アマンは剣を腰に収めた。「それでよい。賢明な選択だ」 ムンー・ラット・キッス女王のおごそかな声が流れた。「何をしている。アマン。早く老いぼれを銀河の墓場に送れ」 エブリー・スタインがイケメンに似合わないヒステリックな声をあげた。すぐにキラーリ公主に顔を向ける。「姉上、このような勝手を許してよろしいのですか? 完全な国家への反逆行為です」 キラーリ公主は腕を組んだまま、一言も発しない。エブリー・スタインに顔を向けることもない。「アマン、国家反逆罪で逮捕するぞ。分かってるのか?」 アマンはエブリー・スタインの方に目も向けない。じっとムーン・ラット・キッスを正面から見つめた。「あなたとの決着は必ずつけます。ただもう少し後で」 「よかろう。一応、話しておく。私はお前のことが嫌いという訳ではない」 「それは光栄です、女王」 アマンはひと呼吸おいた。「ただし私は、あなたがサライさん母子を無慈悲に殺害したことを許すわけにはまいりません」 アマンはムーン・ラット・キッスの答えを待った。「私はひとりの少年を愛した」 ムーン・ラット・キッス女王の口調は柔らかく夢見るようだった。アマンは驚きを隠せない。「そしてサライも彼を愛した。ふたりの人間がひとりを愛することは出来ぬ」 アマンは、残忍で冷酷と云われたムーン・ラット・キッス女王の口調に例えようもない哀しみの感情を見出していた。「人工衛星型の望遠鏡。そして遠く離れた地球の音声も聴くことの出来る私の耳を使って、ずっとあの少年のそばにいた」 アマンは熱心に耳を傾ける。エブリー・スタインは憎悪の表情でムーン・ラット・キッス女王を直視している。ポケットにはセレネイ王国で使用されるオニール・フラッシュと呼ばれる光線銃が隠されている。手の中に収まる小型の銃。だが放射されるオニール光線の量を最大にすれば、一瞬で女王をこの世から消すことも可能だ。 少なくともエブリー・スタインはそう信じている。 キラーリ公主は弟が右手をポケットの中に伸ばす様子を平然と見つめている。「気の小さい少年だ。弱虫で臆病な子だ。だが必要なときには誰かのために戦うことが出来る。慈愛の心で誰かを助けることが出来る。あの少年は、強いだけの人間にはない大きな魅力を備えている。私はこの少年を自分ひとりだけのものにしたい。私に地球の少年のこ
Last Updated : 2025-09-15 Read more