しかし、次の瞬間何を思ったのか天音は突然要を突き放し、ベッドから起き上がると、転がるようにして床に降りた。要は驚いて天音を支えようとしたが、彼女はするりと腕の中から抜け出してしまった。要は慌てて明かりをつける。光に目が慣れると、天音がふらつきながらウォークインクローゼットに入っていくのが見えた。天音が戻ってきたとき、要の落ち着いた漆黒な瞳に、きらりと光が宿った。天音が要の方へ歩み寄ってきて、大きなベッドの上に乗り、彼の目の前でひざまずく。天音が要の左手を取り、結婚式のときに彼が用意した指輪をその薬指にはめると、小さな声で言った。「誓うよ」天音は太陽のように明るく、そして穏やかに微笑んでいた。その潤んだ瞳が、まっすぐに要の心を射抜いた。その笑顔につられて、要の心は抑えきれずに高鳴った。天音は本当に綺麗だった。透き通るような白い肌に、優しい眉、太陽のような瞳にすっと通った鼻筋に赤い唇。化粧を落としたばかりで、こめかみにはまだ水滴が残っていて、まるで大切に育てられたチューリップのようだった。この手で慈しみ、咲かせたいチューリップ。天音は、化粧品店での自分の独り言を聞いていたのだ。自分は言った。「俺も指輪をするべきだったな」と。要は天音を抱きしめた。彼は声をぐっと低くして言った。「では、新郎は新婦にキスを」「うん」二人はキスを交わし、長く疲れた一日に終わりを告げた。……「要の就任まで、残り11日。今日のパーティーでも、彼は盛大に歓迎されていた。就任はもう決まったも同然だだろう。俺の力では、もう要を止められない。だが……」洋介は机の上の一枚の写真を手に取る。それは以前、天音が二股をかけているという噂が広まったときのものだった。天音は想花に何かあったと思い込み、要と共に記者会見に臨んだ時の写真。「この女を人質にして、要に自ら辞退するよう脅すんだ」洋介は天音を指さしながら言う。「今日の離婚届を流したのは俺だが、ここまで話を大きくしたのは要の部下のおかげだ」洋介は冷たく鼻で笑った。「要は自ら弱点を差し出した。まったく、自信過剰な大馬鹿者だよ」「部長、野村さんと連絡がつきません。調べたところ、野村さんはすでに拘束されているようです。彼女が我々のことを売るのでは?」「俺は
続きを読む