All Chapters of トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~: Chapter 131 - Chapter 140

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秘密の恋愛と過去との決別 PAGE11

   * * * * 絢乃さんの桐島家訪問が実現したのは、その週の土曜日だった。「――じゃあ俺、絢乃さんをお迎えに行ってくるから」「行ってらっしゃい、貢。お母さん、今日はウチのキッチンで、絢乃さんと一緒にお料理しようかしら」 午後三時ごろ、雨の降る中僕を送り出そうとしていた母の言葉には、息子の恋人への願望が込められていた。「あー、うん。そうなるといいね、母さん」 僕もそうなってくれたらいいなと思った。僕の母と絢乃さんは相性がよさそうなので、良好な嫁姑の関係が築けると思う。絢乃さんがお嫁に来てくれるわけではないが。  そういえば、日比野を両親に紹介したことはなかった。二股をかけられていたから、紹介しづらかったというのもある。 この日、絢乃さんは可愛いワンピースの上からオフホワイトのカーディガンを羽織り、足元は真っ白なサンダルという爽やかなスタイルだった。そういえば、豊洲に行った時には珍しくパンツスタイルだったっけな。 クルマの中で、母が彼女と一緒に料理したがっていることを伝えると、「桐島家の一員になれるみたいで、わたしも楽しみ」と顔を綻ばせておられた。やっぱり彼女と母は気が合いそうだと思い、僕も嬉しかった。 でもそのためには、僕の中にある過去への蟠りを早く清算してしまわなければ……。 途中のパティスリーで手土産のいちごショートを五個購入し、桐島家で僕の両親に挨拶する絢乃さんはさしずめ結婚の挨拶に来たようだった。  早番で出勤していた兄も夕方には(それも、みんなでケーキを頂いていた時だ)帰宅し、夕食の準備は母と絢乃さんの二人ですることになった。「――貢、お前は手伝ってやらなくていいのか?」 キッチンでの手伝いを申し出てあえなく断られたらしい兄が、リビングで父と一緒にTVを観ていた僕にそう言った。「いいよ、俺は。どうせジャマになるだけだし。嫁姑の二人きりにしてあげた方がいいかな、と思ってさ」 きっと女同士でしか話せないこともたくさんあるだろう。まさかその時に、母が絢乃さんに僕のトラウマのことを暴露していたとは思わなかったが。 一緒にきのこデミグラスソースのハンバーグの夕食を囲んでいた時、絢乃さんの目が少し赤くなっていたことが僕は気になっていた。もしかして、僕のために涙を……? 帰りの車内でそれとなく訊ねてみると、その
last updateLast Updated : 2025-12-09
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秘密の恋愛と過去との決別 PAGE12

   * * * * 絢乃さんとの結婚の意思を固めて間もない日の仕事帰り、僕は思いがけず日比野美咲と再会した。いや、結婚していたから苗字は変わっていたが。「――桐島くん?」「日比野……いや、今は違うか。美咲って呼ばないとダメかな」「ううん、別にいいよ」 彼女はセレブ妻になったはずなのに、ちっとも幸せそうに見えなかった。結婚生活がうまくいっていなかったのだろうか? 立ち話も何なので、彼女とはファミレス(兄の店ではない)で話すことにした。僕のクルマの中で、二人きりで話すなんてまっぴらゴメンだったし。「――あの……ね、あたし、離婚したの」「えっ、もう!? だって、まだ一年半も経ってないだろ?」 いきなりの爆弾発言に、僕は飲んでいたガムシロップ少なめのアイスカフェオレを噴き出しそうになった。「うん。でもダメだったんだ。あたし、セレブ妻には向いてなかったみたい。子供もできなかたったし、お姑さんのイヤミ攻撃にも耐えられなくなって」「あー……、なるほど」 男に媚びることしかしてこなかっただろう彼女ならそうだろうな、と僕は妙に納得できた。「というわけで、あたしまた独身に戻ったの。だから……桐島くん、あたしたちまた付き合わない? 今度は桐島くんが本命だよ。どう?」「悪いけど俺、結婚したい相手がいるから。男あさりたいなら他のヤツ当たって」 あまりにも勝手すぎる美咲の言い分に、僕はブチ切れた。この女は僕の気持ちなんてちっとも分かっていないのだ。「え……結婚するの? 相手はどんな人?」「篠沢絢乃さん。今の篠沢グループの会長だよ。俺いま、彼女の秘書なんだ。で、二月からお付き合いしてる。彼女はまだ高校生だから、結婚するのは卒業後になると思うけど」 彼女に口を挟まれるのはムカつくので、一気にまくし立てた。「そっか、会長さんと……。それって逆玉ってヤツ?」「逆玉なんか狙ってねぇよ。俺、本気だから。こないだも両親に会って頂いた。――彼女は俺の過去なんか気にしない、過去なんかなかったことにしてあげるって言って下さったんだ。だから俺も、美咲とのことにそろそろ決着つけたい。彼女のためにも」「……………………分かった! もういいよ、もう桐島くんには会わない! あ~~、声かけるんじゃなかった! せいぜい可愛い会長さんと仲良くすれば!? お幸せにっ
last updateLast Updated : 2025-12-20
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彼女に出会えたことの意味 PAGE1

 僕の両親との顔合わせを済ませた六月下旬、絢乃さんは二泊三日の修学旅行で韓国へ行かれた。 僕にも楽しい旅行の様子を写真とともにメッセージで知らせて下さり、中でも貸衣装だという朝鮮王朝の宮廷衣装に身を包んだ写真は、本当によくお似合いだった。 そして、通訳を兼ねたガイドさんも同行していたのに、韓国語も堪能な絢乃さんがしばしば通訳として駆り出されていたらしい。それだけ彼女が頼りにされていたということだろう。やっぱり彼女は生まれながらにしての、グローバル企業の経営者なのだと思った。 そんな絢乃さんとこんな平凡な僕が恋人同士になり、結婚にまで漕ぎつけようとしていたのはやっぱり運命だったのだろう。 八月には夏季休暇を利用して、絢乃さんと二人で神戸旅行へ行った。厳密に言えば〝出張を兼ねての旅行〟で、メインの目的は仕事の方だったのだが。「――絢乃、桐島くん。あなたたちに、夏季休暇の間に出張をお願いしたいの。一泊二日で神戸まで行ってきてほしいのよ」 加奈子さんからそう言われたのは八月の頭のことだった。十月に新規開業する篠沢商事・神戸支社の視察をしてきてほしい、と。「視察自体はすぐに終わると思うから、空いた時間は二人で観光でも楽しんでらっしゃい♪ 婚前旅行ってことで」 〝婚前旅行〟と聞いて、絢乃さんの顔が火を噴いたことは言うまでもない。僕と二人きりで、泊まりの旅行に行くのだから。当然、そこでどんなことが待っているかも想像はされていたのだろう。 僕もそのつもりではあったが、恋人とはいえまだ高校生だった絢乃さんにおいそれと手を出すわけにはいかないし、あくまでも仕事が名目だった。「…………あの、桐島さん。ホテルの部屋なんだけど……」 ホテルの手配は秘書である僕の仕事だったため、いざ部屋を予約しようとしていると、まだ耳たぶまで真っ赤だった絢乃さんがおずおずと僕の顔を窺いながら切り出した。「一緒の部屋というわけにはいきませんよね。出張なんですから、シングルルームを二部屋取りましょうか」「……うん、その方がいい」 僕の答えに、彼女はホッとされたようだった。僕が初恋であり、生れてはじめての彼氏だった絢乃さんはやっぱり、早急に関係を進めようと思われていなかったらしい。「ですが、淋しくなったら僕の部屋に来て下さっても全然構いませんからね?」「……………
last updateLast Updated : 2025-12-20
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彼女に出会えたことの意味 PAGE2

   * * * * ――出張の日の朝はJR品川駅で待ち合わせをして、新幹線で神戸へ向かった。新幹線のチケットもホテルの部屋を予約した後に予約してあったもので、二人ともグリーン車の指定席だった。「出張でグリーン車なんてもったいないよね。普通車でよかったのに」 絢乃さんはそうおっしゃっていたが、これには僕も同感だった。彼女にとってはこれもテコ入れすべき点だったのだろう。 篠沢商事・神戸支社のビルは三宮の一等地に建てられていた。 このあたりはオフィス街で、他にも保険会社のビルやらメガバンクの神戸支部やらのビルが林立しているエリアだった。それでも少し足を延ばせば旧居留地やポートエリアなどの観光地へ行ける立地で、ビジネスと観光が上手く融けこんでいる神戸という街ならではだなぁと思った。 神戸支社長は川元隆彦さんというまだ三十代半ばの男性で、もちろん会長であらせられる絢乃さんが任命されたのだそうだ。同じ兵庫県の淡路島のご出身だという川元支社長はとても気さくで人懐っこい方で、視察前に接待として僕たち二人にランチをごちそうして下さった。 そうして視察は早く終わってしまい、まだ外も明るかったので、どこか観光にでも行こうかということになった。神戸支社を訪れる前に、ホテルのチェックインも済ませてあったし。 川元支社長に、「どこかおすすめのスポットはありますか?」と絢乃さんがお訊ねになると、「ここから近いところですと、ポートターミナルにオシャレな水族館がありますねぇ。そこへ行かれはったらどないでしょう」 と教えて下さったので、僕たちはその水族館へと足を延ばすことにした。 〝アートな水族館〟と銘打たれたこの水族館は、一階に大きなフードコートのあるミュージアムの二階から上にあった。 フロアーごとにコンセプトが違う水槽が展示されており、海の生き物以外にも哺乳類が飼育されていたり、通路をリクガメがのっしのっしと〝お散歩〟していたりする。和の雰囲気漂うフロアーや巨大な球体水槽が鎮座するフロアーもあり、SNS映えのためにあるような場所だった。「わたしもインスタやってたら、間違いなくここの写真いっぱいアップしてるだろうなぁ……」 思いっきりプライベートモードになった絢乃さ
last updateLast Updated : 2025-12-22
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彼女に出会えたことの意味 PAGE3

    * * * * ――水族館を思う存分堪能し、一階のフードコートで夕食も済ませた僕たちは夜の七時半ごろホテルに戻った。 各々部屋に入り、僕はシャワーを浴びて持参していた部屋着に着替え――多分、絢乃さんもそうだっただろう――、テーブルの上にノートPCを広げて視察の報告書をまとめていた。 とりあえず一段落したので休憩していると、ドアチャイムが鳴った。 ……おかしいな、ルームサービスなんか頼んだ憶えないけど。そう思いながら「はい?」とドアを開けると、そこに立っていたのは真っ白なTシャツにショートパンツと黒のレギンス、その上からパーカーを羽織った絢乃さんだった。足元は素足に室内履きと思しきミュールで、何やら小さなビニール袋を手にしていた。 鼻をかすめるのは、僕と同じボディソープとシャンプーのいい香り。ボディソープはホテルの備え付けだが、シャンプーはおそらく自前のものだろう。「……絢乃さん! どうしたんですか?」「湯上りのカップアイス、一階の売店で買ってきたから一緒に食べたいなぁと思って。入っていい?」 ちょっとばかり色っぽいシチュエーションを期待したが、すごく無邪気な訪問理由に僕は拍子抜けしてしまった。「アイス……ですか。頂きます。……どうぞ」「おジャマしま~す♪」と言って入室してきた彼女は、ベッドの縁に腰掛けると僕にアイスを選ばせて下さった。僕はバニラ、彼女はストロベリーを選んだ。「……貢、仕事してたの?」「ええ。報告書を」「ありがと。ホントはわたしがやらなきゃいけないのにね、いつもゴメンね」「……いえ、別に。これくらいお安い御用です」 二人きりの部屋で、甘いアイスを食べながらなのに会話はまったく甘い内容ではなく、僕は「色気ないよなぁ」とこっそりため息をついた。「――貢が今何考えてるか、わたし分かるよ。この状況、『色気ないなぁ』って思ってるでしょ?」「……………………はい」 自分の浅ましさに自覚のあった僕は、神妙に頷いた。穴があったら入りたいとは、まさにこのことだ。「貴方も大人の男の人だもんね。その気持ちは分からなくもないよ。……ゴメンね。わたしがまだ子供だから、貴方にガマンさせちゃって」「そんなことは……。僕もそこらへんはキチンと理性で抑えてるつもりだったんですけど」「わたしもね、ホントは貴方と早く次に進みたい。貴方と
last updateLast Updated : 2025-12-22
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彼女に出会えたことの意味 PAGE4

 出張という名の神戸旅行二日目。朝食はルームサービスを二人分取って絢乃さんのお部屋で二人で頂き(支払いも彼女のルームナンバーにつけてもらった)、午前中から二人で神戸観光に繰り出した。 前日に満喫した水族館のあるミュージアムから少し足を延ばし、四月にリニューアルオープンしたばかりのポートタワーの展望デッキへ上がっていった。その日は天気にも恵まれ、そこからは明石海峡大橋やその先に続く淡路島――川元支社長の出身地だ――、さらには四国のあたりまで一望できて、二人して「わぁ、スゴいねー!」「すごいですねー」と歓声を上げていた。 タワーの中にはショップやアトラクションも色々あって、僕たちみたいな大人もお子さんも楽しめるようになっている。 展望フロアーの三階には三百六十度回転するカフェがあり、僕たちは展望デッキから見た景色を眺めながら大好きなコーヒーを楽しんだ。「――さて、この後はどうします?」 神戸という街にはまったく土地勘がないので、コンビニで買ったガイドブックを広げながら絢乃さんに次の予定を訊ねると、ポートアイランドにある〝どうぶつ王国〟に行きたいとリクエストがあった。三宮まで戻れば新交通システム一本で行けるらしい。ここでしか見られない、珍しい動物もたくさん飼育されているようだ。「じゃあ、そこに行きましょう」 ガイドブックをよく見ると、同じ人工島にはコーヒー博物館もあるらしい。僕のリクエストでそこにも行って、博物館の近くで昼食を済ませてから東京に帰ろうということになった。 絢乃さんは動物がお好きなようで、神戸どうぶつ王国では可愛い動物たちにほっこりと癒され、動かない鳥ハシビロコウが動いた瞬間には大喜びされていた。 コーヒー博物館はかつて神戸で海洋博覧会が行われた時の、パビリオンだった建物を利用したコーヒーのミュージアムだそうだ。コーヒー好きとしては、一度は訪れてみたい場所だった。 僕もかつてはバリスタを目指していた身だが、その夢を諦めてしまった理由を絢乃さんに話したことはなかったので、この機会に打ち明けようと思った。 僕がバリスタになりたいと思っていたのは高校時代のことだが、その頃すでに自分で飲食店をオープンさせるべく働いていた兄が、「兄弟で一緒に店をやろう!」としつこく言っていたのでウザくなり、僕は自分の夢を諦めるに至ったのだ。 実に
last updateLast Updated : 2025-12-23
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彼女に出会えたことの意味 PAGE5

   * * * * ――新幹線で品川駅に着いたのは夕方五時ごろで、僕と絢乃さんは駅前で解散となった。「絢乃さん、どうやって帰られるんですか?」 僕が訊ねると、寺田さんにお迎えを頼んだとの答え。そういえば、新幹線の車内で誰かにメッセージを送っていたような気がするが、あれはお母さまにだったのだろう。それとも寺田さんに直接送信していたか。「僕も、実家には連絡しておいたので。誰か迎えに来ると思います。もしくはタクシーでも拾うか」 平日だったので、父はムリだろう。母も一応運転免許は持っているし、兄はこの日休みだと言っていたので、どちらかが迎えに来てくれるだろうと僕は思っていた。「――じゃあ、出張お疲れさま。今日はゆっくり休んでね。また明日」「はい、お疲れさまでした。また明日」 寺田さんが黒塗りのセダンで迎えに来られ、絢乃さんと別れて数分後。僕の目の前に見慣れない白の軽自動車が停まり、クラクションを鳴らされた。そして、運転席の窓から顔を出したのは……。「出張お疲れさん、貢! 迎えに来てやったぜ」「兄貴! どうしたんだよ、このクルマ」「バカやろう。オレにだって中古車買うくらいの貯金はあるっつうの。店の開店資金とは別にな。――いいから乗れよ。あ、スーツケースは後ろの席に乗せときな」「うん……、サンキュ」 僕は荷物を後部座席に放り込み、助手席に乗り込んだ。「――どうだった、絢乃ちゃんとの婚前旅行は?」「な……んっ!? さっきは出張って言ってたじゃんか!」「まあまあ、言い方なんかどうでもいいだろ。……んで、どうだったんだよ? 昨夜、絢乃ちゃんとやったのか?」 兄のド直球すぎる質問に、兄の性格を知り尽くしていた僕もさすがにたじろいだ。「……………………やってねぇよ。俺の部屋で、一緒にアイス食べて話しただけ」「かぁーーっ! お前、そこは強引に押すところだろ! とんだチキン野郎だなお前は」「やかましいわ!」 さんざん好き勝手言ってくれた兄に僕は吠えた。「でも、絢乃さんも俺とそうなりたい気持ちはあるって。ただ、もう少しだけ待ってほしいって言われた」「へぇ……。絢乃ちゃん、意外と考えてることオトナだな。まぁ、お前ら二人が今はそれでいいってんなら焦る必要もねえよな。でも、案外近いうちにそうなるんじゃねえの?」「うん……、そうだといいけど。俺にもガ
last updateLast Updated : 2025-12-23
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彼女に出会えたことの意味 PAGE6

 たとえば、僕の部屋で二人横並びになってカップアイスを食べていた時。ベッドに腰掛け、わりと密着していたあのシチュエーション。彼女の髪から香ってくるシャンプーの匂いや、手を伸ばして触れたくなるような、ツルツルスベスベの白い肌。時々見せてくれるアンニュイな表情……。それだけで、僕の理性はあっという間に吹っ飛びそうになった。 そして、首元には僕がお誕生日に贈ったあのネックレス。――彼女は本当に、あれから肌身離さず身に着けて下さっているそうだ。もちろん、制服姿の時にも。それだけでも十分、彼女の僕への愛を感じられた。 それでもって、彼女にも僕との体の繋がりを求める気持ちがあったという告白だ。十八歳といえばもう法律上は立派な大人の女性で(飲酒や喫煙の話はまた別の問題だが)、お互いの意思が一致しているならあの場で関係を持っていても問題はなかったはずである。そこは〝出張〟という名目と、彼女がまだ高校生だったということを気にしすぎていた僕がカタブツすぎたせいだろう。 彼女もあの後、ご自身の部屋で僕への熱をどう処理していいか分からずに悶々としていらっしゃったのだろうか? もしかしたらベッドの中で、一人で……? あの細い指で、あんなところやこんなところを弄っては艶っぽい声を発していたり……するのか? あの絢乃さんが、人知れず一人で乱れている光景か……。何だか想像がつかない。「……お前さ、今とんでもねぇ想像してなかったか? なんか顔赤いぞ?」 兄の存在をしばし忘れ、一人でムフフ♡ なアレやコレやを想像していたら、兄にバッチリ見抜かれていた。 ただしこれは、明らかに僕にTL小説を勧めていた小川先輩のせいである。 実はあの後しばらくしてから、別の書店で思いっきり濃密なTL小説を数冊購入して、すっかりハマってしまったのだ。そのヒロインたちはしばしば、自分の熱――欲望を自分の手でかき乱していた。だから絢乃さんも……とついつい妄想を膨らませてしまったのだ。「…………別に、何でもない」「いや、オレは別に呆れてるとかそんなんじゃねぇのよ。やっぱお前もオトコだったんだなーって」「そうだよ」 絢乃さんと交わりたい、それが僕の本能に基づいた願望だった。彼女は僕の愛すべきボスで、女王さまだ。だから――、本当は、早く彼女の欲望を満たしてあげたかった。 でも彼女には僕が
last updateLast Updated : 2025-12-24
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彼女に出会えたことの意味 PAGE7

 ――翌日も、僕は絢乃さんと会うことになっていた。会社はまだ休暇中だったが、デートのついでに出張の報告書を彼女に渡すつもりでいたのだ。「――おはようございます、絢乃さん。さっそくですがこれ、神戸出張の報告書です」 彼女が僕のクルマに乗り込まれると、僕はダッシュボードに置いていた大判のクリアファイルを彼女に手渡した。「ありがと。でも、報告書くらいメールで送ってくれたらよかったのに。わざわざ持ってこなくても」「いいんです。僕が絢乃さんに会いたかったんで。報告書はあくまでもついでです」 僕がそう言って笑うと、絢乃さんも照れくさそうに「……そう」と言ってはにかまれた。……ああ、やっぱり可愛い。 でも、この日の彼女は可愛いだけでなく、何とも言えない色香をまとっているように感じた。朝シャワーを浴びられたのか、柑橘系のコロンの香りに交じってシャンプーやボディソープの香りもしていた。 ……やっぱり、僕も前日想像したとおり、彼女もひとりで自慰行為を……? この清純系の絢乃さんが?「――あの、絢乃さん。ええと……、その、……絢乃さんにもやっぱり男性に対してムラムラしたりする気持ちってあるんですか?」 勇気を振り絞って訊ねてみると、絢乃さんは「えっ!?」と声を上げた後かすかに顔をしかめられた。そして本当にかすかにだが、下半身をモゾモゾと動かしていた。 僕にも女性経験はあるので分かったのだが、これは女性の性的な反応なのだ。美咲も僕との行為の前に、同じように下半身をモゾモゾ動かしていた。ということは……。「そ、そりゃあ……わたしもオンナだからね。それなりには」 絢乃さんはモゾモゾをごまかすようにそう答えた。そのため、僕の「もしかして」は確信に変わった。「そうですよね……。じゃあ、そうなった時はどうされてるんですか? たとえば昨日とか一昨日の夜、やっぱりご自分で……その……」 さすがに自慰行為をしているのかとはっきり訊ねる勇気はなかったので、オブラートに包んだような訊ね方になってしまった。が、その時僕は見た。彼女のモゾモゾした動きが、より激しくなっていたのを。ということは、彼女の性的反応が強くなったということだろう。 動揺を隠せなかったらしい彼女に、僕はもう一度「絢乃さん?」と呼び掛けてみると、少し長い間が空いたあと「それはノーコメントで」とだ
last updateLast Updated : 2025-12-24
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彼女に出会えたことの意味 PAGE8

 映画でも観ようと入ったショッピングモールで、絢乃さんが唐突に「お手洗いに行きたい」と言いだした。「ちょっと時間かかるかもしれないけど、心配しないで待っててね。じゃあ、行ってくる!」「はぁ……、どうぞ。行ってらっしゃい」 彼女はその後手近な女性用化粧室へ駆け込み、戻って来られるまで七~八分くらいかかった。 僕が思うに、多分そこで体のムラムラを解消されていたのだろう。戻ってこられた時、スッキリした顔をされていたから。僕があんな余計な質問をしたせいで……と思うと、何だか申し訳ない。 その頃大人気だった恋愛映画のチケットを購入して二人で観た。R18指定作品だったが、絢乃さんも十八歳になっていたので何ら問題はなかった。ただ、濃厚なラブシーンが多かったので、ちょっと気まずくなったことだけは確かだ。いつか、僕も彼女とそういう行為に及ぶのかと思うと……。 絢乃さんはといえば、映画のあとにまたムラムラきたらしく、再び七~八分くらいトイレにお籠りされた。   * * * * 翌日の土曜日は、絢乃さんに会わなかった。 実はこの少し前から、僕には新たに始めたことがあったのだ。下北沢にあるキックボクシングのジムに通っていたのである。 元々は、彼女と体の関係にまで進んだ時に貧相な体つきだとちょっとみっともないから、少しでも逞しくなりたいと思って始めたことだったが(そんなにいうほど貧相でもないのだが、女性はやっぱり逞しい男の方が好きだろうと思うので)、この頃の目的は「彼女を守りたい」に変わっていた。 実はこの前日の夜、実家で兄からあるものを見せられていたのだ。それはSNSにアップされた、写真付きのある投稿だった。『――貢、ちょっとこれ見てみ? これヤバくねぇか?』 僕の部屋にやってきた兄が、難しい顔で僕に自分のスマホを突き付けてきた。 『うん、何だよ? ……ちょっ、これって』『な、ヤベぇだろ?』 僕も顔をしかめたその投稿は、豊洲で隠し撮りされたらしい僕と絢乃さんの2ショット写真が添付された誹謗中傷だった。〈篠沢グループ会長のスキャンダル発覚! 隣に写ってるのは彼氏か!? 大してイケメンでもないのに逆玉を狙った不届き者! 男のシュミ最悪!! #この男見つけたら制裁 #この男は社会のゴミ〉 …… 『何だよこれ……。めちゃめちゃ悪意あ
last updateLast Updated : 2026-01-05
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