火曜の六時間目は、全クラス共通のロングホームルーム。 そして今回のロングホームルームは、クラス委員を選ぶ時間である。「みなさん、そ、それじゃあですね。まず立候補から……いいでしょうか」 福島先生は二十五歳の女性教師。真面目で教育に情熱を持つ先生なのは確かだが、真面目な性格も情熱も気の弱さをカバーすることは出来なかった。緊張し今にも倒れそうな様子を見て、この先生が一年間担任をやり通せるのか、心配になった生徒も多いはずである。 龍はそっと悠馬の方に目を向ける。福島先生だけではない。悠馬も緊張した表情をしていた。間違いなく何か話したそうにしている。(まさか、あいつ立候補するつもりか?) 龍が怒りのまなざしで注目する中、最後には悠馬は下を向いた。(まさか、あんなヤツが立候補するワケないよな。) 特に立候補もなかったため、公平に投票で決められることとなった。ただしこの投票がぜんぜん公平ではないことを、先生は何も知らない。 投票用紙か配られ、ひとりひとり、推薦するクラスメイトの名前を書いた。福島先生が投票箱を手に、投票用紙を回収して回った。 今日が日直だった女子生徒の園田と男子生徒の唐沢のふたりが教壇に呼ばれた。園田が投票用紙に書かれた名前を読み上げ、唐沢がホワイトボードに名前と数を記入していく。 最初に遠山飛鳥の名前が書かれ、あとは飛鳥の名前の下に「正」の字が増えていくだけの結果が決まった選挙。 龍と真宮子は、注意深く飛鳥の反応に目を向けた。飛鳥の顔が青白くなり、今にも泣きだしそうになった。下を向いたまま、肩を震わせている。 最後にちょっとしたアクシデントがあった。「朝井悠馬」と名前が呼ばれ、ホワイトボードに名前が書かれた。生徒たちはけげんな顔で悠馬に注目する。悠馬は真っ赤な顔で下を向いた。 「投票を終わります」 園田の声。「あのこれは……ちょっと……」 福島先生は投票の内幕に気がつき、困った顔をする。教壇からは、飛鳥がポロポロと涙を流しているのがハッキリ分かる。クラス全体、面倒な仕事を陰キャラと呼ばれるクラスカースト最下層の飛鳥に押しつけようとしているのは明らかだ。このままにしておけないのはハッキリしてるが、何も出来ないのが真面目で教育熱心でも、気の弱い先生の悲しいところ。 龍の先導の下、一斉に拍手が沸き起こる。
Terakhir Diperbarui : 2025-07-30 Baca selengkapnya