All Chapters of 無視され続けた妻の再婚に、後悔の涙: Chapter 521 - Chapter 530

764 Chapters

第521話

竜也は破顔した。「そして、先輩としてのアドバイスな。夫婦ってのはさ、遊び心がないとダメなんだよ。そうじゃないと、そのうちただの『家族』になっちまって、ドキドキもときめきも消え失せる。愛し合ってる二人がそれでいいわけないだろ?だから俺は、いつまでも二人の鮮度を保つ努力をしなきゃって思ってるんだ」悠人は、まるで新たな真理に触れたかのように深く頷いた。「なるほどな」竜也は根っからの話し好きで、一度話し出すと止まらない。「それに今の祥衣はさ、もう俺なしじゃ何もできないんだぜ!」その言葉に、悠人は強く興味を引かれた様子を見せた。「お前なしじゃ何もできない?」「そうなんだよ」竜也は鼻高々と胸を張った。「昔はこんなに甘えてこなかったんだけどな。知らなかったろ?今じゃ何を食べるか、何を使うか、家のことは全部俺が管理してるんだ。家の中で何か見つからないと必ず俺に聞いてくるし、週末に俺が買い物に出れば、10分おきに電話がかかってきて家のことを聞いてくる始末さ。見てみろよ、俺がいなきゃ靴下ひとつ見つけられないんだから」悠人は感心したように溜息交じりに言った。「竜也、お前すごいな」リビングの向こうでは、祥衣から竜也ののろけ話を聞かされていた智美が、思わず吹き出してしまっていた。今の女性たちは、昔とは違う。自分で稼ぐ力があるのだから、家で良妻賢母の枠に収まる必要はないと考えている。かつての有能な男性たちがそうしたように、家事を一手に引き受けてくれる優しい夫を見つけ、妻が外で稼ぎ、夫が家を守る――そんな結婚の形を選ぶ者も増えた。ただ、この形の結婚を本当にうまく築けるカップルは稀だ。男性の多くはプライドが高く、妻が自分より優れていること、あるいは稼いでいる事実に耐えられない。一方で女性も、自分が大黒柱でありながら夫の自尊心までケアしなければならず、心身ともに疲弊してしまう。喧嘩が絶えなくなり、最後には破局を迎えるケースも多い。その点、竜也は賢い。心の持ちようが実に巧みだ。家のことを完璧にこなすことで、祥衣を「彼なしではいられない」状態にさせたのだから。男が「ヒモ」として生きるにも、それ相応の実力がいるということだ。食事を終え、智美と悠人は夜風に吹かれながら家路についた。静寂の中、悠人が不意に口を開いた。「実は
Read more

第522話

智美はまるで新大陸でも発見したかのように目を輝かせ、悪戯っぽい笑みを浮かべて彼をからかった。「じゃあ、これから仕事が終わったら事務所まで迎えに行って、早く帰ってきてもらって、一緒に過ごす。それもいい?」かつての悠人は、自他共に認める仕事人間だった。しかし今の彼にとっては、仕事で得られる達成感よりも、妻と過ごす時間のほうが遥かに尊く、代えがたいものになっていた。「もちろんだ」二人は甘やかな空気を纏ったまま帰路についた。しかし、自宅の前に到着した二人の目に飛び込んできたのは、目を真っ赤に腫らして立ち尽くす珠里の姿だった。その様子は、まるで迷子になった子供のようで、痛々しいほど心細げに見える。智美と悠人は表情を引き締め、互いに視線を交わした。――珠里が、いじめられた?智美は悠人と繋いでいた手を離すと、一歩踏み出し、優しく珠里に問いかけた。「珠里、どうしたの?」珠里はがっくりと首を垂れ、大きなショックを受けているようだった。その姿を見た智美は、悠人に向かって言った。「先に帰ってて。私、彼女を下の部屋に連れて行って、二人で話すから」「分かった」智美は珠里を促し、所有している階下の部屋へと連れて行った。そこは十分に静かで、智美以外の誰もいない空間だったためか、珠里の張り詰めた感情も少しずつ落ち着きを取り戻していった。智美はティッシュを取り出して珠里の涙に濡れた顔を丁寧に拭い、冷蔵庫から取り出した牛乳を電子レンジで温めてから手渡した。「まずはこのホットミルクを飲んで。それから、何があったのか話してくれる?」珠里は素直に頷き、牛乳を一口飲んだ。温かい液体が胃に落ちると、強張っていた体がふっと緩み、少しだけ楽になった気がした。彼女はぽつりぽつりと、自身の身に降りかかった出来事を語り始めた。「母が頻繁に電話をしてきて、羽弥市に帰ってこいって言うんです。私が帰りたくないって拒否したら、クレジットカードを止められてしまいました。でも、私は自分で働いているし、インフルエンサーとしての収入もあるから、自分ひとりで生活することはできます。それでも母は、私が大桐市にいることを許してくれませんでした。二日前の電話では、『帰ってこないなら縁を切る、もう母親だと思うな』と脅されたんです。あまりのプレッシャーに耐え切れず、一度帰ってきちん
Read more

第523話

世の中には、生まれつき子供を無条件に愛せる親がいる。その一方で、子供を愛さず、ただの道具としてしか見ない親も存在するのだ。後者の事実を認めるのは、身を切られるほどに心が痛むことだ。しかし、この冷徹な事実を直視できなければ、これからの人生はさらに悲惨なものになってしまうだろう。珠里は、あの生理的嫌悪感を覚える男の顔を思い出し、胸の奥底からふつふつと勇気が湧き上がってくるのを感じた。「いいえ、絶対に言いなりになんてなりません。あんな恐ろしい結婚なんて、死んでも嫌です」智美は彼女の手をぎゅっと握りしめ、その決意を支えるように言った。「そう、それでいいのよ。間違った結婚に慌てて飛び込むなんて、本当に愚かなことだから!一度結婚してしまえば簡単に離婚できるなんて思っているかもしれないけれど、はっきり言うわ。それはすごく難しいことなの、珠里。あなたと結婚したら、自分好みに扱える『所有物』だと思うような男もいる。そういう人たちは、あなたを愛さないし、尊重もしてくれない」智美自身の脳裏を、かつての祐介との結婚生活がよぎる。あれは、まさしく人生最大の過ちだった。珠里に同じ轍を踏ませるわけにはいかない。「しばらくここに泊まりなさい。悠人と相談して、しっかりとしたボディガードをつけるから」珠里は頷いたものの、不安げな表情は晴れない。「智美さん、羽弥市での結婚式、私たぶん行けません……」「大丈夫よ」智美は優しく微笑んだ。「今は羽弥市に帰るのが怖いでしょう?その気持ちは分かっているから」珠里を慰め、落ち着かせた後、智美は上の階に戻り、悠人に珠里の事情を相談した。話を聞き終えた悠人は、不快感を露わにした。「珠里の母親は本当にひどいな。珠里は小さい頃から殴られたり罵られたりしていたらしい。珠里と美穂さんは仲がいいし、兄さんたちのためにも俺たちが守ろう。ボディガードの手配は任せてくれ」岡田家の警備スタッフの多くは特殊部隊の退役軍人で構成されており、そのセキュリティレベルは広瀬家の比ではない。程なくして、悠人は白羽の矢を立てたのは――工藤勝也(くどう かつや)だ。……その頃、珠里の元には再び母親からの電話がかかってきていた。また罵倒されるのが怖くて、彼女は思い切って通話を切った。ソファに座り込み、途方に暮れる。ずっと、自分
Read more

第524話

悠人は書類から顔を上げた。「工藤勝也か?確かにあいつは冷たいやつだが、腕は確かだ。警備チームの中でもトップクラスの実力者だし、珠里を守るのに何の問題もないはずだ。それに、これから俺たちは羽弥市に数日帰ることになる。俺たちが不在の間、彼がついていれば安心だろう?」智美も少し考えて、その言葉に納得した。ボディガードなんだから、やはり腕が立つことが最優先だ。愛想の良さは二の次だろう。珠里を慰めるメッセージを送ってから、智美は悠人の隣に寄り添うように座った。「でも、ずっと珠里を隠れさせておくわけにもいかないわよね。一度できっぱり解決できる方法を考えないと」悠人は思案顔で答えた。「珠里の母の性格からすると、珠里に対する考えを変えさせるのは至難の業だ。珠里が結婚すればまた話は別だが、そう簡単なことじゃない。もし珠里が母の眼鏡に適わない相手と結婚でもしようものなら、珠里の母は今以上に大騒ぎするだろうな」智美は眉をひそめた。「あんなにいい子なのに、適当な相手と結婚させるなんて絶対ダメよ。他の方法を考えなきゃ」悠人は手元の書類をサイドテーブルに置くと、彼女の腰を引き寄せ、その白いうなじに口づけた。「どの家にも、他人には計り知れない事情があるものさ。とりあえず今は、珠里を母親の脅しから守ってやればいい。あの親子の確執を根本から解決するなんて、ほぼ不可能に近いからな」智美は小さくため息をついた。「でも、珠里がこんな目に遭ってるのを、ただ見ているだけなんて辛いわ……」「珠里自身も成長して、自分の人生を自分で決められるようにならなきゃいけないんだ。彼女が強くなれば、彼女の母だって手出しできなくなる。汐里みたいにな。汐里さんには何も言えないだろう?」悠人の言葉に、智美は無力感を覚えつつも頷くしかなかった。「珠里がすぐにそんな強い性格になれるわけはないし。一歩ずつ、様子を見ていくしかないわね」羽弥市での結婚式の日取りが近づき、明日香から二人へ帰郷を促す連絡が入った。智美と悠人は手元の仕事を整理して引き継ぎを済ませると、飛行機で羽弥市へと向かった。空港まで迎えに来てくれたのは和也だった。以前、病院で会った時の憔悴しきった様子と比べ、今の和也はずっと顔色も良く、活力が戻っているように見えた。「忙しい二人がやっと帰ってきたな!」和也は朗らかに笑って言った
Read more

第525話

智美は小さく頷き、義母と共に二階へと上がっていった。広々としたリビングには、和也と悠人の兄弟だけが残された。和也は不意に何かを思い出したように口を開いた。「そういえば、前に洋城支社の社長の夏井が本社に報告に来たとき、結婚したと聞いたよ。それにお前の結婚式にも出席するそうだ。悠人、あいつまだお前に未練があるみたいだぞ!」「そうか?」かつて噂になった加恋の話題が出ても、悠人は眉ひとつ動かさず、冷淡なままだった。和也は笑いを堪えきれない様子で続けた。「あいつは能力はあるんだが、性格がひねくれててな。それにしても、お前はモテすぎだろ。これじゃあ、これから智美さんが嫉妬して大変なんじゃないか?」兄のその言葉を聞いて、悠人はふとある事実に思い至った。そういえば、智美が自分のために嫉妬心を露わにするところを、一度も見たことがない。一瞬の寂しさが過ったが、彼はすぐに思考を整理し、静かな自信と共に答えた。「俺は誠実だし、他の女とは適切な距離を保っている。妻は俺の人柄を信頼してくれているから、嫉妬する必要なんてないんだ」和也は、弟がまさかこれほど堂々と自分を褒めるとは思わず、苦笑いした。「はは、お前も言うようになったな。まあいい、これ以上冷やかしてもしょうがない。俺は美穂ちゃんのところに行くよ」和也が去った後、悠人は二階へと足を運んだ。そこでは、明日香が智美と新婚夫婦の部屋の模様替えについて楽しげに相談しているところだった。智美は明日香の言葉に優しい表情で耳を傾けており、その姿はとてもリラックスして見えた。悠人は静かに彼女を見つめながら、胸の奥から湧き上がる穏やかな幸福感を噛み締めた。本当に良かった。智美と結婚して、これから生涯を共に歩んでいけることが。その後、智美は明日香に連れられてウェディングドレスの試着やアクセサリーの選定を行い、さらには上流階級の夫人たちが集うお茶会に参加することになった。明日香と親しい数人の夫人たちは、好奇心と品定めをするような目で智美を観察していた。そこに嫉妬がないと言えば嘘になる。悠人は名門・岡田家の中でも稀に見る誠実さと優秀さを兼ね備えた男性だ。どの家も、隙あらば自分の娘を悠人に嫁がせたいと願っていた「優良物件」だったのだ。それなのに、どこの馬の骨とも知れぬ、平凡な家柄の女に玉の輿に
Read more

第526話

「あら、ピアノの先生なのね」千代子は、まるで家政婦を見るような眼差しを智美に向けた。「長男のところの心美(ここみ)が、ちょうど楽器を習う年頃なの。智美さんがピアノがお上手なら、心美をお願いして、あなたに習わせてもいいかしら?もちろん、お月謝のことは心配しないで。うちは家庭教師には気前よく払うから、決して損はさせないわよ」それは明らかに智美を「使用人」扱いする無礼な物言いだった。智美が何か返すよりも早く、佳乃が口元に嘲るような笑みを浮かべて割って入った。「何を言ってるの、智美さんは明日香のお嫁さんよ!外で家庭教師のアルバイトなんてできるわけないじゃない。岡田家も、そんなはした金に困っているわけじゃないんだから」千代子は、まるで今気づいたかのように白々しく手を口元に当て、申し訳なさそうな顔を明日香に向けた。「まあ、私ったら!うっかり失礼なことを言ってしまって、ごめんなさいね。ところで、智美さんはこれから悠人さんと羽弥市に戻って、家庭に入って夫を支え、子育てに専念なさるんでしょう?だって悠人さんはもう長い間大桐市にいらしたんだから、そろそろ本家に戻ってくる頃合いよね?」明日香は優雅に微笑み、智美の代わりに答えた。「子供たちの将来や生活スタイルについて、私は口出ししないことにしているの。すべて自分たちで決めさせるわ。悠人は大桐市で弁護士を続けたいと言っているし、智美もあちらで音楽の先生を続けたいと言っている。二人がそれを望むなら、とても良いことだと思っているの。無理に変える必要はないわ」「まあ、明日香さん、本当に悠人さんを外に出したままにしておくおつもり?」千代子は、心底心配だと言わんばかりに眉を寄せた。「岡田家の事業はこんなに手広いのに、和也さん一人じゃ手が回らないでしょう?悠人さんも戻って手伝うべきじゃないかしら。弁護士の仕事なんて、数年お遊びでやれば十分でしょう。跡取りが一生やる仕事じゃないわ」彼女は再び智美に視線を戻し、説教めいた口調で言った。「智美さん、分かっていないようだけど、岡田家に嫁いだら、あなたは『岡田家の顔』になるのよ。一挙手一投足が世間に注目されるんだから。女性として一番大切なのは、家に入って夫を支え、子供を産み育てて、義理のご両親に孝行することよ。あなたが外で働いていたら、家のことは誰が見るの?
Read more

第527話

明日香は余裕の笑みを浮かべて返した。「私は元気だから、まだ世話なんて必要ないわ。若い人たちには、それぞれの形で幸せに暮らしてほしいだけよ」「まあ、あなたのようなお姑さんに当たった人は本当に幸せね。残念ながら、うちの汐里も珠里もそんな幸運には恵まれそうにないわ!」佳乃は嘆いた。千代子は薬を飲み干すと、おとなしく控えていた梨沙子に器を渡し、話を続けた。「汐里ちゃんは有能だから、将来会社に欠かせない人材になるでしょうね。いっそ婿養子を取ってもいいくらいだわ。でも、珠里ちゃんはそうはいかないわよ。もういい年なのにあちこち遊び回って……これからどうやって嫁に行くつもりなの?」佳乃も憂いを帯びた表情を作って言った。「あの子は本当に何も分かっていないのよ。でも、もう相手を見つけてあるの。矢島家の次男で、うちの珠里にとても熱心なのよ。今は二人がうまくいくかどうか様子を見ているところ。もしうまくいけば、岡田家の結婚式が終わったら、続けてうちの珠里も式を挙げられるわ!」その場にいて、ずっと沈黙を守っていた美穂の母親である典子が、眉をひそめて口を挟んだ。「でも、矢島家の次男といえば……珠里ちゃんの父親になれるくらいの年齢よ。いくらなんでも歳が離れすぎているわ」佳乃は「何も分かっていない」と言わんばかりに笑った。「分かってないわね。珠里の容姿は、美穂とは違うのよ。それに頭も悪いから、少し年上で、経済力と能力のある人を見つけないと、一生誰にも面倒を見てもらえないでしょう」それでも、典子はやはり納得がいかない様子だった。「でも、珠里ちゃん本人の意見を聞かないと……」佳乃は鼻で笑い飛ばした。「私が腹を痛めて産んだ娘なんだから、私が『この人と結婚しろ』と言えば、その通りにするしかないのよ!」智美は横でその会話を聞いていて、胸が締め付けられる思いだった。ますます珠里の境遇に同情せずにはいられない。こんなにも横暴で理不尽、子供を所有物としか思っていない母親の元にいたら、珠里の人生は闇に閉ざされてしまうだろう。彼女が大桐市に留まり、頑なに帰りたがらないのも無理はない。千代子が、佳乃を援護射撃するように言った。「私も、珠里ちゃんが矢島家の次男と結婚するのはとても良い縁談だと思うわ。矢島家の長男は体が弱いから、数年後には当主の地位を次男に譲るでしょうね。珠里ちゃんが彼
Read more

第528話

智美は夫人たちの退屈な会話に興味が持てず、明日香や典子、そして別の夫人に誘われるまま、部屋の隅で麻雀卓を囲んでいた。手元の牌をどう扱うか悩み込んでいたため、個室のドアが開いたことにすら気づかなかった。明日香が苦笑しながら注意した。「智美、また上の空で打たないでね。また負けちゃうわよ」智美は麻雀に関してはからっきし才能がないため、返す言葉もなく曖昧に笑うしかなかった。牌を捨てようと手を伸ばしたその時、背後からすらりと伸びた男の手が彼女の手首を押さえた。「智美さん、その牌を捨てちゃダメだよ。ほら、こっちを出すんだ」男の長身が背後から覆いかぶさるように密着し、耳元で磁力を帯びたような低い声が響く。智美は反射的に不快感を覚えた。見知らぬ男が、このように距離感なく馴れ馴れしく近づいてくるのは好きではない。しかし、彼女がその不快感を露わにする前に、男はすでに体を離していた。智美は結局、男の助言に従って別の牌を捨てた。すると、対面の典子が嬉しそうな声を上げた。「あら、ロンよ!」別の夫人が冗談めかして言った。「まあ、清都さんは典子さんのスパイだったのかしら?」明日香が困ったように眉を下げて笑った。「本当ね、また可愛いお嫁さんを負けさせちゃったわ!」智美はそこで初めて、先ほど背後にいた男が、千代子の末息子であることを知った。清都は興味深そうに智美を一瞥してから、人好きのする笑顔で夫人たちに挨拶をした。「今日はお茶を一杯いただきに来ました。お邪魔じゃないですよね?」「とんでもないわ」彼が根っからの遊び人で、婿には到底向かないと分かっていても、清都は容姿端麗な上に口が達者なため、その場の夫人たちは皆、彼を憎からず思っているようだった。明日香が智美に耳打ちした。「彼は和也や悠人とあまり仲が良くないの。今日彼に会ったことは、悠人には言わない方がいいわ」智美は不思議に思い、小声で尋ねた。「どうしてですか?」明日香は声を潜めて説明した。「以前、彼が美穂を追いかけ回したことがあったんだけど、うまくいかなかったの。その後、腹いせに悠人の名前を勝手に使って何人もの女の子をもてあそんで……悠人がその件で彼を訴えたことがあるのよ」智美は眉をひそめた。「じゃあ、相当タチが悪いんですね」「ええ。あの件で清都も痛い目に遭
Read more

第529話

智美は嫌悪感を露わにして彼を押し退けた。「無礼なことはやめてください」「何をそんなに猫被ってるんだ?」清都は鼻で笑った。「名家に嫁いだのは金目当てなんだろう?まさか愛のためだなんて言わないよね。悠人は面白みもないし堅苦しいし、君みたいな賢い女性を満足させられるわけがない。彼の前で清純ぶるのは勝手だけど、僕の前ではその必要はないだろう?実は君のこと、結構気に入ったんだ。僕たち、内緒で付き合わない?彼には知らせなければいいだけのことだ。どうだ?」彼は智美をじっと見つめていた。まるで罠にかかった獲物を楽しむ狩人のような目だった。智美の胸の奥から、強烈な不快感が込み上げてきた。「あっちへ行って!気持ち悪いわ」彼女は容赦なく言い放った。清都は一瞬驚いた表情を見せた。彼女が自分の誘いを断り、全く面子を立ててくれなかったことが意外だったのだ。しかし、狩りに慣れた彼は、従順な女よりも個性的な女を好む。突然、目の前の智美がさらに面白く思えてきた。「智美さん、結婚なんてものは所詮つまらない制度だよ。長年同じ人間と一緒にいるなんて、退屈極まりない。今はお金のために悠人と一緒に食事したり、愛し合ったりできるだろう。でも時間が経てば必ず飽きが来る。違う人間と遊んでこそ、人生にスリルや情熱が得られるんだ」智美は冷ややかに鼻で笑った。「精神科に行った方がいいと思いますよ」「何だって!」清都は、自分が軽蔑されたことを悟り、不機嫌さを露わにした。「結婚なんて人間の本能に反する制度だよ。僕の言っていることは間違っているか?人間が生涯たった一人の人間を愛し続けるなんて、本当に可能だと思う?」「ええ、本当に医者に診てもらった方がいいですよ。長期的で安定した関係を築けないのは、立派な病気なんです。セックス依存症も病気です。手遅れになる前に治療してください、いいですか?みんながあなたみたいに病んでいると思わないでください!」智美は一気にまくし立てると、その場を立ち去ろうとした。だが、清都が彼女の手首を乱暴に掴み、離そうとしない。智美は最初から警戒していたため、迷うことなく隠し持っていた防犯スプレーを彼の顔に向けて噴射した。「うわぁっ!!」完全に油断していた清都は、目を強烈な痛みに襲われ、悲鳴を上げて智美の手を離した。両手で目を押さえながら
Read more

第530話

智美は涼やかな笑顔で返した。「いくら稼げるかに関わらず、私は外で働きたいんです。それが私の生き甲斐ですから」明日香も助け舟を出して話題を変えた。「もういいじゃない、この子のことは。恥ずかしがり屋なんだから!それよりさっき、高瀬(たかせ)さんの娘さんが結婚するって話じゃなかったかしら?」話を向けられた高瀬夫人は、明日香の顔を立てて笑顔で応じた。「ええ、来月なの。娘が海知市の稲垣(いながき)家の長男と結婚するのよ。皆さん、ぜひ披露宴にいらしてね」皆はようやく高瀬家の婚礼の話題で盛り上がり始めた。十五分後、梨沙子が息を切らして目薬を買って戻り、丁寧に清都に差し出した。清都はそれを軽蔑したようにひったくると、封も開けずにソファへ放り投げた。彼は義姉の梨沙子を見下していたが、梨沙子は何も言わず、ただ黙って耐えるように脇に立っていた。梨沙子の実家は、極端な男尊女卑の家庭だった。両親は跡取りである息子を育てることだけに熱心で、娘の梨沙子はただの見栄えの良い「お飾り」として育てられた。かつて梨沙子が外で働きたいと願ったのも、両親に政略結婚の道具として利用されたくなかったからだが、結局彼女はこの運命から逃れることはできなかった。結婚後、千代子はさらに彼女を見下し、「気概がなく主体性がない」と決めつけ、事あるごとに虐げていた。夫も、夫の家族である兄弟姉妹も、誰一人として彼女を対等な人間として扱わなかった。梨沙子自身も、それに慣れきってしまっていた。利害関係だけで結ばれた結婚に、温情などというものを求めること自体が滑稽だと悟っていたからだ。智美は横目でその様子を見ていて、梨沙子のことが不憫でならなかった。お茶会がお開きとなり、明日香は智美を連れて帰路についた。静かに走る車の中で、明日香は労わるように智美に言った。「今日は疲れたでしょう。あの奥様たちの話を聞いて、きっと気分を害したんじゃない?」智美は少し考えてから、やはり正直に話すことにした。「そうですね。正直、皆さんの話し方が辛辣すぎると感じました。お義母さん、普段あの方たちとお付き合いするのは、さぞ大変でしょう?」智美は心からそう思った。明日香のように上品で度量が広く、思慮深い女性が、あの俗物的な夫人たちと同じ空気を吸っていること自体が不思議でならなかった。明
Read more
PREV
1
...
5152535455
...
77
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status