「叔父さん、僕たちもお花見に行こうよ」女の、あからさまに自分を避けていくような後ろ姿を目で追いながら、律は眉間に皺を寄せ、内心に燻る焦燥感を抑えつけた。「行かない」「えー、でも僕、見たいよぉ」律は湊のぽっちゃりとした肩を掴み、その身体をくるりと後ろに向かせた。「お前、二号館でお菓子を買いたいんじゃなかったのか?あっちにはお菓子がいっぱいあるぞ」湊はぺろりと唇を舐め、食い意地には勝てなかったらしい。「……じゃあ、そっちにする」相手がこれほど線を引きたがるのなら、それでいい。そう律は思った。元々、自分たちの間にたいした関係なんてありはしない。医者と、患者の家族。ただそれだけだ。確かに、彼女には少し興味があった。どこか、知っているような……そんな感覚があったし、見た目も悪くない。だが、向こうには夫も子供もいて、自分に対してはっきりと壁を作っている。そんな相手に、これ以上自分から関わっていく意味があるのか。「親しくない」、か。……その通りだ。元より、親しくなどない。二号館にたどり着くと、そこは菓子類が集められたフードエリアだった。百以上もの小さなブースが軒を連ね、様々なスナックや土産物が売られている。値段は外の倍以上はするが、子供を連れた親の多くは、その要求に結局は応じてしまう。今どき、子供の楽しみを無下に奪うような野暮な親はそういないのだ。特に、この世代の親は。律は湊のスマートウォッチにニ千円をチャージしてやると、好きなものを自分で買うように促した。「叔父さん、アイス食べたい」律が眉をひそめる。だが、彼が何か言う前に、湊が大げさな身振りで額の汗を拭ってみせた。「叔父さん、今日すっごく暑いよ。汗もかいちゃったし、アイス食べてもいいでしょ?」律が仕方なさそうに頷くのを見て、湊はぱっと顔を輝かせると、カウンターに向かって背伸びをした。「おばちゃん、アイス四つください!僕はイチゴ味!叔父さんは何がいい?」男の子はこてんと首を傾げて、律を見上げた。律は「俺はいらない。三つでいい」と答えた。「じゃあ、叔父さんの分は僕が食べてあげる!」湊はそう言うと、スマートウォッチで雫に電話をかけた。電話に出たのは杏で、湊は彼女に好きな味を訊ねている。「おばちゃん、ピスタチオのソースのやつ、二つ追加で!」店員
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