一方、使いに出していた秘書からの報告を聞いた真理子は、苛立ちを隠せずにいた。「どうして何一つ掴めないの?大の大人が忽然と消えるわけがないでしょう。何かしら状況がつかめるはずじゃない!」だが、現場に行っても何もわからなかったという事実が、真理子の腹の底に得体の知れない不安を増殖させていく。様子を探りに行っていた秘書が、宥めるように推測を口にした。「おそらく、本人はまだ昏睡状態なのではないでしょうか。もしすでに目を覚ましていれば、江崎は必ず何らかのアクションを起こすはずです。今のように何事もなかったかのように静観しているわけがありません」その言葉に、真理子は椅子に座り直し、じっと思考を巡らせた。確かに、そうね……もし岩田健一が目を覚ませば、彼は自分が騙されていたことに気づき、間違いなくすべての真相を詩織に打ち明けるだろう。そうなれば、詩織は即座に公式声明を発表し、「華栄キャピタルは今回の件で不当に陥れられたのだ」と世間に公表するはずだ。すべては仕組まれた陰謀だったのだ、と。にもかかわらず、詩織がまったく動く気配を見せないということは、やはり岩田はまだ目を覚ましていないという証拠だ。「真理子さん、ご心配には及びませんよ」真理子の不安を察し、秘書が自信ありげに言った。「あの時、ヤツに渡した金は海外のダミー口座を経由させています。江崎ごときに、その金の出どころを調べ上げる力などありません」「……それでも、どうにも嫌な予感がするのよ。私が直接、病院へ行って様子を見てくるわ」自分の目で確証を得なければ、この胸のざわつきはどうにも収まりそうになかった。病院内の一角。健一の妻である里奈は、詩織の顔を見るなり、いたたまれないように深くうつむいた。詩織が担当医から健一の容態について説明を受け終えると、里奈はあらかじめ用意しておいた書類を両手で恭しく差し出した。「江崎社長。こちらで足りるでしょうか。ご確認をお願いいたします」それは、公式の場で行う記者会見用の原稿と、ネット上で公開予定の声明文だった。詩織はざっと目を通した。事件の経緯や、裏で糸を引いていた者の存在など、公にすべき事実はしっかりと網羅されている。「これで十分です。あとはこちらで手配したメディアや担当者と、すり合わせをお願いします」詩織が書類を返すと、里奈は
Read more