トレンドを席巻していたその話題は、夕方、雫が帰りの地下鉄に乗る頃には、もう検索しても出てこなくなっていた。あの写真も、ネット上から跡形もなく消されている。雲の上の人々は、そのプライベートな生活を覗き見されることを、決して許さないのだ。それからしばらく、雫の生活には穏やかな時間が流れていた。ある日の午後、買い物から帰ると、階下に住むフミさんの部屋で水道管が壊れ、別の隣家の息子だという青年が直しに来ていた。すっきりとした顔立ちの、感じの良い男性だった。雫は会釈し、ちょうど買ってきたばかりの果物の中からいくつか取り分けて、彼に「お礼です」と手渡した。青年が帰っていく。その背中を見送ったフミさんが、ずいっと雫ににじり寄り、その手を両手でむんずと掴んだ。「ねえ、あんた。さっきの、鈴木さんちの息子さん。市立第六中学校で歴史の先生やってるの。今年で27歳、あんたと同じじゃないの」雫の眉がぴくりと動く。フミさんが何を言いたいのか察して、苦笑いを浮かべるしかなかった。「フミさん、うちにはもう六歳になる娘がいるんですよ」「あら、平気よ。あの子だってお母さん一人に育てられたんだから、そんなこと気にしないわ。それに鈴木さん、すごく考え方が柔軟な人でねえ。この間もダンスのお相手を新しく見つけたって喜んでたくらいなんだから。それにねえ、さっきあの子、あんたのこと何度も見てたよ。まだ若いうちに、自分の幸せもちゃんと考えなきゃ。あたしが見たところ、鈴木くんは真面目でいい子だよ。お仕事だって、先生なんて立派じゃないの」フミさんは、心の底から諭すように言った。雫はフミさんの肩をそっと押し、ソファに座らせると、自分はキッチンへと向かい、買ってきたばかりの果物を洗い始めた。しかし、お節介焼きの老婆は、そう簡単には引き下がらない。すぐにキッチンまでついてきた。「あんたがお見合いする気がないなら、それでもいいんだよ。ただね、あたしには少し蓄えがあるんだ。杏ちゃんの手術のために、まずそれをお使い。あたしに借りたと思えばいいじゃないの」雫は、フミさんが心の底から自分たちのことを心配してくれているのだと、痛いほどわかっていた。胸の奥が、じんわりと温かくなる。「お気持ちは本当に嬉しいです。でも、今年のボーナスが出れば手術代はなんとかなるんです。だから、フミさ
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