「嫌よ」陽向は一瞬呆然とし、潤んだ目で見上げた。聞き間違えたと思ったのだ。「ママ、なんて言ったの?」紗季は身をかがめ、はっきりと言った。「言ったでしょう。あなたと絵本を読むのは嫌だって。これからはもう二度と、あなたと本を読むことはないわ。言ったことは、必ず実行する」陽向は呆然と彼女を見つめ、心の内に、彼ほどの年齢ではまだ言い表せないような恐慌が広がっていった。彼はなすすべなく服の裾をいじった。「ママ……もしかして、本当に俺のこと、もういらないの?俺、もう帰ってきたんだよ。そんなこと言わないでよ、ねえ?」「あなたには美琴がいるじゃない。今さらどうして帰ってきたの?」紗季が本当に言いたかったのは、今になって帰ってきても、もう遅すぎる、ということだった。陽向は慌てて首を振った。「美琴さんは、ママほど良くない。彼女は…彼女は、俺とパパを騙してた。心臓病でもなかったし、画家でもなかったんだ」彼は唇を噛み、以前、美琴の心臓病を心配するあまり、ママをないがしろにしていたことを思い出し、ますます罪悪感に苛まれた。紗季は静かに彼を見つめ、微笑んだ。「もし、美琴のそうした嘘が暴かれていなかったら、あなたは私の元へ帰ってきたかしら?そうじゃないでしょう」陽向が口を開く前に、紗季は彼の代わりに答えた。彼女の瞳にはかすかな嘲りが浮かび、陽向を避けてその場を去った。「ママ、マ……」陽向が言い終わらないうちに、紗季はそのまま部屋に戻ってしまった。彼はその場に立ち尽くし、どうしていいか分からずに目頭を赤くした。執事の玲がそばに来て、陽向の手を取った。「坊ちゃま、もうお休みになる準備を。もう遅いですよ」「ママは、もう俺のこといらないのかな。もう二度と、俺と仲直りしてくれないのかな?」陽向は顔を上げ、懇願するように玲を見つめた。玲は微笑み、彼の頭を撫でて慰めた。「そんなことあるはずないでしょう。お二人は親子なのですから。奥様はただ、坊ちゃまが以前、美琴様と親しくされていたことを悲しんでいらっしゃるだけですよ。ずっと怒り続けるなんてことはありませんから、ご安心ください」紗季は二階で、その会話をはっきりと聞いていた。そうね。ずっと怒り続けるなんてことはない。明日ここを去ってしまえば、もう
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