弱みにつけ込んでいることは、十分に分かっている。目が覚めたら、間違いなく激怒するだろうことも。それでも、このわずかな温もりを手放すことはできなかった。白彦の狂った思考の中では、手続きが済んでいない以上、まだ完全に縁が切れたわけではない。ミキはまだ自分の女であり、自分の支配下にあるはずだと、都合よく現実逃避をしていた。自分の女に口づけするのは、ごく当たり前のことだ。そう自己完結すると、白彦はゆっくりと顔を近づけ、ためらうことなくその唇をミキの唇にそっと重ね合わせた。夜半過ぎ、ミキの熱がようやく引き始めた。目を覚ますと、寝汗で体中がひどくベタついている。喉も焼けるように干からびていて痛かった。水を飲もうと体を起こそうとした瞬間、自分の腰に回されているしっりとした男の腕に気づき、ミキはギョッとした。「また喉が渇いたのか?」背後から、声が降ってきた。白彦だった。手慣れた様子で枕元のグラスを手渡しつつ、もう片方の手を伸ばしてミキの額に触れる。何度か温度を確かめると、「熱は下がったな」と安堵したように息を吐いた。ミキの瞳から驚きの揺らぎがスッと消え、代わりに氷のような冷ややかな光が宿る。差し出されたグラスを無言で押し退け、布団を跳ね除けてベッドから出ようとした。だが、熱が下がったばかりの体は言うことを聞かない。足元から力が抜け、ぐらりと体が大きく傾いた。倒れる寸前、白彦が慌ててその腕を強く引いた。反動でミキは再びベッドに倒れ込み、勢い余った白彦もその上に覆いかぶさるような体勢になる。至近距離で視線が絡み合った瞬間、白彦の瞳に黒い欲望がよぎり、そのまま強引に唇を奪おうと顔を近づけてきた。ミキは咄嗟に顔を背け、本能的に平手打ちを食らわせようと腕を振り上げた。だが、その動きは簡単に読まれていた。白彦は手首をガッチリと掴むと、そのまま枕に押さえつける。さらに自身の体重をかけ、逃げ場を完全に塞いだまま、暗く濁った瞳で見下ろしてきた。圧倒的な体格差による圧迫感と、男特有の気配が嫌でも押し寄せてくる。「……何する気」ミキはゾッとして身をすくませ、鋭く睨みつけた。白彦は何も答えない。ただ、寝乱れたミキの襟元に、どす黒く淀んだ視線をねっとりと這わせていた。次の瞬間、再び顔を寄せてくる。
Read more