30分後、車は東央システムズのビル前へ滑り込んだ。助手席を降りた真琴が伏し目がちに会釈する。信行は両手をハンドルに置いたまま、目を合わせて小さく応じた。「ああ」その眼差しには、隠しようもない寂しさが滲んでいる。部屋で避妊薬を水で流し込んでいた真琴の姿が脳裏をよぎるたび、胸中の翳りはさらに濃くなった。ビルの中へ消えていく真琴の背中を、信行は微動だにせず見つめ続ける。その姿が完全に視界から消え去ってから、ようやく重く息を吐き出し、前を向き直った。そのまま車を静かに発進させ、東央システムズを後にする。興衆実業へ戻る道中も、信行の気分は沈み込んだままだった。真琴の頑なさは承知していたし、長期戦も覚悟していた。それでも、あれほど露骨に警戒して避妊薬を飲む姿を見せつけられれば、胸が痛まないはずがない。コンソールボックスから煙草とライターを取り出し、眉間を寄せて火をつける。窓を少し開け、煙草を挟んだ左手を窓枠に預けた。晴れることのない重苦しさが、心の底に澱のように溜まっていく。*一方、東央システムズ。自室のオフィスに戻るや否や、真琴は一転して仕事へ没頭した。その切り替えの早さと割り切りぶりは、信行よりも遥かに徹底していた。夕方5時を回った頃、ラボでの作業を終えて戻った真琴のスマホが鳴った。紗友里からで、今夜一緒にご飯を食べないかという誘いだった。資料をめくりながら、真琴は肩と頬の間にスマホを挟んで応じる。「今、手空いてる?忙しくないなら、先に東央まで来て合流しない?ついでに車に乗せていってよ」すると電話の向こうで、紗友里が慌てたように捲し立てた。「下で待ってるから!上には行かない」あの日、光雅と差し向かいで話を清算して以来、紗友里の世界から彼の存在は消え去ったようだ。東央の上階へ足を踏み入れる気など微塵もない。光雅と出くわす隙など絶対に作りたくなかった。顔を合わせることすら億劫だった。紗友里の断固とした口調に、真琴は深く勘繰ることもなく頷く。「わかった。じゃあ着いたらメッセージ入れて。すぐ降りるから」「了解」短く約束を交わし、通話を切った。*30分後、フロアの社員がほとんど引き揚げた頃、ビル下に到着したと紗友里から連絡が入った。真琴は手早く支度を済ませて
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