すっかり骨抜きにされ、この狭い車内でただ翻弄されるがままになっていた。ここ最近、二人の関係はまるで綱渡りのようだった。互いの心音すら聞こえるほど密着しながらも、毎回あと一歩というところで必ずブレーキがかかる。壊れそうな均衡を慎重に保ち続ける、暗黙のルールのゲーム。常に一線を引いているようでいて、いつ踏み越えてもおかしくない危うさを孕んでいた。ひとたび情に流されれば、詩織のほうがよほど自制心を失いそうになる。だがそれを受け止める柊也の眼差しには、隠しきれない強い渇望が焼き付いている。抱き寄せられるたび、その強張った筋肉がどれほどの忍耐を強いているかを雄弁に物語っていた。まさに、今この瞬時のように。熱を持った掌がうなじに添えられ、親指が素肌を優しく撫で回す。力加減は抑えられているが、絶対に逃がさないという強い意志がこもっていた。それでも決まって、完全に理性を失う直前でわずかに身を引き、熱く荒い息を吐きながらまた額を擦り合わせてくる。見上げた視線が、深い黒の双眸とぶつかった。そこには詩織も見慣れた感情が渦巻いている。抑圧、渇望――そして、わずかな苦痛の色。ふと気づかされる。多くの場合、柊也は詩織の想像をはるかに超えるほどのしんどさを抱えて、必死に耐え抜いているのだと。「詩織」まるで紙やすりで削られたかのようにひどくかすれた低い声で、名前を呼ばれた。親指で赤く染まった唇をそっと撫でながら、懇願するような切迫した響きが車内に落ちる。「もう少しだけ……このまま一緒にいてくれないか」詩織の胸が小さく跳ねる。心に敷いていた防衛線が、音を立てて崩れていくのを感じた。柊也の息遣いは相変わらず荒く乱れていた。喉仏が何度も上下に動いているが、それ以上は決して踏み込んでこようとしない。どれほど恐ろしいまでの渇望を瞳に宿していようと、理性の糸が限界まで張り詰めていようと、交わした約束を律義に守ろうとしている。自制心を総動員して、引かれた一線の手前で必死に踏みとどまっているのだ。ただ見つめてくるその眼差しには、どこか卑屈なまでの祈りが混じっていた。ほんの少しでも長く引き留めておきたい。ただこうして静かに一緒にいたい。それだけを願って。そのじっと耐え忍ぶような姿を見ていると、胸の奥をそっと小突かれた
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