「遠山さん」 急に名前を呼ばれて、飛鳥が振り返る。放課後、玄関の靴箱の前。クラスメイトの神宮寺真宮子が真面目な顔で立っている。「ねえ、ちょっと相談したいことがあるんだ。一緒に帰っていい?」 飛鳥は一瞬で体が硬直した。クラスカーストのトップが最底辺の飛鳥に何を相談するというのだろうか?それに、ほんの一パーセントも笑顔のない表情で、飛鳥と一緒に帰りたいと誘うのも不自然だった。 真宮子は大事なことを省略している。飛鳥と一緒に帰るのは真宮子だけじゃない。十人近くの男子がいる。 飛鳥は断りたかったけれど、相手を納得させる理由が思いつかない。(どうしたらいいんだろう?) 飛鳥は何も言わずに靴箱の前に突っ立っているしかない。「ねえ、いいでしょう」 真宮子の声が大きくなる。「遠山さん」 控えめな声がすぐ近くでした。一番気にしている男子が靴箱に来た。「ごめんね、待った?」 真宮子が眉をひそめた。「あなたたち、約束してたの?」 「き、今日、一緒に帰ろうって……」 悠馬ったら顔が引きつり、声が震え、完全に不審者となっていた。けれども飛鳥には悠馬の気持ちがよく分かって、自然と笑顔になっていた。真宮子がふたりを見回す。「そうなんだ。そういう関係だったの? ごめんね」 飛鳥はそう云い捨てて、足早に立ち去った。悠馬がホーーッと大きく深呼吸し、その場に座り込んだ。「遠山さんが教室を出たら、すぐ神宮寺さんが後を追いかけるように出て行った。僕、気になって……」 悠馬はしっかり覚えていた。龍が「クラス委員を飛鳥に押しつけよう」とクラスメイトに呼びかけた朝の時間、真宮子が靴箱で飛鳥に話しかけ、足止めをしていたこと。 先回と全く同じ状況。何か龍たちと一緒に企んでいる。 悠馬はそう直感していた。「遠山さん」 悠馬が真剣な表情で話しかける。「登下校、賑やかな道を通ってね。近道しないで」 飛鳥も真剣な表情で口を開く。「神宮寺さんと村雨くんのこと? あの人たち、何か……」 悠馬は下を向く。「僕もよく分からないけど……」 そうポツンと言って飛鳥に背を向ける。思わず飛鳥は悠馬の腕を摑んでいた。悠馬が驚いて振り返る。真っ赤な頬を見ると、思わず飛鳥は愛しさがこみあげてきた。(特進クラスなのに、みんな頭悪いよ。村雨くんの方ばかり見てる子なんか、仲良くなら
Last Updated : 2025-08-16 Read more