霜花はすぐに満面の笑みを浮かべて駆け寄った。「パパ、ママ! 遅いじゃない」甘ったるい声で文句を言う。「少し渋滞に巻き込まれてね」そう答える瑞臣の横で、恭子は慈しむように娘の頬を撫でた。「なんとか間に合ったんだからいいじゃない。お誕生日おめでとう、霜花」「ありがとう、ママ」嬉しそうに恭子の頬にキスをする。恭子は霜花の背後をちらりと見回し、不思議そうに尋ねた。「京介さんは?」霜花の顔から、ほんの少しだけ笑みが引いた。「京介なら、まだ海外出張中なの」その答えに、恭子は露骨に不満そうな顔をする。「今日はあなたの誕生日なのに、顔も出さないなんてどういうつもり?」実のところ、二人はすでに離婚している。しかし新堂夫妻は、単なる若者同士の痴話喧嘩くらいにしか思っていなかった。ここ最近、霜花が電話のたびに「京介とは完全に仲直りした」と言い張っていたため、恭子もすっかり信じ込んでいるのだ。霜花はあくまで京介を庇うような口ぶりを続けた。「ママだって昔から、男は仕事を第一にするべきだって言ってたじゃない。それに、プレゼントはもう前もってもらってるのよ」本人が気にしていないのであれば、親がこれ以上とやかく言う筋合いもない。「まあ、二人が上手くいっているならそれでいいけれど」「とっても上手くいってるわ」霜花は甘えるように恭子の腕に抱きつき、中へ案内しようとした。だが、エントランスを通り抜けようとしたその時、瑞臣がふと足を止め、足早に歩いていく男に向かって声を張り上げた。「おお、これは宇田川さん!奇遇ですね、こんなところでお会いするとは」足早に歩いていたのは、太一だった。いきなり呼び止められ、太一は仕方なく足を止めて振り返った。「新堂社長?」瑞臣の顔を見て、太一も目を丸くした。目の前のビジネス相手が、まさかあの霜花の父親だとは思いもよらなかったからだ。一方、横でやり取りを見ていた霜花は、頭の中に疑問符を浮かべていた。どうしてパパが太一を知ってるの?しかも、なんであんなにペコペコとへりくだってるわけ?霜花の認識では、太一は宇田川一族の末端に這いつくばっているだけの存在。権力もなければ能力もない、ただのろくでなしのドラ息子だ。当然、普段から心の底で見下している。宇田川という姓を持ち、京介の従弟であるという
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