真琴が言い終えると、光雅はしばらく無言で彼女を見つめ返し、やがてゆっくりと手を伸ばして契約書を受け取った。ページを開き、前半の条項に目を通している間は、特に反応は示さなかった。だが、信行が提示した譲渡額を目にした途端、その表情がスッと険しくなる。最初から、ビルなどどうでもいいのだ。渡された契約書を最後までめくると、光雅はふっと冷ややかに笑った。「ずいぶんと気前よく恩を売ってくるものだ。どうやら、微塵も諦める気はないらしい」「なら、この件は任せるわ。彼との直接交渉はお任せする。私は少し用があるから、アークライトへ行ってくるわ」そう言って真琴が背を向け、歩き出そうとした時、背後から声が引き留めた。「真琴」その声に、真琴は振り返って彼を見た。「まだ何か?」静かに真琴を見下ろし、光雅は手元の契約書に視線を落として尋ねた。「あいつ、これほどの気前の良さに……少しは心が揺らいだか?」その問いに、真琴はふっと微笑んで答える。「彼とは長い付き合いだもの。昔からお金に執着はないのよ。私だから特別ってわけじゃなく、元々そういう性格なの」昔から、内海家や峰亜工業に注ぎ込んだ額も相当なものだった。それに、過去の数々のスキャンダル相手にも、ずいぶんと気前が良かったし。そうあっけらかんと言い切る真琴に、光雅の眼差しがわずかに和らいだ。その視線の変化に気づき、誤解や無用な期待を持たせたくなくて、真琴は念を押すように言った。「安心して。信行とどうにかなることは絶対にないわ。もし誰かと恋愛をするなら、五十嵐さんを選ぶから」実際、彼らの中で、貴博といる時が一番プレッシャーを感じずに済むのだ。もちろん、光雅や西脇家には心から感謝している。だからこそ、その恩に個人的な感情を絡めたくなかった。信行とのあの結婚が、何よりの戒めになっているからだ。自分に聞かせるように放たれたその言葉に、光雅は思わず声を上げて笑った。「ずいぶんと頭の回転が速くなったな。俺に釘を刺すことも覚えたというわけか」そのからかいにも、真琴は真剣な面持ちで返した。光雅のからかいに対し、真琴は真剣な面持ちで言った。「……お兄ちゃん。本当に感謝してるわ。お父様とお母様、それに、お祖父様とお祖母様にも」そう語る彼女は、完全に「茉琴」にな
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