Todos los capítulos de 暴走する愛情、彼は必死に離婚を引き止める: Capítulo 671 - Capítulo 680

766 Capítulos

第671話

真琴の姿を捉えた瞬間、信行の表情がふっと綻んだ。足早に歩み寄り、流れるような手つきでバッグを受け取る。口元には悪戯っぽい笑みを浮かべた。「西脇博士、今日は随分とお時間通りで。少しは自分を労わる気になったか?」「もう……嫌味はいいから」真琴は小さく息を吐き出した。「お腹空いた。先に何か食べに行こ」顔を合わせるたび、以前のようなぎこちなさは薄れていく。明らかに距離が縮まっていた。真琴の手を取り、慈しむように軽く口づけを落とす。「了解。まずは腹ごしらえだな」ベンツのGクラスへ向かい、助手席のドアを開けて真琴をエスコートする。フロントを回り込み、運転席へ乗り込んだ。エンジンをかけるやいなや、真琴のほうへぐっと身を乗り出す。右手で彼女の後頭部を優しく包み込み、そのまま貪るように唇を奪った。ようやく口づけを解いた頃には、息を整えることすらままならない。ここ最近重ねてきたキスの数は、過去の記憶すべてを合わせても足りないほどだった。乱れた呼吸のまま、真琴は微かに眉をひそめる。「……余計にお腹空いた」拗ねたような、どこか甘えた声。思わず吹き出し、信行は車を発進させた。ふたりで穏やかに過ごすこの時間は、どんな大仕事の契約を勝ち取るよりも、信行の心を甘く満たしていた。*食事を終えたあと、ふたりでスーパーへ向かった。夕飯の食材だけでなく、真琴のためにフルーツやお菓子もカゴいっぱいに買い込んでいく。大した金額ではない。けれど、互いの生活へ深く踏み込んでいく実感があった。誰にも代えられない、ささやかで確かな時間。カートを押しながら隣を歩き、カゴへぽんぽんと品物を入れていく真琴を眺める。ふと学生時代の記憶が蘇った。あの頃も、たまに真琴や紗友里と買い出しに来たことがあった。そういえば、真琴は昔からスーパーでの買い物が一番好きだった。懐かしさに胸がくすぐられ、真琴の頬へそっと顔を寄せる。不意の甘えに、真琴は横目で呆れた視線を向けた。「自分を何歳児だと思ってるの。子供じゃないんだから」「真琴……こういうの、すごくいいな」肩に顎を預けたまま、柔らかな耳たぶにちゅっと唇を落とす。信行の言葉を聞き流し、真琴はカートにチョコレートを放り込むと、また好物を物色し始めた。素っ気ない態
Leer más

第672話

真琴からのジト目を受け、信行は降参するように笑った。「はいはい、わかったよ。外ではもうべたべたしない」そう言うが早いか、真琴の顎を指先で軽く持ち上げ、唇をひとつ重ねる。「ふたりきりの時にたっぷり甘えることにする」知り合って長い年月が経つ。だが、信行がここまで図々しく、甘え上手な男だったとは思いもしなかった。胸板を軽く押し返しながら、真琴が呟く。「ほら、車出して」どこか甘さを帯びた語尾に、信行は嬉しそうに目を細めた。真琴に促されるまま頷き、車を発進させる。真琴はまだ知らない。信行は昔から甘えたくなかったわけではない。あの頃はまだ真琴が幼く、必死に自制していただけだった。*夜9時過ぎ。部屋に戻り、買ってきた食材を冷蔵庫へしまっている最中、信行がまた背後から抱きついてきた。冷蔵庫の扉を閉め、真琴は振り返る。もはや呆れを通り越して脱力するしかない。「昔はこんな甘えたがりだなんて、ちっとも気づかなかった」今の信行を見ていると、まるで自分より年下の甘えん坊に思えてくる。その声を聞きながら、信行は真琴の耳元へ唇を寄せ、艶のある声で囁いた。「で、嫌いじゃないだろ?」不意を突かれ、真琴は言葉を詰まらせた。ただじっと見つめ返すことしかできない。固まる姿がたまらなく愛しいのか、信行は笑みをこぼし、さらに強く抱きしめた。「どうした?黙り込んじゃって。自分が好きかどうかもわからなくなった?」真琴の耳が敏感だと知り尽くす信行は、意地悪そうにその耳たぶを甘噛みする。「っ……」微かに鼻にかかった吐息が漏れ、真琴の膝からふっと力が抜けた。すかさず信行が腰を抱き寄せて身体を支え、低く喉を鳴らして追い打ちをかける。「ん?」翻弄されきった真琴は、信行の腕に爪を立てて縋りつき、掠れた声で答えた。「……悪くはないよ」その言葉を聞くや否や、信行は真琴の顎を捉え、深く口づけを落とした。唇を重ねたまま、ごく自然な動作で真琴を抱え上げ、ダイニングテーブルの上へと腰掛けさせる。真琴は目を閉じ、信行の首筋に腕を回して応じた。仕事を終えた後、こうして傍に誰かがいて心と身体を解きほぐせる時間は、思いのほか心地よい癒やしだった。熱を帯びたキスの最中、信行の手は迷いなく真琴の服へ伸び、ボタンを外して
Leer más

第673話

信行と話す真琴の口調は、無自覚ながらまるで長年連れ添った夫婦のようだった。信行を窘めつつ、片手をその胸に押し当てる。もう片方の手でスマホを耳に当て、通話に出た。「もしもし、お義母様」電話の向こうで、美雲が嬉しそうに顔をほころばせる気配が伝わってくる。その声には隠しきれない喜びが滲んでいた。「真琴ちゃん」呼びかけた勢いのまま、美雲は矢継ぎ早に言葉を続ける。「今週末はお休みでしょ?おばあ様がずっと真琴ちゃんのこと気にしててね。ずいぶん顔を見てないから、会いたくてたまらないみたいよ」スピーカーから漏れる美雲の声を聞きながら、信行は真琴の指先を取り、唇へ運んで甘噛みした。腕の中に閉じ込められた真琴が視線を上げると、信行はさらに身をかがめ、唇を奪おうと迫ってくる。真琴は眉をひそめ、胸を軽く押し返して声を潜めた。「ちょっと、悪ふざけしないでってば」だが信行は耳際へ顔を寄せ、柔らかな耳たぶにそっと歯を立てる。敏感な場所を突かれ、真琴の口から微かな甘い吐息が漏れた。ただでさえ抜けていた脚の力が、一気に頼りなく蕩けていく。電話越しにその吐息を聞きつけ、美雲が怪訝そうに尋ねてきた。「真琴ちゃん、どうしたの?」真琴が答える隙も与えず、美雲は言葉を重ねる。「ねえ、明日か明後日、うちにご飯食べに来られないかしら?おばあ様、退院してからほとんど真琴ちゃんに会えてないって言っててね」ベッドの上で、真琴は慌てて息を整えた。「ううん、お義母様、何でもないの」取り繕う真琴に覆いかぶさり、信行は腹から胸元へと手を這い上がらせる。そして耳元で囁いた。「週末、一緒に帰ろう」熱を帯びた手のひらが撫で上げる感触に、真琴は息を詰まらせた。スマホを強く握りしめ、必死に平然を装って答える。「うん、わかった。じゃあ明日、本家にご飯食べに行くね。おばあ様の顔も見に行きたいし」真琴の承諾に、美雲はぱっと声を弾ませた。「よかった!じゃあ明日は真琴ちゃんの好きなものを作るわね」その勢いのまま、さらに続ける。「明日、信行に迎えに行かせるから」のしかかる信行を見上げ、真琴は断りを入れた。「ううん、大丈夫。自分の車で行くから」「そんなに遠慮しなくていいのよ。どうせ信行も暇してるんだから、迎えに行かせれば
Leer más

第674話

真琴のお茶目な仕草に、信行は嬉しそうに目元を緩めた。指を絡め、唇を重ねようと身をかがめたその瞬間、傍らのスマホが甲高く着信音を鳴らす。ぴたりと2人の動きが止まった。真琴は信行を見つめて促す。「先に出て」信行は手を離し、スマホを拾い上げて画面を確かめた。美雲からだった。「母さんだ」真琴に告げてから、通話ボタンを押す。「もしもし、母さん」寝室に信行の声が落ちるや否や、スピーカー越しに美雲の勢いのある声が響いた。「信行、明日は手元の仕事を全部片付けておきなさい。真琴ちゃんが本家に……」最後まで聞かずに、信行が遮った。「真琴が本家に飯食いに来るんだろ。わかってる。明日迎えに行くから」美雲が口を挟む隙も与えない。「こっちもやることがある。切るぞ」言い終えるが早いか、信行は一方的に通話を打ち切った。電話の向こうで、美雲はスマホを握りしめたまま呆然と立ち尽くしていた。しばらくして、ようやく我に返ったように呟く。「最後まで聞かないで、どうして全部わかってるのよ……あの子、エスパーにでもなったのかしら」首を捻ってみたものの、いくら悩んでも答えは出ない。次第に考えること自体が億劫になってきた。いまは真琴が付き合いを続けてくれて、信行が余計な波風を立てず、2人が何事もなく顔を合わせられるなら十分だ。絶縁状態にさえならなければ、それで満足だった。寝室では、あまりの手早さに真琴が苦笑していた。信行の首筋に両腕を回し、気だるげに甘える。「そんなに急がなくてもいいのに。お義母様の話、最後まで聞いてあげなよ」真琴の口から出た「お義母様」の響きが、信行の胸を愛おしさで満たす。たまらず顔を寄せ、その唇を塞いだ。「自分がどれだけ魅力的で、人に好かれるか自覚してないだろ」囁きながら真琴を抱き寄せ、軽やかに寝返りを打たせる。そのまま自分の腰の上へ跨がらせた。恥じらいを脱ぎ捨て、貪るように肌を重ね合う。その夜、信行は自宅へ帰らず、真琴も引き止めなかった。2人が同じ部屋で夜を明かすのは、もはや日常になっていた。*翌朝、真琴が目を覚ましたとき、信行はすでに起きていた。バスローブを羽織り、窓の前に立って静かに通話している。その声は低く、穏やかだった。真琴を起こさないよう気遣いな
Leer más

第675話

「ああ」信行は頷き、ベッドの端に腰を下ろした。真琴の額へそっと手を伸ばし、優しく撫でる。「真琴……こういうの、本当にいいな」真琴は目を細めたまま、小さく頷いた。「うん」そして、念を押すように釘を刺す。「この先、あんまり多くを求めないでよ」信行はふっと笑い、真琴の顎を軽くつまんだ。「求めたりしないさ。全部お前の言う通りにする。どんな付き合い方がいいかも、お前が決めてくれ」――ただ、俺のそばにいてくれればいい。その言葉は口に出さず、胸の内に留めた。真琴に余計な重圧を与えたくなかった。急いては事を仕損じる。焦らず少しずつ進めば、きっと2人にとって良い結末へ辿り着けるはずだ。真琴は目を閉じ、それ以上何も言わなかった。うつ伏せのまま深く息を吸い込む。昨夜重ねた時間の余韻が胸を満たしていく。部屋に漂う心地よい香り、窓から差し込む暖かな陽光。かつて信行に嫁いだ新婚の頃でさえ、あるいは学生時代でさえ、今ほどの安心感や落ち着きを覚えたことはなかった。静かに横たわる真琴の傍らで、信行は黙って寄り添っている。ふと、過去の出来事が胸をよぎった。すれ違い、誤解、そして――信行のあの白髪。真琴はそっと手を伸ばし、その指を握りしめた。深い計算があったわけではない。ただ感情が溢れ、触れたくなっただけだ。何はともあれ、信行は2度も命を救ってくれた恩人でもある。過去に受けた傷が、紛れもない真実だとしても。握られた手を優しく揉みほぐし、信行が声をかける。「まだ眠いか?」真琴は目を開け、信行を見上げた。「起きなきゃ。お義母様も紗友里も、おばあ様も待ってるし」そう言うと、真琴はベッドから身体を起こした。部屋で手軽に朝食を済ませ、牛乳を1本手に取ると、2人は階下へ降り、本家へと車を走らせた。ハンドルを握りながら、信行はちらりと真琴の横顔を盗み見る。近頃の真琴は助手席でよく喋るようになり、何気ない会話を交わしてくれる。西脇家のこと、仕事のこと、日々の暮らし――心を開いて話してくれるだけで、信行の胸には温かい喜びが広がった。婚姻関係はなくとも、2人の距離は確実に縮まっている。不義理かもしれないが、信行は渚の存在に感謝すらしていた。あの騒動がなければ、真琴との関係はいまだ膠着したま
Leer más

第676話

傍らで紗友里も立ち上がり、真琴をつま先から頭のてっぺんまでまじまじと見つめた。感心したように口を開く。「数日見ないうちに、肌ツヤがすごく良くなってない?ほんのり桜色でぷるぷるしてる。どうやって手入れしてるの?コツ教えてよ」大真面目に秘訣を聞かれ、真琴の頬が一瞬でかっと熱くなった。男に抱かれると女は綺麗になる、という俗説を思い出す。ただの気休めだと聞き流していたが、まさか本当に効果が現れるとは夢にも思わなかった。真琴は引きつった笑みを浮かべ、誤魔化す。「睡眠……とにかくたくさん寝ることかな」「あー、やっぱり!最近肌の調子がイマイチだったのも寝不足のせいだったんだ。よし、今夜から夜更かしはやめよっと」紗友里は深く納得して頷いた。そこでようやく信行の存在に気づく。途端に表情をがらりと変え、真琴に向き直って心配そうに尋ねた。「ねえ、お兄ちゃんに送ってもらう途中、いじめられたり嫌な思いさせられたりしなかった?」真琴が戻ってから信行を毛嫌いしているのを知っているだけに、紗友里の警戒心は人一倍強かった。気遣ってくれる優しさに、真琴は苦笑いをこぼす。「ううん、別に。何ともなかったよ」そう答えつつ、真琴は口が裂けても言えなかった。2人の関係がすでにそこまで進展し、昨夜も同じベッドで肌を重ねていたなどとは。リビングの物音に気づき、美雲が台所から顔を出した。真琴の姿を認めるなり、パッと顔をほころばせる。「真琴ちゃん、いらっしゃい!お腹空いてるでしょ。あと何品か作ったらすぐお昼にするからね」「お義母様、お腹は空いてないから慌てなくて大丈夫ですよ」真琴が帰ってきただけで、本家の中が一気に華やいだ。奥の離れで真琴の来訪を聞きつけた由紀夫も、将棋盤を片付けて母屋へ姿を現した。紗友里や幸子は2人の間に何があったか詳しく知らないが、由紀夫にはすべて筒抜けだった。真琴にひと声掛けてから、由紀夫は信行へこれ見よがしに冷ややかな視線を投げる。いい思いをしておきながら白々しい態度を取りおって、と言わんばかりだ。要するに、渚が愚行をやらかしてくれたおかげで、結局一番得をしたのはこの孫息子だった。とはいえ、2人が関係を公にしていない以上、由紀夫も無粋な口出しはせず、成り行きを静観すると決めていた。昼時にな
Leer más

第677話

真琴の左隣で妹の騒ぎを眺めていた信行は、冷ややかな視線を向けた。「自分の心配だけしてろ。俺のことに口出しするな」言い捨てるなり、何食わぬ顔で真琴の器におかずを取り分ける。その仕草を目ざとく捉え、紗友里は眉をひそめた。「ほら見なさいよ!お兄ちゃん、やっぱり真琴を狙ってるでしょ。せっかく来てくれたのに、また怖がらせて追い返さないでよね」必死に自分を庇う紗友里に、真琴はそっと目を向けた。瞳の奥に、あの芦原ヒルズの火災が蘇る。泣き崩れて気を失った紗友里の姿を思い出すと、今でも胸が締めつけられた。紗友里はただ、また真琴を失うのを恐れている。2人が見つめ合う中、美雲が助け舟を出した。「はいはい、そこまで。まずはご飯を食べましょ。紗友里ちゃんがそんなに真琴ちゃんにべったりなら、真琴ちゃん、いっそのこと本家に戻って暮らしたらどう?それなら私も2人の面倒をまとめて見られるし」美雲の言葉が終わるや否や、信行は甲斐甲斐しく真琴のコップにジュースを注いだ。今度ばかりは幸子も信行の気遣いに気づき、孫息子をじっと見つめる。その瞬間、祖母の胸の内ですべてが腑に落ちた。だからこそ美雲の提案に相槌を打ち、見合いの話題をさらりと終わらせる。見ず知らずの令嬢より、一番気に入っているのはやはり真琴だ。孫の嫁には、他でもない真琴に戻ってきてほしいと心から願っていた。*昼食後、真琴と紗友里は裏庭で幸子の話し相手を務め、別棟にある紗友里の部屋へ向かった。書斎の前を通りかかると、信行は仕事にかかりきりで通話中だった。紗友里の部屋に入り、真琴は本棚から抜き取った本のページをめくりながら雑談を交わす。そこへ、部屋のドアがノックされた。顔を上げると、扉を開けた信行が立っていた。中へは入らず、真面目くさった表情で真琴を見やる。「真琴、仕事の件でちょっと話がある。こっちに来てくれないか」真琴は慌てて本を置き、紗友里にひと声掛けて信行の後を追った。見送る紗友里が、不満げに呟く。「どいつもこいつも仕事ばっかり。せっかくの週末なのに」だが、信行が真琴を連れて入ったのは書斎ではなく、自らの寝室だった。信行がドアを閉めるや否や、真琴は顔を上げて問い詰める。「成美のほうで、また何か動きがあったの?」あまりの真剣さに、成美
Leer más

第678話

信行のまっすぐな視線を受け、真琴はその胸中を一目で見抜いて平然と言い放った。「カマをかけるような真似はやめて」じっと信行を見据え、改めて言葉を継ぐ。「先のことなんて考えてない。だから自分のやりたいようにして。私に気兼ねしたり、足を引っ張られたりしないで」真琴の表情は真剣そのものだった。その大真面目な言葉に、信行は不意に吹き出した。ひとしきり笑った後、信行は問いかける。「先のことなんて考えてない、ねぇ。じゃあこのままズルズル引きずって、結婚もせず、関係も公表せず、お前も見合いも新しい相手探しもしないつもりか?人生を投げやりにして、子供も作らない気か?」ここ最近肌を重ねるたび、真琴は口を酸っぱくして避妊するよう釘を刺してきていた。最初からそのつもりで準備はしている。だが、毎回あからさまに念を押されると、信行としても胸の奥がチクリと痛んだ。唐突に子供の話題を出され、真琴は虚を突かれて目を丸くした。しばらく視線を交わした後、ようやく答える。「……そんなこと、考えたこともなかった」東都に戻ってきてから、将来のことなど一切頭になかった。まして恭介から接触を受けて以降は、なおさら考える余裕すらない。真琴は飾らない瞳で信行を見つめ、言葉を続けた。「あなたとこういう関係になるなんて、自分でも予想外だった。ただ、今の私は……」身体が求めてしまっているだけ――その先の言葉を、真琴は理性で飲み込んで口を噤んだ。あまりに率直な態度に、信行は呆れるやら可笑しいやらで苦笑いをこぼした。手首を引いて真琴の身体を抱き寄せると、やり切れないように息を漏らす。「本当に……お前のことはどう扱ったらいいかわからないな」腕に包まれた真琴は、信行の胸に顔をうずめたまま黙り込んだ。しばらくして、真琴はそっと視線を上げる。「用がないなら、紗友里の部屋に戻るけど」信行はさらに強く抱きしめ、真琴の頭の上に顎を乗せた。「紗友里のところにばかりいてどうする。ここで一緒に昼寝しよう」真琴が口を挟む隙も与えず、畳みかける。「お前を抱いてないと、安心して眠れないんだ」そして、小さく付け加えた。「また白髪が生えてきそうなんだよ。少しだけ付き合ってくれ」「白髪が生えてきそう」という一言に、信行の胸元を押さえていた真琴の
Leer más

第679話

そういえば、1度食事を奢る約束も残ったままだ。枕をぎゅっと抱きかかえてベッドへ倒れ込み、紗友里はぼんやりと思う。光雅の顔を、ずいぶん長いこと見ていない気がした。夕方5時過ぎ、階下から美雲が夕食の支度ができたと呼ぶ声が響いた。真琴と信行が部屋を出ると、紗友里も大きく伸びをしながら寝室から顔を出した。廊下の向こうから並んで歩いてくる2人を目ざとく見つけ、紗友里は首を傾げた。「真琴、午後はずっとお兄ちゃんと何してたの?書斎に見に行ってもいなかったし」真琴は内心ぎくりとしながらも、表には出さず落ち着き払って答える。「仕事の話をしてたの」信行へ視線を向けた紗友里は、昼間より明らかに顔色が良く、瞳まで生き生きと輝いている兄に眉をひそめた。「やっぱり2人とも化物ね。仕事の話をしただけで、どうしてそんなにコンディションが良くなるわけ?」もっとも、ひと眠りして頭がすっきりしたのか、それ以上深く勘繰る様子はない。3人が連れ立って階段を降りると、裏庭から由紀夫と幸子も母屋へ戻ってきた。夕食後、真琴は祖父母としばし歓談を楽しみ、信行の車で送ってもらうことになった。真琴のマンションの下に車を停めると、信行は何食わぬ顔で一緒に上階へ上がってくる。その堂々たる様子には帰る気配など微塵もなく、まるでこのまま居座るつもりだ。ここ数日肌を重ねたことで、真琴もこの関係を暗黙のうちに受け入れているのか、信行が泊まることを拒まなかった。*明けて月曜の朝。真琴が出社する際も、信行が車で送り届けてくれた。午前のチームミーティングを終えて会議室を出ると、東央の社内に紗友里が姿を見せていた。思わぬ再会に、真琴はぱっと表情をほころばせて駆け寄る。「紗友里、来てたんだ」紗友里が口を開く間もなく、真琴は声を弾ませた。「お昼、一緒に食べに行かない?近くにいいお店があるの」だが、紗友里は慌てた様子で首を横に振る。「ごめん真琴、今日はやることが山積みで手が離せないの。今度またゆっくり付き合って」予想外の反応に真琴は一瞬目を丸くしたが、すぐに笑顔で頷いた。「わかった。じゃあ時間ができた時に、また一緒に行こ」返事をしながらも、真琴の胸に小さな疑問が浮かぶ。紗友里は普段、そこまで仕事熱心なタイプではないはずだ。
Leer más

第680話

紗友里は光雅の向かいにある椅子を引き、腰を下ろした。正面でちょこんと背筋を伸ばす紗友里へ、光雅がちらりと目を向ける。「手元の仕事がもう少し残っている。追加合意書の確認は後にしていいか」「全然大丈夫!仕事優先して」紗友里はすぐに返事をした。サインが遅くなればなるほど長くここに居られる。内心ではむしろ大歓迎だった。光雅が再び書類に視線を落とす。紗友里は両頬に手を添え、瞬きも惜しむようにじっと見つめ始めた。知的で端正な顔立ちに、鼻梁にかかる金縁の眼鏡。一見すると物腰柔らかな優男だが、その瞳の奥には冷徹な鋭さが宿っている。一心不乱に仕事へ打ち込む横顔に、紗友里は吸い寄せられるように見入ってしまった。しばらくして仕事を片付けた光雅が顔を上げると、熱い眼差しを注ぎ続ける紗友里と目が合った。光雅は一瞬虚を突かれたように固まり、すぐにふっと口元を綻ばせる。その様子から、彼女の胸中を大方察したのだろう。光雅はおもむろに追加合意書を手に取り、からかうように呟いた。「ずいぶん仕事に余裕があるみたいだな」片桐家の令嬢である紗友里にとって、会社勤めは気晴らしや暇つぶしのようなものだ。合意書を1通届けるだけで午前中ずっと東央に居座っているのだから、手が空いているのは一目瞭然だった。突然声をかけられ、紗友里は小さく身じろぎして背筋を正した。「そんなことないよ、そこまで暇ってわけじゃ……」光雅は薄く笑みを浮かべ、合意書に目を通し始める。丹念に文面を確認し終えると、ペン立てからサインペンを抜き、3部の書類それぞれに流れるように自署を走らせた。ファイルを紗友里へ差し出しながら告げる。「秘書室に回しておいてくれれば、あちらで押印の手続きをしておく」受け取った紗友里はすかさず言葉を添えた。「急がないから、まったく焦らなくて大丈夫」さりげなく腕時計に目を落とし、光雅を見上げる。「もうお昼休みだけど……まだ仕事する?」光雅は再び視線を上げ、紗友里を見つめ返した。しばし観察した後、ふと思い出したように口元を緩める。「そういえば、食事を奢る約束が残っていたな。思い立ったが吉日だ、今日にするか」「うん!ぜひ!」紗友里は満面の笑みで即答した。東央システムズをうろうろと歩き回り、ここまで粘
Leer más
ANTERIOR
1
...
6667686970
...
77
ESCANEA EL CÓDIGO PARA LEER EN LA APP
DMCA.com Protection Status