智美はその二人に見覚えがあった。菜々子――芸術センターで自分を盗撮していた元アシスタント。そして雛子。以前、瑞希の後ろに控えていたあの女性だ。まさか、裏で糸を引いていたのは、彼女だったのね……智美は瞬時に察した。菜々子が自分を執拗に追っていたのは、雛子の指示だったのだろう。隣にいた祥衣も菜々子の存在に気づき、眉をひそめた。「あら、あの子……前にあなたを隠し撮りしていた子じゃない?」菜々子は智美たちの視線に気づくと、借りてきた猫のように硬直した。挨拶もできず、気まずそうにうつむくだけだ。対照的に、雛子は堂々と歩み寄り、余裕を湛えた笑みを浮かべた。「ごきげんよう、智美さん。またお会いしましたね」以前会った時とは纏う空気がまるで違う。その瞳の奥には、どす黒く渦巻いていた。智美は軽く会釈を返しただけで、それ以上言葉を交わすつもりはなかった。しかし、雛子は逃がさないとばかりに声を弾ませる。「さっき、智美さんが隣のショップに入っていくのを見かけたんですよ……岡田さんと、ご結婚されるんですか?」智美は短く頷いた。「へえ、岡田家のような名門に嫁ぐのなら、ドレスは当然オートクチュールだと思っていました。あのお店、随分と質素な佇まいではありませんか?」雛子の言葉には、隠しきれない好奇心と微かな嘲笑が混じっていた。智美は淡く微笑んで返した。「誰かと優劣を競うつもりはないわ。ドレスがオートクチュールかどうかなんて、私にはどうでもいいことだから」それだけ言い残すと、智美は祥衣の手を引いて足早にその場を去った。二人の背中を見送りながら、菜々子が姉に尋ねた。「智美さんの彼氏って、ものすごい資産家なんでしょう?なぜドレスであんなに節約しているの?」雛子は何かを思い出したように鼻で笑った。「前にね、ネットで祐介さんが書いた日記を見たことがあるのよ。智美さんとの日々が綴られていたけれど……あの人、本当に救いようのないお人好しだわ。いつだって男に財布を開かせることを知らない。せっかく岡田家の御曹司を捕まえても、金を使わせないんじゃ意味がないじゃない。男の金はね、妻が使わなければ、必ず他の女がその果実を掠め取っていくのよ」菜々子は感心したように頷く。「一度痛い目に遭ったのに、また同じ過ちを繰り返すなんて。本当に学習しない人なのね」
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