アードリア帝国にて。「ありえないわ……私はレナードの妻よ?なぜ、夫の軍人遺族恩給を申請できないのですか?」帝国軍籍管理局で、白髪のオリヴィア・アームストロングがレナード・アームストロングの遺骨を抱き、理解できないといった様子で職員に問い詰めている。「オリヴィア様、軍人遺族恩給の受給権は直系の親族でなければ手続きできません。こちらのデータベースによりますと、貴女様は未登録となっておりますが」オリヴィアは震える手で老眼鏡をかけ、職員のコンピューター画面を食い入るように見つめる。職員は嘘を言っていない。彼女がレナードと共に過ごした五十年、婚姻状況は驚くべきことに未婚のままなのだ。その衝撃的な事実から立ち直る前に、職員はさらに言葉を続ける。「レナード様は五十年前、セシリア・アームストロング様という方と結婚されており、お二人の間にはサイモン・アームストロング様というお子様もいらっしゃいます」「セシリア様は既にお亡くなりですが、サイモン様に依頼されれば、遺族恩給の受給は可能かと存じます」セシリアとサイモン。その名を聞いた瞬間、オリヴィアは激しい耳鳴りに襲われる。あの二人は、レナードの兄の未亡人と、その甥ではなかったか?それがどうして彼の妻と子になるというのか?ならば、自分はいったい何?これまでの年月、彼の世話をし、病気のセシリアの世話までしてきた自分は、いったい何だったというの?家政婦か?オリヴィアは呆然自失のまま、帝国軍籍管理局を後にした。その道中、サイモンからの電話が鳴った。「叔母さん、叔父さんは遺産をすべて俺に残したんだ。気にしないでくれるよね?なにしろ、俺がアームストロング家の唯一の血筋だからな。まあ、叔父さんの遺言で、あんたにはアームストロング家の墓に入れてやるってさ。死んだら、彼と一緒に入れるよ。長年、叔父さんと母さんの世話をしてくれたことには、感謝してる」オリヴィアは思わず笑い声を漏らす。五十年の献身が、死後に同じ墓に入る権利に変わっただけ。レナードは死の間際まで、この「息子」のことばかり考えていた。仕事も年金もない彼女が、この先どう生きていくのか、少しも考えなかったというのか?オリヴィアの心にあったレナードへの最後の情も、ついに消え失せる。代わりに宿るのは、五十年間も騙さ
Read more