Todos los capítulos de 暴走する愛情、彼は必死に離婚を引き止める: Capítulo 661 - Capítulo 670

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第661話

耳元に落ちる優しい言葉を聞きながら、真琴は静かに目を閉じ、信行の首筋に顔を埋めた。どれほど毎日が充実していようと、楽しそうに笑っていようと、終わりのない仕事に追われていようと。心の奥底では、ずっと寂しくて、どうしようもなく心細い思いを抱えていた。自分のような人間に、生きている意味など本当にあるのだろうか――そう自問することさえ珍しくない。縋りついてくる体を、信行は片手でお尻を支えて抱き上げ、もう片方の手で優しく背中を撫でた。そして頬に唇を寄せながら囁く。「大丈夫だよ。俺がずっとそばにいるから」あやしながらも、信行はふと察していた。真琴の心はまだ完全に開いていない。心から納得し、過去を吹っ切れたわけではない。2年前よりは確かに快復している。それでも、心の奥底には深い孤独と寂しさが澱のように沈んだままだ。忙しさにかまけて、自分を麻痺させているにすぎない。今の二人には、温かな家庭と子供が必要だった。母親になり、命を繋いでいく実感を得てこそ、心の奥にある空白が満たされ、寄る辺のない孤独から解放されるはずだ。確かな心の拠り所ができるはずだ。どれほど有能で聡明な女性であっても、根底にあるのは情の脆さだ。まして幼い頃から愛情に飢えていた真琴なら、なおさらだった。信行の口づけと慰めを、真琴は拒むことなく受け止めていた。今この瞬間、彼の腕の中の温もりが確かな安心感を与えてくれていることだけは、否定しようがない。たとえ一時的であっても、彼は確かに心の隙間を埋めてくれていた。しばらくそうして抱き合っていたが、呼吸が落ち着いてきたのを見計らい、信行が顔を覗き込んできた。「少しは落ち着いた?何か食べようか」腰に脚を絡ませ、首元にしがみついたまま、真琴は小さく頷く。「うん」素直な反応に、信行の口元が自然とほころんだ。そのまま抱きかかえた状態で、リビングへと運んでいく。女性とはやはり情の生き物だと、信行は実感せずにはいられない。肌を重ねた相手には、少なからず特別な情を抱いてしまうものだ。真琴なら、なおのことその傾向が強い。リビングへ移動すると、信行は先ほど作ったうどんを温め直し、ステーキにも火を通した。湯気の立つ料理をテーブルに並べ、真琴の隣に腰掛けて口を開く。「冷蔵庫の中、さ
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第662話

真琴の感謝の言葉に、信行は思わず口元をほころばせた。その整った笑みから、真琴はすぐさま視線を逸らす。二人で静かにうどんをすする。胸の奥がじんわりと満たされていく感覚を、真琴は素直に認めていた。ほどなくして食事を終えると、信行は手際よくテーブルとキッチンを片付け始めた。実家にいるときは何一つしないくせに、真琴の部屋ではどんな雑用も嫌な顔一つせずこなしてしまう。片付けが終わった頃には、時計の針はとうに日付を跨いでいた。キッチンから戻ると、寝室から出てきた真琴がダイニングに佇んでこちらを見つめていた。ふと、二人の間に静けさと微かな気まずさが落ちる。すべきことは済ませ、夜食も食べた。建前上は、信行の今日の役目はこれで終わりであり、引き上げる潮時だった。まっすぐな視線に耐えかね、真琴が口を開く。「ごめんなさい、後片付けまでさせちゃって」そんな余所余所しい物言いに、信行はふっと吹き出した。視線を落とすと、ほんのり上気した頬がひどく綺麗に見える。歩み寄りながら、瞳を覗き込んで尋ねた。「それじゃ、俺もう帰ろうか?」真琴は何食わぬ顔で小さく頷く。「用事があるなら、帰っていいよ」「……」信行は思わず絶句した。じっと見つめながら、用が済んだらポイ捨てかよ、と内心でツッコミを入れる。しばらくの沈黙の後、信行は口を開いた。「別に用事はないけど」さらに言葉を重ねる。「もう夜中だし」引き止めてほしいという意図が、ありありと透けて見えていた。残りたいオーラを全身から放つ信行を前に、真琴は言葉に詰まった。泊まらせること自体はやぶさかではない。ただ、前回のやり取りであまりにきつく突き放してしまった手前、いまさら素直に折れるのはプライドが許さなかった。どんなときも、言葉には逃げ道を残しておくべきだったと痛感する。迷った末に、真琴は当たり障りのない一言を返した。「そうね。もう夜中だもんね」その返答に、信行はとうとう堪えきれずに吹き出した。気まずさと羞恥で葛藤しているのが手に取るようにわかる。素直に泊まると言えば受け入れてくれるのは明白だった。まだ二人とも、体力には十分余裕がある。笑われてしまい、真琴はますます口を噤んだ。照れ隠しに視線を逸らした瞬間、信行が右手
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第663話

喉から手が出るほど残りたいくせに、体もとっくに限界を迎えているくせに、信行はあえて駆け引きを仕掛け、真琴の口から引き止めさせようとしていた。男にだって、甘やかされたい瞬間はある。熱い口づけで赤く染まった唇をかすかに開き、真琴は見上げる瞳をわずかに潤ませて呟いた。「……行かないで」今この瞬間、引き止める理由は他にない。ただ、彼を必要としているから。信行にすっかり火をつけられてしまった。ここで帰られてしまっては、今夜はとても眠れそうになかった。まっすぐ見つめてくる瞳と、甘やかな懇願に、信行はパッと目を輝かせた。だが、すぐには頷かず、意地悪そうに問いを重ねる。「誰に行かないでって言ってるんだ?」そんな小細工など、百も承知だった。乱れた呼吸を少し整え、じっと見つめ返すと、真琴は身を起こして耳元へと顔を寄せた。「信行……行かないで」甘く囁かれたその一言に、信行は真琴の顎に手を添え、たまらず深く唇を塞いだ。普段の真琴はどこまでも純粋で、無邪気だ。だからこそ、今のこのギャップが狂おしいほど愛おしかった。熱い口づけを交わしながら、ダイニングテーブルから軽々と抱き上げ、そのまま寝室へと連れていく。柔らかいベッドへ背中から沈められ、マットレスへと体が深く埋もれた。心臓が口から飛び出しそうなほど激しく高鳴る。両腕の間に真琴を閉じ込め、覆いかぶさろうとした瞬間、真琴は自ら両手を首筋へ回し、身を浮かせて唇を重ねた。その無防備な求めに、信行の理性は完全に吹き飛んだ。脇腹へ手を滑り込ませ、熱を帯びた素肌をなぞるように上へと這わせていく。……同じ頃、成瀬家。片桐家から戻った後、耕太郎は信行が突きつけてきた証拠の数々を徹底的に洗い直していた。信行の言葉通り、あの映像も証拠も、すべて紛れもない事実だった。リビングでは、渚が暗い表情のまま一人掛けのソファに沈み込み、耕太郎はソファに深く腰掛け、両手で杖を握りしめている。文江はおずおずと娘の後ろに立ち尽くし、夫の成瀬俊彦(なるせ としひこ)に至っては顔を出すことすらしていない。渚の不祥事を恥じ入り、寄り付こうともしなかった。苦々しく顔を歪める耕太郎の視線は、底知れぬ失望に満ちている。重苦しい沈黙が部屋を支配した末、耕太郎は重々しく口を
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第664話

信行に同じように薬を盛られ、その醜態を収めた映像や写真までばら撒かれてしまった以上、もう東都に居場所などない。まともな嫁ぎ先を見つけることすら絶望的だった。渚の絞り出すような言葉を聞き届け、耕太郎は嫌悪感を露わに視線を背けると、杖を支えに立ち上がり、そのまま自室へと引き上げていった。海外でしでかした悪行の数々をあらかじめ知っていれば、帰国などさせなかったし、信行との見合いを認めることなど決してなかった。旧友に合わせる顔がまるでない。耕太郎の背中を見送りながら、文江は赤く染まった目で、渚を見つめて言い聞かせるように呟く。「これからはもっと身の振り方を考えなさい。外でみっともない真似をするんじゃないよ」その言葉に、渚は何も答えなかった。無言のまま立ち上がり、傍らにあった大きなスーツケースを引いて玄関へと歩き出す。信行を手中に収めるはずが、最後は身の破滅を迎えることになろうとは思いもしなかった。真琴――何もかも、あの女と片桐家が中途半端な希望を持たせたせいだ。背中を追い、玄関先まで見送る文江は、胸の内で重いため息をつく。娘の性格は、母親である自分が一番よく分かっていた。一見おとなしそうに見えても、根は遊び好きで刺激を求める性質だ。甘やかし放題に育て、まともに躾をしてこなかった自分の責任だった。……翌朝。真琴はぐっと伸びをし、心地よい目覚めとともに瞼を開けた。視界に真っ先に飛び込んできたのは、隣の枕に頭を預けている信行の姿だった。とっくに目を覚ましていたらしく、横向きに寝そべって肘をつき、面白そうにこちらを眺めている。視線がぶつかり、昨夜の甘い時間が頭をよぎったが、平静を装って伸ばしていた両手を下ろし、何食わぬ顔で挨拶を口にした。「おはよう」その様子に、信行はふっと口元をほころばせ、気だるげな声でからかう。「ずいぶんご機嫌だね。西脇博士にご満足いただけたようで何よりだ」朝一番の軽口に、真琴は涼しい顔で釘を刺した。「朝っぱらからうるさい」信行は片眉をぴくりと持ち上げ、悪戯っぽく言葉を重ねる。「用が済んだらそうやって手のひらを返す……」言い終えるより早く、真琴は布団から右手を伸ばし、その口元をぎゅっと摘まんで塞いだ。「黙ってて。喋らなくても誰も困らないでしょ」
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第665話

信行は慌てる様子もなく身支度を整えると、キッチンへ向かって真琴のために朝食を用意した。手早く食事を済ませ、そのまま車で彼女を会社まで送り届ける。車中、真琴は二度ほど仕事の電話を取った。本人に自覚はなかったが、二人の距離は知らず知らずのうちに縮まっている。言葉にして好意を交わすことはなくても、その一瞬一瞬に確かな情が通い合っていた。やがて車が東央ビルのエントランス前に滑り込み、真琴がドアを開けて降りようとしたとき、信行が身を乗り出して声をかけた。「真琴」バッグを肩に掛けて振り返ると、優しく念を押すように言葉が落ちてくる。「何があっても、いつでも電話していいから」その言葉に、真琴はしばし彼を見つめ返し、ふっと口元を緩めて微笑んだ。「……ありがとう」人間、そう無感情ではいられない。ここ最近の信行の献身や、かつて身を挺して自分を庇ってくれた出来事に、微塵も心を動かされていないと言えば嘘になる。ただ、今の真琴が信行に許しているのは、あくまで体の関係だけだった。自身の体がそれを必要としているからにすぎない。身勝手だと分かっていても、彼が本当に望む愛情を返してやることはできなかった。感謝の言葉に、信行はふっと目を細める。「水くさいな。早く仕事に行っておいで。何かあったら連絡して」「うん」軽く頷き、真琴はオフィスビルへと歩き出した。ヒールの小気味よい音が響く中、ふと思う。人と人との付き合いは、無駄な反発や意地の張り合いをなくしたときのほうが、ずっと居心地がいいのだと。先の結論を急がず、ただ今に向き合えばいい。黒のマイバッハから立ち去る背中を見送りつつ、信行はハンドルに両手を乗せてひとりごちた。「あいつも、すっかり大人になったな」昔は紗友里の後ろをちょこちょこと付いて回り、目が合えば恥ずかしそうにしていたものだ。あの頃は「信行兄ちゃん」と無邪気に呼んでいたのに。今では見違えるほど成長した。一人前に仕事をこなし、美しく均整の取れた体を持ち、こうして自分と肌を重ねるまでになった。最初の頃の不慣れな仕草や、次第に息を合わせて乱れていく姿、白く滑らかな素肌を思い出すだけで、胸が甘い満足感で満たされる。数年前の自分が一体どんな気の迷いで冷淡な態度を取り、何年もすれ違いを続けて
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第666話

デスクの向こうで、入ってきた成美を一瞥しただけで、信行はすぐに手元の書類へ視線を戻した。「信行」素っ気ない態度にも動じず、成美は親しげに声をかけてくる。信行は顔も上げずに切り捨てた。「用件は?」眉ひとつ動かさず、成美は車椅子をデスクの前まで進めると、実験データのレポートを差し出した。一度視線を上げてから、資料を受け取る。ページをめくって目を通すうち、表情が徐々に険しさを増していった。重苦しく引き締まった顔のまま、車椅子の成美へ鋭い視線を向ける。「真琴ちゃんが担当している遠隔制御のプロジェクト、ウェストリア側で新しいブレイクスルーがあったみたいよ。もしあちらに先を越されたら、真琴ちゃんの研究は価値を失ってしまうわ」成美が淡々と告げると、信行はレポートをデスクの上に放り出し、冷ややかに問い詰めた。「それで、何が言いたい?」耳元の髪を指先で払い、成美は薄く笑みを浮かべる。「そんなに警戒しないで。他意があるなら内部資料なんて見せないし、私たちは提携関係でしょう?」一息置いて、何食わぬ顔で言葉を重ねた。「恩を売るために教えてあげただけよ。ここから先、あちらを上回る成果を出せるかどうかは真琴ちゃんの実力次第ね」恩を売る、と言ってのけた成美を、信行は無言で見据えた。成美は由美よりも遥かに立ち回りが巧みだ。実際、彼女が帰国して以来、由美はすっかり姿を消していた。しばし品定めするように見つめた後、信行は鼻で笑って口元を緩めた。「なら、礼を言っておくよ」その返答に、成美もまた笑みを返す。それからふと話題を変えるように切り出した。「ところで……あの指輪、返してもらえる?」次第に声を潜め、探るように見つめてくる。その要求に、信行は迷うことなく即答した。「あの指輪は渡せない」一切の余地を挟ませず、理由を告げる。「真琴に余計な誤解をさせたくない」これから先、内海家と深く関わるつもりなど毛頭なかった。容赦のない拒絶に、成美は傷ついたように瞳を揺らす。その物憂げな視線を受け流しながら、信行はデスクを指先でトントンと叩き、淡々と告げた。「俺と内海家の貸し借りは、とうに精算済みのはずだ」かつて命を救われたのは事実だ。だが、ここ数年にわたって峰亜を支援し続けてきたことで
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第667話

真琴を罠に嵌めようとした渚の思惑は外れ、皮肉にも信行との関係をさらに一歩進める結果となった。運命の巡り合わせとは、なんとも奇妙なものだ。……オフィスの中。成美が立ち去った後も、信行はしばらく扉の向こうを見つめていた。ふと、かつて事故で車内に閉じ込められた記憶が蘇る。あのとき、成美は不自由な体を引きずりながら、なりふり構わず助けを呼びに走ってくれた。冷酷になりたいわけではない。ただ、すべてを両立させることなどできはしない。自分にとって大切なのは真琴であり、手に入れたいのも真琴だけだった。思いを巡らせていた信行は、デスクのスマホを手に取ると、祐斗の番号を呼び出して即座に命じた。「当時のあの事故について、もう一度詳しく洗い直してくれ」成美はあまりにも聡明で、用意周到すぎる。すべてを裏で操り、長い時間を経て戻ってきた。その一連の流れに、拭えない疑念が芽生え始めていた。電話口で指示を受けた祐斗は、すぐさま調査へと取りかかった。その後の2日間、真琴は仕事に没頭し、信行へ一度も連絡を寄越さなかった。まるで、あの甘い2夜など存在しなかったかのような素振りだ。一方の信行は、じりじりと待ち続けても一向に鳴らないスマホを前に、苛立ちを募らせていた。あの薄情者が。散々体を重ねておいて、用が済んだらすまし顔かよ。……ある日の午前。ミーティングを終えた真琴が、コーヒーを淹れようと給湯室に入ったときのことだった。不意に背後から腕が伸びてきて、ふわりと抱きすくめられる。カウンターの前で息を呑み、勢いよく振り返ると、そこにいたのは信行だった。反射的に給湯室の外へ視線を走らせ、声を潜める。「早く手を離して。会社よ」慌てぶりなどどこ吹く風で、信行は肩に顎を乗せ、漂う香りを吸い込みながら囁いた。「この二日間、俺に会いたくならなかった?」「……」真琴は言葉を失った。扉の外の気配を気にしながら、心臓が早鐘を打つ。普段の真琴は、周囲から厳格なリーダーとして見られている。給湯室で抱き合っている現場を誰かに見られでもしたら、示しがつかないどころか、社内での威厳も形無しになってしまう。手首を掴み、強く釘を刺した。「ふざけないで。外は社員が行き交ってるのよ。見られたらどうするの
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第668話

熱い口づけに、胸がどきりと跳ね上がった。掴んでいたシャツの生地へ、無意識に指先を食い込ませる。突き放さなければいけないのに、迫る体も重ねられる唇も、どうしても拒めなかった。この時、真琴は知る由もなかった。信行がむしろ、二人の関係を誰かに見つかってしまえばいいとすら願っていることなど。普段なら一番人の出入りが激しい給湯室で、身を潜めて唇を重ね合う。その背徳感に、嫌でも鼓動が早鐘を打っていた。ひとしきりの熱い口づけの後、真琴は胸元に両手を添えて押し留め、乱れた息を整えながら告げた。「……オフィスに戻らないと。まだ仕事が残ってる」信行はそっと右手を伸ばし、頬にかかる髪を払いながら優しい声で囁く。「一緒に行くよ。ちょうど大事な仕事の話もあるし」仕事の話と言われ、真琴はこくりと頷いた。「西脇博士、片桐社長、お疲れ様です」給湯室のドアを開けて外に出ると、すれ違う社員たちが次々に会釈を交わしてくる。二人の間に漂う甘い空気に気づく様子はない。普段から徹底して距離を保っていたからこその盲点だった。執務室に入り、用件を尋ねようとした矢先、背後のドアを閉めた信行はいきなり真琴を壁際に追い詰め、唇を塞いできた。激しい口づけに抗うこともなく、真琴は壁に背を預けたまま首筋に両腕を回し、静かに瞼を閉じる。一度肌を重ねてからというもの、自分でも驚くほど脆く流されてしまっていた。貪り合うようなキスの最中、真琴の吐息は次第に熱を帯び、かすかな甘い声が喉の奥から漏れ出る。だが、信行の手がスラックスのホックに伸びたところで、ハッと我に返ってその手を掴んだ。「駄目……オフィスではやめて」息を切らしながら、言い含めるように続ける。「……夜にして」そんなつもりは毛頭なかったのに、煽られるまま流されかけていた自分に焦りを覚える。止められた信行は、可笑しそうに吹き出した。拘束を解き、乱れた服を整えてやりながらからかう。「ずいぶん我慢強いね」自分が当事者でなければ、薬を盛られたのは真琴ではなく自分の方ではないかと疑ってしまうほどだった。信行が引き下がった隙に、真琴は髪を整えながら問いかけた。「さっき、大事な話があるって言ってたでしょ?先にそれを教えて」そう言ってデスクへ向かうと、信行も後ろをつい
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第669話

信行の手は真琴の体の上を気の向くままに這い回り、容赦なくその柔らかな素肌を弄び始める。仕事に集中しようとしていた真琴も、その露骨な悪戯にさすがに集中を乱されてしまう。下へと滑り落ちていく手を軽く叩き、眉をひそめて制した。「やめて」だが制止などどこ吹く風で、手つきはさらに大胆さを増していく。「んっ……」思わず甘い声を漏らしつつも、真琴は成美から渡された資料へ視線を戻した。「手がかりらしきものはあるけど、かなり曖昧ね。これだけじゃ具体的な判断はできないから、後で詳しく調べてみるわ」資料には確かに新しい情報が含まれていた。とはいえ、それがどこまで実用的なのかは未知数だ。そもそも成美が核心となる技術やデータをやすやすと明かすはずもない。真剣に資料を見つめる横顔に、信行はたまらなく唆られ、その耳たぶを甘噛みした。「わかった。お前の好きにしていいよ。何か手伝えることがあれば遠慮なく言ってくれ」「くすぐったい、やめて……もう、わかったから」身をよじって避けようとするものの、仕事に集中したい気持ちと、煽られて疼く体の間で激しく揺れ動いてしまう。そんな姿が、信行にはたまらなく愛らしかった。言うことを聞くどころか、その手つきはさらにエスカレートしていく。「信行……っ」不意に強く弄られ、真琴は少し語気を強めて睨みつけた。信行は悪びれもせず耳元に唇を寄せ、人差し指を口元に当てて囁く。「しーっ、静かに。外に聞こえちゃうだろ」資料を握りしめたまま、眉をひそめて振り返る。「わざとやってるでしょ」ほんのり赤らんだ頬に、信行の胸は甘く跳ね上がった。その唇にちゅっと啄むようなキスを落とす。「数日会えなかったから、すごく会いたかったんだ」「……」呆れ果てた視線を向ける真琴を、信行は軽々と抱き上げ、くるりと向きを変えて正面から向かい合わせに座らせた。至近距離で視線が交わる。真琴は信行の両耳を軽くつまみ上げ、呆れたように尋ねた。「薬を盛られたのは、一体どっちなの?」「俺だよ。お前に惚れ薬でも飲まされたのかもな」信行は悪戯っぽく笑う。そう言って後頭部に手を添えると、ぐっと顔を近づけ、再び深く唇を塞いだ。結局、真琴は信行の強引さに折れ、その体勢のまま欲求を少しだけ満たしてやった。ひとし
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第670話

信行の言葉に頷き、真琴は膝の上から身を起こした。信行も身なりを整え、落ち着いた様子で立ち上がる。部屋の外まで見送ろうと扉の前へ歩いたところで、信行がふと足を止め、振り返りざまに身をかがめて額に唇を落とした。「真琴、愛してるよ」唐突な言葉に、真琴は目を丸くして立ち尽くす。しばし呆然とした後、見据えて言い返した。「もういいから、早く仕事に戻って」背を向けて立ち去る彼を見送り、執務机へ戻って仕事へと意識を切り替えた。手元に残された資料を見つめるうち、先ほど交わした肌の温もりや、去り際の言葉が胸をよぎる。頬杖をつき、真琴は再び深い思索に沈んでいった。あれこれと迷走した挙句、結局は彼との関係に引き戻されてしまった。けれど、これから先どうすべきなのか。いつまでもこんな曖昧な関係を続けられるはずもない。複雑な思いを巡らせているところ、秘書がノックをして入ってきたため、ハッと我に返って作業を再開した。ただ今の時点で、信行がくれた言葉や気遣い、向けられる誠実さと温もりが、確かな安心感を与えてくれていることだけは否定できなかった。昼過ぎ、浜野から戻った光雅が秘書を通じて真琴を自室へ呼び出した。部屋に入ると、光雅がさっそく切り出す。「信行が来ていたそうだな」「ええ。峰亜の成美から、三社提携に関する実験データを渡されたみたいで」そう言って、預かった資料を差し出す。光雅は書類を受け取り、目を通しながら落ち着いた声で言った。「情報は本物かもしれんが、ウェストリア側がこちらの進捗を探るために、成美を使って投げ込んできた餌という可能性も捨てきれんな」「私と信行も、同じように考えていた」――私と信行?ふと顔を上げ、光雅がじっと見つめてくる。その鋭い視線に射抜かれ、真琴は自分が無意識のうちに距離の縮まった言い回しをしていたことに気づいた。観察するように見つめていた光雅だったが、二人の関係を咎めるような言葉は口にせず、静かに釘を刺すにとどめた。「自分でしっかり考え、納得した上で道を選べ。二度と自分を傷つけるような真似だけはするなよ」男と女は違う。肌を重ねた相手の存在は、どうしても心の中で重みを増してしまうものだ。光雅はその道理を弁えていたし、真琴が恋愛において根は極めて保守的であること
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