エレベーターの外から足音が近づいてくるのを聞いたとき、千佳は資料を元に戻し、手に持った。そして再び、先ほどまでの苦しそうな表情を作る。美優が飴を差し出し、心配そうに言った。「すごく汗かいてるよ?よかったら、近くの病院に送っていこうか?」「大丈夫、もうだいぶ楽になったから」千佳は飴を口に放り込み、ぎこちなく笑った。「本当は、下のカフェに行こうと思ってたのに……今日は無理そうね」美優は特に疑うこともなく、すぐに言った。「気にしないで。あとで私が買って持ってくるから」千佳は礼を言って、エレベーターを出た。ドアが閉まると、彼女はさっきまで「ゆっくり休んでね」と気遣ってくれた美優の顔を思い出し、胸の奥がざらついた。卒業して間もない女の子なんて、ほんとに騙しやすい。少しばかり罪悪感が湧き、胸がチクリと痛む。けれど、すぐに思い浮かんだのは、まもなく拓真が手にする冬川グループのプロジェクトリーダーのポスト、そして去年ふたりで見に行ったあのマンションだった。千佳は結局、迷いを振り切り、情報を拓真に送った。その夜、知能ロボット業界では二つの大きなニュースが駆け巡った。ひとつは、海外で大きな注目を集めていた「UME」が、国内に拠点を移してからわずか一か月で新製品の予告を発表し、一週間後に新作発表会を開くと告知したこと。もうひとつは、同業界に最近参入し、莫大な資金を投入している冬川グループが、UMEと同じ日に――しかも一時間早く新型ロボットの発表を予告したというものだった。冬川グループの公式サイトにはすでに製品の詳細が掲載され、三日後に発表会を開くとの情報も。つまり、UMEより数日も早い。その知らせは、UMEの社内にも大きな衝撃をもたらした。なぜなら冬川グループの発表した新型ロボットは、つい最近、星乃が開発したばかりのモデルと同じものだったからだ。技術部は一気に騒然となった。星乃は七日後の発表会で使うスピーチ原稿を練っていたが、そのニュースを見た瞬間、考える暇もなく智央に呼び出された。ドアを開けるなり、智央は一枚の書類を彼女の顔めがけて叩きつける。星乃は避けきれず、鋭い紙の端が目尻をかすめた。「どういうことだ、星乃!説明してくれ!なんで冬川グループの新製品が、うちで開発したものと同じなんだ?しかも、うち
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