貴博のことはすっかり気に入っていたものの、玉代はもっと人となりを知っておきたいと思い、二人きりで少し話をしたいと考えた。エレベーターホールで、玉代と貴博が一緒にエレベーターに乗り込むのを見届け、真琴は穏やかな声で告げた。「お母さん、ホテルに着いたら連絡してね」玉代は頷く。「ええ、分かっているわ。真琴も安心して」貴博とも軽く挨拶を交わし、エレベーターが下っていくのを見送ってから、真琴はようやく踵を返して病室へと向かった。ここ数日と同じように、自室へ戻るには信行の病室の前を通り過ぎなければならない。病室のドアは少し開いており、何気なく目をやると、由美と信行が病室の中で抱き合っている光景が飛び込んできた。二人の様子からして、何か話し込んでいるようにも見えた。何食わぬ顔で視線を外そうとした瞬間、由美と目が合った。視線が交差する。由美はいつものように愛想よく振る舞うことも、挨拶してくることもなく、信行から離れようともしなかった。むしろ、抱きつく力をさらに強めた。そして……背伸びをして、その頬にキスをした。病室の外からその挑発的な振る舞いを見せつけられても、真琴はあっさりと視線を外し、ただくだらないとしか思わなかった。あまりにもお粗末すぎる。これよりずっと刺激的な修羅場など、それこそ嫌というほど見てきたのだ。信行と結婚していたあの数年間で、あんなものにはもう慣れっこだ。視線を外した後、真琴は足を止めることなく、悠然と自分の病室へと戻っていった。……信行の病室。突然抱きついてきた由美に対し、信行は眉をひそめ、腰に手を当てて後ろへ押しやった。だが由美は離れようとしないばかりか、あろうことか背伸びをして頬にキスをした。一瞬にして、信行の顔色は氷のように冷え込んだ。由美の腕を掴み、乱暴に引き剥がして投げ捨てるように突き放す。そして、厳しい声で言い放った。「由美。俺の我慢を試すな」激しい怒りを前にして、由美は慌てて下手に出た。上目遣いで見上げながら言った。「ごめんなさい。ただ、我慢できなかったの。どうしても好きで……」そのしおらしい態度にも、信行は冷たい顔でドアを指差した。「もう帰れ」これ以上刺激すれば限界だと悟った由美は、バッグを手に取った。「信行、それじゃあしっかり
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