昨夜《きのう》だけど、高蔵彩良《たかくらさら》先生の夢を見た。 昼間、彩良先生の誕生日プレゼントを自宅に届けてきたからかもしれない。彩良先生の代わりに、彩良先生のお義母さんが受け取ってくれた。 朝井悠馬《あさいゆうま》にとって、明日は桜花高校《おうかこうこう》の入学式。私立の名門で、母から強く入学を勧められたのである。 母は天文学者で、日本が誇る東海科学館長野天文台の副館長をしている。学会の発表があるため、どうしても入学式には参加できない。悠馬は別に構わなかった。母が一緒に来れば、地学と物理の担当で天文部の顧問をしている荒川今日華《あらかわきょうか》先生に会うことになる。荒川先生は悠馬の母とは、先輩後輩、母の助手の関係。そのままストレートで天文部に入部ということになりそう。母が来ない方が都合よい。 母は天文台に単身赴任中。そもそもほとんど自宅にはいない。家政婦さんが週に三回通って家事をしてくれるが、悠馬もたいていのことは自分で済ませていた。以前は荒川先生が母の代わりによく自宅に来てくれたが、仕事が忙しくなり、ほとんど尋ねてくることもなくなった。これも悠馬には好都合だった。 悠馬は明日、学校へ提出する書類を点検の最中。<朝井悠馬《あさいゆうま》 桜花高校一年特進クラス 現時点での進路・美術関係 現時点での進学希望校・アジア美術教育大学 保護者 父は八年前に病死 母・朝井芽衣《あさいめい》(天文学者)> この書類を母が見たら、ただでは済まないだろう。 そして次のアンケートの回答も多分……。<アンケートQ12 当校の教員、講師、職員の中に親族や知人がいますか? A.います いません〇 > 母だけじゃない。母の後輩で母親代わりだった荒川先生はどう思うだろうか? ふたりがどう思うかはともかくとして、書類の点検終了。 悠馬は改めて昨夜見た夢を思い出そうとした。 小学三年のときの担任教師、高蔵彩良《たかくらさら》先生の夢。 出会ってからのいくつもの思い出が、ドラマの総集編のように再生されていく。そんな懐かしくて楽しくて、そして悲しい夢だった。目が覚めたときは涙を流していた。 高蔵彩良先生。一昨日、三十三歳になったばかり。悠馬の心に残る彩良先生のイメージ。 短めのボブの髪型で茶髪。切れ長のシャープ
Last Updated : 2025-07-26 Read more