アレックスと袂を分かった翌日、ミリーは一人、デイリー・ピープルの資料室にいた。埃っぽい紙の匂いの中、彼女はゲルハルト・シュミットに関する過去の記事を、一枚一枚、食い入るように読み込んでいく。(アレックスさんを、見返してやるんだから。私だって、ジャーナリストなんだ。私にしか見つけられない真実が、絶対にあるはず……!) アレックスに突き放された悔しさと、救えなかった命への責任感が、彼女を突き動かしていた。 一方、時計塔の書斎では、アレックスが運び込まれたエヴァの記憶回路の修復に没頭していた。床には無数の設計図が広げられている。彼は食事も睡眠も忘れ、エヴァを「故障した情報記録装置」として扱っていた。修復したはずの回路に魔力を流し込むが、エヴァは起動しない。「……なぜだ」 彼は呟いた。「回路の物理的損傷は完全に修復した。魔力エネルギー供給も正常。なのに、なぜ記憶情報(データ)が起動しない? 論理的にありえない」 彼の完璧な論理の世界に、初めて生まれた小さな染み。それが、アレックスを苛立たせていた。◇ ミリーの地道な調査は、やがて一本の糸をたぐり寄せた。 ゲルハルトが生前、あししげく通っていた職人街の古い飲み屋「三日月亭」。気難しいゲルハルトだったが、三日月亭の主人とは気心のしれた仲だったという。 三日月亭の店内は薄暗く、年季の入った木のカウンターが鈍い光を放っていた。「ゲルハルトのこと? 亡くなった人をとやかく言うもんじゃない。そっとしておいてくれ」 ミリーが主人に話しかけると、彼は悲しそうに首を振った。「私は新聞記者です。ジャーナリストの立場から、この事件を追っています。それにはゲルハルトさんの人となりを知りたくて」「記者ならなおさらだ。あいつのことを面白おかしく書き立てるつもりだろう」「いいえ、違います。ゲルハルトさんがどんな人だったか、私は知りたいのです。どんな思いで暮らしていたのか。どんなものが好きだったのか。彼のことを知って、どうして死んでしまったのか、事実
Terakhir Diperbarui : 2025-09-19 Baca selengkapnya