Semua Bab ~スーパー・ラバット~ムーン・ラット・キッスはあなたに夢中: Bab 11 - Bab 20

38 Bab

~第二話⑤~ 悠馬が立ち上がるとき

 火曜の六時間目は、全クラス共通のロングホームルーム。  そして今回のロングホームルームは、クラス委員を選ぶ時間である。「みなさん、そ、それじゃあですね。まず立候補から……いいでしょうか」 福島先生は二十五歳の女性教師。真面目で教育に情熱を持つ先生なのは確かだが、真面目な性格も情熱も気の弱さをカバーすることは出来なかった。緊張し今にも倒れそうな様子を見て、この先生が一年間担任をやり通せるのか、心配になった生徒も多いはずである。  龍はそっと悠馬の方に目を向ける。福島先生だけではない。悠馬も緊張した表情をしていた。間違いなく何か話したそうにしている。(まさか、あいつ立候補するつもりか?) 龍が怒りのまなざしで注目する中、最後には悠馬は下を向いた。(まさか、あんなヤツが立候補するワケないよな。) 特に立候補もなかったため、公平に投票で決められることとなった。ただしこの投票がぜんぜん公平ではないことを、先生は何も知らない。  投票用紙か配られ、ひとりひとり、推薦するクラスメイトの名前を書いた。福島先生が投票箱を手に、投票用紙を回収して回った。  今日が日直だった女子生徒の園田と男子生徒の唐沢のふたりが教壇に呼ばれた。園田が投票用紙に書かれた名前を読み上げ、唐沢がホワイトボードに名前と数を記入していく。  最初に遠山飛鳥の名前が書かれ、あとは飛鳥の名前の下に「正」の字が増えていくだけの結果が決まった選挙。  龍と真宮子は、注意深く飛鳥の反応に目を向けた。飛鳥の顔が青白くなり、今にも泣きだしそうになった。下を向いたまま、肩を震わせている。  最後にちょっとしたアクシデントがあった。「朝井悠馬」と名前が呼ばれ、ホワイトボードに名前が書かれた。生徒たちはけげんな顔で悠馬に注目する。悠馬は真っ赤な顔で下を向いた。   「投票を終わります」 園田の声。「あのこれは……ちょっと……」 福島先生は投票の内幕に気がつき、困った顔をする。教壇からは、飛鳥がポロポロと涙を流しているのがハッキリ分かる。クラス全体、面倒な仕事を陰キャラと呼ばれるクラスカースト最下層の飛鳥に押しつけようとしているのは明らかだ。このままにしておけないのはハッキリしてるが、何も出来ないのが真面目で教育熱心でも、気の弱い先生の悲しいところ。  龍の先導の下、一斉に拍手が沸き起こる。
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~第二話⑥~ 悠馬はなかなか発言できない

 インチキ投票でクラス委員を押しつけられた隣の席の遠山飛鳥を助けるため、勇気を振り絞ってさっそうと立ち上がったはずの朝井悠馬。  だがさっそうと立ち上がることはなかった。  勢いあまって、その場に腰を落とし、横倒しになって悲鳴をあげる悠馬。  見よ! 陰キャラを通り越し、完全に「怖い人」と化していた。  唖然とする生徒一同。  飛鳥は音のする方に目を向ける。涙で曇った両目にも、なぜか隣で倒れている朝井悠馬の姿がハッキリと見えた。「どうしたんです? 朝井くん」 悠馬が机に手をかけて立ち上がろうとする。  だがさっそうと立ち上がることはなかった。  バランスが崩れ、今度は机と共に床に倒れて悲鳴をあげる悠馬。これはもう「怖い人」では済まされない。「アブナイ人」ではないか。  クラスメイトの冷たい視線。 「どうしたの? 何があったの? 今はパフォーマンスの時間じゃないんだけれど」 福島先生は茫然自失、どうしたらよいか分からず、パニックとなってうろたえている。  そのときだった。飛鳥がそっと悠馬に手を差し出す。悠馬は何も考えずに飛鳥の手を握る。飛鳥に引っ張られて立ち上がる悠馬。  悠馬は飛鳥の手を握ったままだということも忘れて、緊張した表情で話し始めた。「先生」 福島先生が何事かと不思議そうな顔をする。「遠山さんがやりたくないなら僕がクラス委員やります」 
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~第二話⑦~ 悠馬は白馬の王子様

 悠馬の声は小さくて、かすれて震えていた。だが何を言っているかだけは誰の耳にも聞こえた。  生徒たちの注目は、今や悠馬ひとりに向けられている。イケメンの龍は絶対納得出来ない。  福島先生は何と答えたらよいか分からず、目を見開いたまま立ち尽くしている。悠馬がもう一度、小さくかすれて震えた声で叫ぶ。「お願いです。僕、クラス委員をやりたいんです。どうか、僕をクラス委員にしてください」 悠馬は勇気を完全に使い果たし、今は絶望的に恥ずかしく、すぐにここから逃走したい気分だった。  飛鳥の目は、もう涙で曇ってなんかいない。両目がキラキラ光っているけど、これは涙なんかじゃない。希望の光だ。飛鳥には悠馬が白馬の王子様に見えた。  「白馬の王子様」の悠馬は、このとき、やっと自分の右手を握っている飛鳥の右手のあたたかさ、柔らかさに気がついた。ずっと手をつないでいたのだ。  悠馬の緊張の糸がプツンと切れた。そのまま、体が大きく傾いた。  だが今度は倒れることはなかった。飛鳥が支え、しっかりと抱き締めていた。  そのままフラフラ意識を失った悠馬は、飛鳥からの熱いまなざしに気がつくことはなかった。飛鳥は悠馬を抱きしめたままだった。福島先生が声をかけなかったら、そのままずっと抱きしめて……最後は頬ずりしていたかも……。 
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~第二話⑧~ クラスカースト最下層にトップなんか渡せない

 結局、ロングホームルームで朝井悠馬がクラス委員に選出。続いて学校委員の選出。  一番人気がない、忙しい、重労働、ブラック。ウサギ小屋の管理をする「飼育委員」に飛鳥が推薦され、そのまま選出された。今度は飛鳥は何も言わなかった。  ロングホームルームの時間は過ぎ去り、生徒たちは去り、放課後の時間が過ぎていく。  一年特進クラスでは龍と真宮子が隣り合わせに座り、その回りに取り巻きの男子女子が集まっていた。「これでいいだろう。遠山が騒いだら困るじゃねえか。万一、メンタルにでもなったら……」 龍が低姿勢で真宮子に話しかける。「それは分かってるけど……」 真宮子が浮かない顔。「遠山には、クラス委員の代わりにと『飼育委員』を押しつけた。やることはウサギ小屋の管理。ワースト委員だ」 龍の言葉はフェイクではない。クジ引きでもしなければ、絶対誰もやらなかった。「それに朝井は編入テスト三位だった。ミー子(真宮子)の順位を追いかけている。クラス委員の朝井に雑用押しつければ、特進クラスの成績最下位に急降下だ」 取り巻きの男女も大きくうなずく。「そうだね。クラスカーストの最下層。人間以下、ウサギ以下のコロナウィルス変異体。絶対一位や二位なんかにはさせられない」 真宮子はやっと笑顔を浮かべた。クラスカーストトップが見せた残酷な笑いだった。 
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~第二話⑨~ 天文部に悠馬はいない

 三階の東端にある天文部部室。放課後、飛鳥は勢いよく部室に飛び込んだ。荒川先生が笑顔で迎えた。「こんにちは」 「私、天文部に入ります」 飛鳥が息を切らして叫ぶ。「ようこそ、歓迎するわ」 三年生の部長、副部長が駆け寄り、飛鳥を口の字型に並べられた机のひとつに案内した。飛鳥は席に着き、渡された入部申込書を書いた。  申込書を書きながら、あたりを見回す。  部室の前方にホワイトボードと教壇。後方の壁際に、天体望遠鏡などの観測器具、月球儀《げっきゅうぎ》、ミニプラネタリウム、太陽系宇宙を説明するジオラマ、天文関係の書籍が並んだ本棚が置かれている。  そして席に着いている十五人の部員たち。飛鳥が何度見返しても、めざすクラスメイトはいなかった。飛鳥の様子に気がついたのか、荒川先生が声をかける。「どうかした?」 飛鳥は緊張した顔で、荒川先生と向き合う。そっと席を立つと深呼吸し、それからゆっくりと口を開いた。「朝井くんはいないんですか?」 荒川先生は驚いた顔をした。「彼のこと、知ってるの?」 「ハ、ハイ」 荒川先生は腕を組んで天井を見上げた。「彼は美術部。残念だけど……」 飛鳥は荒川先生手の中の入部申込書を見て取り返しのつかない後悔に襲われていた。「もし、彼と話すことがあったら、入部はしなくていいから、一度、天文部に遊びにくるよう話してくれる?」 二年の女子部員がうなずきあう。荒川先生の話しているのは、間違いなく天文学者の朝井博士の息子のことだ。  こうして遠山飛鳥は天文部の十六人目の部員となった。  だが天文部にいると思い込んでいた朝井悠馬は、今頃は旧校舎の美術部にいるはずである。    
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~第二話⑩~ 緊急事態のline

ふと気がつくと、荒川先生がスマホを取り出している。「ごめんなさい」 あわてた様子で部室を出ていく。緊張した様子だったので、部員たちは顔を見合わせた。  部室の前の廊下。荒川先生はスマホを手に、思わず口に手を当てていた。  lineには「田辺成一」の名前があった。<ご無沙汰しています。彩良のことで重要なお話があります。また今度> 荒川先生はスマホをしまった。田辺成一からの突然のlineが、荒川先生の心をかき乱していた。(今、思うと彩良さんって、悠ちゃんを通じて私や朝井先輩に近づき、私たちの研究について調べてたんじゃないだろうか? 防衛大学研究所の田辺さんと結婚したのには驚いたけれど、もしかしたら何か調べるためだったんじゃないだろうか? 突然の失踪も、その調査が終わったからじゃないんだろうか?) ずっと荒川先生の心に渦巻く疑惑。そして田辺からのline。(彩良さんって、どこかの国のスパイだったんじゃないだろうか?) 荒川先生が現実に戻ったのは、生徒たちからの呼びかけだった。「先生、今度の夜間観測の打ち合わせするんですけど」 「今、行くから」 荒川先生はあわてて部員たちの方に戻った。部員たちに説明を始める。だが高蔵彩良への疑惑は、ずっと荒川先生の心に残ったままだった。   
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~第三話 誰も知らない月と彩良先生の秘密~ 天文部・荒川先生の講義

 私たちの回りには、まだよく分からないことがたくさんあります。  月だって同じ。みんなも、こんなに科学が発達したのに、いまだに月の裏側がどうなっているか、ハッキリしたことは分かっていません。  天王星を発見したウィリアム・ハーシェルの息子でイギリスの天文学者、ジョン・ハーシェル(1792~1871)は遺作となった『月の人類』で、こう語っているわ。<私が知っている二、三の重要な事柄。月の裏側には、月星人《げっせいじん》が住んでいる。私が生涯の発見でもし誇ることがあるとすれば、天体望遠鏡での観測中、月星人を目撃したことであろう。我々はそれを、仮にセレネイ人と呼ぼう> これは夢物語だと思うかしら?私はそうは思いません。  だって、月の裏側がどうなっているか、今も詳しく説明できる学者なんていないんだから。  だから旧ソ連のポルフィル・ペドロビッチ博士はこう語っています。<月は地球の衛星とされるが、本来は月から分離して地球が生れたものと思われる。  恐らく昔の月は、地球と双子星の関係にあり、自然環境はほとんど変わらなかったと思われる。  ところが急激な気候変動により月は死の星と変わった。隕石が原因ではなかろうか? このときに、月星人の一部は脱出して地球に移住。その後、地球の文明の発展に貢献したものと思われる> <月には空気がないと云われるが、ソ連の探査機の調査結果など様々な証拠により、今も月の裏側の一部の地域には空気が存在すると思われる。  そこには現在も、未知の文明社会が存在するはずである。それは地球の文明とそれほど変わらぬか、或いは地球より幾分かの進歩が見られるのではあるまいか?> この主張が絶対にありえないなんて、誰にも言えないと思う。  みんな、どう思うかしら?   
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~第四話 驚くべき真実が明かされる①~ 朝井悠馬の噂

 夜間観測前の荒川先生の講義が終了した。  四月末の夜。ここは朝井悠馬や遠山飛鳥が通う桜花高校の新校舎屋上。  夜空はどこの場所にも来る。今、桜花高校は星空に囲まれていた。今日は太陰暦の三月十五日。夜空には大きな満月が浮かんでいる。  そして桜花高校の屋上では、天文部の部員十六人、顧問の荒川今日華先生の指導の下、月に一度の月面観測の最中だった。  彼らのそばには屈折式の天体望遠鏡「ポルタ2A80Mf」が二台設置されている。   「今、話したことは、私の尊敬する先輩からの受け売り。興味があったら私の先輩、朝井博士の『月の不思議』を読んでみてね」 荒川先生が話を締めくくる。   「先生! 朝井博士の子どもが一年にいるんですよね」 「ごめんね、石田さん。個人情報だから、簡単にYESとはいえないの」 石田と呼ばれた部員は納得しない。「遠山さん、あなたの特進クラスにいるんでしょう。美術部と聞いたけど、どうして天文部に入らないの?」 飛鳥は下を向いたまま、黙っていた。荒川先生があわてて声をかける。「個人情報と言ってるでしょう。さあ、月を観測しましょう」 そう言って天体望遠鏡に近づく。「この天体望遠鏡では月の裏側は見えない。だけどね」 荒川先生がニコッと笑う。夜風に髪がそっとなびき、甘い香りが漂う。「もしかしたら、月の文明科学なら、月の裏側から地球を見ることの出来る天体望遠鏡が開発されているかもしれない。月星人は今も、裏側から私たちをじっと見ているかもね」 天文部員全員は、明るく輝く満月に目を向けた。飛鳥の心の目は別のものを見つめていた。  眼鏡をかけた真面目でおとなしい表情の少年。はにかむように飛鳥に微笑みかける。(朝井くんが入ると思ったから、私だって天文部に入ったのに) 飛鳥の心の声を誰も知らない。一番後ろに立つ飛鳥のことなんか、誰も気にしない。(ここに朝井くんがいたらな) 飛鳥は心の中の悠馬に向かって、決して誰にも見せたことのない笑顔を向けた。 
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~第四話②~ 正体不明の女性・高蔵彩良

「先生、あそこ」 部長の草加《くさか》が、左手を指さす。屋上の手すりの近くに、スーツ姿の男性がいた。じっと夜空を見上げている。「田辺さん」 荒川先生が驚いたように声をかけた。彩良先生の夫の田辺成一だった。田辺は頭を下げ、天文部員たちが集まっている場所に近づいてきた。年齢は四十歳前後。自衛隊OBらしく、きびきびした動作だった。「私の知人の田辺成一《たなべせいいち》さん。防衛大学研究所の研究員です」 部員たちがあわてて頭を下げて挨拶する。「今日、名古屋から帰りました。夕刊で、こちらの天文部の夜間観測が紹介されていたじゃありませんか。駅でその記事を読み、学校から許可を得てお邪魔しました」 田辺が名古屋名物の納屋橋饅頭を差し出す。荒川先生がお礼を言って受け取る。「ところで朝井くんはいないのですか?」 田辺は不思議そうに首をかしげた。突然の悠馬の名前。飛鳥はハッとして、田辺の方に目を向けた。「ええ、彼は別のクラブです」 荒川先生はそう答えてから、部員に呼びかける。「自分たちで観測していてくれる? 先生は田辺さんと話があるから」 ふたりは少し離れたところで話を続ける。飛鳥はふたりの様子を、そっと見つめていた。「そうですか? 荒川先生は朝井博士の後輩ですから、絶対天文部と思ったんですが」 「本当のこと言うと、朝井くんとは最近、会ってないんです。朝井くんに何か?」 「彼が、今年も妻の誕生日プレゼントを持ってきてくれたんです。私はずっと名古屋でしたから、母に預けていったんです。きちんとお礼をしたかったのと、妻のことで少し話を聞きたかったのです」 「朝井くんにですか?」 荒川先生が眉をひそめた。  飛鳥はいつの間にか、ほかの部員たちから離れ、そっと荒川先生と田辺の話に耳を澄ましていた。   「現在、防衛省でも今後の対応について協議しています。今の段階なら、あなたにお話ししても構わないと許可を得ています。実は、妻の彩良の正体が分からないんです?」 ショッキングな説明だった。「どういうことです?」 荒川先生の声が思わず大きくなった。すぐにあわてた様子で周囲を見回す。「彩良は戸籍上の人間とはまったくの別人だったんです。教員資格を持っているある女性の戸籍を、自分のものと偽っていたのです。その女性の両親はずいぶん前に亡くなり、女性自身
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~第五話 月世界の旋律①~ 月の王国

 地球から見える月の表側にも、私たちの知らないことがたくさんある。「晴れの海」「静かの海」「夢の湖」「豊かの海」など各地に、いくつもの人工的な球体がさりげなく転がっている。その存在や正体は、地球人の誰も知らない。  そして月の裏側、「モスクワの海」に月世界の国家、セレネイ王国があることを、地球人の誰も知らない。面積は北海道くらいで、地上と地下にセレネイ人こと月星人が住んでいる。この地域のみ空気が存在するが、「モスクワの海」を離れるに従って空気は薄くなり、やがて完全に真空状態となる。  旧ソ連末期に、モスクワアカデミーの天文学者、エルモライ・A・ロパーヒンはソ連の探査機が「モスクワの海」に空気があると主張したが、他国の科学者からは黙殺された。  もしこのとき、詳しく調査を進めていれば、あるいはセレネイ王国の存在が突き止められたかもしれない。  セレネイ王国地上の中心部には大きな丘があり、丘の上には白亜の柱と壁でつくられた巨大な宮殿がある。セレネイ王国の王宮である。  国王以下、実質的な権力者である摂政《せっしょう》のキラーリ公主、弟のエブリー・スタイン公子たちが、王宮護衛隊に守られて暮らしている。  丘の周囲には高層ビルの立ち並ぶ都市が広がり、その周囲を巨大な田園が取り囲む。  月世界は二十四時間、夜空のままで、決して地球のように朝が来ることはない。空には、キラキラ輝く無数の星が散らばり、決して空から消えることはないのだ。月の裏側のため、空に地球が浮かぶことはない。  セレネイ王国中心部には、三角錐《さんかくすい》の形をした高層ビルがズラリと並んでいる。  卵型の色とりどりの自動車が道路を疾走し、高層ビルを見下ろすようにハイウェイが通っている。飛行兼用の高級自動車も存在する。  そして高層ビルの立ち並ぶ地域にも、古めかしい屋敷が建っていたりもする。王宮を正面に見る位置に立つのは、年代を感じさせる三階建ての大きな屋敷。その屋敷の三階のベランダに、黒ずくめの人間が腰を下ろしていた。  黒いガウンを身にまとい、顔には黒のベールを垂らしており、全く顔が見えない。胸がふっくらしているところを見ると、どうやら女性のようだ。  すぐ隣には、この星のパソコンが置かれている。地球のパソコンと殆ど変わらないが、キーボードには象形文字のようなセレネイ文字が表示され
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