アレックスとミリーの奇妙な共同調査が始まった。アレックスは物理証拠を「分解」し、ミリーは人間関係から「物語を組み立てる」。二人の捜査は、水と油のように決して交わらないはずだった。 アレックスは一日中、破壊された研究室に籠っていた。ミリーが様子を窺うと、彼は巨大な魔術式レンズを覗き込み、床に残った微細な魔力の残滓を分析している。その姿は事件を追う探偵というより、未知の生物を解剖する学者のようだった。「……見つけたぞ」 アレックスの呟きに、ミリーは聞き耳を立てた。「火災は事故じゃない。誰かが意図的に、時間を置いてから発火するように仕組んだものだ。灰の中から、ごく微量な『時間遅延性魔力触媒』の痕跡を発見した」 彼の言葉には、何の感情も籠っていない。ミリーに説明しているわけですらない。事実だけがそこにあった。◇ 一方、ミリーは人間関係の糸をたどっていた。打ちひしがれるリアムに話を聞くと、彼は涙ながらに語った。「僕の研究は、恩師であるブラウン教授の助けがなければ完成しませんでした。教授の期待を裏切ってしまった……」 リアムの目に浮かんでいるのは、純粋な尊敬の念だ。それだけにミリーの胸は痛んだ。 次に傲慢な貴族のライバル、イライアスにも話を聞いた。「自作自演に決まっている。あの程度の才能では、いずれ限界が来るからな」 彼は嘲笑うが、ミリーはその瞳の奥に、リアムの才能に対する焦りの色が浮かんでいるのを見逃さなかった。 思えばイライアスは、昨日の取材の時もやけにリアムに突っかかっていた。本当に見下していだけなら、ああはならない。リアムを認めているがゆえだろう。(この人も、追い詰められているんだわ。……ライバルを追い落とすという意味で、動機はあるかもしれない) だが決定的な手がかりは、学院の広大な図書館で得られた。ミリーは、気弱そうな若い司書に話を聞いた。 図書館の資料を一手に管理する司書は、様々な情報を握っている。備品の管理なども一部、管轄している。
Terakhir Diperbarui : 2025-08-28 Baca selengkapnya