「この特効薬を打てば、一時的に生命力は回復する。ただし効き目は七日だけ。七日が過ぎれば、間違いなく死ぬ」「急いで打ちな!藤瀬さんがもうすぐ迎えに来るんだ。とにかくうちの精神病院で死なれなきゃいい。外に出たあとどこでくたばろうが知ったこっちゃない!」戸原涼音(とばら すずね)は床で身を縮めていた。その体は止まることなく震え続け、顔色は紙のように真っ白だった。半ば死にかけた脳はもう思考を手放し、ただ目を見開いたまま、介護士たちが自分の生死を論じるのを聞いていた。冷たい液体が血肉に溶け込む。全身が激しく痙攣し、やがて長い時間ののち、ようやく静けさが戻った。介護士たちは顔が冷え切っていた。彼らは涼音の足をつかみ、ずるずると引きずって、こざっぱりと温かみのある病室に放り込む。まるで、最初からここが彼女の病室だったとでも言うように。けれど、真実は違う。今日この瞬間まで、彼女がいたのは光の差さぬ地下室。そこにはベッドすらなかった。「涼音、ほら、誰が迎えに来たと思う?」さっきまで凶相だった介護士が、甘ったるい声で囁く。さっきとは別人のようだ。病室のドアが開く。藤瀬西洲(ふじせ さいしゅう)の、しなやかで端正な影が現れた。逆光の中に立つ彼の深い造作に、光と影が斑に落ちる。理不尽なほど、綺麗だった。涼音の瞳がかすかに揺れる。焦点の合わない目で、やっとの思いで西洲を見上げる。喉がひくりと鳴ったのに、言葉は一つも出てこない。おじさん、やっと迎えに来てくれたの?どうして、今回はこんなに遅かったの?涼音は西洲に育てられた。だが彼は彼女の血の繋がったおじさんではない。父の友人にすぎない。彼女が幼い頃、両親は事故で同時にこの世を去った。孤児院にいた彼女を抱き上げ、連れ帰ったのが西洲だった。あの日、孤児院で。彼は壊れ物でも抱くように、そっと彼女を腕に収めた。「涼音、やっとお前を見つけた。大丈夫、怖くない。これからおじさんは、誰にもお前を傷つけさせない」光のない彼女の人生に、その日、一筋の光が差し込んだ。現実と記憶が重なり、涼音の瞳に微かな涙の光が揺れる。おじさん、やっと迎えに来てくれたんだ。やっぱり、来てくれるって……その涙がこぼれるより早く、艶やかな声が横から差し込んだ。「西洲、涼音は見つかった?」そこで初めて、西洲の隣に
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