?」星乃が尋ねると、遥生は隠す気もなく、静かにうなずいた。「どうして?」星乃には理解できなかった。二人の性格は合わないとはいえ、普段ほとんど関わりはないし、どちらも自分から手を出すようなタイプではない。それなのに、どうして?まさか……自分のことで?遥生は彼女の考えを察したのか、一瞬だけ目を逸らした。「男同士のことだよ。気にしなくていい」そう言われて、星乃はそれ以上追及しなかった。けれど、心の中ではもう分かっていた。遥生が悠真に手を出したのは、自分のためだと。なんだか複雑な気持ちだった。少しだけ胸が熱くなったのは――こんなふうに自分のために怒ってくれる人は、これまで誰もいなかったからだ。けれど同時に、悠真を敵に回すような真似はしてほしくなかった。とはいえ、もう終わってしまったことだ。今さら言っても仕方がない。星乃はカレンダーを見て、日数を数える。――あと五日。五日後はUMEの新作発表会の日であり、そして、悠真との離婚が正式に成立する日でもある。そのときになれば、二人の関係は完全に終わる。星乃は気持ちを切り替え、仕事に集中しようとした。けれど、病気のせいか頭がまだぼんやりしていて、浮かんだ考えを何度も取りこぼしてしまう。このままじゃ、間に合わないかもしれない。そんな焦りの中、夕方にもう一本電話がかかってきた。画面を見れば、律人の名前だった。現在、白石グループはUMEの最大の出資者だ。当初、律人は契約を迷うこともなく結んでくれたが、白石家というのは決して穏やかな相手ではない。もし新作の発表が急に延期になれば、どんな口実で圧をかけてくるか分からない。それも、星乃が予定通りの発表にこだわっていた理由の一つだ。少し考えたあと、電話を取る。通話がつながると、どこか色気を帯びた律人の声が聞こえた。「病気だって聞きましたけど、大丈夫ですか? ご自分のこ
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