All Chapters of 暴走する愛情、彼は必死に離婚を引き止める: Chapter 421 - Chapter 430

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第421話

唐突なスキンシップに、真琴はハッとして彼を見上げた。無意識のうちに、心臓の鼓動が速くなる。じっと貴博を見つめる真琴は、少し緊張しながらも、その手を振り解くことはなかった。彼に触れられることを、拒絶する気にはなれなかった。ただ、咄嗟にどう反応すればいいのか分からなかった。信行とは結婚していたとはいえ、肉体関係はなく、数回あった親密な接触もすべて彼からの強引なアプローチによるものだったからだ。小さく息を呑み、真琴は微かな緊張を覚える。その戸惑うような眼差しを受け、貴博の笑みはさらに深まった。微笑んだ後、彼女の手を引くように身を乗り出し、ごく自然に距離を詰める。息を潜めて貴博を見つめる真琴のまつ毛が、微かに震える。貴博もまた、ただ穏やかに彼女を見つめ返していた。今、二人の視線には確かな熱が絡み合っている。拒絶されることも、突き飛ばされることもない。貴博の胸の内は、どれほど歓喜に満ちていただろうか。若くして要職に就いた時でさえ、これほどの高揚感を覚えたことはなかった。手を握ったままさらに身を乗り出し、唇が触れ合う寸前まで顔を近づけた、その時だった。不意に病室のドアが開き、看護師が慌ただしく入ってきた。「西脇さん、検温の時間ですよ」突然の声に、ベッドの上の二人は反射的に体を離し、同時に背筋を伸ばして一気に距離を取った。ベッドの上で、真琴は無意識に右手を上げ、頬にかかった髪を耳にかける。室内には、耐え難いほどの気まずさが充満した。入り口に立つ小太りの中年看護師もまた、あからさまに動揺していた。まさか病室で睦み合い、あそこまで親密な空気が流れているとは思いもしなかったのだ。分かっていれば、無遠慮にドアを開けたりなどせず、そもそも邪魔しに来ることもなかったはずだ。張り詰めていた甘い空気は霧散してしまったが、看護師は何も見なかったフリをして、何食わぬ顔でベッドに近づいた。「西脇さん、検温させていただきますね」姿勢を正した真琴は、渡された体温計を受け取り、大人しく脇に挟んだ。その後、病室には重い沈黙が降りた。しばらくの間、全員が居心地の悪さに耐えていた。もっとも、一番気まずい思いをしているのは看護師である。二十秒ほど後、検温が終わり、他のバイタルチェックも済ませて、特に異常が
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第422話

立ち上がり、貴博は優しい眼差しで真琴を見つめ、静かに告げる。「西脇博士、明日また来るよ」真琴は柔らかく頷いた。「ええ、待ってるわ、事務局長」傍らで、相変わらず「西脇博士」、「事務局長」と堅苦しく呼び合う二人を見て、光雅は苦笑いを禁じ得なかった。だが、それもまた彼らなりの趣があって悪くない。貴博を見送った後、病室に戻ってきた光雅は言う。「あいつはなかなか見所があるな。お前の男を見る目も、前回よりはずっとマシになったようだな」そのからかうような言葉に、真琴は笑って返す。「人間、痛い目を見て経験を積めば成長するものよ」兄妹でそうやって他愛もない会話を交わし、しばらく付き添った後、光雅は自身の宿泊するホテルへと戻っていった。彼が帰って間もなく、枕元の携帯が鳴った。浜野の西脇夫人、玉代からの着信だ。真琴は画面の番号を見てすぐに応答し、優しい声で呼びかけた。「お母さん」その声を聞き、玉代はひどく心配そうな声で尋ねる。「茉琴、今日事故に遭ったって黒田部長から聞いたわ。具合はどうなの?」二年前、本物の茉琴が事故で亡くなって以来、玉代の体調はずっと優れないままだった。だからこそ、今朝の事故について、光雅は実家に一切知らせず隠し通していたのだ。だが、信行が重傷を負うほどの大事故である以上、情報はどうしても漏れる。結局、西脇家の知るところとなってしまった。事実を知るや否や、玉代はいてもたってもいられず電話をかけてきた。震える母の声に、真琴は安心させるように微笑んで答える。「お母さん、私は平気よ。心配しないで。今、ビデオ通話に切り替えるわね」ただの強がりだと思われないよう、余計な心配をかけないよう、電話を切ってすぐにビデオ通話を繋いだ。画面越しに、確かに怪我もなく元気そうな真琴の姿を見て、玉代はようやく胸を撫で下ろした。しばらく会話を交わし、あれこれと世話を焼いた後、名残惜しそうに通話を終える。シャワーを浴びて身支度を整え、部屋の明かりを消してベッドに入った頃には、付き添いの女性はすでに隣の控室で静かな寝息を立てていた。……深夜、病室が深い静寂に包まれる頃。突然、真琴は弾かれたようにベッドから跳ね起きた。荒い息を吐き、額にはびっしりと冷や汗が浮かんでいる。悪夢を見た。
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第423話

驚きと喜びに顔をほころばせた真琴は、慌ててベッドから降りると、玉代に歩み寄ってその両手を握りしめた。「お母さん!どうしてここに?」その声に、玉代は片手で彼女の手を握り返し、もう片方の手で優しく頬を撫でる。「昨日の夜、画面越しに顔は見たけれど、やっぱり直接自分の目で確かめないと安心できなくてね。お父さんに頼んで、プライベートジェットで送ってもらったの」その深い愛情に、真琴は思わず目を潤ませ、胸を打たれた。そのまま両腕を広げ、玉代をきつく抱きしめる。「ありがとう、お母さん」その感謝の言葉に、玉代は真琴の背中を優しくぽんぽんと叩いた。「馬鹿な子ね。私たちは家族じゃないの。様子を見に来るなんて、当たり前のことよ」そして続ける。「光雅が空港まで迎えに来てくれたのよ。朝からここに三十分ほどいたんだけど、さっき仕事に戻っていったわ」抱きついたまま、真琴はこくりと頷く。「うん。お母さん、遠いところをわざわざ来てくれてありがとう」そんな真琴の健気な様子に、玉代は事故を起こした犯人への憤りを露わにした。「事故の件、私も少し調べさせてもらったわ。故意にぶつけてきた犯人を捕まえたら、お父さんと二人で絶対に許さないからね」玉代、そして西脇家という強力な後ろ盾の存在に胸を熱くしながら、真琴は力強く頷いた。「ええ、絶対に許さないわ」こうして飛んできて直接顔を見ることができ、今その温もりを抱きしめることで、玉代はようやく胸のつかえが取れ、心から安心することができた。親にとって、子供が心配をかけまいと無理をして強がるのが、何よりも怖いのだ。しばらく抱き合って言葉を交わした後。真琴が洗面所で身支度を済ませると、二人はテーブルに向かい合って朝食をとりながら、和やかに談笑した。血の繋がりこそないが、玉代から注がれる愛情は本物の母親と何ら変わりない。いや、世の多くの母親が娘に向ける愛情すらも遥かに凌駕しているかもしれない。彼女と西脇家は、互いに傷を慰め合い、心底必要とし合う関係なのだ。しばらく話し込んでいると、玉代の目に疲労の色が浮かんでいるのに気づき、真琴はベッドで休むよう勧めた。だが玉代は首を縦に振らない。何日も顔を見ていなくて寂しかったから、もっと話したいし、もっと顔を見ていたいと主張するのだ。その真っ
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第424話

意識を取り戻した信行が真っ先に案じたのは、やはり真琴の安否だった。その問いに、紗友里は答える。「安心して。茉琴は脳震盪を起こしただけで、他に怪我はないから。まずはお兄ちゃんが自分の体をしっかり治すことよ」信行が何かを口にする前に、彼女は続ける。「警察も市の幹部たちも、昨日の事故は故意の犯行だとみて捜査を進めてるわ。武井さんたちも動いてるから、お兄ちゃんは余計な心配せずに自分の体だけ気にして」立て続けに状況を報告する妹の姿に、信行は彼女が以前よりずっと頼もしくなったと感じていた。無言で見つめる兄に、紗友里は穏やかに付け加える。「本当よ。もう目も覚めたんだから、嘘をついたってすぐバレるでしょ。歩けるようになったら、自分の目で見に行けばいいわ」そこへ美雲も口を挟む。「今朝、私も様子を見に行ったのよ。西脇さんは本当に大丈夫だったわ」あの時、美雲は病室の入り口から彼女の姿を確認しただけだった。西脇家の令嬢である彼女とは面識すらないため、無遠慮に病室へ踏み込むわけにはいかなかったのだ。母と妹が揃ってそう言うのであれば、信行も疑う余地はない。自分が同乗させていた車で、事故に巻き込んでしまったのだ。もし彼女の身に万が一のことがあれば、真琴にも顔向けできず、一生悔やんでも悔やみきれなかっただろう。ベッドの反対側では、健介が横たわる息子を見て深く眉をひそめ、もはや何も言う気すら失せていた。これまで何度忠告したことか。完全に自業自得だ。あれこれと世話を焼く母と妹の声を煩わしく思い、信行は二人を帰らせようとした。今はただ、一人で静かに過ごしたかった。病室が騒がしいのは御免だった。彼の強情さに折れ、美雲は医師や看護師にくれぐれもよろしくと頼み込み、ひとまず帰路に就いた。家族が去り、病室が静けさを取り戻すと、信行の頭の中もずいぶんすっきりとした。事故直後の光景を思い返す。黒い服を着て、キャップとマスクで顔を隠した男が、車の横を通り過ぎていったような気がする。ここ数日の真琴とのやり取りを思い出し、彼女の顔を見に行きたい衝動に駆られたが、いかんせん体が言うことを聞かず、ベッドから降りることは叶わなかった。午後になると、拓真や司、良一たちが見舞いに訪れ、口々に「西脇博士は無事だから心配するな」と伝えてくれた。
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第425話

その問いに、真琴は冷静に答える。「私は何ともありません。ただ、念のため二日ほど様子を見るように言われているだけです」信行は安堵したように頷いた。「無事ならよかったです」その言葉を最後に、またしても病室は重い沈黙に包まれた。しばらくの間、二人は交わす言葉を見つけられずにいた。先に沈黙を破ったのは信行だった。彼は真琴を真っ直ぐに見て言う。「お掛けください」そして、深く頭を下げた。「この度は大変怖い思いをさせてしまい、心よりお詫び申し上げます」彼女を無理に引き止め、話をしようとしなければ、この事故に巻き込まれることはなかったはず。だが真琴は椅子には掛けず、立ったまま冷淡に告げる。「あの事故は、ただの偶然ではないかもしれません。片桐社長も何か手がかりを思い出したなら、警察に知らせてください……それと、事故の時に庇っていただいたことには、感謝いたします」もし彼が覆いかぶさって庇ってくれなければ、前のトラックの荷台に胸を突っ込み、今ここでこうして生きていることはできなかったはずだ。その礼に対し、信行は首を横に振る。「お気になさらず。無理にお引き止めしなければ、そもそも事故に巻き込むこともなかったのですから」そこまで聞いて、真琴はばっさりと切り捨てるように言った。「では、これでお互いに何の借りもないということで。一日も早いご回復をお祈りいたします」「ええ。博士も」会話が途切れ、またしても病室は沈黙に包まれた。今の二人の間には、もはや交わすべき言葉などほとんど残されていない。耐え難い空気が流れた後、真琴は告げる。「それでは、ゆっくりお休みください。私はこれで」彼女が帰ろうとするのを見て、無理に上体を起こして見送ろうとする信行を、真琴は振り返りもせずに制した。「一人で戻れますから、お構いなく」そう言うなり、彼が体を起こすより早く病室を出て、ドアを静かに閉めた。ベッドの上。去りゆく真琴の後ろ姿を見送った後も、信行はいつまでも視線を外せずにいた。あまりにも他人行儀で、よそよそしい態度。どれほどの間、そうして扉を見つめていただろうか。医師と看護師が回診に訪れてようやく、彼はハッとして視線を戻し、彼女への未練から無理やり意識を引き剥がすことができた。……真琴は浜野からの
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第426話

絶対にこの機会を逃すまいと、貴博自身も意気込んでいたのだ。一方、病室の中。テーブルの前に座っていた真琴は、ドアが開く音にゆっくりと顔を上げた。貴博の姿を認め、満面の笑みで迎える。「いらっしゃい」春風のような笑顔を浮かべる彼女に、彼も歩み寄りながら声をかけた。「お腹、空いただろう」真琴は頷く。「ええ、少しだけ」そして、小さく愚痴をこぼす。「どこも悪くないのに、いつになったら退院させてくれるのかしら」貴博の前では、真琴は心からリラックスできている。他の誰の前でも、これほど自然体ではいられないのだ。その言葉を聞きながら、テーブルに食事を広げつつ貴博が優しく宥める。「ゆっくり休めるつもりでいればいい。焦って退院する必要はないさ」配膳を手伝いながら、真琴は微笑む。「そうね」準備が整うと、二人はテーブルに向かい合って食事を始めた。ここ数日、彼は毎日こうして時間を捻出し、病院で彼女と食事を共にしている。真琴の器におかずを取り分けながら、貴博は単刀直入に切り出した。「信行が目を覚ましたそうだ。時間が空いたら、様子を見に行くといい。命懸けで君を守ってくれたのは、事実だからな」自分と真琴の絆、そして何より彼女の揺るぎない理性を、彼は深く信じている。その大人の気遣いに、真琴は箸を進めながら平然と返した。「さっき行ってきたわ。お礼も言ってきた」貴博に対しても、真琴は一切の隠し立てをせず、すべてを率直に伝える。「そうか」貴博は静かに頷き、さらにおかずを取り分けた。「たくさん食べて」真琴は顔を上げて微笑む。「ありがとう、事務局長」貴博が毎日見舞いに来るのを知っているため、玉代はいつもこの時間になると適当な理由をつけて席を外し、若い二人の邪魔をしないように配慮していた。本音を言えば、光雅と結ばれてほしいという思いもあったが、真琴の心にあるのが貴博だと悟り、その気持ちは胸の奥にしまい込んだのだ。実の娘の悲劇を経験しているからこそ、男女の縁には極めて慎重になり、真琴にプレッシャーをかけることも、自分の願望を仄めかすことすら一切しなかった。その後も数日間、真琴は念のための検査と称して病院に留め置かれ、すっかり退屈しきっていた。だが、二つの都市間の関係を重んじ、幹部たちの指
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第427話

もちろん、このお見舞いには由美なりの思惑があった。信行と茉琴の事故が偶然ではなく人為的なものだと聞きつけ、探りを入れるためにやって来たのだ。彼女がこの件についてどう考えているのかを見極めるために。しかし、いくら話を振っても、茉琴の口から有益な情報は一切引き出せなかった。彼女は冷淡で、余計なことは何一つ語ろうとしない。隙という隙を完全に塞がれていた。結局、由美は立ち上がり、帰るほかなかった。「西脇博士、それではゆっくり休んでくださいね。私はこれで」真琴も立ち上がり、淡々と見送った。だが、ドアの前で遠ざかる由美の背中を見送りながら、真琴の表情はみるみる険しくなっていった。病室に戻るなり携帯を手に取り、光雅へ電話をかけて声を潜める。「内海由美の周辺を洗ってみて。今回の件に彼女が関わっているかどうかを」本来なら由美をそこまで疑う理由はなかった。茉琴という確固たる身分がある以上、彼女も迂闊な真似はできないはずだからだ。だが、今日の見舞いで執拗な探りを見て、疑念を抱かざるを得なかった。電話の向こうの光雅は冷静に答える。「すでに調べている。心配しなくていいが、あの内海にはくれぐれも気をつけておけ」「分かった」真琴は頷き、仕事の話を少し交わした後、通話を終えた。もし由美が自分を狙っているとすれば、十中八九信行絡みだろう。だが、自分を消したいのなら、一人で車に乗っている時を狙えばいい。なぜわざわざ信行が同乗しているタイミングを選んだのか?まさか、二人まとめて始末するつもりだったとでも言うのだろうか。携帯を握りしめたまま考え込んでいると、再びドアがノックされた。顔を上げると、貴博が食事を持って現れた。その姿を見て、真琴の口元に笑みが広がる。「いらっしゃい」「ああ」と応じ、彼は続ける。「上の連中に口利きしておいた。あと二日したら退院していいそうだよ」ついに退院できると聞き、真琴の顔がパッと明るくなる。「ありがとうね、事務局長」その歓喜の声に、貴博は優しく返す。「礼には及ばないよ、西脇博士」相変わらず「事務局長」、「西脇博士」と堅苦しく呼び合っているが、その声のトーンには以前にはない甘い響きが含まれていた。二人で食事を並べ、いつも通り談笑しながら箸を進める。毎日顔を合
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第428話

ただ、帰りの道の一歩一歩が、まるで鉛のように重くのしかかり、呼吸をすることさえ苦しいほどだった。真琴の幸せを願って身を引こう、祝福の言葉を贈ろうと思う反面、心の中ではどうしても彼女を手放しがたく、断ち切れない想いが渦巻いている。だが、今の信行が気づいていないのは、真琴との間において、もはや彼の身勝手な「祝福」など、これっぽっちも必要としていないということだ。彼女はとうの昔に「辻本真琴」であることを捨て、浜野の「西脇家の次女」として生きているのだから。しばらくして。自室の病室に戻っても、信行の心は一向に静まらず、脳裏には貴博と楽しげに談笑する真琴の姿が焼き付いて離れなかった。それを思い出すだけで、耐えきれずに激しく咳き込んでしまう。「信行お兄ちゃん、ママは帰ってくる?」「信行お兄ちゃん、ママが欲しいよ」「信行お兄ちゃん、今から飛び降りるから、絶対に受け止めてね」「信行さん……」今この瞬間、無性に真琴に会いたかった。彼女のあの日記帳を思い出す。ページを埋め尽くすように、自分の名前ばかりが書き連ねられていたあのノートを。もし時間を巻き戻せるなら。もしもう一度彼女とやり直せるなら。今度こそ、絶対に大切にする。絶対に真琴を幸せにする。だが無情なことに、彼女は自分が「真琴」であることすら頑なに認めようとはしない。そこまで考え、再びあのDNA鑑定書を思い出す。「西脇茉琴」は、間違いなく「辻本真琴」なのだ。……同じ頃、真琴の病室。昼食を終え、貴博が用事があるからと腰を上げると、真琴も立ち上がって見送った。エレベーターホールまで並んで歩く。エレベーターを待つ間、貴博が不意に振り返って告げた。「退院したら、ぜひ私の家で食事でもどうかな」そして、真剣な眼差しで続ける。「両親が、君に正式に会いたがっていてね」その言葉の意図は明白だった。彼女と正式に交際し、恋人として実家に連れて行きたいという意志表示だ。二年間もすれ違ってきた末の、今回の再会。その眼差しには、もう二度と彼女を手放すまいという、強烈な決意が宿っていた。誰が相手であろうと、真琴を自分のものにし、大切に守り抜くという揺るぎない意志だ。その真っ直ぐな誘いに、真琴は彼を見つめ返し、堂々と頷いた。「ええ、喜んで」
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第429話

夜になり貴博が姿を現しても、今日に限って玉代は席を外そうとはしなかった。これまで幾度となく二人に場を譲ってきたが、貴博という男の本質を見極め、本当に真琴を託すに足る人物か、その目で見定めたかった。結果として、一晩言葉を交わしただけで、玉代は貴博をすっかり気に入ってしまった。容姿端正なだけでなく、立ち振る舞いまで非の打ち所がないと絶賛するほどである。何よりも、真琴に対する深い愛情と誠実さが真っ直ぐに伝わってきたのが、一番の決め手であった。……一方、信行の病室。母と妹を追い返した彼の元へ、今度は由美が大量の差し入れを抱えてやって来た。由美を冷めた目で見つめる信行の機嫌は、すこぶる悪かった。この数日間、由美は貴博が真琴の元へ通うのと競い合うかのように、足繁く信行を見舞いに訪れていた。だが、信行は彼女の厚意に心を動かされることもなく、二人の距離が縮まることは一切なかった。彼女に微塵の希望も与えるまいと、徹底して冷酷に振る舞っていた。拒絶の意は、すでにはっきりと伝えてある。にもかかわらず、由美は執拗につきまとってくる。持ってきた特製の茶碗蒸しを置き、由美は笑顔で尋ねる。「信行、今日の具合はどう?」彼が口を開く前に、さらに続けた。「さっき上がってくる時、おばさんたちとすれ違ったわ」その押し付けがましい熱意に、信行は冷淡に返す。「こんなことをする必要はない。毎日通ってくるなと言ったはずだ」冷たい拒絶に由美の顔は一瞬引きつったが、すぐに持ち直して愛想笑いを浮かべた。「そんなに邪険にしないで。別に深く考えているわけじゃないし、これで信行の気を引こうなんて思っていないわ。あなたなら、身の回りのお世話をしてくれる人には事欠かないのでしょうけれど」信行が口を開く前に、さらに畳みかける。「それに、この数年間、信行は峰亜や内海家のことをずっと気にかけてくれたじゃない。あなたが入院したと聞いて、見舞いに来るのは当然の義務よ。成美だって、きっとそう望んでいるはずだわ」またしても成美の名を持ち出す彼女に、信行は無表情を貫いた。かつてのような感傷を見せることは、もう二度とない。由美を見据え、氷点下の声で告げる。「俺が峰亜や内海家に力を貸してきたのは、成美が命を懸けて俺を救ってくれた、その恩を返すためだ。
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第430話

その言葉に、由美はさっと血の気を失い、大きく見開いた目で彼を睨みつけた。「信行、何を言ってるの!?どうして私がそんなことをしたなんて疑うのよ!」由美には痛いほど分かっていた。あの顔を持つ女に何か起きるたび、信行は決まって真っ先に自分へ疑いの目を向けるのだと。あまりにも、信用されていない。激昂する彼女に対し、信行は冷ややかに言い放つ。「お前と無関係なら、それでいい」真琴があの顔で戻ってきていなければ、由美をここまで疑うことはなかっただろう。だが、その顔と、自分に対する由美の強い欲望と執着を思えば、信行としても嫌でも勘ぐり、疑念を抱かざるを得ないのだ。直接問い詰めたのは、彼女の咄嗟の反応を見て、その表情から綻びを見つけ出したかったからである。疑いの眼差しに射抜かれ、由美はしばらく耐えるように見つめ返していたが、やがてその目を赤く潤ませた。そして、震える声で絞り出す。「信行、そんな風に疑われるなんて、ひどすぎるわ。私がいったい何をしたっていうの?どうしてそこまで疑われなきゃならないのよ。何年も付き合いがあるのに、あなたの目に映る私は、そんな恐ろしい女だったの?第一、私には西脇さんに危害を加える理由なんて一つもないじゃない。内海家や峰亜を道連れにしてまで、あんな恐ろしい真似をするはずないわ!」その必死の弁明を、信行はただ冷たい目で見下ろす。あえて最も疑われやすい状況を作り出し、裏をかくことこそが常套手段でもある。彼が無言を貫くのを見て、由美はさらに泣きそうな顔で訴える。「目を覚まして!西脇さんは真琴ちゃんじゃないわ。それに、仮に彼女が真琴ちゃんだとしても、あなたたちに復縁の可能性なんてないのよ!それに、知ってる?彼女はもう五十嵐さんといい仲になっているのよ。昨日なんて、五十嵐夫人が直々に食事を届けに来ていたんだから!どうして信行はいつも過去ばかり振り返るの?どうして今を見ようとしないの?成美の時もそう、真琴ちゃんの時もそう!私もあの二人と同じように死ななきゃ、愛してくれないって言うの!?どうして一度でいいからチャンスをくれないの!?せめて、私を通して成美を懐かしむことだってできるじゃない!」その痛切な問い詰めに、信行は淡々と真実を突きつける。「俺が成美に抱いていたのは愛じゃない。ただの感
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