天音の自信満々とした態度に、菖蒲はすっかり動揺し、声もわずかに揺らいでしまった。「要のご両親は許さないでしょうね。あなたのことを何も知らないのですよ……」「要が分かっていればいいんでしょう」天音は、菖蒲とまるで違う時代に生きている人間のように感じた。今時、結婚前に素性調査でもしろというの?天音は菖蒲と一緒にいたリビングを後にした。菖蒲にとって、天音の態度は、まるで勝ち誇っているように見え、胸が張り裂けそうだった。菖蒲は悲しみに暮れ、涙を流した。誰かが隣に座ったことにも気づかず、そして――「情けない」感情のこもっていない言葉が、隣に座っていた男の口から発せられた。錆びた刃物が石をこするような、耳障りな声だった。菖蒲はハッとして泣き止み、背筋を伸ばした。男の周りは冷気がまとわりつき、瞼の下には青黒く、冷たい白い肌には病的な陰りが差していた。こちらを射抜く視線は氷の棘で肌を削るようで、菖蒲は背筋が凍りついた。20年以上も彼と共に過ごしてきた菖蒲だが、今でも彼の目を見ることができず、小さな声で言った。「お兄さん、彼女は要の恋人じゃない。あの二人は、遠藤家には内緒で婚約しているの」「結婚したって離婚できる。ましてや婚約など」松田大輝(まつだ だいき)は低い声で言った。「長年かけてお前を育ててきたんだ。遠藤家は、娶りたくないと言っても、娶らざるを得なくなる。安心しろ。あの女は俺が片付ける」大輝は、ロビーの外にいる天音の姿を、冷たく鋭い視線で見つめた。大輝の言葉に、菖蒲は安心した。「今夜は帰らず、ここに泊まってください。お母さんも、あなたに話したいことがたくさんあると思いますよ」天音は仕事があったため、あまり長居はできない。蛍に返事をしようとした、ちょうどその時――使用人が来て、客が来ていると告げた。蛍に会いに来たそうだ。使用人の報告を聞き、蛍はいても立ってもいられず、玄関へ向かおうとした。蛍の嬉しそうな顔を見て、天音は、きっと彼女の好きな人だろうと思った。若くて溌剌としている蛍が羨ましく、邪魔にならないよう、要の両親に挨拶をして、その場を辞した。玄関に着くと、蛍は蓮司の姿を見つけ、すぐに駆け寄った。「蓮司さん」「蛍、今夜の招待客の中に、送迎を手配した人はいるかい?」「ええ、何人かいるわよ
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