Semua Bab 魔術都市の分解学者: Bab 21 - Bab 30

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21

 捜査を終えて、アレックスとミリーはダリウスの研究室を後にした。潮の香りが、まだ鼻の奥に残る金属臭を少しだけ和らげてくれる。 衛兵隊はアレックスの指摘を受けて捜査方針の転換を余儀なくされて、現場は混乱していた。「僕は時計塔に戻り、この『残骸』の検分を続ける」 歩きながら、アレックスが言った。「ホルダスの論文(データ)を全て記憶した。天才がなぜ、そして、どのようにして凡庸へと墜落したのか、その構造を分解する」 彼はミリーに向き直る。「君は、関係者というノイズの多いデータ群にあたってくれ。特に、長年の助手だったという男……フェリクス・マイヤー。彼がこの事件の最重要の構成要素(パーツ)だ」「分かりました。取材ですね。彼が何か知っていると?」「さあな。だが、師の才能の盛衰を、最も近くで見ていた人間だ。何かしらの『歪み』を観測できるはずだ」(歪みを観測、ね……) ミリーは、人の心を機械部品のように語るアレックスの言葉に反発を覚えながらも、頷いた。◇ フェリクス・マイヤーの住まいは、王立学院の若手研究者用の宿舎にあった。 ダリウスの混沌とした私設研究室とは対照的に、フェリクスの部屋は簡素で、整然と片付いている。書棚には専門書が几帳面に並べられ、彼の誠実な人柄を物語っているようだった。 出迎えたフェリクス本人は、ミリーの訪問に少し驚きながらも、丁寧に応対してくれた。 師ダリウスの死がフェリクスに衝撃を与えたのだろう。彼はすっかりやつれ果てて、泣き腫らしたであろう目は赤くなっていた。(私には、誠実な人に見えるわ。恩師を尊敬して、死を悼んでいる。アレックスさんは『歪み』と言っていたけれど、私にはただ深い悲しみしか見えない。もちろん、詳しく話を聞かなければならないけど。彼が犯人とは思えない) ミリーは、憔悴しきった目の前の青年に、心からの同情を寄せた。 彼女が身分を明かして師の死について尋ねると、フェリクスは堰を切ったように想いを語り始める。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-02
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(フェリクスさんのあの白銀色の火傷。焼けた研究室に残っていた触媒と、そっくりな色だった。それじゃあやはり、彼が犯人? でも、涙を流してまで先生の死を悼んでいたのに?) ミリーは混乱した思考のまま、時計塔へ向かって町を歩いていく。ぼんやりとしていたせいで通行人にぶつかって、「何やってんだ!」と怒鳴られてしまう。そのたびに慌てて謝りながら、彼女はふらふらと歩き続けた。 時計塔までの距離が、いつもの何倍もあるように感じられた。 やっとのことで時計塔に帰り着いて、扉を開ける。 アレックスはダリウスの研究資料を床一面に広げて、その中心で山のように積まれた論文を読んでいた。リンギが彼の肩にとまり、乾いた紙をめくる音を『パラ、パラ、パラ』と小さな声で模倣している。 ミリーのただならぬ様子に気づいたのか、アレックスは億劫そうに顔を上げた。「アレックスさん……私、見てしまいました。フェリクスさんの手首に、あの現場にあったのと同じ、白銀の火傷の痕がありました」 ミリーの声は、自分でも気づかないうちに震えていた。 アレックスは驚かなかった。ただ、論文をめくる手がわずかに止まる。「そうか。やはり、そちらにも歪みはあったか」「驚いていませんね。何か見つけたんですか?」 アレックスは立ち上がると、ミリーを作業台の方へ手招きした。 作業台の上には、二種類の研究ノートが並べられていた。一方はインクが滲み、焦りや苛立ちが感じられる震えた筆跡。もう一方は美しく力強い筆跡で書かれた、革新的な理論のメモだった。「これはどちらもダリウスの研究室にあった。だが、この研究資料は奇妙だ」 アレックスが言った。「大部分はこの震えるような筆跡で書かれている。ダリウス本人のものだろう。だが時折、全く別の筆跡で、遥かに優れた考察が書き加えられている」 アレックスは、一枚のレポートを横に置いた。「で、これはフェリクスの過去のレポートだ。衛兵隊に頼んで王立学院から取り寄せた」「これって!」 ミリーは目を見
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 ミリーがフェリクスに取材をした翌日。  時計塔の書斎には、重い沈黙が流れていた。巨大な黒板に書かれた「ダリウス — フェリクス」という二つの名前が、事件の歪んだ核心を静かに示している。(あれから丸一日。アレックスさん、ほとんど眠らずにダリウスの論文を分析し続けている。でも、まだ何かが足りない。あの優しそうなフェリクスさんが、先生を殺すなんて。どうしても、信じきれない) ミリーは黒板を見上げ、ため息をついた。彼女の肩の上で、囁き鳥のリンギが心配そうに首を傾げている。『コーヒーブレイクにしよう』 リンギがアレックスそっくりの声で言ったので、ミリーは微笑んだ。「ふふっ。心配してくれているの? 大丈夫よ」 その時、時計塔の重い扉が遠慮がちに叩かれた。リンギが羽を逆立てて、小さく警戒の声を上げる。  ミリーが応対すると、そこに立っていたのはフェリクス・マイヤーその人だった。彼は昨日よりもさらに憔悴した様子で、手には古びた羊皮紙の巻物を固く抱えている。「フェリクスさん? どうしましたか?」 表面上はにこやかにしながらも、ミリーは疑念を抑えきれなかった。(彼が、どうしてここに? 何かの罠かもしれない。でもこの怯えたような目は、まるで何かに追われているみたいだ) 何気なさを装ってフェリクスの様子をよく見れば、彼はどこか焦っているように見える。「突然すみません……」 フェリクスの声は震えていた。「先生の遺品を整理していたら、未発表の研究資料が見つかりまして……。先生の汚名をそそぐ一助になるかと。どうか、調査の参考にしてください」 ミリーに案内されて、フェリクスは時計塔の中へおずおずと入ってくる。リンギはミリーの肩から飛び立つと、部屋の高い歯車の上からじっとフェリクスを見下ろしていた。 アレックスはフェリクスが差し出した資料を受け取ると、その場で猛烈な速度で目を通し始めた。  あまりの速さに、フェリクスがギョッとしている。 ミリーはお茶を淹れた。フェリクスを落ち着かせるためだ。  その間
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-03
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「さて。その前に一つ実験といこう」 アレックスは呟くと、部屋の隅まで行った。ガラクタのような魔道具類が並べられた、古びたガラス棚の前に立つ。「アレックスさん、何を――」 ミリーが最後まで言い終わる前に、彼は戸棚に手を掛けた。そのまま思いっきり引き倒す。 キィィン! ガッシャーン! ガラス戸が床にぶつかって、すごい音がした。割れたガラスが飛び散って、辺りはひどいことになる。 リンギがびっくりして飛び上がり、怯えたようにミリーの肩に止まった。「ふむ。こんなものか」「こんなものか、じゃないですよ! なんてことするんですか!」 ミリーが怒鳴ると、アレックスは肩をすくめた。「ここを片付けておいてくれ」「はぁ!?」 ミリーの抗議をまったく取り合わず、彼はさっさと机に戻り、また資料を読み始めた。それきり目を上げようともしない。「何なのよ、もう!」 ガラスの破片をそのままにはできない。ミリーは文句を言いながら、仕方なく片付けをした。◇ さらに翌日、ダリウス・ホルダスの荒れ果てた私設研究室にて。 アレックスとミリーは、「最終確認のため」と称してフェリクスをその場所に呼び出した。 研究室の中には、アレックスが時計塔から持ち込んだ黒板が、異様な存在感を放っている。そこには、ダリウスとフェリクスの才能の逆転劇を示す、冷たい論理がびっしりと書き込まれていた。「君こそが本物の天才だ」 アレックスは黒板を指し示した。「そして師であるダリウスは、君の才能に嫉妬し、研究を奪おうとした。だから君は自分の研究を守るため、ダリウスを殺した。違うか?」 論理的に追い詰められたフェリクスは、青ざめた顔で立ち尽くしている。しかし彼の口から飛び出たのは、罪を認める言葉ではなかった。 フェリクスはミリーに縋るように訴える。「違う! 先生は、先生は僕の才能を認めて、全てを託そうとしていたんだ! あの日も、共同研究者として僕の名前を発表すると約束し
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-04
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 研究室の床にへたり込んだまま、嗚咽を漏らしながら、フェリクスは全てを語り始めた。彼の言葉は途切れ途切れだったが、その光景はミリーとアレックスの脳裏に鮮明に映し出されていく。「あの日、先生は僕に言ったんだ。『君の研究は、今日から私のものだ』と。彼は、僕が長年心血を注いできた『生命創造』の理論を、全て自分の手柄として発表するつもりだった!」 彼は言う。今までダリウスに研究を提供していたのは、共同研究者の立場を疑っていなかったから。 それなのにダリウスは、最後の最後、最も大きな成果を発表する時になってフェリクスを切り捨てた。「僕はただ、論文を返してほしかっただけだ。でも先生は逆上して、もみ合いになって……僕が突き飛ばした弾みで、先生は薬品棚に……!」 彼は頭を抱えたまま、嫌々をする子どものように首を振った。「頭を強打した先生は、パニックになっていた。僕を睨みつけながら、何か別の調合を始めた。でも、魔力が制御できなくて……触媒が暴走してしまった。先生は、一瞬で炎に巻かれてしまった……」 フェリクスは顔を覆った。「殺すつもりなんてなかった。でも先生の無残な姿を前にして、僕は、悲しいはずなのに……心のどこかで、喜んでいる自分がいた。『これで、僕は自由になれる』って……!」 密室を偽装するために金属で密閉したのも、優れた錬金術師でありこの研究室を熟知していた彼であれば、造作もないことだった。 告白を終えて、フェリクスはただ泣きじゃくる。 ミリーは彼に駆け寄り、震える肩にそっと手を置いた。「あなたはただ、自分の才能を認めてほしかっただけなのね……」 これは事故だ。ミリーが彼を罪に問えるはずもない。 だがアレックスは、何かを考え込むように灰色の瞳に光を灯していた。◇ やがて衛兵隊が到着し、フェリクスはされるがままに連行されていく。「
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26:小さな恋の歌

 ダリウス・ホルダスの事件が一応の解決をしてから、魔術都市には束の間の平穏が訪れていた。 デイリー・ピープルの編集部も例外ではない。その日の午後は、大きな事件のない穏やかな時間が流れている。ミリーは溜まった雑務を片付けながら、窓の外をぼんやりと眺めていた。「あ、あの……ミリーさん」 背後から聞こえたか細い声に、ミリーは振り返った。そこに立っていたのは、社会部の同僚であるレオだった。 ミリーと同い年の十九歳である彼は、気弱さが目立つ青年である。けれど優しい人柄だったので、ミリーは彼のことが嫌いではなかった。 レオは手に持った一通の封筒を握りしめながら、視線を床に落としている。そわそわと落ち着きのない様子だった。「レオ。どうしたの?」 ミリーが首を傾げると、レオは真っ赤になった。「ミリーさんは最近、例のアレックス・グレイ氏の時計塔に住んでいると聞いたよ。本当?」「うん、本当よ」「それは、その。アレックス氏の恋人になったとか、そういう……?」(はい!? 私がアレックスさんの恋人? パズルの分解にしか興味のないあの人の!) ミリーは驚きのあまりのけぞった。あまりの衝撃にめまいを覚えながら、慌てて否定する。「違う違う! 私がちょっと危ない事件に足を突っ込んでしまったものだから、身の安全のために時計塔に置いてもらっているの。アレックスさんの恋人? ありえないわ。だってあの人、愛とか恋とか優しさとか思いやりとか、とにかく人の心というものがちっともわからないのよ!」「えっと?」 ミリーの勢いにレオは戸惑っている。ミリーはようやく我に返った。「つまりアレックスさんの興味は論理的なパズルだけで、私なんか視界に入ってないわ。私だって仕事で頼りにしているだけで、恋人とかそういうのは一切ないから」「そっか。それならよかったよ」 レオは頷いて、封筒を取り出した。「こ、これ! その……もし、よかったら、読んでください!」
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(なんてことしてくれるの、リンギ!!) ミリーは顔から火が出る思いで固まっていた。よりにもよって、この都市で最も人の心に無頓着な男に、自分のプライベートな悩みを暴露されてしまったのだ。 アレックスは設計図からゆっくりと顔を上げると、興味深げにその言葉を分析し始めた。「ふむ。肯定と否定が同居する、実に非合理的な人間のコミュニケーションだ。文脈がなければ意味を確定できない。相手は誰だ? なぜ断る必要がある?」(最悪だわ! 私のプライベートが、パズルのように分解されていく!)「何でもありません!」 ミリーは真っ赤になって叫び、リンギを捕まえようと飛びかかった。リンギはそれを遊びの誘いだと思ったのだろう。楽しそうに一声鳴くと、ひらりと彼女の手をかわし、時計塔の中を飛び回り始める。「リンギ、大人しくして!」 ミリーの悲鳴も虚しく、リンギは巨大な歯車の上にとまると、再びミリーの声色で喋り始めた。『ごめんなさい。私、今は新聞記者の仕事に集中したいんです』「ほう、仕事が理由か。断るための口実としては、論理的にも妥当なラインだな。で、それは真実か? それとも建前か」「やめてください!!」 アレックスの冷静な分析が、ミリーの恥ずかしさをさらに煽る。彼女は歯車の足場を必死によじ登り、リンギに手を伸ばした。しかしリンギはまたひらりと飛び立ち、今度は高い書架の上へ。『あなたの気持ちには、応えられない……』「応答不可、と。明確な拒絶だな」(やめて! これ以上、私のプライベートを分解させないで!) 時計塔の中にミリーの悲鳴とリンギの無邪気な声真似、アレックスの淡々とした分析が響き渡る。ミリーにとっては、己の尊厳を賭けた必死の追いかけっこである。 息を切らし髪を振り乱しながら、ミリーはついに書架の上のリンギを捕まえることに成功した。「やったわ、このイタズラ者! もうやめてよね!」 ミリーが半泣きになりながら言うと、リンギは『もうやめてよね!』とまた声真似をした。何だかひ
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28:沈没船の呪い

 久しぶりの快晴だった。魔術都市の港湾地区は、お祭りのような熱気に包まれている。 ミリーは、デイリー・ピープルの記者として、伝説の沈没船「セイレーンの嘆き号」から財宝が引き揚げられるという、歴史的瞬間の取材に訪れていた。 周囲には財宝を一目見ようと、大勢の野次馬や記者たちが集まっている。「すみません、通してください!」 ミリーは人混みをすり抜けて前列へと進んでいった。彼女とて新聞記者の端くれ、任された事件はしっかりとこの目で確かめなければならない。メモを握り締め、ひたすら前を目指す。「船長、こっちを向いてくれ!」「よっ! 海の英雄!」 前方では、サルベージチームのリーダーである屈強な船長が、群衆に手を振って喝采を浴びている。 群衆の最前列には木箱を組んだ壇が作ってあり、船長はその上に立っていた。(海の英雄、ね。確かに、頼りになりそうな人だわ。こんなに大勢の人に希望を与えているなんて、すごい) 巨大な蒸気クレーンが唸りを上げて、船に積まれていた巨大な宝箱を吊り上げる。 ズン、と重い音を立てて、宝箱は壇の前に置かれた。 箱はサンゴやフジツボに覆われている。表面には古代の封印術式が、長い年月を経てもなお青白い光を放っていた。衛兵隊の魔術師たちが、慎重にその古代の封印を解いていく。集まった人々は固唾を飲んでその様子を見守っていた。(すごい! 何世紀も海の底に眠っていた宝箱が、目の前にあるなんて。一体、何が入っているんだろう!) ミリーのジャーナリストとしての血が騒ぐ。これは間違いなく一面記事になると思えば、胸が高鳴った。「バシュン!」という音と共に、ついに最後の封印が解けた。船長が喝采を浴びながら陸に下ろされた宝箱に近づいて、重厚な蓋に手をかけた。群衆は息を止め、ミリーもカメラを固く握りしめる。 船長が、芝居がかった動作でゆっくりと蓋を開ける。 群衆たちの興奮が高まった。 しかし中に眠っていたのは、財宝の黄金の輝きではなかった。まず目に入ったのは、海の底の腐敗した匂いを放つ濁った海水。それから一掴みのぬる
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 サルベージ隊の船長が死亡したと知って、ミリーは船長の家に駆けつけた。 時刻は真夜中。到着する頃には日付が変わって、サルベージの話は昨日になってしまった。 ミリーはデイリー・ピープルの記者証を手に、衛兵の制止をなんとか潜り抜けて船長の自宅に足を踏み入れる。寝室は静まり返っており、死の匂いではなく、ただ潮の香りだけが微かに残っていた。 ベッドの上で、船長は眠るように穏やかな顔で亡くなっていた。だがその体は、まるで砂糖菓子のようにキラキラと輝く無数の白い結晶でびっしりと覆われている。恐ろしくもどこか幻想的な光景に、ミリーは言葉を失った。 現場にいた衛兵たちが小声で話している。ミリーは聞き耳を立てた。「……ああ、他の船員たちも同じだそうだ。全員、自宅の寝室で、同じように結晶に覆われていたらしい」「昨日、あの気味の悪い海藻に触れた連中は、一人残らずだ」「セイレーンの呪いじゃないか?」「おい、よせ。だが、その手の噂が回るのも時間の問題だな。箝口令(かんこうれい)が間に合うといいが」「無理だろ。市民どもはこういう噂が大好物だ」(船員たちも、全員!? じゃあ呪いが本当にあるの? そんな非科学的なこと……でも、他に説明がつかない!) 船員たちは何人いただろうか。サルベージチームはそれなりの大所帯だった。隠し通せるものではない。『セイレーンの呪い』の噂は明日にでも魔術都市を飲み込んで、市民たちの格好の話題になるだろう。「あの、すみません」 ミリーは若い衛兵に話しかけた。「私はデイリー・ピープルの記者で、アレックス・グレイ氏の助手を務めているミリー・ウォーカーといいます。今回の事件にアレックス氏が興味を示していて。その白い結晶を、サンプルとしていただけませんか?」「アレックス殿の? そういえば君、前にも事件現場にいたよね。じゃあ隊長に確認してから……」「急ぎなんです! 少しでいいので、分けてください」「ええぇ、そんなぁ」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-08
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「人の命を奪う、植物の胞子だなんて」 ミリーはアレックスの言葉を繰り返し、恐ろしさに身を震わせていた。 アレックスは何かを考え込みながら、大きな天球儀を手遊びのように回している。「アレックスさん、これからどうなるんでしょう? あの結晶が本当に生物の胞子なら、このままでは町が危ないんじゃ!?」 ミリーが詰め寄ると、アレックスは天球儀を調整する手を止めた。「『どうなるか』ではない。『どうなっているか』だ。まずは、この生物の構造を完全に分解する必要がある。実に興味深いパズルだ」(この人は町の危機よりも、目の前の謎が大切なのかしら) ミリーは一瞬だけ反発を覚えて、すぐに首を振った。(違うよね。そんなアレックスさんだからこそ、誰も解けないこの謎を解けるのかもしれない)「アレックスさん。私、町の人々が危険にさらされるのを見過ごせません。もう一度、あのサルベージ船を調べてみます」「いいだろう。僕も謎の分解のために、パズルのピースを集めたい。港へ行くべきだ」 二人の思いは違えど、目的は同じ。 アレックスが衛兵隊に連絡を取って、生物災害の可能性を伝える。サルベージ船『セイレーン・チャーム号』へと向かうことになった。◇ 港に隔離されたセイレーン・チャーム号は、まるで幽霊船のように静まり返っていた。 マストには生物災害を示す不吉な紫色の旗が掲げられ、潮風にはためいている。船全体があの死の結晶と同じ、細かい白い粉塵で薄く覆われていた。「これより先は、許可のない者は立ち入り禁止だ!」 物々しい防護服に身を包んだ衛兵が、二人を制止した。「アレックス・グレイだ。許可は取っている」 アレックスが許可証を取り出すと、衛兵は渋々といった様子で道を開けた。「僕が船内に入る。君はここで待機していろ」 アレックスは、時計塔から持ち込んだ防護服とマスクを身に着けた。防護服は銀色で、マスクは鳥の仮面のような形で顔全体を覆うもの。肌の露出を完全になくした姿は、彼自身が未知の生物のようにも見
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