如月雅。高校時代、クラスのマドンナだった人だ。……やっぱり。律の周りには、ああいう女性が絶えない。-「律さん……って、呼んでもいいかな。これ、お昼にと思って。うち、レストランのチェーンをやってるんだけど、これはうちの五つ星シェフが作ったの。今までずっとお仕事だったでしょ、まだ何も食べてないんじゃないかと思って」律がパソコンの画面を見つめたまま自分を意に介さない様子なのに気づき、雅はもう一歩前に出た。「叔父の診察、ありがとうございました。おかげさまで、叔父もすっかり良くなりましたの」「如月さん。それで、予約を取ったのは診察目的じゃないと?」男の声は、温度というものが一切感じられなかった。顔を上げたその漆黒の瞳の奥に、冷たい光が広がる。「診療枠を無駄にして、本当に診察が必要な患者さんの邪魔をする。次はありませんよ。もし同じことをすれば、松崎第一総合病院のシステムがあなたを三ヶ月間ブラックリストに登録します」「えっ……わ、私は……」雅は、律が高校時代のよしみも忘れたかのように、これほど無情な態度に出るとは思っていなかった。「律さん、私はただ、お礼にランチを届けにきただけで……」律は立ち上がり、腕時計に目を落とす。雅が午前の最後の患者で、もう終業時刻だった。「如月さん、俺はあんたにそういう気はない。今後、ここで時間を無駄にするのはやめてくれ」その拒絶は、あまりに端的だった。雅を見つめるその目は、まるで道端の石でも見るかのように、他人行儀で冷え切っている。言い放つと、律はさっさと診察室を出て行った。恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら診察室を出ると、雅はナースステーションの看護師たちと鉢合わせになった。彼女たちのひそひそ話が耳に入る。「これで何人目かな、診察を口実に柏木先生にアタックしにきた人」「柏木先生って、一体どういう人がタイプなのかしらね」「ちょっと、あんたも狙ってるとか言わないでよ」「まさか!遠くから見てるだけで十分だって。高嶺の花すぎるもの」-雫はちょうど娘を連れて、堂島主任の診察室から出てきたところだった。三階の薬局で薬を受け取った後、娘の手を引いてエスカレーターへと向かう。杏はこういう動く階段が苦手だった。少し感覚が過敏なところがあって、次々と現れては消えていくステップを怖がり、いつ
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