Semua Bab 深き想いを抱き、薄き冷たさへ: Bab 11 - Bab 20

すべては、西洲の予想通りに進んでいた。彼がその場を去るや否や、月綺は露骨に焦りを見せた。「あの小娘はどこに行ったの？まさか本当に精神病院で死んじゃったんじゃないよね？」月綺は声を潜め、歯ぎしりしながら沢樹に詰め寄った。「沢樹、ちゃんと教えなさいよ。涼音が倒れたあとのこと、すぐに死体を処理したでしょうね？」沢樹は泣き出しそうな顔で答えた。「今は真っ昼間だよ？人通りだって多いのに、どうやって死体を捨てろっていうの！それなら警察に自首したほうがまだ早いって！」「じゃあ、あの小娘の死体、本当にこの病院にあるってわけ？」月綺の声は、今にも崩れ落ちそうだった。沢樹はしぶしぶ頷く。「はい、9号密室に隠してる……」「この馬鹿！なんで死体なんか隠すのよ！」月綺は怒りで声を荒らげた。「彼女が病院の入口で死んだなら、そのまま放っておけばいいのよ！自殺に見せかければ、私たちには何の関係もないじゃない！それをわざわざ密室に隠すなんて……犯人は私たちですって自白してるようなもんじゃない！もし西洲に死体を見つけられたら……あんた、どう説明するの？どうするつもり？」沢樹も半泣きで呟く。「だって、まさか西洲があんなに早く来るなんて思わなかったんだよ……病院の入口に死体が転がってたら、いろいろまずいだろ？警察呼ばれたらもっと大変だし、だから急いで死体を動かしたほうがマシかと思ったんだ……」「このバカ！まだ言い訳する気？」月綺は地団太を踏んだ。「警察が来たら何よ！私たちが殺したわけじゃないんだから、堂々としてればいいじゃない！」沢樹は心の中で呟いた――そりゃお前は怖くないでしょうね、どうせ手を下したのはお前じゃないから。だが問題は、特効薬がこの病院のものだということ。そして涼音にその薬を打ったのは、病院の職員だ……もし警察が本気で調べ始めたら、自分も瑞輝も、ただじゃ済まない。院長の瑞輝も、さすがにその点には気付いていた。沢樹と月綺の会話を聞いたあと、彼は冷徹かつ決然と命じた。「慌てるな、まだあと三時間ある。西洲が本気で病院をひっくり返すっていうなら、好きにさせればいい。どうせ病院を隅々まで探しても、何も見つからないさ」「院長、それってまさか……」沢樹は瑞輝の考えに薄々気付いた様子だった。瑞輝は隠すことなく、はっきりと命じた。「地下室にまだ化骨水が残

涼音は死んだ。冷たい地下室で、見知らぬ大通りで、そして西洲が結婚式を挙げるその日に。西洲は、この現実を受け入れるのに、とても長い時間を費やした。。その一方で、西洲の部下たちは、ありとあらゆる残酷な手段を用いて月綺や瑞輝らの口を割らせ、彼らがこれまでしてきたことを、余すところなく白状させた。「藤瀬社長、瑞輝は実は白石家の私生児で、月綺とは異母姉弟です。お嬢様が精神病院に入れられてから、彼は口では優しくしたと言っていましたが、実際は違います。彼らはお嬢様を地下室に閉じ込め、食事も与えず、時には水さえも……それだけではありません。電撃や暴力も日常茶飯事で、毒針まで打ち込んで……お嬢様の体は、そんな仕打ちで壊されていったのです！」ここまで聞いた時、西洲のアシスタントでさえ、もうこれ以上は耐えられないと顔をしかめた。そして静かに言った。「要点だけでいい。お嬢様がどうやって死んだか、それだけを報告して。細かいことは、もういい」彼もまた、西洲がこれ以上耐えられないのではと心配していた。だが、西洲は冷たい声で遮った。「細かいこと？なぜ報告しなくていい？それらは全て、涼音が実際に経験したことだ。俺は知りたい。彼らが涼音に何をしたのか、余すところなく、一字一句漏らさず話せ」「社長、そこまでされても……」アシスタントはため息まじりに言った。「そんなことを聞いても、ご自分を苦しめるだけですよ」そうだ。西洲は心の中で呟いた。自分を苦しめるためだけの行為だと、わかっている。だが、今の彼にできることといえば、それしかなかった。自分が大切に育てた、小さなバラが、精神病院でこんなにも傷つけられていたのだ。彼女はこの痛みを実際に味わった。自分はただ聞くだけ、それがなんだというのか。「話せ」西洲は目を閉じた。「話せ」の一言は静かだったが、そこには雷鳴の怒りがこもっていた。誰も、もう逆らえなかった。部下は、淡々と事実を告げた。「お嬢様のベッドには、時々釘がまき散らされていました。その上に無理やり寝かせられ、起き上がることも許されず、地下室には何日も閉じ込められ、食事も与えられませんでした。飢えて意識が朦朧とした頃、今度は犬の餌を床にぶちまけ、それを食べさせて……実は、社長がお嬢様を迎えに行った時、彼女はもう限界でした。彼らは精神病院で独自に開発した薬

西洲は、最初から涼音を精神病院へ送ることには断固反対だった。自分の涼音は、何の問題もない、可憐で愛らしい娘だ。どうしてそんな場所に送れるというのか。事前に手を回して、院内でいじめられることは絶対に無いと分かっていても……やっぱり、女の子が一度でも精神病院に入ったなんて噂が立ったら、どう考えても良くない。だから、月綺がこの提案を持ち出したとき、西洲は一瞬も迷わず、きっぱりと断ったんだ。代わりに彼は条件を出した。月綺が訴えを取り下げるなら、東町の総額千億以上の価値を持つ一大プロジェクトを、白石家に譲る――それを補償とする、と。だけど、まだプロジェクトが白石家に渡る前に、月綺がまた何者かに襲撃された。その時、西洲はいつもみたいにヒーローになって彼女を救うことができなかった。月綺は重傷を負った。警察の調査によると、犯人に金を渡して襲わせたのは、またしても涼音だという。西洲は激怒した。もうこれ以上、涼音を庇うことはできなかった。「涼音、お前は本当に何度言っても分からないんだな！まったく……お前、本当に頭がおかしくなってるんじゃないか？月綺の言う通りかもしれない。お前は精神病院に入るべきだ。ちゃんとカウンセリングでも受けて、これ以上狂わないようにしてもらうんだ！」そう言って、彼はとうとう月綺の提案を受け入れてしまった。自分の手で、大切に育ててきた彼の小さなバラを、精神病院へと送り出してしまったのだ。あのとき、涼音はなんと答えたのだったか。彼女は泣いた。目が真っ赤に腫れるほど泣きじゃくり、必死に訴えた――あの二つの事件は自分の仕業ではない。確かに月綺は嫌いだが、何もしていない、自分は無実だ、と。どれだけ哀れに泣き縋られても、彼は信じなかった。涼音はもう狂っている、だからこそ何度もあのような狂気の行動に走ったのだ――そう決めつけた。今、月綺がすべてを自白した。あの時、彼女を襲わせたのも、後から傷つけたのも、全部涼音じゃなかった。全ては月綺自身の自作自演、計画通りの芝居だったのだ。あの時、自分が涼音をもう少しだけ信じていたら、部下にしっかり調査させていれば、自分の大切な小さなバラが、濡れ衣を着せられていたことに気づけたはずだ。彼女は、誰も傷つけてなんかいなかったのに。でも、西洲はそれをしなかった。「涼音、ごめん……あ

西洲が再び意識を取り戻したとき、彼は病院のベッドの上で点滴につながれていた。倒れて間もなく、部下が彼を発見し、すぐさま病院へ運び込まれたのだ。点滴や栄養剤を打たれ、命はどうにか繋がった。医者によれば、今の彼の体はとても弱っており、しばらくは静養が必要だという。だが、西洲の心は休まるどころか、むしろざわめいている。頭の中をぐるぐると占めているのは、昏倒する直前に出会ったあの女の人。あの女は本当に存在したのか？それとも、自分の幻だったのか？女の狂人は言った。「涼音は私を助けてくれた。だから私も彼女を助けたの」と。さらに彼女は、ほかにも何か言っていたはずだ。だが、激しい頭痛が押し寄せ、西洲は思わずこめかみを押さえる。元来記憶力には自信があったはずなのに、どうしても思い出せない。昏倒する直前、あの女が何を言っていたのか。ただ、それがとても重要なことだった、という感覚だけが胸に残っていた。「俺が倒れていた時、傍に黒髪ロングで、精神病院の患者服を着た女の狂人はいなかったか？」西洲は、自分を病院まで運んだ部下に尋ねる。「それと、黒縁メガネをかけていて、言動はおかしいが、眼差しはやけに澄んでいて……どう見ても頭のいいタイプだった」部下は首を振った。「いいえ、俺が行った時には社長は一人で倒れてました。頭のいい女の狂人なんて、いませんでした」だが西洲は、まるで何か思い出したかのように、目を大きく見開いた。頭のいい人……頭のいい人……「ハハハハハ！気づかなかったの？西洲、私はあなたが頭のいい人だと思っていたのに、どうして今まで気づかなかった？」あの女の狂人の声が、耳元で蘇る。西洲の瞳が揺れる。その瞬間、彼はついに最も大事な言葉を思い出した――「気づかなかったの？あれだけ時間が経っても、涼音の遺体は腐ってないこと！」「涼音！涼音はどこだ！」西洲は手の点滴を乱暴に引き抜き、ふらつきながらベッドを降りた。「涼音に会わせてくれ！今すぐ、涼音に！」突然立ち上がったため、体がついていかず、足元が崩れて倒れそうになる。けれど、西洲はそんなことどうでもよかった。壁に手をつき、這うようにして病室を出て行く。涼音！今すぐ涼音に会わなければ！あの女の狂人の言葉が本当か、確かめなければならなかった。涼音の死体は果たして、本当に腐っていな

清佳は確かに科学者だった。それも、ちょっと常軌を逸した狂気の天才のタイプだ。彼女の頭の良さは群を抜いていて、これまで数々の驚くべき発明を成し遂げてきた。しかし同時に、彼女は正真正銘の狂人でもあった。生命の神秘を追い求めるあまり、ついには人間を実験台にすることすら厭わなかったのだ。だからこそ、彼女は精神病院に送り込まれた。もっとも、彼女の知能があれば、こんな施設から抜け出すことなど造作もないことだった。だが、清佳には逃げる気など毛頭なかった。なぜなら、この場所こそが彼女の欲しいもの全てが揃う楽園だったからだ。ありとあらゆる薬品、そして正気を失った誰からも顧みられない、好きなように実験できる狂女たち。だから彼女は精神病院にとどまり、瑞輝の専属薬師となった。世間には出回らない、とんでもない効能を持つ「特効薬」を、数多く調合してやったのだ。涼音に介護士が打った「特効薬」も、まさに彼女の作品である。「ふふ、その薬は私が作ったんだもん。もちろん解毒法だって知ってるよ」と、清佳は悪戯っぽく微笑んだ。「それに、ひとつ秘密を教えてあげる。あの特効薬、命を奪うようなものじゃないよ。涼音は私の友達だし、そんな彼女を傷つけたりするわけないじゃん？むしろ、あの薬は涼音の命を守るためのものなんだ。実は、彼女はもう死にかけていた。でも私は瑞輝に嘘をついた。この特効薬を打てば、七日以内に涼音は間違いなく死ぬってね。でも本当は、薬の効果が発動するのは七日後。薬が効きだすと、涼音は仮死状態に入る。外から見れば、心臓も止まり、呼吸もなくなり、完全に死んだように見える。でも実際は死んでない。仮死状態のあいだ、薬の力で体の傷を修復するんだ。この特効薬は二本セット。一本目を打つと仮死状態に入り、体が十分に治ったら二本目を打つ。そうすれば、彼女はまた目覚める。どう？面白いでしょ？」溺れる者が流木を掴んだように、死にかけた人間が希望の光を見つけた西洲は、もう絶望の淵にいて、涼音の後を追って死のうとすら思っていた。だが今、この清佳は、涼音がまだ死んでいないと告げたのだ！自分の大切な涼音は、まだ生きている！「二本目の特効薬はどこだ？」西洲は食い気味に尋ねた。「それさえ手に入るなら、何でもする！お前が望むなら命だって差し出す！」その言葉に、清佳は呆れたように西洲を