บททั้งหมดของ 暴走する愛情、彼は必死に離婚を引き止める: บทที่ 651 - บทที่ 660

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第651話

今や真琴が何を口にしようと、信行は素直に改めると答えるばかりだった。互いに明確な言葉で関係を確かめ合ったわけではなく、付き合っているのかどうかすら曖昧なままだというのに、信行はすっかり恋人同士のつもりでいた。何しろ、すでにベッドを共にした後なのだから。機嫌を取ろうとしてくる信行に対し、真琴は冷ややかな一瞥を向けると、握られていた手をすっと抜いた。途端に、車内はしんと静まり返った。重苦しい思考に沈む真琴が口を開かないため、信行も無理に話しかけずに黙っていた。付き合いの長い信行には、先ほどの出来事が真琴にどれほど大きな衝撃を与えたかが痛いほど分かっていた。繊細な彼女にとって、そう容易に受け入れられる事態ではなかった。感情の波が大きくなればなるほど、真琴は口数を減らし、自分の殻に閉じこもる癖があった。一時間が経ち、車が興衆実業の本社前に到着したところで、真琴はようやく信行へ視線を向けた。「着いたわ」信行もまた顔を上げ、静かに言った。「駐車場に回してくれ。少し話そう」急に話を持ち出され、真琴は無言で彼を凝視した。しばらく思案するように信行を見つめていたが、やがて車を駐車場へと滑り込ませた。車を駐車スペースに止めると、真琴が向き直るより早く、信行が手を伸ばして彼女の手を握りしめた。目が合い、真琴が手を振り払おうとしたものの、信行の力に阻まれて解くことができなかった。抵抗しても無駄だと悟った真琴は、そのまま力を抜いて信行を見つめた。「話って何かしら」信行は彼女の手を優しく包み込みながら、焦ることなく切り出した。「俺たちも、ようやくここまで来ただろう。もう一度、籍を入れ直さないか?式の形は、お前の好きなように……」「結婚なんて考えていないわ」信行に最後まで言わせず、真琴はきっぱりと言い放った。いくら彼が初めての相手であったとしても、再び彼と結婚生活を送るなどと考えたこともなかった。真琴の容赦ない言葉に、信行は呆然と固まった。信じられないといった様子で真琴を見つめ、思わず問いかけた。「……ベッドを降りた途端に知らん顔か?俺に対して責任を取る気はないのか?」肌を重ねた以上、自分と真琴の関係は決定的なものとなり、再び妻になってくれるものだと疑っていなかった。何しろ昔から古
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第652話

車内からしばらく窓の外を眺めていた信行は、再び真琴へと視線を戻すと、悪態をつくように吐き捨てた。「くそっ、俺がどれだけお前に惚れてると思ってんだよ」今となっては、信行の口から真琴への好意が溢れ出るのも、ごく当たり前のこととなっていた。増していく信行の熱量にまともに付き合う気になれず、これ以上この話題を引き延ばしたくなかった真琴は言った。「いいから、早く会社に行きなよ。またそのうち連絡するから」男女の関係において、肌を重ねたことを引きずらない側が優位に立つ。実のところ、真琴とて何も感じていなかったわけではない。ただ、信行と再婚するつもりなどさらさらなかっただけの話だ。いまの彼女の頭の中を占めているのは、仕事のことだけだった。追い出される形となった信行は、ため息をつきながらシートベルトを外した。それでも、真琴の態度が以前ほど刺々しくなく、さらには「また連絡する」と含みを持たせてくれたことに、信行は密かに口元を緩ませていた。ドアを開けて車を降り、両手をポケットに突っ込んだ信行が、かがんで真琴の顔を覗き込もうとした瞬間――真琴は一言も発さず、容赦なくアクセルを踏み込んだ。車が勢いよく走り去っていった。「……」排気ガスの匂いが鼻を突き、信行の表情が引きつった。まだ二言三言交わしたい言葉があったというのに、言葉を喉の奥に呑み込むしかなかった。――ふん、今の真琴は、自分などよりも遥かに割り切りが早く、サバサバしている。ゆっくりと身を起こし、去りゆく真琴の車を見送りながら、信行は彼女には手も足も出ない自分を痛感していた。それと同時に、彼女への愛おしさが募り、手放したくなくなり、どうしても傍に置きたくてたまらなくなっている自分に気づかされた。両手をポケットに入れたまま、車が走り去った方向をじっと見つめ続けた。真琴の車が視界から消えて随分と経ってから、ようやく我に返り、オフィスビルへと足を向けた。彼女を手に入れる。何としても真琴を自分のものにしてみせる。……その日の夜。残業を終えた真琴が帰宅して間もなく、ネットのトレンドワードは渚のスキャンダル一色に染まっていた。【清純派女子アナの裏の顔】【人気アナ・成瀬渚のプライベート動画が大量流出】【多数の男性との不適切な関係が発覚】
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第653話

真琴が「割り切った身体の関係を維持するのも悪くない」と口にしたのを受け、今の信行はあからさまに誘いをかけてくるようになっていた。スマホを握り締め、彼から送られてきた画像を目にした真琴は、呆れを通り越して、ただただ開いた口が塞がらなかった。今の彼は相当暇なのか、こんな写真まで撮って自分を誘う余裕すらあるらしい。送られてきたメッセージに心底呆れ果て、真琴はスマホをデスクへ投げ出した。これほど無遠慮に誘いをかけてくるなんて、自分のことを一体何だと思っているのか。昼間口にした言葉は、あくまで万が一のための保険に過ぎないというのに。信行へ返信することもなく、真琴はそのまま自分の作業へと戻った。今の信行は、なんだかすっかり安っぽくなってしまっていた。……真琴と一夜を共にした例の高級マンション。バーカウンターの前でしばらくグラスを傾けていた信行だったが、真琴から返信が来る気配は一向になかった。電話をかけてみても、真琴が電話に出ることはなかった。スマホをカウンターへ放り投げると、信行は苦々しげに吐き捨てた。「薄情な女だな。ベッドを降りた途端に知らん顔かよ」これまでは一線を越えていなかったこともあり、信行としても相応に自制が効いていた。だが一度真琴と肌を重ねて以降、すっかり取り憑かれたようになり、落ち着きを失っていた。日が暮れるや否や、真琴の存在が頭から離れなくなった。まるで、薬を盛られたのは真琴ではなく自分の方であるかのようだった。真琴に呆れ交じりの文句を呟いた後、信行はグラスを取り上げて酒を一口で呷ると、立ち上がって寝室へと向かった。それからバスルームで30分ほど冷水シャワーを浴び、ようやく体内の火照りを鎮めることができた。それでも、脳裏から拭い去れないのは真琴の姿だった。真琴に会いたい。彼女を抱きしめて眠りたい。猫のように自分の胸元にすっぽり収まってほしいし、自分を必要としてほしい。ベッドの上で幾度も身をもだえさせながら真琴のことを思い続け、信行は時間をかけてようやく眠りについた。そして真琴と肌を重ねて以降、彼の睡眠は以前よりも格段に深い眠りにつけるようになっていた。……翌朝、目を覚まして身支度を整え、会社へと向かった信行だったが、執務室へ入った途端に本邸からの電話が鳴り
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第654話

信行が口を開くより早く、耕太郎はさらに怒声を浴びせた。「よくも渚にあんな真似をしてくれたな!いくら気に入らないからといって、結婚する気がないからといって、一人の人間の人生を台無しにしていい理由にはならんだろうが!」激憤のあまり、今にも殴りかからんばかりの剣幕だった。相手が片桐家の次男でなく、旧友の孫でさえなければ、すでに力ずくで叩きのめしていたところだ。ふたりの老人が怒りを爆発させる中、信行は動じることなく佇んでいた。何事もない様子で上着の袖口のボタンを外すと、冷淡な声で応じた。「まあ落ち着いてください。この程度で怯むようなタマじゃありませんよ。ご自分の孫娘なのですから、買いかぶらないでいただきたいですね」信行の冷ややかな一言に、耕太郎の顔色は見る見るうちに土気色へと変わった。信行を指差したまま、言葉を詰まらせた。「き、貴様……っ!」怒りでろくに声も出せない耕太郎の横で、由紀夫の表情が険しさを増した。ソファーから勢いよく立ち上がると、信行に向かって一喝した。「いい加減にせんか!片桐家に反旗を翻すつもりか!」祖父の怒号を浴びても、信行はただ冷ややかに見つめ返した。カバンから持参した資料を無造作に取り出すと、ローテーブルの上に叩きつける。「嘘八百を並べ立ててるとでも思ったか?」祖父が言葉を失う間もなく、信行は畳みかけた。「爺さんも、今後は目を曇らせずに人を見極めていただきたいものですね。ろくでもない女狐を家に引き入れるのは、いい加減やめていただきたい。それに言っておきますが、俺が手を下すときは、必ず相応の理由があるのですよ。俺だってろくでもない男ですが、根拠もないのに他人に手を下すほど暇ではありません。あいつは俺の膝元で真琴に薬を盛ったのです。真琴を潰すつもりだったのですよ。もし俺が間一髪で気づいて真琴を連れ出していなかったら、今ごろネット上で晒しものにされていたのは、真琴の方だったのです」そこまで話が至り、由紀夫は一瞬にして事の真相を理解した。めまぐるしく表情が変わっていく。信行を射抜くような眼差しで見つめた後、由紀夫はローテーブルに散らばった写真へと視線を落とした。手を伸ばし、それらの写真を拾い上げた。次の瞬間、渚が複数の外国人男性と淫らに入り乱れる生々しい光景が視界に飛
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第655話

「おどし文句など通用せんぞ!成瀬家が必ずや真相を突き止め、渚の潔白を証明してみせる!」そう捨て台詞を残すと、耕太郎はそれ以上長居は無用とばかりに、固く顔を強張らせたまま去っていった。耕太郎が去り、静けさを取り戻した室内で、由紀夫は相変わらず不満げな眼差しで信行を見つめていた。今回の件、信行のやり方はいくら何でも行き過ぎていると思っていた。祖父の鋭い視線を受けながら、信行は鬱陶しそうにシャツのボタンを一つ外した。どこまでも平然とした様子で、意に介した様子もなく口を開いた。「そんな目で見ないでくださいよ。俺は『目には目を、歯には歯を』の主義でしてね。昔から言っているでしょう、俺に手をださない相手には何もしない、と」信行の言い分を聞きながら、由紀夫の表情にはいっそうの呆れが深まった。自分から手を出さないだと?よくもまあ、自分をそこまで美化できるものだ。今夜は最初から相応の覚悟を決めて戻ってきた信行をじっと見つめ、由紀夫は改めて問い質した。「……渚は、本当に真琴に薬を盛ったのか」追及を受け、信行は鼻で笑ってみせた。「仕返しまで済ませておいて、今さら見誤るはずがないでしょう」信行の開き直った態度に、由紀夫は冷ややかな一瞥を向けてから、冷淡に言い放った。「要するに、お前がちゃっかり甘い蜜を吸っておいて、被害者ぶっているだけじゃないか」この数日、孫の雰囲気がどこか妙に浮ついていた理由も、今日舞子に電話をさせた際の気のないトーンも、すべて合点がいった。要はこれほど大きな「果実」を手に入れたからなのだ。祖父の言いぐさに、信行は手を振った。「やめてください、そんな風に言わないでいただきたいですね。そんな『蜜』なら、金を積まれても御免ですよ。真琴がそんな目に遭うくらいなら、最初から何もなかった方がずっとマシです」あの日、たまたま自分が居合わせたから良かったものの、もし他の男や渚の手下に連れ去られていたらどうなっていたか。考えただけで血の気が引く思いだった。だからこそ、こんな思いをするくらいなら金輪際ご免だった。信行の反応を目にし、由紀夫は彼が本気で真琴を思い、心から惚れ込んでいるのだと悟った。杖を握り直すと、由紀夫は眉間にしわを寄せた。「分かった、わしに向かって愛の証明をするのはそこまでに
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第656話

ベッドの上でどれほど身悶えし、何時に眠りについたのか、真琴自身もわからなくなっていた。さらに厄介なことに、それからの二日間はずっと気分が落ち着かず、どうにもソワソワして仕方がなかった。体の中に熱のようなものが溜まり、行き場を求めて燻っているような感覚が消えない。その日の午後、真琴はこっそり溝口医師の元を訪れて診察を受けた。診察を終えた溝口医師は、穏やかな声で告げる。「前回の薬のせいで、体内のホルモンバランスが崩れてしまっていますね。とはいえ深刻な状態ではありませんよ。信行さんと連絡を取り合って、何度か顔を合わせていればすぐに落ち着きます」「……」医師の言葉に、真琴は絶句した。オブラートに包んだ言い方とはいえ、意味するところは痛いほど理解できた。気まずそうに黙り込む真琴を見て、医師は苦笑交じりに言葉を重ねる。「何も恥ずかしがることはありませんよ。そういう年頃ですし、他の女性ならもっと数値が高いことも珍しくありません。むしろ今のほうが健康的なくらいです」そこまで言われてしまっては、引きつった笑いを返すしかなかった。「……ええ、わかりました。ありがとうございます、先生」礼を述べ、いくつかの注意点を聞いた真琴は、車のキーとスマホを手に病院を後にした。オフィスに戻ってからも、気持ちは一向に静まらなかった。まるで皮膚の下を蟻が這い回っているかのように、落ち着かない不快感がまとわりついている。この数日、ずっとこうして耐え忍んできた。無理やり雑念を押し殺し、最後は気力だけで仕事に没頭した。だが夜の8時を回り、一日の仕事を終えた途端、どうしても信行の顔がよぎり、体の疼きを意識してしまう。体の異変を自覚するたび、渚に対する苛立ちが込み上げてならなかった。葛藤の末、溝口医師の言葉を反芻しながら散々悩み抜き、真琴はデスクの上のスマホを手に取った。そして、信行へメッセージを打ち込んで送信する。【今、時間ある?】たった一言の問いかけに、信行からは即座に返信が届いた。【ある】間髪を入れず、続けてメッセージが届く。【10分後に東央ビルの前に行く】画面の文面を見て、真琴は思わず安堵の息を漏らした。からかわれたり、これ以上恥ずかしい言葉を言わされたりせずに済んで本当によかった。そのさりげ
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第657話

耳たぶをほんのり赤く染め、伸ばした手で信行の胸元を押し留める。「やめて。会社の防犯カメラがあるから」恥じらう真琴の姿に、信行はますます笑みを深めた。胸の奥が甘やかな喜びで満たされていく。体の関係だけでも構わない。赤の他人でいるよりはずっといい。それに、真琴を満足させて尽くし続ければ、いずれちゃんとした恋人になれるチャンスだってあるはずだ。頬から手を離すと、そのまま手を取って車へと促した。助手席のドアを開けて真琴を乗せ、シートベルトを締めてやるついでに、もう一度頬へキスを落とす。今度は真琴も拒まなかった。ただ、これからどこへ向かうのか、どうやってあの話を切り出せばいいのか、じわじわと気まずさと羞恥が込み上げてくる。大人しく車に乗ってくれたことが、信行にはたまらなく嬉しかった。小さく口笛を吹きながらフロントを回り込み、運転席に乗り込むと、身を乗り出して真琴の顔を覗き込む。助手席で縮こまっていた真琴は、急に顔を近づけられて思わず背もたれへと身を引いた。それでも、視線だけはまっすぐ彼を捉える。目が合うと、真琴が口を開いた。「……何する気?」真琴の瞳を見つめ返し、信行は事も無げに言った。「キスしたい」「……」したいなら勝手にすればいい。わざわざ断る必要なんてないし、今までだって許可を取ってキスしてきたわけでもないのに。気まずそうに見つめ返してくる視線さえ、信行には愛おしかった。さらにわずかに身を寄せ、その唇を塞ぐ。重ねられた唇を、真琴は拒まなかった。両手でシートの端をぎゅっと握ったまま、じっと彼を見つめる。抵抗がないことを確かめた信行は、右手を伸ばしてうなじを引き寄せ、口づけを深めていった。唇を食み、そっと歯列を押し広げて舌を絡ませ、激しく貪るように奪う。熱を帯びた口づけに、真琴の緊張は次第に快感へとほどけていった。いつの間にかシートを掴んでいた手は、彼の首筋へと回されている。普段の自分なら、こんな真似をするはずがなかった。だが今はただ、彼を抱きしめたい。キスをして、もっと肌を重ねたい。それどころか、その先のことまで求めてしまっている。真琴が応えてくれたことに、信行の胸は歓喜に震えた。これほど長く待ち続け、ようやく自分を求めてくれた。ひと
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第658話

信行の言葉に、耳たぶをほんのり赤く染める。どう切り出し、どう進めていいかわからなかったことを、彼がすべて先回りしてリードしてくれていた。はだけた胸元のまま乱れた息を整え、潤んだ瞳で見つめ返しながら小さく囁く。「私の家に行こう」自分の部屋のほうが、まだいくらか落ち着ける。その返答を聞くなり、信行は頬にちゅっと唇を落とした。「よし、じゃあお前のマンションだな」そう言って姿勢を正すと、アクセルを踏み込んで車を発進させた。助手席で乱れた服を整え、ふと隣の横顔に目をやると、不意に胸の鼓動が跳ね上がる。以前のように車窓の外ばかり眺めるのではなく、無意識に何度も彼へと視線を向けてしまっていた。戻ってきてからあれほど頑なに距離を置き、意地を張ってきたというのに、結局はここまで流されてしまった。皮肉な巡り合わせだと苦笑したくなる。薬を盛られ、体の火照りを鎮めるにはこの方法しかないこと。それに、これまでに肌を許した相手も彼だけなのだから、他の誰かを頼る選択肢など最初からあり得なかった。ハンドルを握る信行は、真琴がチラチラと自分と前方を交互に見ているのに気づき、ふっと笑みをこぼした。そのまま空いた右手を伸ばし、そっと彼女の手に重ねる。「何考えてるんだ?」「別に。何でもない」小さく首を横に振るその手を持ち上げ、信行は手の甲へ優しく唇を寄せた。触れた温もりに、胸の奥へ確かな安心感が広がっていく。真琴はただの割り切った関係のつもりかもしれないが、信行にとっては決してそれだけではない。どう割り切ろうとしていようと、信行にとって真琴は唯一無二の存在であり、生涯を共にしたい相手なのだ。握られた手を、真琴は振りほどかなかった。すでに一度肌を重ねた仲だ。いまさら無駄な意地を張るつもりもなく、引かれるままに身を任せる。一度肌を許してしまえば、関係が深まっていくスピードは驚くほど速い。やがて車は真琴のマンションのエントランス前に滑り込み、運転席から降りた信行は、真っ先に彼女の手を握り締めた。今や、一緒にいる間は片時も手を離そうとしない。その姿は、まるで熱愛中の恋人同士のようだった。エレベーターの中で手を繋いだまま上昇する間、何気なく横を見ると、信行は嬉しそうに目を輝かせていた。視線を前に戻
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第659話

握りしめていた手の力が、自然と緩んでいく。信行が両手で腰を抱え上げると、真琴は無意識に身を寄せ、その腰に脚を絡めて首元に腕を回した。自分でも息を呑むほど艶めかしい体勢だ。口づけを落とされながら服を脱がされ、床へと滑り落ちたところで、真琴はふと視線を落として彼を見つめた。「ゴム、持ってきた?うちにはないけど」いくら体を重ねるとはいえ、避妊は別問題だ。その問いかけに、信行は顎先を軽く甘噛みし、穏やかに囁く。「ちゃんと持ってきたよ」今のところ、彼にも父親になるつもりはなかった。真琴と違うのは、長いすれ違いと誤解を経てようやく結ばれたからこそ、まずは二人きりの時間をじっくり過ごしたいと考えている点だった。その返答に安堵し、真琴は両手で彼の頬を包んで自ら唇を重ねた。彼を求めていた。もっと肌を寄せ合いたかった。口づけに応じながら、信行は迷わず彼女を抱きかかえて寝室へと向かった。ベッドへ背中から沈められ、跳ね上がる心臓の鼓動に息を呑む。両手首を頭の横に押さえ込まれ、見つめ合う間もなく深く唇を塞がれた。その熱情に、真琴もわずかに口を開いて応える。こうして求められることを拒絶するどころか、むしろ心地よく受け入れている自分がいた。……11時過ぎ。ベッドに力なく突っ伏した体はすっかり汗ばみ、髪までしっとりと濡れていた。体内に渦巻いていたあの火照りは、綺麗さっぱり消え去っている。平岡医師の言う通りだった。信行と肌を重ねると、体の奥の疼きは嘘のように落ち着いた。とはいえ、体力の消耗は激しく、全身に心地よい疲労感が広がっている。前回は薬のせいで朦朧としていたが、今回は意識がはっきりしていた分、キスの感触も耳元に落ちた吐息の一つひとつも、克明に焼き付いていた。完全に圧倒された。経験がないと言っていたはずなのに、あまりにも手慣れすぎている。ぐったりとシーツに身を預けていると、信行が身をかがめて唇を寄せてきた。思わず体がビクッと震える。触れてほしい反面、どこか怖くもあった。真琴の上に覆いかぶさり、身を縮こまらせるのを見て、信行は耳たぶを甘噛みしながら意地悪そうに囁いた。「気持ちよかった?まだ続ける?」至近距離からの問いかけに、真琴は慌てて顔を背け、力なく訴えた。「…
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第660話

食材を手にキッチンへ向かった信行は、鼻歌交じりに手際よく料理を始めた。まるで自宅のようにすっかり馴染んでいる。寝室では、解放された真琴が吸い込まれるように深い眠りへと落ちていた。……「真琴、少し何か食べてから寝なよ」「……真琴」微睡みの中、名前を呼ぶ声にふと意識が浮上する。耳元に届く声は、どこまでも優しく穏やかだった。両手を投げ出した姿勢のまま目を開けると、すぐ目の前に信行の顔がある。視線が交わり、彼だと認識した瞬間、真っ赤になった目にじわりと涙が滲んだ。その瞳には、やるせない悲しみと痛ましさが満ちている。赤く潤んだ目元を見つめ、信行はそっと右手を伸ばして頬を撫でた。「どうした?一眠りしただけなのに、なんで目を真っ赤にして泣いてるんだ」真琴が口を開く間もなく、信行は身をかがめて頬に唇を落とす。「もしかして、さっき激しくしすぎて痛かった?悪かったよ、次はもっと優しくするから」夜の静寂と、間接照明のほの暗い灯り。ただでさえ心が脆くなる空気だった。そこへ信行の焦りと気遣いが重なり、胸の奥が激しく揺さぶられる。耳元へ唇が滑り落ちたとき、真琴は潤んだ瞳のまま両腕を持ち上げ、ぎゅっと彼の首筋に抱きついた。その抱擁に、信行は胸を締めつけられる思いがした。背中と腰にしっかりと腕を回し、優しく背中をとんとんとあやしながら、頬に口づけを落とす。「どうしたんだ?言ってくれないと、どこで怒らせたのかわからないよ」心配そうな声に、真琴は首に回した腕へさらに力を込めた。その仕草に、信行の胸は完全に撃ち抜かれた。ベッドから軽々と抱き上げ、自分の腰に跨がせるように引き寄せる。そして、まるで小さな子供をあやすように優しく包み込んだ。背中を撫で、頬に唇を寄せる。その手つきにも眼差しにも、惜しみない温もりが滲んでいた。少し前の真琴なら、こんなふうに縋りつくなどあり得なかった。けれど今この瞬間は、ただ抱きしめてほしかった。寄りかかれる場所が欲しくてたまらなかった。腕の中にしっかりと収めながら、信行の胸にも名状しがたい感情が込み上げていた。このまま決して離したくない、と。誰かに必要とされる感覚が、これほどまでに満たされるものだとは知らなかった。静まり返った部屋を、柔らかな灯りが穏や
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