五年前から、海雲は詩織を賀来グループの後継者に指名する遺言書を用意していたというのか?それはつまり、詩織が事業に失敗しようがどうなろうが、初めから賀来グループという巨大なセーフティネットが彼女を完全に守り抜く手はずになっていたということだ。三人の驚きを読み取ったように、太一は強く頷いた。「そもそも、あの遺言書が作られた本来の理由は、江崎が起業の壁にぶつかって行き詰まった時、賀来グループに迎え入れてトップに据えるためだったんだ。最悪の事態に備えた保険みたいなもんだな」太一は大きくため息をつき、首を振って続けた。「でも、誰も予想してなかったんだよ。江崎が自力で大成功を収めるどころか、賀来グループを凌ぐほどの巨大帝国を築き上げちまうなんてな。だから、あの遺言書は『困った時の救済措置』じゃなく、結果的に圧倒的な勝者の凱旋に花を添えるだけになったってわけさ」太一の言葉を聞き、個室の空気はそれぞれ異なる色合いを帯びた。なかでも、譲の隣に座っている汐莉の心中は激しく波立っていた。膝の上で強く拳を握り締め、狂おしいほどの嫉妬に身を焼かれている。詩織と海雲の間には血の繋がりなど一切ないというのに、海雲はあれほど莫大な富と権力を、ためらいもなく詩織へ譲り渡そうとしている。それに比べて、自分はどうだ?政志と同じ血が流れているにもかかわらず、生まれたその日から一族の恥として扱われてきた。家族全員から見下され、政志からは犬のようにこき使われた。必死に機嫌を取り、ひたすら息を潜めて、ようやく榎崎の家で生きながらえてきたのだ。十八歳になったばかりの頃には、政志の手によって六十歳を過ぎた取引相手のベッドへ無理やり送られそうにもなった。あの時は死に物狂いで逃げ出し、留学という名目で数年間海外へ身を隠した。帰国後、社内の反対勢力とこっそり手を結び、やっとの思いでグループの経営陣に食い込んで、現在の地位を築き上げたのだ。それなのに、江崎詩織は何もかもをいとも簡単に手に入れている。譲の愛情も、悦子からの信頼も、すべて。それでも汐莉は指先が白くなるほど拳を握り込み、グラスの中で揺れるレモンスライスをじっと見つめたまま、一言も発しなかった。一方、太一の必死の弁明を聞いても、霜花の侮蔑に満ちた態度は変わらなかった。女がろくな後ろ
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