「龍一、携帯とパソコンをなくしちゃった。今夜は戻らないから、また明日ね。詳しい話はそれから」そう言ってから、龍一が何も反応しないのに気づき、天音は慌てて付け加えた。「直樹は何か伝えたいことある?」要はソファに座り、長い指をひじ掛けに軽く曲げ、静かに携帯を待っているようだった。隊長の携帯には、きっと部外秘のことがたくさん詰まっているんだろう。あまり長く借りておくわけにもいかない。「梓さんの世話もお願いね。彼女に『仕事は終わった。明後日には戻れる』って伝えてくれる?」何かがおかしい。相手の呼吸音は聞こえるのに、何も話さない。一体どうしたんだろう。電話を切り、携帯を要に返した。要は顔を上げ、天音の頬の赤い跡と擦りむいた手に視線を落とし、携帯を受け取ると言った。「ちょっと待って」「ん?」本当はすぐにでも帰りたかった。ドアのところに特殊部隊の隊員たちがずらっと並んでいて、背を向けられているから何をしているのかは見えないけれど、こちらの話は筒抜けだ。まるで監視されているみたい。さらに、要の秘書の野村澪(のむら みお)は時折顔を上げてこちらを見てくる。「救急箱を持ってきてくれ」要は澪に指示し、ソファの横に手を置いた。天音はソファに座ると、縄で手が擦りむいていることに気づいた。澪は救急箱を置いてすぐに出ていった。要は救急箱を開け、消毒綿を取り出した。「隊長、大丈夫よ、自分でできるから。ちょっとした擦り傷だし、消毒しなくても」今すぐにでもパソコンが欲しい。海翔を操っている黒幕がいるはずだ。一体誰が自分を狙っているのか、調べたい。要は消毒綿を置き、氷嚢を取り出して、天音の腫れた頬に当ててやった。ひんやりとした感触に、思わず体が震えた。顔を上げると、要の澄んだ瞳と、彼独特の墨の香りが鼻をかすめた。天音は視線を落とし、氷嚢に手を添えながら言った。「ありがとう、隊長」要が氷嚢に触れた指先の温もりは、天音が手を重ねた瞬間に消えてしまった。「ああ」要は執務机に戻ると、澪と他の二人の男性秘書が、すぐに書類を机の上に並べ始めた。深夜だというのに、要はすぐに仕事に戻った。天音は傷を消毒し、絆創膏を貼った。ゴミを片付けて帰ろうとすると、部下が新しいパソコンと携帯を持ってきてやった。天音は少し驚いて要を見ると、
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